日本耳鼻咽喉科学会会報
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116 巻, 2 号
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総説
  • 堀 桂子, 中村 雅也, 岡野 栄之
    2013 年 116 巻 2 号 p. 53-59
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    脊髄損傷とは, 外傷などによる脊髄実質の損傷を契機に, 損傷部以下の知覚・運動・自律神経系の麻痺を呈する病態である. 本邦の患者数は10万人以上おり, 加えて毎年約5,000人の患者が発生しているにもかかわらず, いまだに有効な治療法は確立されていない.
    しかし, 近年基礎研究が進歩し, 中枢神経系も適切な環境が整えば再生することが明らかになった. 脊髄損傷に関する研究も著しく進み, すでに世界中でさまざまな治療法が臨床試験に入りつつある. わが国でも, 神経幹細胞, 嗅神経鞘細胞, 骨髄細胞などを用いた細胞移植療法のほか, 顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte-colony stimulating factor, G-CSF) や肝細胞増殖因子 (hepatocyte growth factor, HGF) などの薬剤が臨床応用される可能性がある.
    本稿では, 脊髄再生に関する基礎研究を, 細胞移植療法とそれ以外に分けて述べ, さらに現在世界で行われている臨床試験について概説する.
  • 日比野 浩, 任 書晃, 村上 慎吾, 土井 勝美, 鈴木 敏弘, 久 育男, 倉智 嘉久
    2013 年 116 巻 2 号 p. 60-68
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    内耳蝸牛を満たす内リンパ液は, +80mVの高電位を示す特殊な細胞外液である. この環境は, 蝸牛に特異的であり, 聴覚の鋭敏性に極めて重要である. 高電位は, 機能的に2層の上皮から成る血管条によって維持されると考えられてきた. しかし, その成立メカニズムの詳細は, 長い間, 十分には明らかにされてこなかった. われわれの生理学的手法を用いた研究により, 血管条のそれぞれの上皮層に発現する2種類のカリウムチャネルが, 内リンパ液高電位の成立に必須の役割を果たすことが示された. また, コンピューターシミュレーションにより, 血管条のチャネルや輸送体によって駆動されるK+ 循環が, この組織のK+ 濃度環境を調節し, チャネルを介した高電位の成立に深くかかわっていることが明らかとなった.
  • 山本 裕
    2013 年 116 巻 2 号 p. 69-76
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    耳小骨奇形の病態や分類に関する今までの知見を整理し, 本症に対する術前診断の方法と限界, 適切な手術適応と術式について考察した.
    耳小骨の発生は胎生5週から7週の軟骨性耳小骨原基の誘導に始まる. その後, 伸長, 接触, 骨化, 吸収などのプロセスを経て, ツチ骨, キヌタ骨は24週までに, アブミ骨は胎生末期で形態が完成する. 臨床上の耳小骨奇形の分類としては, 本邦では船坂の分類が広く用いられており, 極めて有用性が高い. 加えて奇形の部位を耳小骨上の連続的な分布として分析することにより, 耳小骨上の奇形のフォーカスを明らかにすることができた.
    純音聴力検査の気導聴力閾値のうち, 250Hzと4,000Hzに着目し, それぞれの閾値が40dBを超えるか否かで症例を分類すると, 耳小骨離断を有する症例か, 固着を伴う症例かを8割以上の的中率で予想することが可能であった. 一方, ティンパノグラムや耳小骨筋反射での奇形の型の予測率は高くなかった. CT画像による術前診断はキヌタ・アブミ関節付近の欠損症例での診断率は向上していた.
    手術適応の決定に際しては, 気骨導差の信頼度, 中耳炎罹患の危険度などの特殊性を十分考慮しなければならない. また, 聴力改善手術を成功させるためには, 発生学的, 疫学的知識をもとに, 正確な病態の把握を行い, 適切な術式を選択し安全な手技で手術を行うことが重要となる. 病態が極めて多彩で, 確定診断は術中に得られるため, あらゆる病態を想定し, 手術の準備を行うことが必要である.
原著
  • 坂口 明子, 任 智美, 岡 秀樹, 前田 英美, 根来 篤, 梅本 匡則, 阪上 雅史
    2013 年 116 巻 2 号 p. 77-82
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    味覚障害は原因がさまざまであり, 各原因別での改善率や治療期間, 経過の報告は多くない. 今回, われわれは味覚障害患者1,059例を原因別に自覚症状の改善率, 治癒期間について検討した.
    1999年1月から2011年1月までの12年間に味覚外来を受診した味覚障害例1,059例 (男性412例, 女性647例, 平均年齢60.0歳) を対象とした.
    全例に問診, 味覚検査 (電気味覚検査, 濾紙ディスク法), 採血 (Zn, Fe, Cu), SDS (Self-rating Depression Scale, 自己評価式抑うつ性尺度) を施行し経過を追った. 治療は亜鉛製剤, 鉄剤, 漢方薬, 抗不安薬などの内服を症状, 程度に応じて行った. また, 自覚症状の程度をVAS (Visual Analogue Scale) により評価した.
    味覚障害の原因分類では特発性が最も多く192例 (18.2%) であった. 次いで心因性が186例 (17.6%), 薬剤性が179例 (16.9%) であった. 転帰が確定し得た680例で自覚症状の改善率は, 感冒後64/92例 (70.2%), 鉄欠乏性31/35例 (88.6%), 亜鉛欠乏性85/116例 (73.3%) と比較的良好であったが, 外傷性は2/12例 (16.7%), 医原性は13/33例 (39.4%), 心因性は46/100例 (46.0%) と低かった. 平均治癒期間は, 薬剤性で約10カ月間と鉄欠乏性や感冒後と比較すると, 約2倍長期間に渡った. また症状出現から受診までが6カ月以上の例に対し, 6カ月未満の例では改善率が良好で, 回復までの期間は前者が後者と比べると有意に長かった (p<0.05).
  • 和田 忠彦, 岩永 迪孝, 白馬 伸洋, 平塚 康之, 隈部 洋平, 吉田 尚生, 藤田 明彦
    2013 年 116 巻 2 号 p. 83-90
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    われわれの施設では, 弛緩部型真珠腫に対しては2つの基本的な考えに基づいて手術を行っている. 一つはできるだけ生理的な形態の保持と機能維持を図ることであり, 可能な限り外耳道後壁を保存し, かつ中耳腔粘膜の保存に努めることである. もう一つは, 丁寧に真珠腫母膜に沿って剥離除去し, 母膜の連続性を保ち除去することである. 真珠腫母膜の破綻時には段階手術とし, 再発の確認を行うこととしている.
    今回, 日本耳科学会より報告された中耳真珠腫進展度分類2010改訂版案に基づいて弛緩部型真珠腫の初回手術例の病態を分類し, stageごとにおける手術成績について検討を行った.
    対象は2006年1月から2008年3月までの間に, 大阪赤十字病院耳鼻咽喉科で弛緩部型真珠腫の診断で初回手術を行った238耳である, 年齢は4歳から79歳 (平均年齢49.8歳), 男性123耳, 女性115耳であった.
    stageごとの内訳はstage Iが38耳 (16.0%), stage IIが155耳 (65.1%), stage IIIが45耳 (18.9%) であった.
    進展度別の術後聴力成績は, stage Iでは97.4% (38耳中37耳), stage IIでは78.7% (155耳中126耳), stage IIIでは60.0% (45耳中27耳) であり, 進展度分類は妥当なものと考えられた.
    また, 遺残性再発率は2.5% (238耳中6耳) であり, 再形成再発率は4.2% (238耳中10耳) であり, 他施設と比較しても遜色のない良好な結果であり, われわれの施設での術式選択や手術方法に関して, 妥当な判断・方法であると考えられた.
  • 五島 史行, 守本 倫子, 泰地 秀信
    2013 年 116 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    小児心因性起立, 歩行障害の症例を呈示し, 文献的考察を行った. 症例1は10歳男児で心因性発熱, 心因性視力障害を合併した症例で, 発症後約4カ月経過して症状は改善した. 症例2は10歳男児で, 頭痛, 微熱, 倦怠感, 心因性視覚障害を合併したものであり, 約5カ月経過して症状が改善した. 小児の心因性起立, 歩行障害の頻度は高いものではないが, 診察に際しては臨床的特徴を熟知しておく必要がある. 治療にはある程度の期間が必要である. 器質的疾患を除外し, 診断を確定した後は呈示した症例のように治療を急がず, 時間をかけた対応が必要である.
  • 西尾 綾子, 角 卓郎, 山田 雅人, 桑波田 悠子
    2013 年 116 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/11
    ジャーナル フリー
    東京都では精神科病院入院中の患者が身体疾患を発症した場合, 治療可能な病院へ転院させる医療事業 (東京都精神科患者身体合併症医療事業) を行っている. 青梅市立総合病院は同事業に参加し, 当科では2005年以降15例の耳鼻咽喉科疾患の治療を担当した. 背景の精神疾患は統合失調症12例, その他3例であった. 合併した耳鼻咽喉科疾患は頭頸部悪性腫瘍9例, その他6例であった. 精神科患者の身体疾患治療は標準治療が難しい場合がある. 現時点では治療指針や選択基準は存在せず症例ごとに対応を検討する必要がある. 当科では15例中13例で治療を完遂できた. 精神科医および家族と連携を取ることで症例に応じた治療が可能と考えられた.
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