日本耳鼻咽喉科学会会報
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74 巻, 11 号
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  • 片野 明夫
    1971 年 74 巻 11 号 p. 1523-1533
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    研究目的:内耳性難聴の病因となるいろいろな聴器毒のうちに,最近,Nitrogen Mustarδがあらたに加えられ,感覚細胞に対するその聴器毒性が光顕的に明らかにされたので,著者はNitrogenMustard系に属するNltrogen Mustard一N-Oxide(NMO商品名Nitromin)の聴器感覚細胞障害過程の微細構造,とくにその初発病変について電顕的な検索を行ない,本剤の聴器毒性の侵襲機転を解明しようと計画して本実験を行なつた.
    実験方法:実験動物には成熟モルモツトを用い,これを対照群,NMO10mg/kg腹腔内注射群,およびNMO20mg/kg腹腔内注射群にわけ,注射後24-48時間に蝸牛を取り出し,冷3.8%glutaraldehyde液とMillonig溶液(1%OSO4)で固定したあと,冷ethanol系列により脱水,合成樹脂包埋法(Luft法)に準じて包埋した.さらに蝸牛軸および回転毎に細分割し,再包埋を行なつた.LKBultrotomeにて薄切切片を作成し,酢酸ウラソ染色と鉛染色(Reynold法)を施した後,その電顕像を観察した.
    実験結果:NMOによる影響はラセソ器の外毛細胞に初発し,しかもその初発病変は,毛細胞の中軸部小胞体系ならびに形質膜下小胞体系の両者にみられ,小胞体の量的増加と渦巻状ないし同心円状の集合像,あるいは層状配列などの形態的変化を示し,さらに小胞体の変性と思われる索状構造物が出現するようになる.病変がさらに進むと,外毛細胞体の萎縮,蓋板の細胞質内への入り込み像,あるいはcuticula free areaから胞体の膨隆,小胞体の変性したと思われる線状構造物,Deiters細胞の膨化およびその変性像などがみられ,しかもこれらの変化は蝸牛底側により強く現われ,蝸牛頂側においては軽い.Mitochondriaの変化は中軸部小胞体系への移行としての配列異常が認められる程度で,構造上には初期変化はみられない.ただし病変の強い蝸牛底側に移るにつれてmitechondriaの膨化,空胞化,cristaeの不明瞭化などが観察されるが,これらの変化は全回転を通じて,わずかに部分的にしかみられないことより,NMOによるmitochondriaに対する直接の影響は少ないものと思われる.このことはNMOが同じ聴器毒であつても,mitochondriaに初発病変の現われるamino g1ucoside系薬剤とは異なつた侵襲機転を示すものと思われる.
  • 遠山 健也
    1971 年 74 巻 11 号 p. 1534-1553
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的蝸牛電位を記録するためにモルモットの正円窓に長期電極を装着し,この正円窓長期久電極動物の信頼性について,電気生理学的および病理組織学的に検討することにある.
    2実験法体重400~500gのバートレイ系モルモット33匹を用い,Nenbutalで腹腔内麻酔した.
    電極は直径100μのエナメル被覆銀線を用い先端を熱して直径約400μの球状にした.この部分から末端に向つて約8mmのところから約3cmにわたつて直径80μのエナメル被覆ステンレス鋼線で補強するために2本の線を並べてAralditeで固着した.同時に球部と末端の部分を除いた全てをAralditeで被覆し,特に骨胞腔に入る先端の部分に弾力をもたせるように注意した.電極端子はカラー注射針の針基部を利用して作製し,その中心孔にU字状の銅線を入れて底部をAralditeで固着した.その側面には電極の末端を通すための側孔を開けておいた.この端子を電極挿入手術の数日前に,動物頭頂部骨面にAralditeで接着した.
    電極挿入手術:全身麻酔下に骨胞に二つの孔を開け,その一つはやや大きく,正円窓を観察するためのものであり,もう一つはやや小さく,電極を通すためのものである.大きな方の孔から手術用顕微鏡で観察しながら,マニプレータを胴いて電極を小さな方の孔から挿入して,電極先端を正円窓骨縁に装着し,さらに電極を進めて骨胞腔内で電極が弓状にたわむようにした.このたわみが動物が成長しても電極先端と正円窓との密着を保つ役割をした.電極は歯科用セメントで骨胞骨壁に固着し,電極末端は筋肉下を通して頭頂部に導き,端子の銅線にハンダ付けした.このようにして作製した長期電極動物は,木箱に一匹ずつ飼い,感染と外傷を防いだ.CMの測定は1KHzと4KHzのintensity functionと100Hzから16KHzまでの14種の純音のthresholdについて行った.病理組織学的検索は,生理食塩水で生体洗滌してから,ウイットマーク液で固定し,ヘマトキシリンエオジン重染色を行つて観察した.
    3実験成綾33匹に長期電極を装着して,2匹は正円窓膜に穿孔を来しCMの誘導に失敗したが,31匹で成功し,電位観察用の20匹で10週間以上電位を測定できたもの15匹,うち電位が安定していたもの11匹で,最長35週間安定した電位を誘導できた.残り11匹は電極装着手術後種々の期間をおいて電極装着による病理組織学豹変化を検討するために用いた.
    電極装着後間もない時期には,蝸牛電位は一過性に低下し,thresholdも一過性に上昇する.これは中耳炎による滲出液貯留のためにおこる伝音性難聴と,電極先端と生体間との短絡形成とが原因である.この中耳炎は術後3週以内に消失し,その結果電位は安定する,術後5週目頃から,電極先端の周囲に正円窓膜の鼓室側上皮が延びてきて,電極先端と正円窓膜との密着が強化されることが病理組織学的検索で明らかになつた.
    以上の結果から,この方法による正円窓長期電極動物は種々の聴覚生理学的研究に応用できるものと考える.
  • 正常ならびに中耳炎の耳小骨表面像
    川端 五十鈴, 石井 英男
    1971 年 74 巻 11 号 p. 1554-1561
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的:中耳腔の慢性炎症の際には,耳小骨にも炎症が波及し,耳小骨に種々の病変を惹起する.耳小骨の病変として,カリエス•骨欠損が著明なものであり,多くの臨床的,病理組織学的な研究がなされている.今回,われわれは慢性中耳炎にともなう,耳小骨カリエス•骨欠損の本態を解明する目的で,近年開発された走査電子顕微鏡を用いて,耳小骨カリエス•骨欠損につき,その表面微細構造を三次元的に観察した.同時に正常耳小骨の表面構造も観察し,比較検討した.
    実験方法:慢性中耳炎の際に得られた耳小骨を材料とした.これらの耳小骨は中性ホルマリン固定後,トジプシン,プロナーゼで処理し,耳小骨表面より粘骨膜,病的肉芽を除去した.アセトン上昇系列で脱水し,空気中で乾燥後,カーボン,金二重真空蒸着を施し,JEM-3型走査電子顕微鏡で観察した.耳疾患の既往歴のない患者で剖検時に得られた耳小骨を対照標本として用いた.
    結果:1)正常耳小骨表面.耳小骨表面は膠原線維が集合した膠原線維束によつて掩われている.膠原線維束の配列様式よう,耳小骨表面をA,B,C型の3種類に分類した.従来の骨組織の組織学的研究,あるいは最近の走査電子顕微鏡による骨の検索結果より,A型は層状骨,B型は叢状骨,C型は束髪状骨であると推定した.
    2)慢性中耳炎の耳小骨表面.耳小骨カリエス.骨欠損部の骨の表面構造を観察した.手術用顕微鏡下で著変を認めない粘骨膜下の骨表面にも,カリエスの発生,膠原線維束の表面構造の変化がみられた.骨表面に開口する栄養管に閉塞様の変化がしばしば観察された.以上の所見について若干の考察を試みた.
  • 石井 英男, 武藤 二郎, 亀井 民雄, 原田 紀, 安岡 義人
    1971 年 74 巻 11 号 p. 1562-1571
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    1970年のはじめに殆んど日本全国に流行した反回神経麻痺について当教室の調査結果を報告した.症例は60例,男子33,女子27,左側罹患26,右側13,両側21,混合性8.罹患巻の最少年令は(20)才.
    日常行われる検査では特に原因と思われる成績に得られなかつた.われわれは病歴と血清反応から本症の発生原因をインフルエンザA2と関係が深いと考え,風邪と嗄声発症との時間的関係を5つに分けた.ウイルス殊にインフルエンザA2に対する補体結合反応を44例についてしらべた結果29例はインフルエンザA2に関係があり,6例はインフルエンザA2は証明されず,3例は判定不能,6例は追跡出来なかつたため確認不能であつた.
    喉頭鏡縁は極めて多彩で,それを初診時の所見により6型に分け,それと治癒過程にみられる喉頭像の変化,治癒成績との関係について論じた.
    治療は主に薬物療法により行われ,陳旧性のものには星状神経節遮断を行った.副腎皮質ホルモンの使用出来る症例には特に閥歇投与法を行い,最初,1クールで治らないものも2クール目に,しかもその開始数賃後に著明な音声の改善を認めることを見出した.しかし運動性の回復はおくれる,尚2クールで治らぬものに更にもう1クール使用すると更に音声の改善が認められた.全体を通し,治癒率は60例中37例は完全又はほぼ完全に治り,6例は不明,5例は全然改善が見られないか若干よくなった程度で,残りの12例はその中間の荘に属す.
    以上をまとめると次のようになる.1)比較的短期間に多発した
    2)病歴および血清反応からインフルエンザA2と関係が深い.
    3)20才以下の年令層にすくない.
    4)喉頭麻痺の像が多彩で,特に両側性が多い.
    5)保存的治療でかなり改善が認められる.
  • 平野 実
    1971 年 74 巻 11 号 p. 1572-1579
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的異なる起声における喉頭調節の違いを,内喉頭筋の筋放電を記録し,比較して明らかにするのが目的である.
    2.研究方法3名の職業的声楽家を対象とし,前筋,側筋,声帯筋に双極有鈎線電極を挿入して種々の起声時の筋放電を記録した.起声およびそれに先立つ吸息の時点は指揮捧で指示した.
    3.成績および結論(i)すべての被検者のすべての筋で発声に先立つて筋放電が出現する.筋放電出環から起声迄の時間;(△t)には偶人差および個人内変動が大きく,起声の種類による一定の違いは認められない.すなわち△tは起声の種類を規定する本質的な因子ではない.
    (ii)声門閉鎖筋の発声前の収縮の強さおよびモードは起声の種類によつて明らかに異なる.
    (iii)軟起声では声門閉鎖筋は徐々に収縮を増強し,起声の直前ないし直後に最大レベルに達する.
    (iv)硬起声では声門閉鎖筋は急速に強い奴縮を行ないそれを一定時間持続する.起声の直前で多くの場合声門湖鎖筋は一過性に弛緩し,その後再び速やかに収縮する.発声中の収縮は発声前よりも弱い.
    (V)気息起声で狼一度始まつた声門閉鎖筋の収縮が/h/音に対応して〓々時減弱し,その後再び増強して起声の直前ないし直後にかけて最大レベルに達する.
    (iv)W.Vennardが声楽発声の指導に賞用した"想像気息"起声("imagineryH"onset)では前筋,側筋,声帯筋の活動様式は軟起声に類似している.しかし声の立ち上りは軟起声より明瞭である.
  • 富山 紘彦, 冨田 寛, 奥田 雪雄
    1971 年 74 巻 11 号 p. 1580-1587
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的:電気味覚検査法に関してはKτarαpの発表以来我が国においても種々の報告をみている.しかし電気味覚検査法の施行限界,電気味覚域値の年令的変動,標準域値,正鴬範囲,性差,左右差及び電気味覚の味質などについてはなお研究の余地があつた.著者らは統計的検討に充分な数の被検者に電気味覚検査を施行し,これら諸問題の解決を屡的としてこの研究を実施した.
    方法:使用した電気味覚計は著者らにより試作されたTN-1型,TR-1型である.刺激導子は直径0.5cm円形平板ステンレス鋼製である.無刺激導子は直径2.Ocmのステンレス鋼製円筒である.
    被検者の年令分布は6才から81才に及ぶ総数1381例であり全て正常人である.
    測定部位は左右鼓索神経の交叉支配をさけるため香尖中央より2cmの舌縁外側とした.刺激時間は約1秒,刺激間隔は約5秒とし,域値測定ほ上昇法を採用した.
    標準域値,正常範囲,性差及び左右差については生理的に成熟期とされる18~24才の年令令293例を中心として検討した.
    結果:全被検者の約90%は両側域値測定が可能であつた.また両側域値測定不能例は4.5%,刺激感のみの例5.5%,片側域値測定不能例及び左右差200μA以上の例は0.8%であつた.
    電気味覚の域値の年令釣変動はあぎらかに存在し,40才代より域値の急激な上昇とばらつきの増加が証明された.
    正常人(18才-24才)の左,右平均域値は左7.5土4.26μA,右7.4±4.25μAであつた.このことから正常人の標準域値は8μAとすることが妥当と考える.40才以下の約85%は20μA以下の域値を示したので,正常範囲は20μA以下と設定しうる.なお,最低平均域値は11~15才の年令群の3.6±2.19μA,最高平均域値は61才以上の年令群の58.9±67.7μAであった.
    性差及び左右差については統計学的有意差は認められなかつた.
    病的左右差の決定には正常範囲,両側域値の相互関係及び精神物理的法則などが考慮に入れられねばならない.測定域値が正常範囲を超え,左右差が健側域値の51%以上を示す症例ではこれを病的として疾患の検索に努めるべきであると考える.
    電気味覚の味質には四原味がすべて表現されたが,金属味が54,4%で最多であり,塩味,酸味の類であつた.この三者で被検者の約90%を占めた.
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