日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
116 巻, 11 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
総説
  • ―EBウイルス発見から半世紀間の歩み―
    吉崎 智一
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1175-1184
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    上咽頭癌はEpstein-Barrウイルス (EBV) 関連腫瘍である. 1964年にEBVが発見されて今年で50年, この間に上咽頭癌とEBVの病因論的な関連性, 高転移性という病態との関連性はかなり解明が進んだ. EBV遺伝子発現が細胞の分化を抑制し, 上皮間葉移行を促進する. このEBV遺伝子として潜伏感染時に細胞膜に発現するLMP1が重要であることが解明された. このEBV関連腫瘍としての上咽頭癌は高転移性である. 一方で, 化学放射線治療にも感受性が高い. したがって, 頭頸部癌の中にあって, 化学療法の治療ウエイトが高い癌であり, 放射線治療や化学療法の進歩により治療成績は向上しつつある. 従来のリニアック照射と化学療法の上乗せでは後者が有意に優れた治療成績を示したIGS0099 スタディ以降, この臨床試験における化学放射線レジメンはグローバルスタンダードとなっているが, 完遂率が低いことが問題とされている. 日本では交替療法がこの試験を上回る治療成績を示すことが報告され, それを追試すべく多施設共同試験が行われた. 今後, 放射線の主役はIMRTとなることが予想される. 放射線治療+分子標的薬の有効性については今後の課題である.
    一方で, この普遍的にヒトに感染しているウイルスが「なぜ一部の地域に高頻度に上咽頭癌やバーキットリンパ腫を発生させるのか」や「ウイルスレセプターが陰性の咽頭上皮にどのように感染するのか」などの根本的な疑問はいまだに解決されていない.
    実験的な段階ではあるが, 抗ウイルス剤やウイルス遺伝子産物に対する免疫療法などのウイルスをターゲットとした治療法に関しても着実に成果が上がってきている.
  • 武田 憲昭
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1185-1191
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    本稿では, 以下の難治性めまいへの対応について解説した. 1) 回転性めまいを繰り返す難治性めまい: 保存的治療が無効の難治性メニエール病確実例は, ガイドラインに基づいて中耳加圧治療, 内リンパ嚢開放術, 選択的前庭機能破壊術に進む. 蝸牛症状を伴わず回転性めまいを繰り返す難治性めまいの病態には, 内リンパ水腫, 循環障害, 神経血管圧迫が含まれる. 発作性の回転性めまいを繰り返す場合は, 内リンパ水腫が病態のメニエール病非定型例 (前庭型) の可能性が高い. 一過性の回転性めまいを繰り返す場合は, 脳幹・内耳循環障害が病態の可能性が高く, hemodynamic VBIや片頭痛関連めまいと類似した病態である. 神経血管圧迫によるめまいは, 瞬間的な回転性めまいを群発する. 病態に応じた治療を行う. 2) 頭位めまいを繰り返す難治性めまい: BPPVは予後良好であるが, 再発を繰り返す難治性BPPV患者も存在する. 特発性BPPVは, 同じ頭位で寝ていると再発しやすいため, 避けるように指導する. 二次性BPPV, 特に外傷性BPPVやメニエール病に続発するBPPVも再発しやすい. 3) 単発性回転性めまいの後, 浮動性めまいが持続する難治性めまい: 前庭神経炎などによる回転性めまいが改善した後, 浮動性めまいが持続する難治性めまい患者が存在する. 前庭代償が不十分な場合, 体動に伴い浮動性めまいが誘発されるためである. 発症早期にステロイド治療を行うと前庭障害が改善し, 浮動性めまいの持続を予防できる可能性がある. 平衡訓練は前庭代償を促進するが, 長期間の訓練が必要である. 4) 所見のない難治性めまい患者や治療に抵抗する難治性めまい: このような難治性めまい患者には, 前庭障害のない狭義の心因性めまいが含まれており, 不安神経症や抑うつ神経症を合併していることが多い. 一方, 日常診療では, 前庭障害によりめまいが発症し, 不安神経症や抑うつ神経症によりめまいが増強されている患者の方が多い. 抗うつ薬が著効する場合がある.
原著
  • 加藤 健, 曾根 三千彦, 寺西 正明, 吉田 忠雄, 大竹 宏直, 中島 務, 長縄 慎二
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1192-1199
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    難聴, めまいや顔面神経麻痺を合併するMPO-ANCA関連血管炎の報告が散見される. 今回われわれは, 難聴を主訴に来院しMPO-ANCA関連血管炎が疑われた症例の蝸牛, 前庭, 顔面神経の3D-FLAIR MR画像と症状の有無について, 小脳半球の信号強度比 (Signal intensity ratio, SIR) を用いて検討した.
    検討した症例は8例で, MPO-ANCA陽性例は6例であった. 5周波平均骨導聴力と蝸牛のSIRは造影前, 造影後ともに強い相関関係を認めており, 蝸牛のSIRが蝸牛障害の程度を反映していることが示唆された. 5例8耳に顔面神経麻痺を合併しており, 顔面神経麻痺合併例の造影後SIRは非合併例の造影後SIRに比べ有意に高かった. めまいを発症していた症例は3耳であったが, 造影前後の前庭SIRはめまいの有無で有意差は認めなかった.
    感音難聴や顔面神経麻痺を発症した症例の3D-FLAIR MR画像では, 蝸牛や顔面神経のSIRが造影後有意に増加しており, MPO-ANCA関連血管炎患者のこれらの症状は血管炎などの強い炎症が原因であると考えられた. 内耳3D-FLAIR MR画像のSIRの測定は内耳や顔面神経障害の評価に有用であった.
  • ―その鑑別診断と治療について―
    大塚 雄一郎, 茶薗 英明, 鈴木 誉, 大熊 雄介, 櫻井 利興, 花澤 豊行, 岡本 美孝
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1200-1207
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    石灰沈着性頸長筋腱炎の8例を経験した. いずれも頸部痛, 頸部可動制限, 嚥下痛を主訴に来院した. 診断と鑑別にはCT, MRIが有用であり, CTで頸長筋腱の石灰沈着を認めた. また造影CTでは咽後膿瘍においてみられる造影効果 (ring enhance) を認めなかった. MRIでは頸長筋が腫大しT2強調画像で高信号を呈した. これらの画像検査で咽後膿瘍, 化膿性脊椎炎を否定した上で7例を入院加療, 1例を外来加療とした.
    本疾患は特別な治療は不要とされるが, 症状が強いため咽後膿瘍, 化膿性脊椎炎が否定しきれず抗生剤を投与することが多い. 今回の8例でも全例で抗生剤が投与されていた. 本疾患は周知されておらず, 加療中に本疾患と診断された症例は4例だけであり, 残りの4例は咽頭後間隙炎, 咽後膿瘍の疑いの診断で加療されていた.
  • 五島 史行, 堤 知子, 小川 郁
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1208-1213
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    耳鼻咽喉科を受診するめまい患者のうち, 心因性めまいの占める割合は10~30%程度といわれている. これらの患者には適切な治療が行われていないことが多い. chronic subjective dizziness (CSD) はStaabとRuckensteinによって報告されためまい疾患である. 過去1年間に日野市立病院を受診しためまい患者のうち, 心因性めまいは40例 (14%) であった. そのうちCSDの診断基準を満たした7例について治療や予後などを検討した. 治療はセロトニン再取り込み阻害薬 (SSRIs) を投与し, 全例で自覚症状の改善が認められた. CSDは自覚的めまいを主訴とし耳鼻咽喉科を受診する. そのため, 耳鼻咽喉科医が薬物治療を行って治療することができる疾患として重要である. SSRIsは本来抗うつ薬であり, 実際のSSRIsの投与に当たっては嘔気, アクティベーション症候群などSSRIsの持つ副作用を熟知した上で行う必要がある.
  • 後藤 隆史, 東野 哲也, 中西 悠, 松田 圭二, 我那覇 章, 鈴木 幹男
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1214-1219
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    外耳道外骨腫は, 古くより潜漁夫やサーファー, 特により寒冷な地域でより長い冷水刺激に暴露された者ほど発症率が高く骨増殖も大きいとされている. 今回われわれは, 15年間にわたりサウナに通い, サウナに入った直後の冷水浴を習慣としていた3症例5耳の外骨腫に対して手術を行った. サウナ習慣者の冷水刺激に対する暴露時間は, 職業的に潜水する人やマリンスポーツをする人に比べればはるかに短いと考えられるが, 極端な高温・冷水刺激の反復が外骨腫の発生にかかわった可能性が示唆された.
  • 岩橋 利彦, 識名 崇, 川本 将浩, 望月 隆一, 山下 麻紀, 猪原 秀典
    2013 年 116 巻 11 号 p. 1220-1225
    発行日: 2013/11/20
    公開日: 2014/01/16
    ジャーナル フリー
    副鼻腔粘液嚢胞に起因する涙嚢炎は粘液嚢胞に対する治療のみでは改善しないことも多い. また, 粘液嚢胞や以前の手術等により涙道周囲に著明な解剖学的変化を認める場合は術前や術中の涙道評価が困難となる. 涙道狭窄や閉塞を合併した粘液嚢胞の4症例に対してわれわれは, 粘液嚢胞に対する開窓術に加え, ライトガイドや涙道内視鏡を利用したシリコンチューブ留置術や内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術を同時に施行し, 良好な治療成績を得た. 従来は術者の経験や指先の感覚に頼っていた手技が迅速かつ安全に行えた. さらに, 粘液嚢胞と涙道に対する治療を一期的に行うことで患者負担も軽減できると考えられた.
スキルアップ講座
専門医通信
専門医講習会テキストシリーズ
feedback
Top