今日癌に対しては, 化学療法, 放射線照射, 手術などによって治療が行なわれているが, すべての癌患者を治癒せしめることは未だ不可能であり, より有効な治療法の確立が望まれる反面, 癌の特殊な代謝機構を解明して薬剤や治療に対する癌の感受性を適確にとらえ, 治療法の選定, 治療効果の判定, 予後の推定などの指標となり得る手段を見い出すことは重要である. そこで酵素生化学的に, 頭頸部悪性腫瘍の癌組織50例と非癌組織37例のLDHアイソザイムを測定して, 癌組織特有のアイソザイムパターンを解明するとともに, 癌患者20例, 非癌患者20例の血清LDHアイソザイムを測定して両者の相異を明らかにした. さらに治療を受けた癌患者については, 治療経過に伴う癌組織及び血清のLDHアイソザイムの変動を検討して, LDHアイソザイムの癌の臨床への応用の意義について考察した.
LDHアイソザイムの測定は寒天電気泳動法を用い, Wiemeに従い陽極側をLDH
1とした.
1. 癌組織50例のLDHアイソザイムの平均値はLDH
1=1.2%, LDH
2=10.7%, LDH
3=20.3%, LDH
4=31.2%, LDH
5=36.7%となり, 50例中43例 (86%) はLDH
1<LDH
2<LDH
3<LDH
4<LDH
5のパターンを示し, LDH
5が増加している. 非癌組織37例の平均値はLDH
1=5.1%, LDH
2=17.8%, LDH
3=28.2%, LDH
4=31.1%, LDH
5=17.5%となり, 37例中35例 (95%) はLDH
1<LDH
2<HDH
5<LDH
3, LDH
4のパターンを示し, LDH
3, LDH
4が増加している.
2. 制癌剤の動注法及び放射線照射によって治療した癌患者18例について, 治療経過に伴う癌組織LDHアイソザイムの変動を検討したところ, 臨床効果が著効の症例では治療後にLDH
5が減少し, 無効の症例ではLDH
5が減少せず癌特有のパターンを維持している.
3. 癌組織の辺縁部ないし癌周囲組織のLDHアイソザイムは, 癌組織にきわめて近似したアイソザイムを示し, 非癌組織のアイソザイムとはいちじるしく異る.
4. 頭頸部悪性腫瘍患者20例の血清LDHアイソザイムの平均値はLDH
1=28%, LDH
2=40%, LDH
3=14%, LDH
4=7%, LDH
5=11%である. 非癌患者血清20例の平均値はLDH
1=41%, LDH
2=46%, LDH
3=9%, LDH
4=2%, LDH
5=1%である. 両者の差はLDH
1とLDH
5にいちじるしい. すなわち癌患者血清では, LDH
1が減少してLDH
5が増加している. つぎに癌患者を制癌剤の動注法及び放射線照射によって治療すると, 臨床効果が著効の症例では血清LDHアイソザイムのLDH
5が減少し, 無効の症例ではLDH
5が減少せずかえって増加する傾向を示す.
以上の結果より, 癌組織及び癌患者血清のLDHアイソザイムは, 癌の酵素学的診断, 治療効果判定の指標として役立ち得るとともに予後の推定に応用され得る可能性を示唆しており, 臨床的意義を有するものと考える.
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