日本耳鼻咽喉科学会会報
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123 巻, 5 号
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総説
  • 新井 基洋
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 307-314
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     めまい・平衡障害は, 前庭機能ならびに視機能, 体性感覚などの複合感覚障害であり, その治療法としてのめまいのリハビリテーション (以下めまいリハ) は耳鼻咽喉科領域において関心の高い事項の一つである. 1989年日本平衡神経科学会 (現, 日本めまい平衡医学会) の “「平衡訓練の基準」掲載にあたって” の中で, めまいリハは, 一側前庭障害代償不全や各種めまい後遺症のみならず, めまい・平衡障害の治癒促進を目的とした治療法の一つとして扱われている. 筆者は1989年に北里大学耳鼻咽喉科の徳増厚二教授 (現名誉教授) から北里式めまいリハの指導を受け, 以来, めまい・平衡障害の治癒促進を目的としためまいリハを「平衡訓練の基準」にのっとり施行してきた. めまいリハは, 体系的なメニューを採用する Cawthorne-Cooksey 法を元にした方法と, 特定の疾患や病態を対象として考案された方法に大別される. 後者の代表が良性発作性頭位めまい症における Brandt 法で, 最近の時流である患者個人ごとのめまいリハ治療も後者に該当する. 当院でも, 効率良くめまいリハを行うために個人の疾患を踏まえたリハを選択して外来指導をしており, そのポイントとなる適切なリハの見極め方について述べる. 一側前庭障害代償不全では中枢代償獲得促進が, 加齢性めまいなど両側前庭機能障害は視覚と深部感覚などによる機能補充を目標とする. 頭位治療や Brandt 法では改善しなかった良性発作性頭位めまい症例には頭位変換を用いた寝起きめまいリハも選択肢となる. そのほか, メニエール病, 前庭性片頭痛, 持続性知覚性姿勢誘発めまいに対するめまいリハについても触れる. さらに, めまいリハの歴史と根拠, 治療に導入できるめまいの対象疾患と方法の選択, 評価方法についても述べる.

  • 部坂 弘彦
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 315-320
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     診療所における各職種間の連携のポイントとしては, 外来診療はもとより, 高次病院との連携と共に, 歯科医・リハや看護師, ST・ケアマネなど多職種と連携, また主治医との密な関係構築が重要である. また, 行政や医師会との情報共有が極めて大事となる. 特に行政の関与により連携が容易となり, また key となる機関や人の存在が不可欠となる. そこで今回は以下の4つの点が主な内容である.

     1. 診療所内での対応,高次病院との連携

     2. 豊島区における歯科医,他職種,行政との連携

     3. 東京都における行政,歯科医との連携

     4. 今後の課題と対策

  • ―高次脳機能障害による発話障害 : 発語失行―
    永井 知代子
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 321-327
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     発話障害の責任病巣は, 大脳, 神経伝導路および小脳・大脳基底核, 構音器官の3つのレベルに分けられる. 高次脳機能障害による発話障害は, このうち大脳レベルの障害により生じる.

     高次脳機能とは, 脳機能のうち, 単純な運動・感覚以外の機能を指す. 言語や記憶, 遂行機能などに区分されるが, 失語は言語の障害であり, 特に内言語 (思考に用いられる言語) の障害である. したがって, 音声言語だけが障害されるということはなく, 読み書き障害も伴う. 失語は, 非流暢な発話を特徴とする運動失語と, 流暢だが言語理解障害が主体の感覚失語に分けられる.

     発語失行には2つの解釈がある. ひとつは, 運動失語の非流暢な発話の特徴のことであり, 広義の発語失行である. もうひとつは, 失語ではないが発話特徴は運動失語と同等であるものをいい, 純粋発語失行という. 狭義の発語失行といえば後者を指す. 日本では, 失構音・純粋語啞も純粋発語失行と同じ意味で用いるが, 欧米の専門書では, 失構音は重度の構音障害, 純粋語啞は重度の発語失行を指すと記載されており, 注意が必要である.

     発語失行の特徴は, ① 途切れ途切れの発話, ② 一貫性のない構音の歪み, ③構音運動の探索と自己修正, ④ 発話開始困難・努力性発話, ⑤ プロソディ障害とまとめられる. 特に①②は構音障害との鑑別において重要である. 発語失行は発話運動のプログラミング障害と定義され, 発語における3過程, 音韻符号化・音声符号化・運動実行のうち, 2番目の音声符号化過程の障害と説明される. これは音素レベルの発話運動プランの障害であり, 主に声道の状態変化などの体性感覚情報を用いたフィードバック制御の障害と考えれば, 中心前回のほか, 運動前野・島・中心後回など複数の領域の機能低下で生じると考えられる.

     近年話題の関連疾患として, 小児発語失行, 進行性発語失行がある. 耳鼻咽喉科を受診する場合があり, 注意が必要である.

  • 原 祐子
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 328-332
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     近年, アレルギー疾患患者の増加, また低年齢化が問題となっているが, それは眼科でも同様である.

     アレルギー性結膜疾患はⅠ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で, 何らかの自他覚症状を伴うものと定義されており, 季節性アレルギー性結膜炎, 通年性アレルギー性結膜炎, アトピー性角結膜炎, 春季カタルに分類される.

     結膜に強い増殖病変を伴う重症型の春季カタルやアトピー性角結膜炎と比較すると, スギ花粉症に伴う季節性アレルギー性結膜炎は眼科的な所見 (細隙灯顕微鏡所見) は軽度ではあるが, 強い掻痒感や眼脂, 流涙などさまざまな症状を引き起こし, 患者の QOL は著しく低下する.

     われわれ眼科医は, アレルギー性結膜炎の治療において, 抗アレルギー点眼薬, ステロイド点眼薬を主軸に, 重症型では免疫抑制点眼薬を組み合わせて行っている. この中でも, 自覚症状の強いアレルギー性結膜炎に対し, ステロイド点眼薬の症状軽減効果が高いことは間違いないが, その副作用のため, 眼科医も細心の注意を払って処方を行っている. 最も注意を要する副作用はステロイド緑内障で, 一定の割合で眼圧上昇を来し, 放置すると視野障害, 視力低下も来し得る. また, 鑑別疾患にも挙げられる感染性結膜炎に対し, 安易にステロイド点眼薬を投与することで病状を重症化させてしまう可能性もある. ステロイド点眼薬の使用をできる限り回避できるよう, 眼科でも抗アレルギー点眼薬の効果的, かつ安全な使用が求められている.

     アレルギー性結膜炎の病型や鑑別などの基本的な点から, 現在の眼科におけるアレルギー性結膜疾患治療の考え方, また眼科専門医以外にも気を付けていただきたい副作用の問題について解説する.

  • 内田 育恵
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 333-338
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年には, 認知症有病者数は最大730万人, 高齢者の5人に1人が認知症になると推計されている. 認知症は '誰もがなり得るもの' で '多くの人にとって身近なもの' ととらえられている.

     本稿では,『認知症のある高齢難聴者において, 補聴器導入により認知機能低下を予防することは可能か? 』『脳の病理変化があっても認知症症状を顕在化させないはたらき― '認知予備能' と聴覚に関連はあるか? 』という2つのリサーチクエスチョンを取り上げた. 認知障害のある症例を対象として補聴器導入の効果を取り扱った6本の研究では, 結果は必ずしも一定しない. われわれが国立長寿医療研究センター・もの忘れセンター受診高齢難聴者を対象に行った, 補聴器6カ月間貸し出し前後の Mini-Mental State Examination(MMSE) を比較した検討では, 補聴器導入前 MMSE は 20.26±5.23点 (range 4-27), 導入6カ月後 MMSE は 20.81±4.38点 (range 9-27) と, 統計学的に有意差を認めなかった.

     死後脳の解剖により, 脳内の神経病理変化があっても, 生前認知症の臨床症状を示していなかった例が1980年代後半から報告されるようになり, 病理変化に拮抗する何らかのメカニズムがあると考えられている. そのひとつが認知予備能 (cognitive reserve) で, もともと持っている認知プロセスや代償プロセスを駆使して, 病理学的なダメージの影響を緩和する能力と考えられている. 難聴があると劣化した聴覚入力を処理するために, 知覚処理以外の認知プロセスに利用できる認知資源が減ってしまい, 認知予備能が低下するという関係性が示唆されている. 認知症になっても健やかに安心して暮らせる社会の実現のために, 聴覚からのアプローチの重要性は増している.

  • 鈴木 賢二
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 339-343
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     耳鼻咽喉科領域は耳, 鼻, 口腔, 咽頭, 喉頭より成り, 呼吸器の最前線に位置しており, 感染症の好発部位となっている.

     耳鼻咽喉科領域では, 感染症の80~90%はいわゆるかぜ症候群と呼ばれるウイルス感染から始まり, 症例により2次的に細菌感染症が惹起されるのが通例である. よって早期のウイルス性上気道炎には抗菌薬は無効であるので使用せず, 対照的に解熱消炎鎮痛薬等で対処する. インフルエンザは, ウイルス感染症の内で最も重要であり, 重篤になりやすいが治療可能な疾患である. 迅速検査で確定したら早期から抗インフルエンザ薬を使用することで安全な治療を行うことができる.

     薬剤耐性菌に関しては, 1928年にフレミングがペニシリンを発見したが, その翌年にはフレミングは将来ペニシリン耐性菌が出現することを予言しており, 事実1940年にはペニシリン耐性菌が出現している. その後も1970年代以降新規抗菌薬が開発されるたびに次々とそれらに対する耐性菌が出現し, 近年ますます菌の耐性化は進み, 抗菌薬の全く効かない菌も出現し始めている. 世界保健機関 (WHO) は, この地球上での薬剤耐性菌の蔓延を極めて危惧し, 2014年4月に加盟各国に2年以内に薬剤耐性に関する行動計画策定を要請した. わが国はこれを受けて直ちに AMR 対策アクションプランを示し, AMR 対策普及・啓発・教育を進め, 薬剤耐性菌のサーベイランスを行い, 標準予防策の徹底をうたい, 医療・畜水産分野の抗微生物薬の適正使用の実施等を求めている. われわれも AMR 対策アクションプランに準じた抗菌薬使用を進めるべきと考えており, これらを遂行するために, 耳鼻咽喉科領域の全国サーベイランスにおける検出菌の年次推移と薬剤感受性動向を熟知し, 治療にあたり, 抗菌薬の適正使用を推進していくべきである.

  • 室伏 利久
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 344-349
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     両側 (末梢) 前庭機能低下は, 文字通り両側の末梢前庭機能が低下した病態をあらわし, 特発性, すなわち原因不明のものと病因の明らかなものの両者がある. また, 難聴を伴うものと伴わないものがある. 特発性であるか病因が明らかであるかにかかわらず, 両側前庭機能低下は慢性めまいの原因となり得るものである. 近年, めまい平衡医学の国際学会である Barany Society によりその診断基準が作成された. この診断基準を満たすためには, 高度の両側外側半規管障害の存在が必要であるが, 日常臨床の中では, よりマイルドな不全型両側前庭機能低下による慢性めまいへの対応も重要である. 第一に重要であるのは, 問診と検査による正確な病状の評価である. 両側前庭機能低下による慢性めまいの治療として, 平衡訓練には一定の有効性があり, まず試みるべき方法である. そのほかの対応・治療は, 低下した末梢前庭系以外の系, 主として体性感覚系の機能を強化する方法と低下した末梢前庭系の機能を強化する方法に大別できる. 前者として, 杖の使用や, 各種の感覚代行治療, 後者として noisy galvanic stimulation, 人工前庭器について紹介した. また, 近未来に想定される対応・治療のアルゴリズムを示した.

  • 岩井 大, 鈴木 健介, 藤澤 琢郎, 日高 浩史, 八木 正夫
    原稿種別: 総説
    2020 年 123 巻 5 号 p. 350-355
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     耳下腺部には, 耳下腺の浅・深葉腫瘍のほか, 顔面神経から発生する神経鞘腫などが発生するが, その術前診断率はいまだ高いとは言えない. また, 一般的な術後顔面神経麻痺率は約20%とされ高い発生率を示す. したがって, この領域の手術では, 顔面神経の同定・処理を含めた基本的な手術手技の習得と, 術中の臨機応変な手技の展開が望まれる. さらに, 顔面神経を外側から圧迫・進展する耳下腺浅葉腫瘍 (多形腺腫や癌など) や, 顔面神経本幹由来の側頭骨外腫瘍 (神経鞘腫) が乳様突起前面に大きく増殖する症例では, 顔面神経本幹の同定や本幹周辺の操作が困難なことが多い. そこで今回, 基本的な顔面神経本幹の同定法と, われわれが行っている簡便な乳様突起・鼓室骨削開による顔面神経処理法を提示した.

原著
  • 平賀 良彦, 荒木 康智, 都築 伸佳, 佐原 聡甫, 橋本 陽介, 川﨑 泰士, 小川 郁
    原稿種別: 原著
    2020 年 123 巻 5 号 p. 356-362
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     内視鏡下副鼻腔手術 (endoscopic sinus surgery: ESS) において, 近年は先に篩骨胞を開放せずに, agger nasi cell(ANC) を開放した後に排泄路を篩骨胞前壁の上方にたどって前頭洞を開放する方法である篩骨胞温存前頭洞開放術 (intact bulla frontal sinusotomy: IBFS) も行われている. IBFS は安全で教育的な術式であるが, 全例で施行可能ではないため, IBFS に影響する因子について検討を行った. IBFS を試みた65側を後方視的に検討し, ① 前篩骨蜂巣のバリエーション, ② 前頭洞病変, ③ 鈎状突起上方基部付着部, ④ ANC の前後径, ⑤ 矢状断における前頭洞排泄路 (FSDP) の鼻堤部からの距離, ⑥ anteroposterior diameter, ⑦ 副鼻腔構造以外の因子 (性別, 年齢, 好酸球性副鼻腔炎の有無, 中鼻道ポリープの有無) について検討を行った. Supra bulla frontal cell(SBFC) が存在する症例では IBFS の完遂率は52% (11/21) で, SBFC なしでは93% (41/44) であった (p=0.0003). FSDP に病変があると IBFS の完遂率は73% (36/49) で病変がないと100% (16/16) であった (p=0.027). そのほかの項目は IBFS の完遂に影響を与えなかった.

  • 富里 周太, 矢田 康人, 白石 紗衣, 和佐野 浩一郎
    原稿種別: 原著
    2020 年 123 巻 5 号 p. 363-370
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     吃音症へのアプローチとして認知行動療法 (CBT) が注目を浴びているが, 本邦からその効果を検討した報告は少ない. 今回われわれは吃音に特化した低強度 CBT によって, 一定の介入を終えた成人吃音の症例について報告する.

     対象は吃音外来を受診した成人11症例 (22~47歳, うち2名女性) とした. CBT の治療として, 吃音が社交不安に関連することを教育し, 曝露療法などの社交不安への対処を取り扱った. また言う直前に行ってしまう「リハーサル」について取りあげ,「吃音が生じるかどうか」から注意をそらすことを指導した. 5回のカウンセリングの前後において, 日本語版リーボヴィッツ社交不安尺度 (LSAS-J) と日本語版 Overall Assessment of the Speaker's Experience of Stuttering for Adults(OASES-A) の値は統計学的に有意な改善を示し, 吃音に併存する社交不安や抱える困難が軽快したと考えられた. 改訂版エリクソン・コミュニケーション態度尺度 (S-24) と吃音頻度は改善傾向を認めたものの有意差を認めなかった. CBT は, 吃音に併存する社交不安やクライアントが抱える困難の軽快といった効果があることが示唆された.

  • 髙尾 なつみ, 榎本 浩幸, 木谷 有加, 田中 恭子, 井上 真規, 小林 眞司, 折舘 伸彦
    原稿種別: 原著
    2020 年 123 巻 5 号 p. 371-376
    発行日: 2020/05/20
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー

     アデノイド切除術後の合併症として鼻咽腔閉鎖不全を来すことがあるが, 多くは保存的加療で消失する. 今回アデノイド切除術後に重度の開鼻声を生じ改善に外科的治療を要した一症例を経験した.

     症例は5歳女児. 両側滲出性中耳炎, アデノイド増殖症に対し両側鼓膜チューブ留置術, アデノイド切除術を施行した.術後より聴力は改善したが, 開鼻声を来し発話明瞭度が低下した. 手術4カ月後から言語訓練を開始したが改善せず, 上咽頭ファイバースコピー, X 線所見より先天性鼻咽腔閉鎖不全症と診断し7歳9カ月で自家肋軟骨移植による咽頭後壁増量法を施行し症状は改善した. 術前予見可能性および発症後の対応について検討したので報告する.

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