日本耳鼻咽喉科学会会報
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101 巻, 12 号
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  • 小島 博巳, 宮崎 日出海, 田中 康広, 森山 寛
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1373-1379
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    1984年から1997年の13年間に当科で耳小骨形成術およびアブミ骨手術を行った鼓膜所見が正常な耳小骨奇形66例72耳について検討した.性別は男性27名30耳,女性39名42耳であった.手術所見による病態の分類ではI-Sjointの離断が43%,ツチ骨またはキヌタ骨の固着のあるものが16%,またアブミ骨の底板が固着しているものが26%を占め,従来の報告より耳小骨の固着のあるものが多くみられた.33%の症例で反対側にも患側と同様な伝音性難聴もしくは混合性難聴を認めた.顔面神経の走行異常は4%に,内耳奇形は1%にみられた.先天性真珠腫の合併は3%にみられた.
    耳小骨再建はIII型変法が57%,IV型変法が37%を,またアブミ骨手術ではsmallfenestra stapedectomyを行ったものが86%を占めた.手術による聴力の改善は慢性中耳炎に対する鼓室形成術に比較して良好であり90%の症例で改善した.
  • 白石 剛, 佐藤 祐司, 牧嶋 和見
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1380-1384
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    平成2年より平成9年5月までの当科における突発性難聴症例を対象とし,高気圧酸素療法〔高気圧酸素治療(HBO),星状神経節ブロック(SGB),ビタミンB群(メチコバール1500μg,ビタメジンS 3cap)〕と循環改善剤(カルナクリン3Tab)の内服の併用療法を施行したHBO群119例と,それ以前の高気圧酸素療法を施行していない対照群107例における治療成績を比較検討した.その結果,HBO群は対照群に比べて総括的な聴力回復が良好で,高気圧酸素治療の有効性を認めた.また突発性難聴の予後に関連する要因を含んだ症例たとえば高度難聴や治療開始の遅れた症例や他の治療に抵抗性の症例に対して,HBO群の方が対照群より良好な成績が得られ,高気圧酸素治療の有効性が期待された.
  • 武田 憲昭, 肥塚 泉, 西池 季隆, 北原 糺, 堀井 新, 宇野 敦彦, 矢野 裕之, 田矢 直三, 土井 勝美, 荻野 仁, 久保 武
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1385-1389
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    先行する難聴が若年性一側聾である遅発性内リンパ水腫典型例23例の臨床的検討を行った.発症年齢の分布は,30歳以内の若年発症が14例,40歳以降の中年~初老期発症が9例と2峰性を示した.遅発性内リンパ水腫同側型の15例のうち,80%が若年発症であった.良聴耳の蝸電図検査で20%に-SP/AP比の増大を認めた.温度刺激検査では60%に先行難聴耳のCPを認めた.一方,遅発性内リンパ水腫対側型の8例のうち,75%が中年~初老期発症であった.良聴耳の蝸電図検査で60%に-SP AP比の増大を認め,温度刺激検査では57%に先行難聴耳のCPを認めた.
    発症年齢から,若年発症の同側型にはメニエール病と異なった病態を持つ症例が含まれる可能性が考えられる.一方,中年~初老期発症の対側型は良聴耳に発症したメニエール病と考えて矛盾しないと思われる.先行難聴耳の内リンパ水腫の評価が難しいが,対側型では良聴耳に内リンパ水腫の存在が疑われた.温度刺激検査からはめまいの責任耳の決定は困難であった.遅発性内リンパ水腫の予後がメニエール病と異なるかについては,長期にわたる検討が必要である.
  • 佐藤 斎, 和田 匡史, 土屋 乃理子, 藤崎 俊之, 高橋 姿
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1390-1396
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    難聴の自覚もなく日常生活に不自由も感じない機能性難聴症例の病態を解明するために1982年から1997年までに当科を受診した初診年齢が15歳以下の機能性難聴症例159例295耳を対象に検討した.難聴の自覚のない60例114耳(無自覚例)を難聴の自覚のある99例181耳と対比させて受診年度,受診のきっかけ,合併症状,心因,診断のきっかけ,自記オージオメトリー,観察期間と最終聴力域値,治癒症例の治癒時年齢について検討した.その結果,無自覚例は16年間で増加する傾向はなかった.学校健診で指摘されたのがきっかけで受診した症例が49例(81.7%)で最も多かった.また合併症状として耳痛が11例(18.3%)に,機能性視覚障害が5例(8.3%)に,その他円形脱毛症や退行現象などがみられた.11例(18.3%)に親子関係や学校生活に心因と考えられる事項が聴取され,病態との関連が示唆された.しかし難聴の自覚のある症例と比較すると年齢層が若く,心因がはっきりせず,合併する心因反応も少なく,いじめにあっていた症例もなかった.診断のきっかけは,会話の状態とオージオグラムの域値の矛盾が最も多く48例(80.0%)であった.自記オージオメトリーのJerger分類では,V型が44耳(38.6%)にみられた.純音聴力検査域値が正常になるまでの期間は,24耳が6カ月未満であったが,16耳が1年以上を要した.すなわち今回の検討からは難聴の自覚がなく,日常生活にも不自由のない機能性難聴にも心因の関与が疑われる症例があることが示唆されたが,難聴の自覚のある症例に比べればその程度は軽かった.少数で程度は軽いとはいえ自覚のない症例にも心因の関与する症例が存在するので,症例に応じた適切な耳鼻咽喉科学的,精神医学的な対応を行う意義があると思われた.
  • 犬飼 賢也, 関 聡, 近藤 勝彦, 長場 章, 野々 村直文, 中野 雄一
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1397-1405
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的:めまい患者に対してSASを含む4種類の心理テストを行い,めまい患者の心理的因子について検討した.
    対象ならびに方法:めまい患者群111例(椎骨脳底動脈循環不全(VBI)群56例,自律神経失調症群29例,メニエール群26例),対照群81例(健常成人)に4種類の心理テスト(CMI, BIAS, SDS, SAS)を行い,めまい患者群ならびに疾患別の異常出現率を対照群と比較し,めまい患者群における各心理テスト間の関連を検討した.
    結果:心理テストにおける異常出現率はCMIとSASではめまい患者群は対照群に比し有意に高値を示し,MAS, SDSでは有意差はなかった.疾患別に異常出現率を検討するとCMIではVBI群と自律神経失調症群で,SASではVBI群とメニエール群で対照群に比し有意に高値を示した.MAS, SDSでは疾患別の検討でも有意差はなかった.めまい患者群における各心理テスト間の関連を検討すると,CMIの異常例と正常例では,他の各心理テストの点数が異常例で有意に高く,またMAS, SDS, SASの各心理テストはそれぞれ有意に相関した.各心理テスト間の一致率は約70~80%であった.
    結論:MASとSASの結果からめまいと不安の関係について考察し,めまい患者では,めまいを起こすことによってめまいに対する不安が惹起され,悪循環を起こすと考えられた.また,めまい患者に用いる心理テストとしてはCMI, SASが適していると思われる.しかし,CMIは項目数が多く検査時間も長いため,我々耳鼻咽喉科医がめまい患者の心理的な異常をスクリーニングするには短時間でできるSASが簡便で脊用と思われた.
  • 海老 原充, 海老 原敏, 岸本 誠司, 斉川 雅久, 林 隆一, 鬼塚 哲郎, 朝蔭 孝宏, 吉積 隆
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1406-1411
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    分化型甲状腺癌は比較的悪性度の低い癌として知られているが,中には周囲臓器への浸潤を来すものもある.特に浸潤頻度の高い臓器は気管である。そこで当院での気管浸潤例における手術手技,気管再建法における工夫,及び成績に関して報告をした.対象症例は国立がんセンター中央病院(1978年1月~1990年2月)およびセンター東病院(1992年7月~1996年12月)にて気管合併切除を施行した分化型甲状腺癌30例で,同期間中に手術を施行した分化型甲状腺癌全486例の約6.2%にあたった.病理組織学的には全例乳頭癌であった.
    性別は男性10例,女性20例であり,平均年齢は58.8歳(22~75歳)であった.切除後,21例に関しては二期的にhinge flapにて気管孔閉鎖が可能であった.
    気管部分切除•局所皮弁による再建は,気管環状切除•端々吻合に比較して術後の気道管理も容易であり手術侵襲も少なく,甲状腺分化癌のように悪性度の低い癌ではこの術式にて十分対応可能と考えられた.残りの5例に関しては欠損範囲が大きく,そのままでは二期的閉鎖が不可能であったため,3例に関しては気管壁欠損の上下方向を縫縮し残った欠損部に気管孔を作製し,局所皮弁にて閉鎖を行った.さらに,他の2例ではハイドロキシアパタイトを使用し気管壁の支持を試みた.ハイドロキシアパタイトは組織親和性に優れ,わん曲,長さ等の選択が可能で気管再建に有用と思われた.
    なお閉鎖のできなかった4例に関しては他因死が1例,肝癌併発にて気管孔縮小に止まったものが1例,経過観察中のものが2例であった.
  • 服部 謙志
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1412-1422
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    IgA腎症に対する口蓋扁桃摘出術(以下扁摘)の長期的な臨床効果と長期予後を左右する因子について検討した.対象は腎生検後5年以上経過を観察できたIgA腎症扁摘例71例とした.予後予測因子については,性別,発症年齢,腎病理所見,腎生検時臨床検査所見(血清クレアチニン値,クレアチニンクリアランス,1日尿蛋白量,血清IgA値,高血圧の有無),扁桃炎の既往,扁桃誘発試験,経過(発症から扁摘までの期間,発症から現在までの期間)について検討した.各々の因子について,寛解率(寛解群/全症例×100),腎機能保持率{(寛解群+腎機能保持群)/全症例×100}を求め,Fisherの直接確率計算法を用いて統計学的に検討した.
    全症例の予後は,寛解率28.2%,腎機能保持率90.1%であり,長期的な臨床効果が期待できると考えた.
    予後予測因子については,発症年齢が20歳以上,腎病理組織障害度が高度,血清クレアチニン値が1.3mg/dl以上,1日尿蛋白量が1.0g/日以上,血清IgA値が350mg/dl以上で,有意に予後不良であった.性別,クレアチニンクリアランス(80ml/min以上と未満),高血圧の有無,扁桃炎の既往の有無,扁桃誘発試験陽性項目の有無,経過の長短については有意差は認めなかった.
    IgA腎症に対する扁摘の適応については,腎病理組織障害度が軽度な症例は,扁摘により腎機能低下への進行を抑制する効果が期待できると考えた.腎病理組織障害度が高度な症例は,腎生検時すでに腎機能が低下していれば積極的な扁摘の適応はないが,腎機能が比較的保持されていれば扁摘を含めた治療の効果が期待できると考えた.
  • 横井 秀格, 関 眞規子, 岡添 眞介, 奥村 康, 市川 銀一郎
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1423-1429
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    近年,CD27/CD70相互作用が,T細胞依存性B細胞活性化系において注目されている.今回,我々は,扁桃におけるCD27,CD70の発現とその機能を免疫学的手法を用いて検討した.
    慢性編桃炎の診断にて当科で口蓋扁桃摘出術を施行した8例の扁桃リンパ球とそれぞれの末梢血リンパ球を用いた.
    PWMを用いてのT細胞依存的にB細胞活性化を起こす系において,抗CD27抗体,抗CD70抗体投与によりlgG産生量が有意に低下したことによりCD27/CD70の抗体産生への関与を確認した.
    扁桃リンパ球と末梢血のリンパ球におけるCO27+CD4+細胞,CD27-GD4+細胞の発現の比較検討では,未梢血のCD4+T細胞は,ほとんどCD27+細胞であった一方,扁桃のCD4+T細胞の分画は,CD27-細胞の発現が増加傾向にあった.
    LD27-CD4+細胞の発現は,末梢血では平均2.5%,扁桃では平均4.9%であり,それらの発現量において,統計的有意差を認めた(P<0.05).
    扁桃におけるCD27,CD70の局在は,抗CD27抗体陽性細胞は濾胞間領域に多数認められ,濾胞内に少数,暗殼にはごく少数存在した.一方,抗CD70抗体陽性細胞は濾胞内に少数存在するのみであった.
    抗CD27抗体陽性細胞と抗CD4抗体陽性細胞の局在は酷似していた.抗CD4抗体と抗CD27抗体との二重染色では,胚中心においてCD4+細胞はほとんどCD27+であった.抗菌CD19抗体は胚中心内,暗殼に多数染色され抗CD27抗体との二重染色にて胚中心内暗殼寄りにCD19+CD27+細胞を認めた.
    これらの結果より,扁桃においてもCD27/CD70は抗体産生等のT-B細胞間相亙作用に関与しており,扁桃でのメモリー細胞の増加が示唆された.
  • 木村 隆保
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1430-1435
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    口腔扁平上皮癌18例を対象とし,予後不良群10例と予後良好群8例に分け,1番染色体短腕36領域(lp36)の欠失をdouble-target fluorescerce in situ hybridi-zation (FISH)法を用いて調べ,患者予後および核DNA量との関係について検討した.
    対象症例の未治療組織のパラフィン包埋ブロックから癌細胞の単離核浮遊液を作製し,フローサイゝトリー(FCM)でDNA-ploidyを決定した.また,単離核塗抹標本で,ビオチン標識1番染色体セントロメア領域特異的プロ一プおよびジゴキシゲニン標識lp36プロ一ブを用いてdouble-target FISHを行い,lp36の欠失を検討した.
    その結果,予後不良群では,aneuploid6例中3例にlp36の欠失を認めた.予後良好群には年lp36の欠失は認めなかった.
    lp36には細胞分裂製御に関わるp58やFRAP,細胞のアポトーシスに関連するTNF-RH等の遺伝子が存在することが知られ,また癌抑制遺伝子の存在が示唆きれており,これらの欠失が正常細胞の癌化や癌細胞のプログレッション(進展)に関係すると思われる.
    口腔扁平上皮癌では,種々の染色体変化を受けた結果と考えられるaneuploid癌症例でlp36の欠失を認めたことより,lp36の欠失は癌のプログレッションに閲係し,また,lp36の欠失を認めた症例はすべて予後不良であり,aneuploid癌でのlp36の欠失が予後不良因子のひとつになると考えられた.
  • 丸山 晋
    1998 年 101 巻 12 号 p. 1436-1441
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    舌癌は早期に発見されることが多いが,早期癌でも頸転移を来すことがまれではなく,これが予後を左右する重要な因子となっている.そこで,T2舌癌に対しても積極的に郭清術を行うことが多い.顎下部の郭清に際しては下顎縁枝の処理が問題となるため,これを安全確実に温存できる顎下部郭清術式を考案した.下はこの術式によって温存される顎下部表在脂肪織の中に含まれるが,郭清術式としての妥当性を明らかにすることを目的として,本術式によって必然的にここに含まれることとなる顎下部表在リンパ節について検討し,以下のような結果を得た.
    1. この術式によって顎下部郭清を待ったT2舌癌26症例(N(+)12例を含む)について,顎下部表在リンパ節への転移の有無を病理組織学的に検討したところ,転移を認めたものは1例もなかった.
    2. これら26症例のうちで顎下部(深在)リンパ節に転移を認めたものが8例あったが,この8症例についても顎下部表在リンパ節には転移を認めなかった.
    3. 郭清術を施行する頭頸部癌10症例について,活性炭を用いて舌側縁からのリンパ流を検討したところ,顎下部表在リンパ節への取り込みを認めたものは1例もなかった.
    4. 以上の結果から,舌側縁に限局する早期舌癌では顎下部表在リンパ節への転移はないものと考えられ,T2早期舌癌に対する予防的および治療的顎下部郭清術としての本術式は有用であると考えられた.
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