IgA腎症は, 腎糸球体メサンギウム領域にIgAの沈着を認める原発性糸球体腎炎で, 従来の治療では腎生検20年後には約40%が末期腎不全に陥ることが明らかになっている. 1980年代から扁桃摘出術 (+ステロイドパルス療法) の高い有効性が数多く報告され, 最近では根治・寛解を目指した治療法として, 全国の多施設で日常的に行われるようになった. これまでの報告をまとめると, 少なくとも軽症~中等度症例における尿所見寛解率と腎生存率の面で他の治療法より優れていることは明白である. しかし, このような臨床的エビデンスの蓄積に対して, 扁桃とIgA腎症の関連性を証明する基礎的エビデンスは少ない. したがって, この分野におけるtranslational researchは, 「何故扁摘が有効であるか」という命題に答え, そこから新たな治療法を探ることと言える.
IgA腎症の扁桃の特徴として, 過去にはIgA1陽性細胞の増加, 扁桃リンパ球のIgA産生亢進などが報告されている. 最近になって, 筆者らは, 自然免疫系におけるT細胞非依存性の免疫グロブリン産生過程で主役を成す分子BAFF (B cell activating factor) に着目した. IgA腎症の扁桃単核球を細菌由来DNA (CpG-ODN) で刺激するとIFN-γ, BAFFおよびIgAが過剰産生すること, IFN-γで刺激するとBAFF発現およびBAFF産生が有意に亢進することを確認した. また, T細胞受容体 (TCR) レパトア解析にて, IgA腎症の扁桃T細胞ではVβ6の発現が増加しており, パラインフルエンザ菌体抗原刺激にてその発現が亢進することを見いだした. 加えて, IgA腎症の扁桃T細胞ではケモカインレセプターCXCR3発現が増強しており, 腎尿細管間質ではCXCR3対応ケモカインIP-10, Migの発現が亢進していることを確認した. 以上の所見から, IgA腎症の扁桃では, 何らかの遺伝的素因によって常在菌の菌体やDNAに対する過剰免疫応答が存在し, その結果, IFN-γやBAFFを介した扁桃B細胞による変異IgAの過剰産生とケモカイン・ケモカインレセプターを介したTCR Vβ6陽性扁桃T細胞の腎へのホーミングが生じている可能性が考えられた.
抄録全体を表示