日本耳鼻咽喉科学会会報
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112 巻, 10 号
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総説
  • 原渕 保明, 高原 幹
    2009 年 112 巻 10 号 p. 689-696
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/01/05
    ジャーナル フリー
    IgA腎症は, 腎糸球体メサンギウム領域にIgAの沈着を認める原発性糸球体腎炎で, 従来の治療では腎生検20年後には約40%が末期腎不全に陥ることが明らかになっている. 1980年代から扁桃摘出術 (+ステロイドパルス療法) の高い有効性が数多く報告され, 最近では根治・寛解を目指した治療法として, 全国の多施設で日常的に行われるようになった. これまでの報告をまとめると, 少なくとも軽症~中等度症例における尿所見寛解率と腎生存率の面で他の治療法より優れていることは明白である. しかし, このような臨床的エビデンスの蓄積に対して, 扁桃とIgA腎症の関連性を証明する基礎的エビデンスは少ない. したがって, この分野におけるtranslational researchは, 「何故扁摘が有効であるか」という命題に答え, そこから新たな治療法を探ることと言える.
    IgA腎症の扁桃の特徴として, 過去にはIgA1陽性細胞の増加, 扁桃リンパ球のIgA産生亢進などが報告されている. 最近になって, 筆者らは, 自然免疫系におけるT細胞非依存性の免疫グロブリン産生過程で主役を成す分子BAFF (B cell activating factor) に着目した. IgA腎症の扁桃単核球を細菌由来DNA (CpG-ODN) で刺激するとIFN-γ, BAFFおよびIgAが過剰産生すること, IFN-γで刺激するとBAFF発現およびBAFF産生が有意に亢進することを確認した. また, T細胞受容体 (TCR) レパトア解析にて, IgA腎症の扁桃T細胞ではVβ6の発現が増加しており, パラインフルエンザ菌体抗原刺激にてその発現が亢進することを見いだした. 加えて, IgA腎症の扁桃T細胞ではケモカインレセプターCXCR3発現が増強しており, 腎尿細管間質ではCXCR3対応ケモカインIP-10, Migの発現が亢進していることを確認した. 以上の所見から, IgA腎症の扁桃では, 何らかの遺伝的素因によって常在菌の菌体やDNAに対する過剰免疫応答が存在し, その結果, IFN-γやBAFFを介した扁桃B細胞による変異IgAの過剰産生とケモカイン・ケモカインレセプターを介したTCR Vβ6陽性扁桃T細胞の腎へのホーミングが生じている可能性が考えられた.
原著
  • 小柏 靖直, 武井 泰彦, 松田 剛明, 唐帆 健浩, 守田 雅弘, 甲能 直幸
    2009 年 112 巻 10 号 p. 697-704
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/01/05
    ジャーナル フリー
    めまいの救急診療は原因疾患が多彩で, しかも所見に乏しいにもかかわらず重篤な疾患が潜んでいることがあり, 耳鼻咽喉科的知識にとらわれない広範囲で効率的な診療が求められる. 当院では, 2006年5月に救急患者を専門科に振り分ける横断的なシステムが活動を開始し, 以前と比較して効率的にめまい救急診療が行われるようになった. 当院におけるめまい救急診療に対する取り組みを紹介し, 当科の入院症例から効率的に診療を行うための方法を考察した.
    2004年1月~2008年3月に当科に入院しためまい症例は173例あり, このうち脳血管障害が入院後に判明した症例は6例であった. これらの症例の検討から, 経過中に頭痛を生じた症例, 75歳以上の高齢者, 生活習慣病の既往歴, 眼振がないか軽度であるにもかかわらず起立歩行障害の著しい症例には特に注意が必要であることが示唆された.
  • —とくに耳鼻咽喉科受診17例と三次救急搬送62例の検討—
    角田 梨紗子, 舘田 勝, 長谷川 純, 嵯峨井 俊, 片桐 克則, 石田 英一, 小山 敦, 中目 亜矢子, 小林 俊光
    2009 年 112 巻 10 号 p. 705-711
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/01/05
    ジャーナル フリー
    1995年1月から2006年10月までにいわき市立総合磐城共立病院耳鼻咽喉科を受診し, 気道異物が確認された17例と, 2000年1月から2006年10月までに同院三次救急に搬送され, 気道異物が確認された62例の計79例について検討した. 耳鼻咽喉科症例は年間平均1.4例であったのに対し, 三次救急に搬送例は年間平均8.9例で, 耳鼻咽喉科症例の6.4倍であった. 耳鼻咽喉科症例は, 男性8例, 女性9例 (男女比はほぼ1:1) で, 3歳以下が15例 (88%) であった. 異物はピーナッツが最多で9例, その他, 枝豆, ポップコーン, ねじ, 義歯などであり, 異物摘出後1例を除き, 後遺症なく退院していた. 一方, 三次救急搬送例は, 男性43例, 女性19例 (男女比はほぼ2:1) で, 50歳代以上が70%近くを占めていた. 異物は食物, 特にもちが多かった. およそ60%は来院時心肺停止状態であり, 心肺蘇生を必要とし, 32例は数日以内に死亡していた. その他, 13例は転院, 9例は後遺症なく退院, 7例は入院なく帰宅していた. 異物の種類, 摘出方法, 転帰などにつき検討した.
  • 小池 修治, 那須 隆, 石田 晃弘, 野田 大介, 石井 健一, 青柳 優
    2009 年 112 巻 10 号 p. 712-717
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/01/05
    ジャーナル フリー
    喉頭癌の病理組織型の95%以上が扁平上皮癌であり, 非扁平上皮癌は極めてまれである. 今回, 呼吸困難を期に発見された声門下原発腺扁平上皮癌の1症例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告した. 症例は37歳男性で, 進行性の呼吸困難を主訴に近医受診. 原因不明の声門下腫脹を示摘されるも放置. 自宅で突然呼吸停止となり, 救急搬送先で緊急気管切開術を施行. CT上声門下腫瘍を疑われ紹介. 喉頭截開術により生検を行い, 声門下原発腺扁平上皮癌の診断となる. 喉頭全摘術, 両頸部郭清術, 術後放射線治療を行ったが, 治療開始後4年後に肺転移を生じ, 7年6カ月後に全身転移のため死亡となる. 本例はわれわれの渉猟し得た限り喉頭原発例としては33例目の報告である.
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