現在, 医師不足が日本の医療の大問題になっている. 実際には医学部を卒業する医師数は増加しているのに現場では医師不足が深刻である. 医学部の学生数を増やして解決にあたろうとしているが, 医師が育つには10年を要する. 日本耳鼻咽喉科学会の調査によると, 医師の勤務先は平成2年から19年の間に開業医は30%増加し, 大学病院, 総合病院勤務は25%減少した. すなわち, 大学病院, 総合病院の勤務医が減少していることが問題である. また, 医師不足の一つの原因として女性医師が種々の理由で仕事を続けることができなくなることが挙げられる. 女性医師の国家試験に占める割合は2009年33.4%であった. 耳鼻咽喉科の女性医師は17.2%であるが, 将来は30%を超えると予測する. 女性医師は出産, 子育てを契機に2割が仕事を中断するので医師不足は加速する. このため女性医師が仕事を継続し, あるいは職場に復帰するための女性医師支援が必要になる. そこで, 女性医師支援が全国的に行われ始めた. 一方, 内閣府は男女共同参画社会基本法を平成11年6月に広布し, 男女共同参画社会の実現を目指している. これにともない文部科学省は女性研究者支援モデル育成プログラムを企画し, 平成18年から20年度で33機関を採択して女性研究者支援モデルを作成し, 開始した. その機関には東京女子医科大学, 東京医科歯科大学などが含まれ, 女性医師支援が行われてきた. 日本医師会も女性医師支援のためのプログラムを開始し, 他の学会, 大学病院, 総合病院でも独自に女性医師支援の種々のプログラムが実施されてきた.
第110回日本耳鼻咽喉科学会臨床セミナー6「女性医師が働きやすい環境」の主題で講演した3人の演者が各々のテーマで論文をまとめた. 以下の3つの主題である.
1. 女性医師の日本における実態——鈴鹿 有子 (金沢医科大学耳鼻咽喉科) 他
2. 日本耳鼻咽喉科学会女性会員に対するアンケート調査結果
——工藤 典代 (千葉県立保健医療大学健康科学部栄養学科) 他
3. 女性医師支援方法 (自治医科大学における女性医師支援の取り組み)
——飯野ゆき子 (自治医科大学附属さいたま医療センター) 他
主題1は日本における医師の実態について再認識することを目的とした. 主題2は2009年1月, 日本耳鼻咽喉科学会が女性医師に対してアンケートを実施したので, この調査結果について報告した. 主題3は女性医師支援の実際の方策について自治医大の経験を報告した.
「女性医師が働きやすい環境」について考え女性医師を支援し, 女性医師の就業が増加することは男性医師, 女性医師を含めた医師全体の労働環境の改善につながる. 仕事と生活のバランス・ワークライフバランスは女性医師のみの問題ではなく, 男性医師にとっても重要である. 人間らしい家庭生活の充実, ゆとりのある生活はよりよい医師・患者関係を築き, より充実した医療をもたらすと期待する.
抄録全体を表示