日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
113 巻, 9 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 川城 信子, 飯野 ゆき子, 工藤 典代, 鈴鹿 有子
    2010 年 113 巻 9 号 p. 719-720
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    現在, 医師不足が日本の医療の大問題になっている. 実際には医学部を卒業する医師数は増加しているのに現場では医師不足が深刻である. 医学部の学生数を増やして解決にあたろうとしているが, 医師が育つには10年を要する. 日本耳鼻咽喉科学会の調査によると, 医師の勤務先は平成2年から19年の間に開業医は30%増加し, 大学病院, 総合病院勤務は25%減少した. すなわち, 大学病院, 総合病院の勤務医が減少していることが問題である. また, 医師不足の一つの原因として女性医師が種々の理由で仕事を続けることができなくなることが挙げられる. 女性医師の国家試験に占める割合は2009年33.4%であった. 耳鼻咽喉科の女性医師は17.2%であるが, 将来は30%を超えると予測する. 女性医師は出産, 子育てを契機に2割が仕事を中断するので医師不足は加速する. このため女性医師が仕事を継続し, あるいは職場に復帰するための女性医師支援が必要になる. そこで, 女性医師支援が全国的に行われ始めた. 一方, 内閣府は男女共同参画社会基本法を平成11年6月に広布し, 男女共同参画社会の実現を目指している. これにともない文部科学省は女性研究者支援モデル育成プログラムを企画し, 平成18年から20年度で33機関を採択して女性研究者支援モデルを作成し, 開始した. その機関には東京女子医科大学, 東京医科歯科大学などが含まれ, 女性医師支援が行われてきた. 日本医師会も女性医師支援のためのプログラムを開始し, 他の学会, 大学病院, 総合病院でも独自に女性医師支援の種々のプログラムが実施されてきた.
    第110回日本耳鼻咽喉科学会臨床セミナー6「女性医師が働きやすい環境」の主題で講演した3人の演者が各々のテーマで論文をまとめた. 以下の3つの主題である.
    1. 女性医師の日本における実態——鈴鹿 有子 (金沢医科大学耳鼻咽喉科) 他
    2. 日本耳鼻咽喉科学会女性会員に対するアンケート調査結果
    ——工藤 典代 (千葉県立保健医療大学健康科学部栄養学科) 他
    3. 女性医師支援方法 (自治医科大学における女性医師支援の取り組み)
    ——飯野ゆき子 (自治医科大学附属さいたま医療センター) 他
    主題1は日本における医師の実態について再認識することを目的とした. 主題2は2009年1月, 日本耳鼻咽喉科学会が女性医師に対してアンケートを実施したので, この調査結果について報告した. 主題3は女性医師支援の実際の方策について自治医大の経験を報告した.
    「女性医師が働きやすい環境」について考え女性医師を支援し, 女性医師の就業が増加することは男性医師, 女性医師を含めた医師全体の労働環境の改善につながる. 仕事と生活のバランス・ワークライフバランスは女性医師のみの問題ではなく, 男性医師にとっても重要である. 人間らしい家庭生活の充実, ゆとりのある生活はよりよい医師・患者関係を築き, より充実した医療をもたらすと期待する.
  • 鈴鹿 有子, 飯野 ゆき子, 川城 信子, 工藤 典代
    2010 年 113 巻 9 号 p. 721-726
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    医師不足の解決策の一つとして女性医師の存在が重要なキーワードになってきた. しかし最近は女性医師数増加の鈍化傾向にあり, 女性医師の活動率が低下している. ここでは女性医師の実態, 耳鼻咽喉科医師の現状を報告する.
    日本の女性医師は年々増加し, 平成16年には総医師数約27万人の16.5%, 44,000人に増加した. また, 女子医学生の総数は徐々に増加し, 近年, 国家試験の合格者の女性の比率が約3分の1になっていることで, 5年前には6人に1人だった女性医師が3人に1人という時代がやってくる.
    平成19年耳鼻咽喉科医師数8,584人中男性は7,051人, 女性は1,533人 (17.9%) であったが, ここ11年間は耳鼻咽喉科総医師数, 女性医師の割合ともに横ばいの状態である. 新入医局員においては平成5年には354人と最高であったが, 平成10年頃から減少傾向が始まり, 新研修医制度を境にしたますますの数の低迷は, 日本の耳鼻咽喉科学にとって深刻である.
    女性医師の実態, 耳鼻咽喉科新入医局員数の推移, 現状を統計的に把握し, 早急な対策をとることが必要である. キーワードである女性医師が活躍できるような環境に改善することは, 男性医療人にとっても働きやすい職場環境を獲得することでもある. 男女が共同して, 耳鼻咽喉科のよりよい医療を進めることは, 皆の願いである.
  • 工藤 典代, 飯野 ゆき子, 鈴鹿 有子, 川城 信子, 中島 格, 高橋 姿, 福田 諭
    2010 年 113 巻 9 号 p. 727-737
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    社会問題となった深刻な医師不足の対応策の一つとして, 女性医師が継続的あるいは職場復帰により勤務できる環境を整えることが重要と認識されている. 今回, 日本耳鼻咽喉科学会調査委員会では, 女性医師の就業実態を把握し働きやすい環境を整えるための参考とするため, 女性会員に対しアンケート調査を行ったので結果を報告する.
    アンケート調査の対象は平成20年12月時点で日本耳鼻咽喉科学会女性会員であった2,127名である. 平成21年1月にアンケートを送付し回収できたのは1,434名 (回収率67.4%) であった.
    現在の卒業年度は19年以下が49.1%, 専門医資格は85.1%が有していた. 主たる就労状態は開業医が37.3%, 勤務医が34.9%, 非常勤勤務医が19.1%, 休職中が6.6%であった. 開業した卒後年数は10~19年が最も多く, 52.0%を占めた. 開業のきっかけは勤務条件を挙げたものが最も多かった. 勤務医の中で休職あるいは非常勤の経験は43.3%があり, 勤務医を辞めた理由は出産, 育児, 妊娠が多くみられた. 勤務医を辞めた卒後年数は4年以内が36.4%, 5~9年が48.6%であった. 復職のきっかけは医局のサポートが多く, 次いで個人のネットワークであった. 復職する場合の条件には労働条件に関するものが最も多く挙げられた.
    勤務医を続けるには勤務条件の改善が重要であるが, これは女性医師のみならず全職員の勤務条件緩和にもつながることである. 以上から耳鼻咽喉科という専門科の特殊性を生かした独自の女性医師支援プログラムの構築が必要と考えられた.
  • 飯野 ゆき子, 湯村 和子, 川城 信子
    2010 年 113 巻 9 号 p. 738-741
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    自治医科大学の卒業生は卒後9年間, 各出身県において地域医療に携わるという義務年限がある. その間結婚, 出産を経験する女性医師も多い. そのため地域医療に従事する女性医師ならびに病院に勤務する女性医師に対する就業継続支援, 育児支援, 復職支援を行うため, 平成19年に大学内に女性医師支援センターが開設された. 女性医師支援センターのプログラムの目的は, 女性医師の研修・研究環境を整備し, 子育てとキャリアアップ, 更に自己実現を支援するものである. 以下の3つの柱からなる. 1) 勤務継続支援: 子育て中の医師が育児の状況に合わせた勤務条件を選択できるように, 1週20時間の短時間勤務制度を導入している. 給与は常勤医師の1/2ではあるが, 私学共済保険等の常勤医師と同等の保証がある. 2) 育児支援: 設備を整えた大学内保育ルームに加えて, 自由度の高いファミリーサポートシステムを併設し, 必要な時に保育環境が整えられるようにシステムを構築した. 3) 復職支援: 医療技術トレーニング部門およびシミュレーションセンターにおいて, 手術関係, 救急関係, 内視鏡関係の復職支援プログラムを開発し, 臨床現場への復職を希望する女性医師が随時短期研修できるようにした.
    その他, セミナーや講演会の開催や, newsletterの発行を通して女性医師のキャリアアップの意識を高め, かつ活動状況を学内外に発信している.
原著
  • 五島 史行, 堤 知子, 新井 基洋, 小川 郁
    2010 年 113 巻 9 号 p. 742-750
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    めまい患者の身体症状とストレスに着目し調べることを目的とした. めまいの治療のため集団リハビリテーション治療を目的として入院した患者145例を対象とした. 今回作成した問診票を用いて調査した. 質問項目の内容は現在有している身体症状としてめまい, 頭痛, 不眠, 下痢, 便秘, 腹痛, 胸痛, 心臓がドキドキする, 息が切れやすい, 疲れやすいの項目, さらに現在感じているストレスの内容として仕事 (学業), 家庭内の問題, 社会に対して, 金銭面, 自分の健康, 生活環境, 近所づきあいの項目について数値評価尺度 (Numerical Rating Scale: NRS) によって回答するものである. また不安, 抑うつの程度, めまいによる障害度をHADS (hospital anxiety and depression scale), DHI (dizziness handicap inventory) にて評価を行った. 身体症状として疲れやすい, 不眠, 頭痛を多く認めた. これらの症状は抑うつや不安にしばしば認められる症状である. NRSにて数値化しためまいと頭痛症状の間には相関関係が認められた (R=0.48, P<0.0001). 今回の結果, めまい患者はめまい以外にもさまざまな身体愁訴を有していることが明らかになった. めまい患者の治療においてはめまい以外の身体症状に焦点をあて, 適切に症状聴取を行い対応していくことが必要である.
  • 西田 幸平, 小林 正佳, 荻原 仁美, 竹尾 哲, 北野 雅子, 竹内 万彦
    2010 年 113 巻 9 号 p. 751-757
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    近年, 日本人向けの嗅覚同定検査法であるスティック型嗅覚検査 (OSIT-J) が開発され, その臨床的有用性が確認されてきた. 最近, OSIT-Jの短所を補ったカード型の嗅覚同定検査「Open Essence」 (OE) が開発された. 今回はこのOEの臨床的有用性を検討した. 被検者である当科嗅覚味覚外来患者93人と, 検者である当外来の担当医師・看護師計13人を対象とした. 患者にOEと同時に自覚的嗅覚低下度の調査, 日常のにおいのアンケート, 基準嗅力検査, 静脈性嗅覚検査も施行した. OSIT-Jの経験がある被検者, 検者からOEとOSIT-Jを比較した意見を調査した. OE所要時間は5.1±1.6分であった. OEスコアと自覚的嗅覚低下度, 日常のにおいのアンケート, 基準嗅力検査, 静脈性嗅覚検査の各結果との間にはそれぞれ有意な相関を認めた. 被検者, 検者の意見では, OEはOSIT-Jよりも簡便性に優れ, 望ましい検査であるという結果であった. 以上より, OEはOSIT-Jよりも臨床的に有用で, 患者のみならず医療従事者にとっても便利な嗅覚検査であると考えられる.
  • 小村 豪, 福岡 修, 鈴木 政美
    2010 年 113 巻 9 号 p. 758-761
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/28
    ジャーナル フリー
    梅毒の中で陰部外初期硬結はその約半数が口腔粘膜に見られると言われ, その中でも口唇が最多とされる. 今回われわれは下口唇の初期硬結を来した梅毒患者を経験したので報告する. 本症例は54歳男性で口唇腫瘍の疑いにて近医皮膚科から紹介となった. 血液検査上STS, TPLA共に陽性であり, 梅毒と診断した. 治療はアモキシシリン1,500mg/日の4週投与を行い, 速やかに治癒した. 鑑別診断に上げられれば適切な問診と血液検査で簡単に確定診断可能であるが, 過去の報告では初診医で診断に苦慮した例も少なくない. 口唇梅毒は耳鼻咽喉科外来で遭遇し得る疾患として再度認識しておくべき疾患と考えた.
専門講座
feedback
Top