1960年より1970年末までの11年間に久留米大学耳鼻咽喉科において入院せる上顎癌患者134名を対象とし,治療法別の成績を軸として諸種の見地より検討を加え,最善の治療法は何であつたかを明確にし,今後の治療方針の一助とするために臨床的ならびに病理組織学的検討を加え,ここに報告した.
全症例134例中,本統計をとつた時点で生存していたものは61例,死亡していたものは73例である.死亡例の死因は局所腫瘍死53例(73%),遠隔転移5例(7%),他因死10例(14%),死因を明らかにできなかつたもの5例(7%)である.すなわち,上顎癌における死因の大部分は原発巣再発にもとづくものであり,治療成績の良否は主として原発巣再発の有無にかかつていると言える.
134例中再発を認めたものは71例であり,その内訳は原発巣のみの再発63例,頸部リンパ節のみの再発3例,原発巣•リンパ節ともに再発せるもの5例である.すなわち,再発例71例中,68例,96%は原発巣の再発である.
原発巣再発例68例中64例,94%は治療終了後1年内に再発を認めている.
われわれが行なつた治療法の中でもつとも成績のよかつたものは,5-Fu動注照射同時併用後手術を行なつた群であり,1年内の局所再発率は26%である.又,5-Fu動注照射後手術施行群以外の治療法では,再発例の大多数が局所再発のコントロールができず腫瘍死しているが,本療法では二次治療によりコントロールできる率はきわめて高く,3年生存率は73%と,他の療法に比し良好な結果を得ている.
5-Fu動注照射同時併用後の摘出標本中における腫瘍細胞の変性の程度を大星,下里の分類に準じて判定した結果,42例中27例,64%がGrade IV~IIIであり,残りの36%にviableな細胞を認めた.
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2症例においては腫瘍細胞の消失する率はきわめて高く,5-Fu 5,000mg,照射4,000radあたりが有効治療のための安全な線であり,手術は行なわず経過を観察してもよいと考える.
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3症例では腫瘍細胞残存率は高く,36例中14例39%であり,腫瘍細胞をまつたく認めなくなる治療配量は5-Fu 5,000mg,照射5,000radあるいはこれと等価的な配量以上の場合である.
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3症例においては5-Fu 3,500mg,照射3,000rad同時供用後,治療開始前の癌の進展範囲に基づいてenblcc operationを行なうのがよく,手術に起因する形態および機能障害に対してしかるべき措置を講じることとする.
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