日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 6 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 自己免疫性肝疾患
    坪内 博仁, 堀 剛, 宇都 浩文
    2017 年 120 巻 6 号 p. 805-810
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

     自己免疫性肝疾患としては, 自己免疫性肝炎 (autoimmune hepatitis; AIH) と自己免疫性胆管炎 (primary biliary cholangitis; PBC) がある. 自己免疫性胆管炎は, 昨年原発性胆汁性肝硬変 (primary biliary cirrhosis; PBC) から病名が変更された.
     AIH は肝細胞が自己免疫機序により障害される疾患で, 中高年の女性に好発する. 検査成績の特徴は, 血清 ALT・AST の上昇, γ グロブリンおよび IgG の上昇, 抗核抗体および抗平滑筋抗体陽性である. 自己抗体として, 抗肝腎ミクロソーム抗体が陽性となるタイプもある. 肝組織では interface hepatitis と呼ばれる, 肝実質と門脈域の境界部にリンパ球および形質細胞が浸潤している所見がみられる. 治療は副腎皮質ホルモンが奏功し, 病初期に肝炎を抑制できれば, 予後は良好である. 病初期に発見されず, 副腎皮質ホルモン療法が行われなかった場合, 肝硬変に進展する. 肝硬変では, 肝不全, 食道静脈瘤, 肝がんの合併症がある.
     原発性胆汁性胆管炎 (PBC) は肝内小型胆管が自己免疫機序により障害される慢性の胆汁うっ滞性疾患で, 中高年の女性に好発する. 以前は肝硬変で発見されていたが, 最近は, 無症候性の時期に発見されることが多い. 検査成績の特徴は, ALP および γGTP の上昇, IgM の上昇, 抗ミトコンドリア抗体 (antimitochondrial antibody; AMA) 陽性である. 肝組織では, 肝内小型胆管に慢性非化膿性破壊性胆管炎 (chronic non-suppurative destructive cholangitis; CNSDC) と消失がみられる. 治療はウルソデオキシコール酸が第一選択薬である. 無症候性 PBC の予後は必ずしも悪くないが, 肝硬変に進展すれば, AIH 同様肝不全, 食道静脈瘤, 肝がんの合併症がある. AIH や PBC による末期肝硬変は肝移植の適応である.

原著
  • 佐々木 亮, 武田 育子, 松原 篤
    2017 年 120 巻 6 号 p. 811-816
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

     鼓膜の接着や癒着を生じたような滲出性中耳炎には鼓膜チューブ挿入術がガイドライン上は推奨されている. しかし, その合併症として, 鼓膜穿孔や鼓膜の萎縮・陥凹などが生じる可能性がある. これらの合併症を防ぐための対策の一つとして, 鼓膜切開を要さずに経外耳道的にチューブを挿入する方法があげられる (subannular tube insertion, SAT). 当科において SAT を行った11例13耳において後ろ向きに検討を行った. 対象疾患は, 癒着性中耳炎6耳, 滲出性中耳炎 (アテレクターシス) 3耳, 慢性穿孔性中耳炎4耳であった. 慢性穿孔性中耳炎症例では同時に鼓膜形成術を行っている.
     3カ月以上の観察期間で最終受診時にチューブが維持されていたのは13耳中7耳 (53.8%) であった. 全体でのチューブ留置期間は1~29カ月間 (平均9カ月間) であった. チューブが維持されていた症例では再癒着などは認めず鼓膜の状態は良好であった. しかし約半数では脱落しており, 今後はさらに長期間維持できるような手技上の工夫を考慮したい.

  • 高橋 亮介, 有泉 陽介, 岸根 有美, 冨田 誠, 小田 智三
    2017 年 120 巻 6 号 p. 817-824
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

     背景: 扁桃周囲膿瘍は重症な合併症を生じる可能性から適切な対応を要する.
     目的: 当地域の扁桃周囲膿瘍の原因菌と薬剤耐性を評価する. 化膿性扁桃炎治療後に扁桃周囲膿瘍へ進展した頻度と処方抗菌薬の関連を検討する.
     対象と方法: 2010年4月から2016年3月の扁桃周囲膿瘍214例の前医抗菌薬を, また2010年4月から2014年3月の119例の原因菌と薬剤耐性を診療録から記述した. 次に2010年4月から2016年3月の化膿性扁桃炎397例の扁桃周囲膿瘍進展頻度について過去起点コホート研究を施行した. さらに化膿性扁桃炎, 扁桃周囲膿瘍既往有無での解析も施行した.
     結果: 扁桃周囲膿瘍への前医処方はセファロスポリン系37% (31/84処方), キノロン系抗菌薬25% (21/84処方) であった. 膿汁培養ではレンサ球菌属67% (98/66株), 嫌気性菌13% (13/98株) であった. 全検出菌の45% (42/94株) がキノロン系抗菌薬に耐性を示した. 化膿性扁桃炎へのキノロン系抗菌薬処方群が他抗菌薬処方群と比較し, 治療後に扁桃周囲膿瘍へ進展した頻度が有意に高値 (リスク比11.8, p=0.032) であった. 既往がある症例の検討も同様の結果であった.
     結論: 化膿性扁桃炎, 扁桃周囲膿瘍の既往がある化膿性扁桃炎へのキノロン系抗菌薬投与は慎重を要することが示唆された. 今後さらなる検討が望まれる.

  • ―当院で経験した症例を含む解析―
    伊藤 文展, 小澤 宏之, 関水 真理子, 渡部 佳弘, 冨田 俊樹, 今西 順久, 小川 郁
    2017 年 120 巻 6 号 p. 825-832
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

     小細胞癌が肺外に発生することはまれであり, 肺外小細胞癌に対する標準的な治療指針は定まっていない. この中でも咽頭に発生する小細胞癌は報告が少なく, 治療方針の決定は個々の症例ごとに検討されているのが現状である. 当院では2004年1月~2014年8月までに, 咽頭小細胞癌を4例経験した. 症例は57~75歳 (平均66歳) で, いずれも男性であった. 部位は中咽頭2例 (後壁と左側壁), 下咽頭2例 (後壁と右梨状陥凹) であった. 全症例に手術を先行し, 術後に化学療法もしくは化学放射線療法を追加実施した. 3例は術後に遠隔転移を生じ, 全例2年以内に全身状態の悪化で死亡した. 残りの1例は治療後に再発なく経過している. また検索しえた国内外の咽頭小細胞癌の報告は24症例あり, 当科の4症例を加えると全28症例であった. そのうち20症例が原病死しており, 肺小細胞癌同様に予後不良な疾患であった. 特に T3 以上もしくは遠隔転移の症例に長期生存例はなかった. 化学療法が治療の中心となるが, 原発巣が低侵襲に切除可能であれば手術を先行し補助の化学療法・化学放射線療法を行うことで, 局所制御を向上させる可能性が示唆された.

  • 湯田 厚司, 小川 由起子, 荻原 仁美, 鈴木 祐輔, 太田 伸男, 有方 雅彦, 神前 英明, 清水 猛史
    2017 年 120 巻 6 号 p. 833-840
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

     スギ花粉舌下免疫療法のヒノキ花粉飛散期への効果を検討した.
     方法: スギ花粉舌下免疫療法 (SLIT) を行ったヒノキ花粉症合併180例 (平均37.0 ± 17.0歳, 男性105例, 女性75例, CAP スコアスギ4.6 ± 1.1, ヒノキ2.7 ± 0.8) を対象とした. スギ・ヒノキ花粉とも中等度飛散の2016年に日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票の QOL およびフェーススケール (FS) と, 症状薬物スコア (TNSMS) を花粉ピーク期に調査した. また, 花粉飛散後に両花粉期の効果をアンケート調査した.
     結果: 飛散後アンケートで, 治療前にはスギ期で症状の強い例が多く, SLIT の効果良好例はスギ期68.7%とヒノキ期38.7%でスギ期に多かった. 両花粉期を比較すると, 同等効果42.2%であったが, ヒノキ期悪化が半数以上の54.9%にあった. 各調査項目の平均では両花粉期に有意差がなかったが, 個々の例で TNSMS スコア1以上悪化例が27.2%あり, スギ期軽症の FS 0または1の43.4%で FS が悪化した. 治療前にスギとヒノキ期に同等症状であった例の30.4%でヒノキ期に TNSMS が悪化した. 一方で, 治療前にヒノキ期症状の強かった8/30例 (26.7%) でヒノキ期に改善し, 効果例も認めた.
     結論: スギ花粉舌下免疫療法はヒノキ花粉症に効果例と効果不十分例があり, ヒノキ期の悪化に注意が必要である.

  • 井戸川 寛志, 水町 貴諭, 本間 明宏, 福田 諭
    2017 年 120 巻 6 号 p. 841-846
    発行日: 2017/06/20
    公開日: 2017/07/15
    ジャーナル フリー

     ヒト乳頭腫ウイルス (Human papillomavirus; HPV) 感染は子宮頸部や中咽頭など複数の臓器の癌化に関与している. 今回われわれは HPV 陽性中咽頭癌および HPV 陽性鼻腔癌の同時性重複癌症例を経験した. 患者は64歳男性. 嚥下時痛を主訴に近医を受診し, 右口蓋扁桃腫瘍を指摘され当科紹介となった. 右鼻腔内にも腫瘍性病変を認め, 生検にて両腫瘍ともに扁平上皮癌の病理診断となった. 中咽頭腫瘍からは HPV16および HPV45が, 鼻腔腫瘍からは HPV59が検出され, 同時性重複癌と診断した. 中咽頭癌 cT3N0M0, 鼻腔癌 cT4aN0M0 の診断にて両腫瘍に対して同時にシスプラチン併用の化学放射線療法を施行した. 治療にて両腫瘍ともに消失し, 治療後2年経過する現在に至るまで再発や転移なく経過している.

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