日本耳鼻咽喉科学会会報
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103 巻, 12 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 北原 糺, 武田 憲昭, 三代 康雄, 近藤 千雅, 村田 潤子, 奥村 新一, 久保 武
    2000 年 103 巻 12 号 p. 1255-1262
    発行日: 2000/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (目的)難治性メニエール病に対して手術治療を選択する際,その手術侵襲に伴うめまい.平衡失調の経過は患者の早期社会復帰という点で手術の遠隔成績に劣らず重要である.また手術侵襲による術後めまい経過の詳細を把握することで,患者に予め術後自覚するめまいをよく理解させ,不安を軽減きせることも可能となる.今回われわれは難治性メニエール病20例に対して内リンパ嚢内に高濃度ステロイドを挿入する治療(endolymphatic sac drainage & steroid-instillation surgery,以後EDSSと略す)を施行し,術直後から手術侵襲回復過程における自覚的めまい症状および他覚的ENG眼振所見の詳細な経過を観察した.
    (対象と方法)難治性メニエール病20例に対してEDSSを施行し,上記過程における自覚的前庭症状の経過を問診するとともに,ENGを用いて他覚的に自発眼振,頭位眼振,頭位変換眼振の経過を観察し,これら諸症状の完全消失までの期間を記録した.
    (結果)術後の静止時浮動感は平均1.7日,体動時浮動感は6.7日で消失した.また,術後の自発眼振は平均1.2日,頭位眼振は2.0日,頭位変換眼振は7.9日で消失した.術後静止時浮動感は頭位眼振の持続日数と,術後体動時浮動感は頭位変換眼振の持続日数と正相関が認められ,それぞれ術前病悩期間長期例および術前CT所見で後半規管後方含気蜂巣発育不良例において有意に遷延した.また,14/20例(70%)に入院中術後平均11-12日目に頭位変換眼振とそれに伴う体動時浮動感が再び認められた.
    (結語)EDSS後の手術侵襲に伴うめまいの程度および持続は,前庭神経切断術およびゲンタマイシン鼓室注入より軽妙であり,内リンパ嚢開放術と比較しても大差ないと考えられた.しかしメニエール病患者は概してめまいに対して過敏であり,術後のめまいには大きな不安を抱く.メニエール病の手術治療では,患者に対して予め手術侵襲からの回復過程の静的あるいは体動時のめまい経過について十分説明し,理解を得ておく必要がある.
  • 西池 季隆, 入船 盛弘, 久保 武
    2000 年 103 巻 12 号 p. 1263-1271
    発行日: 2000/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    耳鼻咽喉科領域の結核性疾患として,結核性中耳炎は以前に比べ臨床像も多様であり診断に苦慮することが多い.我々は,当院で治療した過去の結核性中耳炎を検討し最近の傾向を探った.
    対象は,平成4年から11年までの過去8年間に大阪府立羽曳野病院耳鼻科で治療した結核性中耳炎7症例9耳である.7例の内訳は,男性6人,女性1人であり,平均年齢は40歳であった.これらの症例では結核菌が経耳管性に感染した例が多いと考えられた.中耳•外耳に肉芽病変のある例は多かったが,多発性穿孔は認めなかった.他に,耳漏を伴う鼓膜穿孔,滲出性中耳炎,外耳道の狭窄など所見はさまざまであった.しかし経耳管感染の結核性中耳炎の特徴として,発病初期に滲出性中耳炎の像をとる例が多いと推定された.塗沫,培養,PCR,病理検査には一長一短があり,確定診断にはこれらの検査を組み合わせることが必要であると考えられた.結核性中耳炎を疑った際に,ツベルクリン反応は補助的な検査であるが,肺X線検査は不可欠である.治療として,標準的な抗結核治療に2%カナマイシン点耳薬を併用した.慎重に使用するならば点耳療法は結核性中耳炎に対して有効である.
    古典的な結核性中耳炎の診断基準のいくつかの項目は適当ではなかった.このことから,結核性中耳炎を早期に診断するために我々は新たな早期診断のための手引きを提唱した.
  • 楯谷 智子, 船曳 和雄, 内藤 泰, 藤木 暢也, 森田 武志
    2000 年 103 巻 12 号 p. 1272-1280
    発行日: 2000/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    我々は人工内耳術後患者の人工内耳の使用状況,満足度をアンケート調査し,これら結果と従来より人工内耳の効果の指標としてきた語音弁別能や,失聴期間,手術時年齢などとの関連について検討したので報告する.対象は言語習得後に失聴し当科で人工内耳手術を施行した成人48例のうち,郵送したアンケートについて回答のあった37名である.
    1日の人工内耳使用時間は平均13.6時間,多数の患者が日常生活で常時人工内耳を使用していた.約60%の患者が1対1の会話を人工内耳のみで聞き取ることができたが.騒音下での会話などの複雑な条件下では,読話を併用しても十分に聞き取れない例が多く見られた.人工内耳手術を受けたことに対する感想は約80%が大変良かったと答えたが,少しは良かった,あるいはあまり変わらなかったという比較的満足度の低い例も20%存在した.満足度の高い例では人工内耳のみで1対1の会話が可能と答えていた.少なくとも1対1の会話ができることが,人工内耳手術をうけて良かったとする条件であると考えられた.
    全体の傾向として満足度の低い例でも,術前に比して術後の語音弁別能は改善していた.術後の語音弁別能がある程度(子音弁別能40%)以上に高ければ満足度は全例高かったが,逆に術後の語音弁別能が低い場合では満足度の高い例と低い例があり,患者自身の満足度と語音弁別能の成績とは必ずしも一致しなかった.
    満足度の低い例は高齢であり,かつ失聴期間が長かった.高齢かつ失聴期間が非堂に長い例では,十分な満足が得られない可能性も考慮して,慎重な適応の検認と手術の効果についての十分な説明が必要であると考えられた.
  • 石川 和宏, 井上 耕, 喜多 村健, 市村 恵一
    2000 年 103 巻 12 号 p. 1281-1283
    発行日: 2000/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    HIV感染によると思われる両側顔面神経麻痺症例を報告した.症例は37歳男性で,8年前に異性間性交渉があった.38~39°Cの発熱に続いて両側顔面神経麻痺が出現した.血液検査ではELISA,ウエスタンブロット法ともにHIV抗体陽性で,HIV RNAも高値であり,p24抗原は陰性であった.CD4/8比も0.47と低下しており,HIV感染のARC期と考えられた.ステロイド治療と,HIV感染に対する治療を行い,顔面神経麻痺は両側とも速やかに軽快した.顔面神経麻痺の鑑別診断にHIV感染を含める必要がある.
  • 服部 親矢, 西村 忠郎, 柴田 修宏, 秋田 泰孝, 川勝 健司, 早川 宗規, 西村 洋一, 服部 寛一, 鈴木 賢二, 八木澤 幹夫
    2000 年 103 巻 12 号 p. 1284-1291
    発行日: 2000/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    睡眠呼吸障害に対する治療法としては手術治療と経鼻的持続陽圧呼吸(nasal continuous positive air pressure: nasal CPAP)治療が知られているが,治療法の選択,併用治療に対する報告はほとんどない.そこで今回我々はこれらにつき検討を行った.
    対象は睡眠呼吸障害を認めた50例であり,27例において内視鏡検査を行い閉塞部位診断も併せて施行した.方法は手術治療前と手術治療後に無呼吸低呼吸発作指数(apnea hypopnea index: AHI)の改善が50%来満の症例にnasal CPAPの圧設定を行った.
    手術治療は口蓋扁桃摘出術,口蓋垂軟口蓋咽頭形成術が中心であり50例のうち45例に施行した.2例は口蓋扁桃摘出術のみ施行し,3例はレーザーによる口蓋垂軟口蓋形成術を施行し,全例において咽頭レベルでの手術を行った.鼻内手術を加えた症例は18例であった.
    手術治療によってAHIの改善を50%以上認めた症例は全体では60.0%であった.また,内視鏡検査での部位診断でAHIの改善を50%以上認めた症例は軟口蓋型では81.8%,口蓋扁桃型では100.0%と良好であり,逆に全周性軟口蓋型では33.3%と不良であった.
    閉塞型無呼吸発作の発生機序を(1)筋•神経の緊張低下が優位で閉塞型無呼吸発作が生じるものを1型,(2)解剖的な原因とに優位で閉塞型無呼吸発作が生じるものを2型に分類し,I型は内視鏡分類の全周性軟口蓋型に相当し,2型は内視鏡分類の軟口蓋型,口蓋扁桃型に相当すると考えた.I型にはnasal CPAP治療が有効であり,2型に対しては手術治療が有効であると考察された.しかし,nasal CPAP圧が高くnasal CPAPを装着出来ない症例では手術治療とnasal CPAP治療の併用治療が有効であると考えられた.
  • 水谷 哲弥, 佐原 正明, 鎌数 清朗, 久光 正, 洲崎 春海
    2000 年 103 巻 12 号 p. 1292-1299
    発行日: 2000/12/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    嗅覚の受容において現在cAMPとIP3の2種のセカンドメッセンジャーの存在が知られている.このセカンドメッセンジャーが活性化すると嗅細胞内Ca2+濃度が上昇するが,その機序に関しては一定の見解は得られていない.そこで嗅素で刺激した際の嗅細胞における細胞内Ca2+動態を検討することを目的として本研究を行った.
    BALB/c系雌マウスの嗅上皮を摘出し,trypsinで酵素処理を加えて嗅細胞を単離した後,Fura-2/AM溶液に浸して染色した.蛍光顕微鏡画像処理装置ARGUS-50を用いて蛍光強度を計測して細胞内Ca2+濃度の変化を観察した。嗅細胞に嗅素(3-ethoxy-4-hydroxy-benzaldehyde, caprylic acid, heptanoicacid, nonanoic acid, eugenol, phenethyl alcohol, n-amyl acetate)で刺激すると細胞内Ca2+濃度が上昇した.これに対しcAMP産生抑制剤である2',5'-dideox-yadenosineを付加した後に嗅素で刺激したところ,反応が抑制された.細胞外のリンゲル液をCa2+freeリンゲル液にして嗅素で刺激したところ,細胞内のCa2+濃度の上昇が認められた.しかし,細胞外のリンゲル液をCa2+freeリンゲル液にして,高K液で刺激をしたところ細胞内のCa2+濃度の上昇は軽度であった.次に,細胞内Ca2+ストアのCa2+を枯渇させるryanodineを作用させた後に嗅素で刺激したところ,細胞内のCa2+濃渡の上昇が抑制された.
    これらの結果から,cAMPをセカンドメッセンジャーとする嗅覚応答におけるマウス嗅細胞の細胞内Ca2+濃度の上昇には,細胞内のCa2+ストアからのCa2+の放出が関与していることが示唆された.
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