(目的)難治性メニエール病に対して手術治療を選択する際,その手術侵襲に伴うめまい.平衡失調の経過は患者の早期社会復帰という点で手術の遠隔成績に劣らず重要である.また手術侵襲による術後めまい経過の詳細を把握することで,患者に予め術後自覚するめまいをよく理解させ,不安を軽減きせることも可能となる.今回われわれは難治性メニエール病20例に対して内リンパ嚢内に高濃度ステロイドを挿入する治療(endolymphatic sac drainage & steroid-instillation surgery,以後EDSSと略す)を施行し,術直後から手術侵襲回復過程における自覚的めまい症状および他覚的ENG眼振所見の詳細な経過を観察した.
(対象と方法)難治性メニエール病20例に対してEDSSを施行し,上記過程における自覚的前庭症状の経過を問診するとともに,ENGを用いて他覚的に自発眼振,頭位眼振,頭位変換眼振の経過を観察し,これら諸症状の完全消失までの期間を記録した.
(結果)術後の静止時浮動感は平均1.7日,体動時浮動感は6.7日で消失した.また,術後の自発眼振は平均1.2日,頭位眼振は2.0日,頭位変換眼振は7.9日で消失した.術後静止時浮動感は頭位眼振の持続日数と,術後体動時浮動感は頭位変換眼振の持続日数と正相関が認められ,それぞれ術前病悩期間長期例および術前CT所見で後半規管後方含気蜂巣発育不良例において有意に遷延した.また,14/20例(70%)に入院中術後平均11-12日目に頭位変換眼振とそれに伴う体動時浮動感が再び認められた.
(結語)EDSS後の手術侵襲に伴うめまいの程度および持続は,前庭神経切断術およびゲンタマイシン鼓室注入より軽妙であり,内リンパ嚢開放術と比較しても大差ないと考えられた.しかしメニエール病患者は概してめまいに対して過敏であり,術後のめまいには大きな不安を抱く.メニエール病の手術治療では,患者に対して予め手術侵襲からの回復過程の静的あるいは体動時のめまい経過について十分説明し,理解を得ておく必要がある.
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