日本耳鼻咽喉科学会会報
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114 巻, 11 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 清野 宏, 岡田 和也
    2011 年 114 巻 11 号 p. 843-850
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    ジャーナル フリー
    生体防御の上で極めて重要な位置にある粘膜には, 粘膜免疫として知られる全身免疫とは異なる巧妙な免疫システムが構築されている. 粘膜固有の免疫担当細胞としてB1系B細胞やγδT細胞, またNK22細胞などが見出され, それぞれ重要な役割を果たしている. また, 粘膜面に, 病原体に対する防御に不可欠な, 抗原特異的分泌型IgAを効率的かつ臓器特異的に誘導するメカニズムとして, MALT (粘膜関連リンパ組織) を中心とした粘膜免疫システムが構築されている.
    頭頸部領域での粘膜免疫については, MALTに相当するものとしてヒトにおけるWaldeyer輪がよく知られている. マウスなどでは扁桃が存在せず, 鼻腔のNALT (鼻咽腔関連リンパ組織) がそれに相当するものと考えられる. 加えて近年, 鼻腔や口腔のみならず眼結膜や涙嚢にもCALT (結膜関連リンパ組織) やTALT (涙道関連リンパ組織) などのMALTが見出され, 全体として頭蓋顔面粘膜免疫システムという広大な粘膜免疫ネットワークを構築することが明らかになってきた. さらに, リンパ節や腸管のMALTであるPeyer板が胎生期に発達するのに対し, NALTやTALTは生後に発生し, また組織形成に必要な遺伝子群も明確に異なるなど, 非常にユニークな発生過程をとっている. NALTやTALTの形成に関わる遺伝子は頭蓋顔面粘膜免疫システムの鍵を握るものと予想され, その究明が待たれる.
    頭蓋顔面粘膜免疫システムの臨床応用として, 経鼻ワクチンが挙げられる. 現時点では米国でインフルエンザワクチンとしてFluMistが使用されている. 点鼻により痛みもなく, また効果的に気道系での免疫が得られる, 優れた経鼻ワクチンの開発は呼吸器感染症対策のために必須であるが, 嗅粘膜からの吸収による中枢神経系への移行が懸念されてきた. Nanogelは新しく開発された生体用の素材で, マウスでの検討では, ワクチンデリバリー用素材として用いると中枢神経への移行もなく, 極めて効率的に鼻汁中でのIgA抗体を誘導できており, 今後の発展が期待できる.
  • 中冨 浩文
    2011 年 114 巻 11 号 p. 851-854
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    ジャーナル フリー
    聴性脳幹インプラント (auditory brainstemim plant: ABI) の手術は, これまでの国内施術例が11例となった. いったいどのような患者に, どのような手術が行われたら, どのような聴取能が再獲得されるかであろうかという根源的な課題に対して, これらの11症例の解析から, 第4脳室底変形のない患者に, 7極以上の有効電極を設置できれば, ABIのみで21%以上の文聴取能を再獲得できるという答えを見いだせる段階まで発展してきた. 日本での長期の成績を中心にABIの現状を報告した.
原著
  • 菊地 正弘, 篠原 尚吾, 藤原 敬三, 山崎 博司, 金沢 佑治, 栗原 理紗, 岸本 逸平, 原田 博之, 内藤 泰
    2011 年 114 巻 11 号 p. 855-863
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    ジャーナル フリー
    目的: 甲状腺原発悪性リンパ腫における開放生検法・気道狭窄例の対応法・治療法を検討すること.
    対象と方法: 1997年12月~2010年6月までに当院で診断治療を行った24症例を対象にレトロスペクティブに検討を行った.
    結果: 開放生検は23例に行われ, incisional biopsyを行った14例中13例が一度で確定診断に至ったが, excisional biopsyを行った9例中2例に恒久的声帯麻痺が残った. 初診時に呼吸苦を呈した5症例に対しincisional biopsy後にステロイド静脈投与を行うことで, 確定診断に至るとともに呼吸苦の消失が図れた. 20例に化学療法・放射線療法・手術療法を組み合わせた集学的治療が行われ, 4例に単独療法 (化学療法2例, 放射線療法1例, 手術1例) が行われた. 治療成績は10年無再発生存率92%, 10年粗生存率86% (経過観察期間中央値46カ月) と良好であった.
    結論: 甲状腺外に広く浸潤する症例においては, excisional biopsyは手術合併症の可能性があるためincisional biopsyによる開放生検がより望ましい. 気道狭窄症例に対するステロイド投与は, 気道狭窄症状を数日で改善させる点で有用である. 腺内に限局するstage IEのMALTリンパ腫例は単独療法にても根治が図れるが, 致死的になり得るびまん性大細胞型B細胞リンパ腫例においては集学的治療を要する.
  • 伊藤 理恵, 西池 季隆, 富山 要一郎, 喜井 正士, 山本 佳史, 猪原 秀典
    2011 年 114 巻 11 号 p. 864-868
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌は血流に富み遠隔転移の頻度が高いが, 頭頸部領域への転移は比較的まれである. われわれは大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科において過去6年間に頭頸部領域へ後発転移した腎細胞癌の3症例を経験した. 1例目は74歳女性で, 腎癌治療の4年後に左頸部への転移を認め頸部郭清術を施行した. その2年後に膵臓や脊椎, 頸部再発を認めたが, 手術療法や放射線療法により初発転移から約5年間担癌生存した. 2例目は60歳男性で, 腎癌治療の3年後に右耳下腺への転移を認め耳下腺切除術を施行した. 3例目は54歳男性で, 腎癌治療の7年後に右上顎洞への転移を認め上顎全摘術を施行した. 腎細胞癌は原発巣治療後の長期経過での転移例報告が多い. 頭頸部領域に病変を認めた際に, 腎癌既往がある症例ではその転移の可能性を念頭に置く必要があり, 啓発のためにここに報告する.
  • 野村 俊之, 山本 昌彦, 鈴木 光也, 吉田 友英, 大和田 聡子, 重田 芙由子, 池宮城 慶寛, 田村 裕也
    2011 年 114 巻 11 号 p. 869-874
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    ジャーナル フリー
    2007年8月より2009年7月までの2年間に, 東邦大学医療センター佐倉病院耳鼻咽喉科において良性発作性頭位めまい症と診断した1,145名を対象とし, われわれが考案した運動療法で治療を行った. われわれの方法は患側が特定できなくても整形外科疾患など頸椎・脊椎に問題のある症例でも, 患者が自宅で自分のペースで治療を行えるという特徴を有している. その結果1カ月以内に80.7%, そして3カ月以内では91.7%のめまい消失をみた. その中でも発症より1週間以内に受診した症例では2週間以内に80%の症例がめまいの消失をみている. めまい発症より受診時期が遅くなるにしたがって治癒期間も長くなる傾向があった.
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