日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 1 号
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総説
  • 荒木 信夫
    2016 年 119 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     国際頭痛学会は, 頭痛の分類として The International Classification of Headache Disorders; 2nd Edition (ICHD-II) を2004年に発表した. これに応じて, わが国では, 厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業として, 慢性頭痛の診療ガイドライン作成における研究班 (主任研究者: 坂井文彦) が中心となり, 2005年に「慢性頭痛の診療ガイドライン」がまとめられ, 2006年に「慢性頭痛の診療ガイドライン 編集: 日本頭痛学会」4) が医学書院から出版された. その後6年以上経過し新たな知見が多くなったため, 今回の改訂を行う必要がでてきた. 日本頭痛学会と日本神経学会が中心となり, 日本神経治療学会, 日本脳神経外科学会の協力のもと, この改訂作業を行うことになった. 本稿では「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」の大筋を紹介したい.
  • ―良性発作性頭位めまい症の診断と治療―
    將積 日出夫
    2016 年 119 巻 1 号 p. 6-13
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     日常診療で最も経験する末梢性めまいである良性発作性頭位めまい症 (BPPV) では, 特定の頭位をとると若干の潜時のあとで回転性のめまいが数十秒間起こる. BPPV に対する理学療法の有効性から, 本症の原因は卵形嚢の平衡斑より脱落して半規管内に迷入した浮遊耳石またはクプラに付着した耳石によるものと推定されている. 前者は半規管結石症, 後者はクプラ結石症と呼ばれる. 耳石の存在する半規管により後半規管型, 水平 (外側) 半規管型, 前半規管型の3つの病型に区別される. 頻度としては後半規管型 BPPV が最多であり, 水平半規管型 BPPV は10~30%, 前半規管 BPPV は2%と少ない. 診断には頭位眼振検査と頭位変換眼振検査を用いる. 頭位変化により誘発される半規管内に生ずる内リンパ流動 (もしくはクプラの偏位) に依存した眼振から病型と患側を診断する. 治療は半規管内の耳石を卵形嚢へ排出させることを目的として頭位治療が行われる. エビデンスのある頭位治療として後半規管型 BPPV の Epley 法, Semont 法が挙げられる.
  • ―手術が敬遠された理由と今後の展開―
    中山 明峰
    2016 年 119 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     近年睡眠医療が急激に発展した背景に, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSA) の出現がある. OSA が解明され始めた1980年代にはこれといった治療方法はなく, この時期に考案された口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (UPPP) は画期的な治療法であり, 耳鼻咽喉科医が OSA の治療をリードしていた. ところが20世紀の終わり頃, 経鼻的持続陽圧加圧装置 (CPAP) の普及により, 手術症例が激減した.
     CPAP が普及し始めて10年以上経過し, CPAP アドヒアランスのよくない OSA 患者や, 治療が長期になると CPAP から完全に脱落してしまう患者が多発するというような問題点が討論されるようになった. CPAP を脱落してしまったら無治療と同じである. CPAP 治療が普及し問題点も出てきた今だからこそ, 睡眠医療における手術治療のあり方が再度検討される時期であると考えている.
     OSA に対して手術を行う耳鼻咽喉科医は, 以下の項目に意識を配って手術に臨んでいただくことが, 過去と同様の過ちに陥ることなく, 外科的治療の有用性を睡眠医に提案でき, 睡眠医に必要とされる外科医になる近道ではないかと考えている.
     1. 睡眠医療を熟知し, OSA 以外の睡眠疾患を鑑別することができ, OSA ではないほかの呼吸障
       害についても対処できる知識を持つ.
     2. リスクに対する認識と対策, 再発時の合併症などを周知して手術を行う.
     3. どの科よりも積極的に小児を診断し, 治療をする.
     4. OSA 改善目的の手術は, 上気道の粘膜の拡張のみならず顎顔面全体を考慮し, 顎延長術など
       他科との連携も配慮する.
     睡眠耳鼻咽喉科医はいまだ不足しており, 睡眠医療を熟知しかつ手術も可能な施設は多くない. 現在見直されつつある睡眠医療における外科的治療に, 多くの若手医師が興味を持ってもらえたら幸いに思う.
  • 鈴木 元彦
    2016 年 119 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     アレルギー性鼻炎は国民の20%以上が罹患しており, 今や「国民病」ともいわれている. またアレルギー性鼻炎は QOL (Quality of life) に大きく影響し, その治療は重要となる. アレルギー性鼻炎の治療は ①抗原回避, ②薬物療法, ③手術療法, ④免疫療法に大別されるが, 実際の診療においては薬物療法が中心となる. 薬物療法は病型と重症度に応じて薬剤の選択がなされるが, 一般的には抗ヒスタミン薬, 鼻噴霧ステロイド薬等が中心となった治療が施行される. また抗ヒスタミン薬の選択においては健康な睡眠等を考慮して第一世代抗ヒスタミン薬でなく第二世代抗ヒスタミン薬が推奨される. そして, 薬物療法のみならず手術療法も有用な治療手段として行われるが, これらの治療はともに対症療法であり根治療法ではない. したがって, アレルギー性鼻炎に対する唯一の根治療法である免疫療法が, 患者サイドのみならず医師サイドからも必要とされてきた. 免疫療法と言えば以前より皮下に抗原を投与する皮下免疫療法 (subcutaneous immunotherapy; SCIT) が行われてきたが, 近年行われるようになった舌下に抗原を投与する舌下免疫療法 (sublingual immunotherapy; SLIT) は皮下免疫療法よりも安全な治療法であると考えられ期待されている. また皮下免疫療法, 舌下免疫療法はともに有用な根治療法であるが, これらの効果は確実なものでなく, さらに重篤な副作用を生じる可能性がある. 以上より, アナフィラキシーショック等の重篤な副作用のない, より安全で効果の高い免疫療法の開発が期待されている. 以前より, 私はより安全でより効果の高い免疫療法を目指して研究を行ってきたが, 近年 siRNA を用いた新しい治療法の有効性を証明した. 以上を踏まえ, 本稿ではアレルギー性鼻炎に対する最新の薬物療法と免疫療法について概説する.
原著
  • 高橋 奈央, 相澤 直孝, 馬場 洋徳, 窪田 和, 土屋 昭夫, 山本 裕, 髙橋 姿, 渡辺 博文, 後藤 眞, 成田 一衛, 堀井 新
    2016 年 119 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     人体には構成細胞数の10倍以上の微生物が存在し, それらを細菌叢 (マイクロバイオーム) と呼んでいる. 近年, マイクロバイオームは肥満や免疫疾患など人体の健康状態へ影響を及ぼすことが判明しつつある. 口蓋扁桃にも多数の常在細菌が存在し, マイクロバイオームが各種疾患発症に関与している可能性が考えられる. 今回, その基礎となるデータとして, 感染のない小児口蓋扁桃の細菌叢に関し検討した. OSAS に対して手術目的で摘出した小児口蓋扁桃の深部から組織を切り出し, その細菌叢を16S rRNA 解析にて同定し, 細菌培養結果および北欧における Jensen らの報告と比較した. その結果, Haemophilus 属の検出が最多であり, Sphingomonas 属, 嫌気性菌である Prevotella 属, Fusobacterium 属がそれらに続いた. Jensen らの報告では, Streptococcus 属, Neisseria 属, Prevotella 属の順であり, 人種差, 食習慣および採取部位による相違の可能性が考えられた. 培養検査では, Haemophilus 属, 続いて Streptococcus 属, Neiserria 属が多く検出され, Prevotella 属, Fusobacterium 属など嫌気性菌の検出率は低かった. 培養検査では Streptococcus 属との共存下では嫌気性菌の発育が抑制されることが一因と考えられた. 細菌培養検査と異なり, PCR を用いた16S rRNA 解析では難培養性の常在細菌叢に関する検討が可能であり, マイクロバイオームに関する研究には必要不可欠の手技と考える. 今後は成人例との比較や病巣扁桃における口蓋扁桃細菌叢の変化に関して検討を行いたい.
  • 松田 圭二, 東野 哲也, 神崎 晶, 熊川 孝三, 宇佐美 真一, 岩崎 聡, 山中 昇, 土井 勝美, 内藤 泰, 暁 清文, 髙橋 晴 ...
    2016 年 119 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     目的: この論文の目的は, 中~高度の伝音・混合性難聴患者に対する振動子の正円窓留置による Vibrant Soundbridge(VSB) の有効性を検討することである.
     方法: 対象23例を中耳疾患群 (20例), 鎖耳群 (3例) の2群に分け, それぞれの有効性を術前裸耳, 術後 VSB 装用下における装用利得, 静寂下・雑音下の語音明瞭度の変化で評価した.
     結果: 全例において, 手術前後で残存聴力の変動はみられなかった. 会話音域を含む1,000~4,000Hz における平均ファンクショナルゲインは, 中耳疾患群では約 35dB, 鎖耳群では約 50dB となり十分な利得が得られた. また, 音場語音明瞭度は, 静寂下, 雑音下とも著しく改善し大部分の症例で普通会話に支障がないレベルにまで改善した. 一方, 中耳疾患群の2例で振動子と正円窓との接合の修正手術が行われた.
     結論: 振動子の正円窓留置による VSB 手術は, 疾患にかかわらず難治性の伝音・混合性難聴に対し, 有効で安全性の高い治療であることが分かった.
  • 増田 佐和子, 臼井 智子
    2016 年 119 巻 1 号 p. 46-55
    発行日: 2016/01/20
    公開日: 2016/02/06
    ジャーナル フリー
     本邦では2006年に小児急性中耳炎診療ガイドラインが公表され新規抗菌薬が発売され, 2010年から肺炎球菌ワクチンの任意接種が始まった. そこで治療に難渋する小児急性中耳炎の動向を知る目的で, 5歳以下の小児を対象に2000~2014年に急性中耳炎で入院治療を行った204例, 反復性中耳炎に対して鼓膜換気チューブ留置を行った50例の背景と推移を検討した. 入院治療症例のうち58.8%が1歳児で, 87.3%が集団保育児か同胞を持つ児であった. 2000~2005年をⅠ期, 2006~2010年をⅡ期, 2011~2014年をⅢ期として入院症例数の推移を検討すると, この期間で1歳児数, 2歳児数および全症例数において有意な減少が認められた. 入院月別の症例数は1~3月, 4~6月, 7~9月, 10~12月のうち, 4~6月以外の期間において有意な減少が認められた. 同様にⅠ~Ⅲ期における細菌検査にて, 中耳貯留液および上咽頭からの肺炎球菌検出数と総提出検体数はいずれも有意に減少した. インフルエンザ菌検出数に有意差は認められなかった. 換気チューブ留置例はチューブ留置を行わなかった入院症例に比べ集団保育か同胞を持つ割合が有意に高かった. Ⅰ~Ⅲ期の間でチューブ留置症例数に有意な変化は認められなかった. 入院を要する小児急性中耳炎は有意に減少しており, 新規抗菌薬やワクチンの効果によるものと考えられた.
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