日本耳鼻咽喉科学会会報
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101 巻, 8 号
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  • 渡部 浩伸, 菅野 秀實
    1998 年 101 巻 8 号 p. 967-978
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (はじめに)抗腫瘍剤であるシスプラチン(以下CDDP)は,腎障害,聴器障害,血液毒性などの副作用を有しているが,これらの副作用には,フリーラジカルや脂質過酸化反応の関与が示唆されている.メシル酸デフェロキサミン(以下DFO)は,鉄排泄剤であり,最近になリフリーラジカルスカベンジャー作用のあることが注目されている.したがって,DFOはフリーラジカルの発生が関与されていると考えられているCDDPの副作用に対し軽減効果が期待されることから,ラットを使用し,CDDPの聴器障害に対するDFCの軽減効果の有無,さらに腎障害に対する軽減効果,CDDPの抗腫瘍効果に対するUFOの影響について検討した.
    (方法)Fisher系雄ラットを,I群)コントロール群,II群)DFO単独群,III群)CDDP単独群,IV群)CDDP•DFO併用群の4群(各群n=10)に分けて使用した.CAP閾値を測定した後,蝸牛有毛細胞障害の状態を走査電顕を用いて観察した.また,血中尿素窒素(以下BCN),血中クレアチニン(以下Cr)を測定した.抗腫瘍効果については,扁平上皮癌担癌ラットを用いて腫瘍体積の増大率より検討した.
    (結果)聴器障害について,CDDP•DFO併用群はCDDP単独群と比較し,CAP閾値の上昇および蝸牛外有毛細胞の障害程度は明らかに軽度であり,DFOはCDDPによる聴器障害を有意に軽減した.BUN.Crについては,CDDP•DFO併用群は,CDDP単独群よりも上昇程度は軽度であり,腎障害についても軽減効里が認められた.抗腫瘍効果に関しては,CDDP•DFO併用群とCDDP単独群間には有意差はなかつた.
    (結論)今回の実験において,DFOの併用はCDDPの抗腫瘍効果に影響を及ぼさず,CDDPの聴器障害,腎障害に対して軽減作用を有していることを明らかにた.したがって,CDDPの副作用を軽減する上でDFOは有用な薬物であり,今後その臨床応用が期待される.
  • 山辺 習, 菅野 秀貴
    1998 年 101 巻 8 号 p. 979-987
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (はじめに)メシル酸デフェロキサミン(以下DFO)は,鉄が体内に蓄積した患者に対し鉄排泄剤として長年用いられてきたキレート剤である.近年,本剤を大量投与された症例の中に感音難聴の出現した臨床例が多数報告され,DFO投与と感音難聴の出現との間に密接な関係があることが示されてきた.一方,DFOの耳毒性に関する基礎実験に関する報告は少なく,動物実験においてDFOによる感音難聴モデルはいまだ確立されていない.今回モルモットを用いてDFO難聴動物を作製し,その障害部位について電気生理学的および走査型電子顕微鏡(SEM)的に検討した.
    (実験方法)モルモットにDFO 200,400mg/kgをそれぞれ週6回計30回,DFO 600mg/kgを週6回計24回腹腔内投与した.control動物として同量の生理的食塩水を同様に腹腔内投与した.投与後,蝸牛神経活動電位(CAP)の閾値,蝸牛内直流電位(EP)を測定し,DFO投与群とcontrol群を比較検討した.さらにDFO 600mg/kg投与群の蝸牛感覚上皮をSEMを用いて観察した.
    (結果および結論)DFO 200mg kg投与群のCAP閾値(全周波数平均23.2dB,n=4,EP(平均86.3mV,n=4))およびDFO 400mg/kg投与群のCAP閾値(同23.0dB,n=7),EP(同90mV,n=4)はcontrol群のCAP閾値(同23.0dB,n=10),EP(同87mV,n=10)と比較して有意差は認められなかった.DFO 600mg/kg投与群のCAP閾値(同61.4dB,n=15)はcontrol群と比較して有意な上昇か認められた.DFO 600mg kg投与群のEPは15匹測定中11匹は80mV以上を示したが4匹は56,30,29,15mVと低値を示し,CAP閾値上昇の高度なものに認められた.DFO 600mg/kg投与群の蝸牛感覚上皮のSEMによる観察では,程度の差はあるものの外有毛細胞の消失が認められ,内有毛細胞の変化はないかあってちその変化は軽微であった.以上よりDFO投与により内耳性難聴を生ずる可能性が実験的に証明された.
  • 佐藤 孝至
    1998 年 101 巻 8 号 p. 988-994
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/07/08
    ジャーナル フリー
    甲状腺癌の80%以上を占める乳頭癌は,一般的には緩徐に増殖する予後良好な腫瘍として取り扱われている.
    一般に乳頭癌は病理組織学的分化度と臨床病態,特に経過と予後との間には密接な関連性が見られるものの,同一組織型であってもその増殖態度は様々であり組織学的分化度に加えて,術後再発などの臨床経過や予後を推定する指標を持つことが,術後のfollow upを行う上で重要であると考えられる.
    本研究は,甲状腺乳頭癌40例のパラフィン包埋切片を用いて,癌細胞の増殖能をMIB-1染色で,40例中28例においてアポトーシスをTUNEL染色を用いて検討し,増殖動態と臨床経過および予後との関連について検討した.
    病理組織学的分化度の高低とMIB-1標識率の高低は,ほぼ一致していたが一部の高分化型乳頭癌の中にはMIB-1標識率の高い症例が存在し,再発例のMIB-1標識率と非再発例のMIB-1標識率の間に有意差を認めた.
    一方,TUNL陽性率は病理組織学的分化度や術後再発との間に相関を認めなかった.
    しかし,再発時に来分化転化を来した高分化型乳頭癌においては,初回手術時のTUNEL賜性率が特に低く,follow upして行く上で,TUNEL陽性率の著しい低値は重要な情報の1つである可能性が示唆された.以上よりMIB-1標識率は,術後の臨床経過および予後を推定する良き指標であると考えられた.
  • 池邉 英司, 黒田 嘉紀, 牧嶋 和見
    1998 年 101 巻 8 号 p. 995-999
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    耳下腺腫瘍手術櫛副損傷である顔面神経麻痺は,患者にとって非常に深刻である.顔面神経の走行を術前に評価できれば,顔面神経麻痺を回避するための重要な情報となる.本研究では術前検査として顔面神経電気刺激検査を考案し,術前検査として行い,顔面神経の走行を評価し,手術所見と比較検討した.
    顔面神経電気刺激検査の電気刺激閾値が5.0mA以上を示した症例は,すべて,顔面神経が腫瘍の内側を走行していた.一方,電気刺激閾値が3.0±1.0mAの値を示した症例では,その半数の症例で顔面神経が腫瘍の外側を走行することが分かった.この顔面神経電気刺激検査を耳下腺造影検査とCT検査に組み合わせて評価する末とによって,ほぼ全症例において顔面神経が腫瘍の外側を走行する可能性を予測できた.顔面神経電気刺激検査は,顔面神経と腫瘍の関係を把握するための簡便で,有用な検査と考えた.
  • 実験的ならびに臨床的研究
    三谷 幸恵
    1998 年 101 巻 8 号 p. 1000-1011
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/07/08
    ジャーナル フリー
    小児の滲出性中耳炎は,大半が自然治癒するが,長期間遷延する難治症例も存在する.自然治癒例と難治例がどのような経過および病態の差で生じるかはいまだ不明であり,この点を理解することは,治療上非常に重要である.私は,小児滲出性中耳炎の病態には中耳粘膜の病理組織学的変化が大きく関与していると考え,滲出性甲耳炎例の中耳粘膜を病理組織学的に検討し,滲出性中耳炎治療前およぴ治療後の乳突蜂巣発育度,中耳含気腔容積および中耳換気チューブ抜去後の経過か,中耳粘膜の組織学的変化にどのように関連するかを考察した.また,家兎を用いて,耳管咽頭口を閉塞し実験的滲出性中耳炎を作製し,中耳粘膜上皮および上皮下層の組織学的変化を臨床例の中耳粘膜変化と比較検討した.
    結果は,臨床例では,中耳換気チューブ留置術を施行した小児滲出性中耳炎64例87側を対象に,中耳粘膜を採取し,粘膜の変化を上皮層および上皮下層に分けて分類した.中耳粘膜が炎症早期の軽度炎症例では術後12ヵ月の早期に,炎症遷延例でも18ヵ月後には乳突蜂巣の再気胞化が認められた.また,チューブ留置期間18ヵ月末満症例では,予後不良例は30%で,その半数が中耳粘膜の炎症遷低群であった.一方,18ヵ月以上留置した症例では予後不良例11%と再発率は減少したが,18ヵ月以上挿入したにもかかわらず再発した症例の中耳粘膜上皮下層は,全例炎症遷延群であった.以上の結果より,術後18ヵ月以上経過すると含気腔は形態的に正常に近づくが,治癒過程には中耳粘膜,特に上皮下層の病変度が強く関与すると考えられた.また,実験的滲出性中耳炎の中耳粘膜上皮下層では初期には浮腫状肥厚や血管の拡張が認められたが,経過とともに線維化傾向が強く認められ,その後この病変はなかなか改善しにくい傾向を示していた.この傾向は臨床で観察された粘膜上皮下層の組織学的変化と同様の結果であった.
  • 三枝 英人, 新美 成二, 八木 聰明
    1998 年 101 巻 8 号 p. 1012-1021
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    嚥下障害のリハビリテーションには,様々な手法が報告されているが,特に咽頭期嚥下障害では,その解剖学的な位置関係と生理学的状況から,四肢等の外表の障害に対して行うように障害部位へ直接働きかけることは難しい.このため,咽頭期嚥下障害に対するリハビリテーションの効果は上がりにくいとされている.
    今回,我々は咽頭期嚥下障害患者に対して,フィーディングチューブを用いたリハビリテーション("直接的"間接的嚥下訓練と称する)を試みた.方法は,経鼻的にチューブを挿入した後,梨状陥凹から食道入口部へその先端を進め,更に20cm程挿入した所で,チューブが咽頭腔へ逸脱しない程度で嚥下動作に同期させながら,チューブの出し入れを行う.チューブ挿入側は梨状陥凹への唾液貯留が多い側,咽頭知覚に左右差があれば知覚が良い側に行った.治療効果判定は,飲み込みやすさとムセに対する聞き取りアンケート調査,咽喉頭所見,嚥下透視検査にて行った.対象は,1993年から1997年までの5年間に当科でリハビリテーションを行った動的な咽頭期嚥下障害患者26名である.その内訳は,皮質及び皮質延髄路の障害11名,延髄の障害5名,末梢神経の障害7名,廃用症候群3名であった.治療を行った26名中,24名に有効であり,喉頭挙上期型,下降期型,混合型,嚥下運動不全型の分類にかかわらず効果を示した.次に,治療効果に対して自然軽快の関与がないと考えられる発症から長期経過した3症例について,リハビリテーション前後の嚥下透視画像から喉頭挙上曲線と,進らが提唱した咽頭通過時間,喉頭挙上遅延時間,下咽頭流入時喉頭挙上度のパラメータを求め比較検討した.各症例とも喉頭挙上距離が大きくなり,各パラメータの値が不良の症例ではその改善を認めた.
    これらの結果から,この治療法の有効性とその生理学的効果発現機序につき考察した.
  • 鼻腔モデルによる検討
    大本 幹文, 佐多 由紀, 川野 和弘, 臼井 信郎
    1998 年 101 巻 8 号 p. 1022-1028
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    鼻閉の診断治療のなかで,鼻腔の通気性に対する客観的評価は重要である.鼻腔通気度計による鼻腔抵抗の測定法は鼻呼吸の観察法として極めて有用であると考えられるが,鼻腔抵抗が鼻閉感と必ずしも一致しないという報告も存在し,その評価法にいまだ問題点があるのも事実である.
    一方,近年,客観的評価法の一つとして1989年Hilbergらは音パルス反射を利用したacoustic rhinometryによる鼻腔の開存性の評価法を報告し,鼻腔内の狭小部の部位診断が可能であるとした.その後,国内外で本法の有用性が検討されているが,acoustic rhinometryはあくまでも鼻腔の開存性を音パルス反射によって測定するため,実際の呼吸動態から評価する鼻腔抵抗とは異なった意味付けがある.そこで今回は,実際の臨床に準じた形の鼻腔モデルを作製し,そのモデルにおけるacoustic rhinometryの測定から,鼻粘膜の変化の評価の可能性を検討することとした.
    モデルとして用いたのはシリコン製鼻腔モデルLM005(高研製)である.エポキシ樹脂製接着パテにより下鼻甲介,中鼻甲介を被い,まず下鼻甲介の前方より後方へ,パテを削ることによりacoustic rhinometer RHIN2100(SRE社製,デンマーク)を用い,鼻腔開存性の解析を行った.反対に,鼻粘膜の腫脹を評価する目的で鼻腔モデルにさらにパテを下鼻甲介前端,中鼻甲介下端,下鼻甲介後方に追加し,測定曲線の変化を観察した.
    その結果,パテを切除しても追加しても鼻腔後方の変化を測定曲線はとらえられなかった.また鼻粘膜の収縮,腫脹は,前鼻孔よりLendersのいうG-Notchの動きで評価できる可能性が示唆された.acoustic rhinometryはその特性を十分生かすことで鼻閉の診断に有用であり,さらに臨床的な検討が求められる.
  • 下屋 聡子, 牧野 邦彦, 大村 文秀, 天津 睦郎
    1998 年 101 巻 8 号 p. 1029-1037
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    ヒトの弛緩部型真珠腫は弛緩部が内方に向かって伸展陥凹し嚢状となって,その中に表皮角化物をいれた状態をいう.モンゴリアンジャービル(以下ジャービル)は高率に真珠腫を自然発生する動物であり,その真珠腫では一見ヒトの外耳道真珠腫に類似した所見を呈する。その一方で本動物では鼓膜弛緩部表皮が肥厚角化し,弛緩部内側に貯留液を認め真珠腫へ進展する所見が報告されている.このジャービルの弛緩部の変化がヒトの弛緩部型真珠腫の実験モデルとして適するかを確認するため予備実験を行った.その結果,無処置耳および耳管咽頭口焼灼耳で弛緩部表皮の肥厚角化と同時に弛緩部の内陥が出現し,その弛緩部内陥部を中心として表皮角化物の堆積が高率に認められた.このような病態は,ヒトの弛緩部型真珠腫と類似した所見である.
    次にヒトの弛緩部型真珠腫形成要因を明らかにすることを目的にジャービルを用いて以下の実験を行った.
    対象は13匹22耳で,上皮の増殖能をBrdUを用いて検討し,中間層の変化を血管数を指標として墨汁灌流により算出た.BrdU陽性細胞数(以下陽性細胞数)は鼓膜弛緩部粘膜層において初期変化耳では正常耳と比較すると有意に増加し,真珠腫耳では変化はなかった.緊張部,外耳道表皮では真珠腫形成過程で陽性細胞数の増加する傾向は認めなかった.また鼓膜弛緩部の血管数は初期変化耳で有に増加し,特に粘膜側に多く認められた.鼓膜緊張部の血管数は少数であり,真珠腫形成過程で増加する傾向は認められなかった.
    これらのことから真珠腫形成過程では初期変化耳の鼓膜弛緩部粘膜層において最も増殖能が亢進していることが明らかとなつた.この変化に対応して,鼓膜弛緩部の漸生血管が増加したと考えられた.このような弛緩部粘膜層の変化は弛緩部内側の貯留液が刺激となって生じると思われた.
  • 掌蹠膿疱症について
    赤城 ゆかり, 木村 貴昭, 九鬼 清典, 林 泰弘, 山中 昇
    1998 年 101 巻 8 号 p. 1038-1046
    発行日: 1998/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    扁桃病巣感染症における扁桃リンパ球の役割と細胞接着分子の関与について検索する目的で,扁桃病巣感染症の代表疾患である掌蹠膿疱症を検索対象として,その患者扁桃リンパ球の病変皮膚への付着と各病変部位における細胞接着分子の発現について検討した.症例は掌蹠膿疱症患者21例(男性:女性=11:10,平均年齢41.9歳)および皮膚疾患を有さない健常者3例(男性:女性=2:1,平均年齢50.7歳)であった.まず掌蹠膿疱症患者の手掌または足蹠皮膚切片に対し通常のFicoll Hypaque比重遠心法にて分離して作製した扁桃リンパ球浮遊液を反応させた.この結果,扁桃リンパ球は膿疱期においては膿疱直下の真皮内血管,膿疱周囲の表皮,および真皮乳頭内を走行する血管に付着し,紅斑期においても真皮内血管と真皮乳頭内血管に付着がみられた.さらにヒト血管内皮細胞に対する扁桃リンパ球の付着が抗LFA-1抗体により抑制されることが判明した.
    以上のことより,扁桃リンパ球が掌蹠皮膚に親和性を有する可能性が示唆され,その接着系においてLFA-1 ICAM-1経路が重要な経路の一つであると考えられた.さらに掌蹠膿疱症の各病変部位における細胞接着分子の発現について免疫組織化学的検索を行ったところ,紅斑期と膿疱期に浸潤する細胞はCD3陽性で,CD4賜性細胞が大半を占めていた.LFA1はこれら浸潤細胞に強陽性であり,リガンドであるICAM-1も真皮内血管,表皮ケラチノサイト.浸潤細胞において陽性であった.さらにICAM-1は肉眼的正常部においても発現が認められた.E-selectinは紅斑期,膿疱期を通じ真皮内血管に発現していた.以上のことより,掌蹠膿疱症において,特に初期のT細胞浸潤に細胞接着分子が重要な役割を果たす可能性が示唆された.
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