舌・口腔癌は日常生活に直結する機能を持った臓器の腫瘍で, 症状・治療は多岐にわたり非常に複雑である. 本稿では過去14年間の口腔癌初治療患者のうち, 初診時遠隔転移を認めない口腔癌患者266名 (男性191名, 女性75名) を対象に検討した. 亜部位別では舌癌161名, 口腔底癌36名, 下歯肉癌22名, 上歯肉癌18名, 頬粘膜癌16名, 硬口蓋癌10名, 臼後部癌3名, 年齢分布は26から92歳で, 平均63.9歳であった. 全症例の病期別分類ではstage I: 59名, stage II: 61名, stage III: 32名, stage IV: 114名と圧倒的に進行癌が大半を占めた. 治療は早期癌に対してはレーザー切除, 進行癌は舌 (亜) 全摘と同時再建手術を基本とし, 頸部リンパ節転移症例では原発巣手術と同時に頸部リンパ節郭清を行った. 原則として早期癌では予防的郭清は行わず, 術後の病理学的検討で切除断端陽性症例には追加切除を, 脈管浸潤傾向が強い例では化学放射線療法を追加した. 死因特異的5年生存率は舌癌75%, 口腔底癌43%, 下歯肉癌79%, 上歯肉癌68%, 頬粘膜癌74%, 硬口蓋癌69%であった. 最も多い舌癌161例を対象に詳細に検討した結果, T別ではT1: 84%, T2: 82%, T3: 69%, T4: 36%, N別ではN0: 77%, N1: 81%, N2: 62%, N3: 33%, 病期別ではstage I: 83%, stage II: 87%, stage III: 70%, stage IV: 60%で, 原発巣と転移リンパ節の進行例ほど治療成績が悪いという結果であった.
QOLの観点から考えれば, 舌・口腔癌の集学的治療実現の決め手になるのが, 術後の構音・摂食機能回復への配慮である. われわれは, 低侵襲で合併症が少ない内視鏡下輪状咽頭筋切断術を追加することで, 術後の嚥下障害の改善に取り組んでおり, その適用を拡大している.
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