日本耳鼻咽喉科学会会報
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115 巻, 12 号
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総説
  • 西 慎一
    2012 年 115 巻 12 号 p. 1009-1015
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/06
    ジャーナル フリー
    IgA腎症は, アレルギー性紫斑病, 乾癬, 関節リウマチ, 肝硬変, Chron病などの全身性疾患に伴い発症する場合と, 背景疾患がなく原発性に発症する場合がある. 議論はあるものの本邦の大半のIgA腎症は原発性糸球体腎炎と認識されている. 一方, 扁桃感染と全身性疾患という観点からみると, 掌蹠膿胞症, IgA腎症, 乾癬, 関節リウマチ, 胸肋鎖骨過形成症などが扁桃感染と深い関連を示す全身性疾患として挙げられる. その中でも, 掌蹠膿胞症とIgA腎症に関しては, 扁桃摘出術がそれぞれの疾患の治療法として有効であることが証明されている. このように考えると, IgA腎症は続発性疾患であることも否定できない.
    IgA腎症の大部分は潜在的に発症し緩徐に進行する慢性型であるが, 一部に咽頭炎, 扁桃炎を契機に肉眼的血尿, 蛋白尿が出現する急性型が知られており, このようなエピソードを繰り返す例では, 口蓋扁桃摘出術 (扁桃摘出術) がIgA腎症の治療として積極的に用いられてきた. 術後に, 血尿, 蛋白尿の消失する例も報告され, やがてIgA腎症の治療の一貫として扁桃摘出術が認知されるようになった. しかし, 扁桃摘出術が慢性型, 急性型を含むすべてのIgA腎症に対して長期的な腎機能保護効果を有するかどうか, そこには未だに議論がある.
    ここでは, IgA腎症と扁桃摘出術に関する最近の知見を包括的に紹介し, 現在の問題点と今後の展望について解説する.
  • 中島 格, 前田 明輝, 千年 俊一
    2012 年 115 巻 12 号 p. 1016-1022
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/06
    ジャーナル フリー
    舌・口腔癌は日常生活に直結する機能を持った臓器の腫瘍で, 症状・治療は多岐にわたり非常に複雑である. 本稿では過去14年間の口腔癌初治療患者のうち, 初診時遠隔転移を認めない口腔癌患者266名 (男性191名, 女性75名) を対象に検討した. 亜部位別では舌癌161名, 口腔底癌36名, 下歯肉癌22名, 上歯肉癌18名, 頬粘膜癌16名, 硬口蓋癌10名, 臼後部癌3名, 年齢分布は26から92歳で, 平均63.9歳であった. 全症例の病期別分類ではstage I: 59名, stage II: 61名, stage III: 32名, stage IV: 114名と圧倒的に進行癌が大半を占めた. 治療は早期癌に対してはレーザー切除, 進行癌は舌 (亜) 全摘と同時再建手術を基本とし, 頸部リンパ節転移症例では原発巣手術と同時に頸部リンパ節郭清を行った. 原則として早期癌では予防的郭清は行わず, 術後の病理学的検討で切除断端陽性症例には追加切除を, 脈管浸潤傾向が強い例では化学放射線療法を追加した. 死因特異的5年生存率は舌癌75%, 口腔底癌43%, 下歯肉癌79%, 上歯肉癌68%, 頬粘膜癌74%, 硬口蓋癌69%であった. 最も多い舌癌161例を対象に詳細に検討した結果, T別ではT1: 84%, T2: 82%, T3: 69%, T4: 36%, N別ではN0: 77%, N1: 81%, N2: 62%, N3: 33%, 病期別ではstage I: 83%, stage II: 87%, stage III: 70%, stage IV: 60%で, 原発巣と転移リンパ節の進行例ほど治療成績が悪いという結果であった.
    QOLの観点から考えれば, 舌・口腔癌の集学的治療実現の決め手になるのが, 術後の構音・摂食機能回復への配慮である. われわれは, 低侵襲で合併症が少ない内視鏡下輪状咽頭筋切断術を追加することで, 術後の嚥下障害の改善に取り組んでおり, その適用を拡大している.
原著
  • 中下 陽介, 福島 典之, 平位 知久, 片桐 佳明, 久保田 和法
    2012 年 115 巻 12 号 p. 1023-1028
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/06
    ジャーナル フリー
    後天性真珠腫は一般に陥凹した鼓膜上皮が上鼓室や乳突腔にまで侵入することにより真珠腫形成に至ると考えられている. 鼓膜陥凹の多くは鼓膜弛緩部や鼓膜緊張部後上部の鼓膜辺縁に生じる. しかし, 数は少ないが鼓膜陥凹を伴わず真珠腫形成を来している症例を経験することがある. これらは鼓膜緊張部に明らかな中心性穿孔を有しており, 穿孔縁の上皮が鼓膜裏面に侵入して真珠腫形成に至ったものと考えられ, いわゆる二次性真珠腫と呼称される.
    われわれは当科で経験した二次性真珠腫症例について臨床的検討を行った. 対象は2001年3月より2010年10月の9年7カ月間に当科で初回手術を行った中耳真珠腫新鮮例399例, 419耳のうち二次性真珠腫と考えられた13例, 13耳 (3.1%) である. 平均年齢は51.5歳で性差や左右差はなかった. 術式は外耳道削除型鼓室形成術外耳道再建術であり, 13例中11例は一期的に, 2例は段階的に手術を実施した. 平均経過観察期間36.4カ月 (6~71カ月) の観察では聴力成績の成功率は全体で84.6%であり, 真珠腫の再発は全例で認めず, 術後経過は良好であった.
  • 北島 尚治, 北島 明美, 北島 清治
    2012 年 115 巻 12 号 p. 1029-1036
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/06
    ジャーナル フリー
    近年, 海洋スポーツの普及によるスキューバダイビング人口の増加につれ, それに伴うトラブルが増加傾向にある. 症例は耳症状を訴えたダイバー患者97例 (男性34名・女性63名; 36.6±10.3歳) である. これまでに耳管機能障害に伴う耳鼻咽喉科疾患の既往のない正常ボランティア39例 (男性9名・女性30名; 41.1±16.9歳) をコントロール群とした. 受診時, 鼓膜, 鼻腔などを確認後, 聴覚検査, ティンパノメトリ, および耳管機能検査を施行した. 耳管機能検査には音響法とインピーダンス法を用いた. ティンパノグラムはほぼ全例で患側耳A型を示した. 耳管機能検査で85.6%のダイバー患者で耳管狭窄症を診断した. コントロール群と比較して有意にダイバー群の耳管機能は低かった. 耳症状は片耳のみの場合と両耳に自覚される場合とがあり, それらを片耳群と両耳群と定義した. 両耳群と比べ片耳群で鼓膜穿孔や内耳障害など重症例が多かった. 耳管狭窄症は自覚された側とは対側に生じていることもあり, このような症例では耳抜きの際の過剰加圧が耳管機能良好耳へ影響したと考えた. 的確な耳管機能評価と治療を行い, 安全なダイビングを指導することでダイバー患者の中耳・内耳トラブルを予防できると考えた.
  • 三橋 拓之, 千年 俊一, 前田 明輝, 三橋 亮太, 梅野 博仁, 中島 格
    2012 年 115 巻 12 号 p. 1037-1042
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/02/06
    ジャーナル フリー
    目的: 頸部リンパ節結核の診断は主に外切開法による組織診断が行われている. しかし外切開法は手術侵襲による患者の負担などが問題点として挙げられる. 近年, 外切開法を行わずに穿刺吸引法による細胞診や結核菌のPolymerase Chain Reaction (PCR) 検査の有用性が報告されている. われわれは頸部リンパ節結核の診断においてより迅速でかつ低侵襲に行える検査法について検討した.
    対象と方法: 頸部から検体を採取された29例中, 外切開法による組織診を21検体に, 穿刺吸引法による細胞診を20検体に行った. 結核菌検査として塗抹を20検体, 培養を20検体, PCRを14検体に行った. 補助診断としてクオンティフェロン検査 (QFT) を11例に, ツベルクリン反応 (ツ反) を27例に行った. 検査の陽性率を算出し, 検体採取法別に検査陽性率, 創部の自潰率, 診断までの日数を比較した.
    結果: 結核陽性率は細胞診が40%, 塗抹が20%, 培養が40%, PCRが64%, QFTが82%, ツ反が74%であった. 穿刺吸引法は塗抹検査において陽性率が高く (p<0.05), 診断までの日数が短かった (p<0.001). 外切開法は検査後の創部自潰率が高い傾向にあった (p=0.05).
    結論: 頸部リンパ節結核の診断は, まず低侵襲な穿刺吸引法による細胞診および塗抹, 培養, PCR検査をツ反やQFTの補助診断と併行して行い, それでも診断がつかない場合に外切開生検に踏み切るべきである.
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