新規医療機器開発「内転型痙攣性発声障害に対するチタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型の効果に関する研究」を紹介するとともに, 医師主導治験を用いた高度管理医療機器開発と保険診療に向けた戦略の課題と将来の展望について述べる.
痙攣性発声障害は, 喉頭に器質的異常や運動麻痺を認めない機能性発声障害の一つで, 発声時に内喉頭筋の不随意的, 断続的な痙攣による発声障害を来す疾患であり, 国内外ともに内転型痙攣性発声障害に対する根本的な治療はない. チタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型は, 発声時に内喉頭筋が不随意的, 断続的に強く内転することで声門が過閉鎖し症状が発現することに着目し, 発声時に声門が強く内転しても声帯が強く閉まらないように甲状軟骨を正中に切開し, 両側甲状披裂筋の付着部を甲状軟骨ごと外側に広げて固定する手術術式であり, 一色らにより報告された.
チタンブリッジは, 内転型痙攣性発声障害に対する根治治療として世界に先駆けて開発された新規原理の医療機器 (日本・米国で特許取得済) で, 本邦独自の医療技術である. チタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型による治療は, その有効性により患者の QOL 向上に寄与し, 標準治療になり得るものと考え, 2014年より難治性疾患等克服研究事業でチタンブリッジの実用化 (薬事承認申請) に向けた研究を開始した.
医師主導治験の対象となる疾患は, 稀少疾患や難治性疾患がほとんどである. 開発を進めるためには潜在患者数や診断基準が重要となるが, アンケート調査や医療機関の診断基準の報告が存在する程度であり開発に支障があることが多い. また開発が終了し薬事承認されても, 新規医薬品・医療機器を使用した新規技術が保険収載されない限り, 技術料の算定や新規医療機器も保険材料として算定できないため, 学会と開発当初から連携し, 保険収載手続きの準備が必要である.
耳管開放症の診断のポイントは, ① 3症状, ② 体位による症状の変化, ③ 他覚的所見をとらえること, の3点である. 3症状とは, 自声強聴, 自己呼吸音聴取, 耳閉感であり, これらがあると耳管開放症を疑う. さらに, これら症状が体位により変化することが診断上の重要なポイントとなる. これらに加え, 鼓膜の呼吸性動揺, 話声の聴取, 耳管機能検査の陽性所見などの他覚的所見をとらえることができれば確定診断となる. 特に鼓膜の呼吸性動揺は特殊な検査装置が不要で, 日常診療で容易に確認することができる. 他覚的所見としては最も重要である.
鼻すすり癖を有する耳管開放症患者は少なくない. 耳管開放症の鼻すすりは鼻閉などの鼻症状に対して行うのではなく, 不快な耳症状を解消するための行為である. 鼻すすり癖により耳管開放症は変貌するため診断が難しくなる. 自声強聴などの開放症状が不明瞭となり, 主訴が聴覚過敏となることがある. さらに体位による症状の変化が問診で得られにくくなる. 鼻すすり癖は中耳疾患の危険因子ともなるので, 早期に診断し対処する.
耳管開放症の治療は保存的治療が原則である. まず, 患者に疾患を理解させ不安を解消させることが必須であり, 中にはこれだけでコントロールすることができる例もある. しかし, 保存的治療で効果が得られない重症例は外科的治療の適応となる. さまざまな手術が試みられているが当科では耳管ピン挿入術を第一選択の手術療法として行っている. 約80%の症例に効果を認めているが, 鼓膜穿孔の残存, 滲出性中耳炎などの合併症もある. ピンのサイズは複数あり, 適切なサイズを選択しないと十分な治療効果が得られない. 安易に行うのではなく, 適応を慎重に判断しなければならない.
スギ花粉とダニの舌下免疫治療薬が発売され, 本邦の2大アレルゲンへの治療が開始された. 舌下免疫は軽症から重症・最重症まで適応となるので適応外の把握が重要である. 筆者らは, 複数薬剤で改善が少ない例, 副作用がある例, 薬剤を減らしたい例が良い適応と考える. 特に若い女性と12~16歳の学生には勧めている. スギ花粉とダニの重複感作も多いが, 2つのアレルゲンの同時投与は推奨されていない. 昨年, 初めてチモシーとブタクサの同時舌下投与が米国で安全に行われたので, 今後本邦でも安全性が証明されればと願っている. スギ花粉とダニは治療スケジュールが異なる. 特に維持量が違い, スギ花粉 2,000JAU に対して, ダニ2製剤は 10,000JAU と 57,000JAU である. アレルゲン量が異なると効果や安全性も違う可能性が高い. 該当製剤の臨床試験での副作用出現率はスギ花粉では13.5%であったが, ダニの2製剤では63.6%と68.3%と高かった. 高アレルゲンのダニの副反応はスギ花粉よりも頻度と症状が強いので注意が要るだろう.
われわれは2年間で359例のスギ花粉舌下免疫療法を行ったので, 実績を紹介する. ドロップアウトは少なく, 2年で約7%であった. アドヒアランスは約10%で悪かったが, 1年目に89%, 2年目に81%を保った. 1年目の207例での副反応出現率は40.6%で, 臨床試験報告の13.5%より多かった. 口腔内感覚症状と花粉症症状が最も多く, 局所腫脹は7.9%に認めたが, すべてが処置不要の軽微なものであった. 副反応は開始後1カ月に集中した. 各種評価法での2015年 (中等度飛散年) の効果は, 初期療法や飛散後治療の薬物療法よりも有意に効果的であった. 寛解例は初年度に16.8%であった.
現在の保険適用年齢は12歳以上であるが, 小児への適用も目指した開発がされている.
小児に深頸部感染症が発症することはまれであり, 成人も含めた全体の約4.3%と報告されている. 小児深頸部感染症は上気道の炎症からリンパ節炎として発症し, その後深頸部間隙に波及することが多く, 感染巣から直接, 周囲組織へと炎症が波及する成人例とは臨床像が大きく異なる. 今回われわれは小児例の臨床的特徴を明らかにする目的で, 過去5年間に頸部造影 CT で深頸部感染症と診断した15歳未満の小児20例を対象にその臨床像を検討した. 検討項目は, 発症数, 初診時診療科, 患者背景, CT 撮影時期, 感染巣の部位, 検出菌, 治療方法と穿刺/切開排膿の時期, 総治療期間とした. 当院における年度別の発症数は4.0±1.9人であり, 季節別では冬季 (12月~2月) が9例 (45%) と最も多かった. 初診時診療科は, 小児科を受診する傾向が高かった. 患者背景としては, 性別では男児に多く, 好発年齢では一定の傾向を認めなかった. また, 発症から入院までの日数は7.2±3.9日であり, 発症から CT 撮影時期までの平均日数は8.1±3.6日であった. 感染巣の部位は咽頭後間隙が最も多かった. 検出菌は Staphylococcus aureus が最も多く, 多剤耐性菌は全例で検出されなかった. 20例中15例 (75%) でまずは保存的治療を行い, 改善がなかった場合に治療開始後48時間以降から外科的治療を併用して, いずれも重篤な合併症を併発することなく治癒した.
近年, 咽喉頭異常感症の原因として, 胃食道逆流や喉頭アレルギーが注目され, 良好な治療報告も散見される一方, 診断・治療に難渋する症例は少なくない. われわれは, 咽喉頭異常感症例への適切な対応を目指し, 咽喉頭異常感症診療フローチャートを作成し, 慶應義塾大学病院喉頭専門外来で運用してきた. これまでにチャートに取り込み, 診療した患者につき, 臨床的な解析を行ったので報告する.
2012年6月から2015年3月の間に当科一般診察後に, 喉頭専門外来を受診した患者で, フローチャートに沿って加療された26例を対象とした. 上部消化管内視鏡検査を含む精査により悪性腫瘍が2例に発見されたほか, 胃食道逆流関与疑い群23例, アレルギー素因関与疑い群1例に振り分けられた.
胃食道逆流関与疑い群のうち, プロトンポンプ阻害剤 (proton pump inhibitor: PPI) での治療が奏効したのは11例 (奏効率47.8%) であり, PPI 治療による症状の変化を, F スケール, RSI を用いて検討したところ,「喉の違和感」と「咽喉頭逆流症状」は投与開始後1カ月で,「胃食道逆流症状」は投与開始後1~2カ月で有意に改善がみられた. また, PPI 抵抗性の12例において病歴やうつや不安の評価を検討した結果,「病悩期間が4カ月以上」, ならびに「STAI のスコアが50点以上」が抵抗例の予測因子と示唆され, 他診療科と連携した診療が重要と考えられた.
IgA 血管炎はアレルギー機序により白血球破壊性血管炎を伴った紫斑を特徴とする疾患であり, 紫斑・関節炎・消化器症状 (腹痛, 消化管出血) ・腎炎を主症状とする. 今回われわれは66歳男性で気管切開術後の創部感染に起因して生じたと考えられる IgA 血管炎の1症例を経験した. IgA 血管炎は本来予後良好な疾患であるが, 成人では重症化することや, 10~20%の症例で再発を認めたり, 1%未満であるが重度の消化管, 腎, 肺, または中枢神経の合併症により死亡したりすることもある. このことから上気道感染患者の診療中に原因不明の皮膚病変が出現した際には, IgA 血管炎も念頭に置き, 速やかに皮膚科専門医に紹介することが重要であると考えられた.
軟骨腫は, 頭頸部領域における好発部位として, 鼻副鼻腔, 喉頭などが知られているが, 他部位に発生する例は極めてまれである. 今回われわれは, 耳管内から発生した軟骨腫の1例を経験したので報告する.
症例は55歳男性で, 主訴は鼻閉, 左耳閉感であった. 鼻内所見上, 左耳管開口部付近から上咽頭に充満する白色の腫瘤性病変を認め, CT, MRI 所見にて上咽頭腔を占拠する腫瘤性病変が認められた. 経鼻内視鏡的アプローチにて上咽頭腫瘍摘出術を施行し, 病理組織学的検査にて軟骨腫と診断した. 現在術後4カ月を経過し再発を認めていない.
軟骨腫は良性腫瘍であるが, 局所再発や悪性転化する可能性もあり, 今後も定期的な経過観察が必要である.
視診上判断できないような鼓膜の物理的特性の変化を数値化する検査法について検討した. 鼓膜を含めた中耳は, まとめて一つのバネ系 (mechanoacoustical model) と捉えることができる. したがって中耳は, バネ定数, 質量および摩擦係数で物理的特性を表すことができる. そこで四周波数の G ティンパノグラムからこの3つの量の数値を算出する手法を開発した.
当院を受診した5~13歳の聴力正常, 中耳に貯留液なく, 鼓膜陥凹や石灰化を認めない248耳を対象に Y ティンパノグラムと G ティンパノグラムを求め, かつ歪音耳音響放射 (DPOAE) 検査を施行した. 248耳を耳疾患の既往がない耳, 急性中耳炎のみの既往耳および滲出性中耳炎既往耳に分け, それぞれのバネ定数を G ティンパノグラムから算出した. 滲出性中耳炎既往耳では治癒後も, バネ定数は低下したままであることを確認した.
同時に, バネ定数の低下した鼓膜においては, DPOAE レベルの出力が低下しており, 両者の間には強い相関があり, DPOAE 検査でもバネ定数低下検出可能であることが判明した. DPOAE 検査は簡便であり, バネ低下の評価に高い有用性を持つと考えられる.