日本耳鼻咽喉科学会会報
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114 巻, 12 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 佃 守
    2011 年 114 巻 12 号 p. 897-904
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/28
    ジャーナル フリー
    頭頸部は鼻・副鼻腔, 口腔, 咽頭, 喉頭など多臓器からなる領域である. 病理組織学的に全頭頸部癌の90%は扁平上皮癌であり (以下, 頭頸部癌), その80%近くがstage III/IVの進行癌で, また活動性の同時重複癌が多い. さらに頭頸部癌症例は高齢者また重症合併症を持つ症例が多く, 強力な治療が選択できないため, こうした症例に対する機能温存の工夫も大切と考える.
    頭頸部癌に対する機能温存を目的とする化学療法としては, 一次治療ですべての治療に先行するneoadjuvantあるいはinduction chemotherapy (NACまたはIC), 放射線治療と化学療法を同時併用するconcurrent chemoradiotherapy (CCRTまたはCRT) がある.
    1970年代後半から臨床応用され, 頭頸部癌に有効性が認められたcisplatinの出現, また5-fluorouracilの大量療法との併用療法の開発によって, 化学療法を加えた集学的治療が施行され, 機能温存が図られてきた. この2剤にさらにtaxane系の薬剤を加えた併用療法のレジメンが開発され, その有用性が証明されている.
    抗腫瘍性の高い化学療法を併用すると, 高度の有害事象の発現を招くため, 予防を含め十分な有害事象対策を行うことが不可欠であり, 重症な有害事象は予後悪化因子となり治療完遂率を低下させる.
    CCRT後に腫瘍が残存した場合, あるいは再発腫瘍にはsalvage surgeryが必要となる. 機能温存で用いた放射線治療と化学療法は全身状態だけでなく, 局所の浮腫や瘢痕を招き, 切除に際して各層の剥離が難しくなる. さらに創傷の治癒に関して, 低血流・低酸素化, 局所免疫能低下による創傷治癒の遅延, 感染などに十分な配慮が不可欠である.
  • 細井 裕司
    2011 年 114 巻 12 号 p. 905-911
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/28
    ジャーナル フリー
    高齢化社会を迎えて難聴者の急速な増加が予想される. 聴覚の専門家である耳鼻咽喉科医が補聴器の理解を深めることの意義は大きい. 最新の補聴器を理解するために, この20年間の補聴器に関するテクノロジーの進歩, 評価法の進歩, 社会的進歩を概観する.
    テクノロジーの進歩として, (1)デジタル補聴器, (2)ノンリニア増幅, (3)ノイズリダクション, (4)指向性補聴器, (5)衝撃音, 風雑音対策, (6)ハウリング抑制, (7)オープンフィッティング, (8)外観, (9)無線通信を取り上げて解説する. 評価法の進歩として, 日本聴覚医学会の補聴器適合検査の指針 (2010) が提唱された. 社会的進歩として, 日本耳鼻咽喉科学会の補聴器キーパーソン, 補聴器相談医, テクノエイド協会の認定補聴器専門店, 認定補聴器技能者などの制度整備がこの20年間に行われた.
原著
  • 稲垣 洋三, 坂本 耕二, 井上 泰宏, 今西 順久, 冨田 俊樹, 新田 清一, 小澤 宏之, 藤井 良一, 重冨 征爾, 渡部 高久, ...
    2011 年 114 巻 12 号 p. 912-916
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/28
    ジャーナル フリー
    [背景] 甲状腺乳頭癌 (以下PTC) の頸部リンパ節転移の診断法としては画像検査や穿刺吸引細胞診 (以下FNAC) が一般的であるが, 原発巣が微細でかつ頸部リンパ節転移が単発嚢胞性の場合には診断に苦慮することがある. このような症例には穿刺液中サイログロブリン (以下FNA-Tg) 測定が有用といわれているが, PTC転移以外の嚢胞性病変も含めた検討は少ない. 今回われわれは, PTC転移およびそれ以外の頸部嚢胞性病変のFNA-Tgを測定し, PTC転移に対する補助診断としての有用性を検討した. [対象] 2006年7月~2009年2月に頸部嚢胞性病変またはPTCの嚢胞性頸部リンパ節転移を疑う病変に対し, 手術を施行し病理組織学的診断が確定した17例. [方法] 超音波ガイド下に (一部症例は術後検体より) 穿刺採取した嚢胞内容液のFNA-Tg値を測定し, FNACおよび病理診断との関係について検討した. [結果] FNA-TgはPTC転移例のみ異常高値を示したのに対し, 側頸嚢胞例では測定感度以下, 甲状舌管嚢胞例では血中基準値範囲ないし軽度高値であった. [結論] FNA-Tg高値はPTC転移を示唆する有力な所見で, 特にFNACで偽陰性を示すPTC嚢胞性リンパ節転移と側頸嚢胞との鑑別に有用であった. FNA-Tg測定の追加によりFNAC施行時に新たな侵襲を加えずに術前正診率を向上させられる可能性が示唆された.
  • 森 恵莉, 松脇 由典, 満山 知恵子, 山崎 ももこ, 大櫛 哲史, 森山 寛
    2011 年 114 巻 12 号 p. 917-923
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/28
    ジャーナル フリー
    現在日本で保険適応のある嗅覚検査には, 基準嗅力検査と静脈性嗅覚検査の二種あるが, 基準嗅力検査は実施率, 普及率ともに低く, 静脈性嗅覚検査は疼痛を伴う検査であり患者への侵襲が高い. 嗅覚同定能検査の一つとして開発されたOpen Essence (以下, OE) は, 現在医療保険の適応はないが, その臨床的有用性が期待されている. 今回われわれは嗅覚障害患者に対するOEと自覚症状, 基準嗅力検査, および静脈性嗅覚検査との比較検討を行った. 当院嗅覚外来患者のうち, 嗅覚の評価が可能であった122例を対象とした. OEスコアと基準嗅力検査, 静脈性嗅覚検査, また嗅覚障害に対する自覚症状としてのVisual Analog Scale (VAS) と日常のにおいアンケートとの間にはそれぞれ有意な相関を認めた. また静脈性嗅覚検査において嗅覚脱失を認めた群はOEの正答率が有意に低かった. OEは従来からの検査法である基準嗅力検査と静脈性嗅覚検査および自覚症状をよく反映するため, 一般臨床において広く利用可能な嗅力検査であると考える. なお, OEに含まれるメンソールは詐病を見破れるものとして必要と考えるが, 嗅力を判定する際にはこれを除いて検討する方が良いかもしれない.
  • 藤原 啓次, 河野 正充, 小上 真史, 林 正樹, 戸川 彰久, 田村 真司, 山中 昇
    2011 年 114 巻 12 号 p. 924-927
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/28
    ジャーナル フリー
    口蓋扁桃摘出術 (扁摘) の症例数は減少傾向にある. 従来の扁摘では止血操作が煩雑で, 術後出血のリスクがある割には手術点数が低いことが原因の一つと考えられる. コブレーションを用いた扁摘 (コ扁摘) は術中出血量が少なく, 手術時間の短縮, 術後疼痛の軽減という利点がある. 特に術後疼痛に関して, コ扁摘では約40%の例で術後疼痛をほとんど訴えなかった. コ扁摘においても術後に少量の出血を認めることがあるが, 経験症例数とともに改善される.
    コ扁摘はその方法を正しく理解することにより, 出血の非常に少ない, 患者にとって痛みが非常に少ない優れた手術法と考えられる.
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