日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 3 号
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総説
  • ワクチンの現況と将来展望
    中野 貴司
    2017 年 120 巻 3 号 p. 171-179
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     ワクチンで付与される免疫は, 病原体特異的な能動免疫であり, 感染症の予防に極めて有用である. ワクチンは, その製造方法により「生ワクチン」と「不活化ワクチン」に大きく分類される. 生ワクチンは弱毒化された病原体が主成分であり, 不活化ワクチンは感染力をなくした病原体やその成分で製造される. 予防接種法で規定されたワクチンは,「定期接種」として公費で接種される. それ以外のワクチンは「任意接種」であるが, 疾患を予防するという重要性において何ら差異はない. 1948年に制定された予防接種法は, 時代の推移とともに何度か改定された. 2013年の改定は, 海外と比較して公的に接種されるワクチンが少ないわが国の「ワクチン・ギャップ」を解消することがひとつの目的であった. Hib, 肺炎球菌, HPV, 水痘, B 型肝炎など数多くのワクチンが定期接種に加わった. わが国においても, これらワクチンの普及により目ざましい効果が確認され, Hib 髄膜炎や水痘の患者は大幅に減少した. 一方, ワクチンは病原微生物を弱毒化や不活化して製造されるため, 副反応が起こる可能性をゼロにすることはできない. ただし, 接種後に, たまたま別の原因により身体に不都合な症状が出現したとしても, 副反応との鑑別が困難な場合はしばしばある. 実際の接種に際しては,「接種不適当者」や「接種要注意者」の定義と対処法, 接種間隔や使用薬剤に関する注意点などについて十分理解し, 適切な予診を行った上で接種する. 天然痘という人類の脅威であった疾患は, ワクチンの普及により地球上から根絶され, 高い費用対効果も確認された. 感染症対策の重宝な手段であるワクチンを上手く活用し, さらなる健康増進に努めたいと考える.

  • ―超高齢社会における耳鼻咽喉科の疾患構造の変化と今後の戦略―
    山岨 達也
    2017 年 120 巻 3 号 p. 180-187
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     最近の耳鼻咽喉科領域の疾患構造の変化を日本耳鼻咽喉科学会調査委員会の直近3回の通常調査から調べると, 重症の急性中耳炎・滲出性中耳炎, 高度な慢性化膿性中耳炎や真珠腫性中耳炎の減少, 悪性腫瘍手術の増加, 嚥下機能改善手術や内視鏡下下咽頭腫瘍切除術が増加傾向など, わずか4年の間にも疾患構造がダイナミックに変化していることが示唆された. 高齢化の影響について, 日本厚生労働科学研究 DPC 研究班のデータベースから2007年度と2013年度に耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入院して行われた手術を抽出して調べたところ, 鼓室形成術, アブミ骨手術, 聴神経腫瘍摘出術, 内視鏡下鼻内副鼻腔手術, 鼻中隔矯正術, 声帯ポリープ切除術など多くの手術において高齢化していた. 癌については国立がんセンターがん対策情報センターのホームぺージを利用して口腔・咽頭癌 (男性), 喉頭癌 (男性), 甲状腺癌 (女性) の年次推移の推計値を得たところ, 特に前二者で高齢者の罹患数が増加していた. このような癌患者の高齢化を反映して, 前述した DPC データベースの解析においても頭頸部悪性腫瘍の手術年齢が高齢化していた. 疾患構造の変化には予測できない因子も多いが, 比較的予測可能な高齢化の影響による変化に対する保存的アプローチと外科的アプローチによる対応について, 特に老人性難聴を例に挙げて, 私見を述べた. 耳鼻咽喉科の各専門分野において高齢者に対する医療技術の開発・改良を進め, かつその知識を実地臨床に普及していくことが今後の重要な課題である.

  • ―新専門医制度において耳鼻咽喉科専門医に求められるもの―
    奥野 妙子
    2017 年 120 巻 3 号 p. 188-192
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     「新専門医制度」と呼ばれている制度は, 平成26年5月に設立した一般社団法人日本専門医機構によって運営されることとなった専門医制度を指している.
     今まで学会によって運営されていた専門医制度を第三者機関が運営することで, すべての専門医の質を担保し, 国民に安全・安心な医療を提供することを目的としている.
     専門医の育成はプログラム制で行われ, 研修の質が担保される. 専門医の更新も診療実績と最新の標準的な知識・技術の習得が求められる.
     総合診療医も基本19科のうちの1つの専門医として認定され, それぞれの専門医の診療分野が議論される. 疾患数に基づき, 耳鼻咽喉科専門医も適正な人数およびその分布についても検討がなされると考えられる.

  • コーンビームCTを活用し外来診療の高度化を図る
    河野 浩万
    2017 年 120 巻 3 号 p. 193-201
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     コーンビーム CT (CBCT) は, その名の通り円錐状 X 線ビームを平面受像装置上に照射することによって, 歪みのない高精細画像を1回の撮影で取得する装置である. マルチスライス CT と比べ安価でありスペースもさほど必要とせず, 診療所への CT 導入を現実のものとした画期的診断機器である. CBCT 画像は, 空間分解能に優れた特性があり骨組織の描出に優れているため, 側頭骨・鼻副鼻腔領域に関しては, 従来の CT と同等あるいはそれ以上の情報を提供してくれる. よって, 本機器を導入・活用することにより, 外来診療のさらなる高度化を図ることが期待できる. 具体的には, 副鼻腔炎 (特に後篩骨洞, 蝶形骨洞), 術後性副鼻腔嚢胞, 慢性中耳炎, 中耳真珠腫, 耳小骨奇形, 耳硬化症, 外傷骨折, 唾石などの疾患に対して, 初診時から詳細に病態を把握することができ, 速やかな治療方針の決定につながる. また, 付属の特殊画像処理ソフトを用いることにより, 多断面再構成像やボリュームレンダリング像を比較的簡単に作成することができる. これによりさらに立体的かつリアルに対象を観察することができ, より詳細な病態把握が可能となる.

原著
  • 若岡 敬紀, 水田 啓介, 柴田 博史, 林 寿光, 西堀 丈純, 久世 文也, 青木 光広, 安藤 健一, 大西 将美, 棚橋 重聡, 白 ...
    2017 年 120 巻 3 号 p. 202-208
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     頭頸部領域に発生する神経内分泌小細胞癌は比較的まれであるが, 悪性度が高く早期にリンパ行性・血行性に転移を来し予後不良といわれている. またその発生頻度の低さから標準的な治療法は確立されていない. 今回われわれは2006年から2014年までに当科および関連病院で経験した頭頸部原発の神経内分泌小細胞癌8症例の治療法と経過について検討したので報告する.
     平均年齢は60.9歳 (38~84歳), 男性3例, 女性5例であった. 原発部位の内訳は, 鼻副鼻腔3例, 耳下腺2例, 中咽頭2例, 下咽頭1例であった. 下咽頭の1例は, 扁平上皮癌が混在した混合型小細胞癌であった.
     治療法は小細胞肺癌に準じた化学療法や放射線治療が主体であった. 1次治療の化学療法の内容は4例で白金製剤と VP-16 を使用していたが, 最近では症例を選んで3例で白金製剤と CPT-11 を使用していた. 1次治療終了後完全奏功と判断したのは5例あったがいずれも平均8.4カ月で再発した. 2次・3次治療で手術もしくは放射線治療を行うことができた2例は現在まで非担癌生存中である. 原病死した6例のうち, 所属リンパ節再発が制御できなかったのは1例, 遠隔転移が制御できなかったのは5例であり, 生存期間中央値は16.0カ月, 5年生存率は25%であった. 遠隔転移を制御することが予後の改善につながる可能性があり, そのための治療法の確立が望まれる.

  • 原 真理子, 吉浜 圭祐, 小森 学, 藤井 可絵, 守本 倫子
    2017 年 120 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     PFAPA 症候群 (Periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis, and cervical adenitis syndrome) は, 小児における周期性発熱疾患であり, 3大随伴症状としてアフタ性口内炎, 咽頭炎/扁桃炎, 頸部リンパ節炎を伴う特徴がある. 自己炎症性疾患の一つであるが, 詳しい病因・病態は解明されておらず, 疾患に対する認知もいまだ十分とは言えない. 現在行われている治療法の中で, 最も有効とされているのは, 口蓋扁桃摘出術である. 当科でも, 薬物療法で症状の寛解が得られなかった PFAPA 症候群に対して, 手術を施行している. 今回われわれは, PFAPA 症候群の手術施行例における臨床的特徴や治療効果, 術後経過に関して検討を行った. 対象は全19症例であった. 手術の効果は, 症状寛解79% (15/19例), 症状軽減16% (3/19例), 無効5% (1/19例) であり, 有効率は95% (18/19例) と高い効果が認められた. しかし, 症状が軽減した症例も含め, 19例中4例は術後も発熱発作が認められた. 無効例では, 術前と同様の症状が継続していた. 術後も発熱発作を認めた症例では, 家族歴を持つ症例が多い傾向があり, 治療効果には遺伝的素因が関与している可能性が推測された. 口蓋扁桃摘出術は有効率が高く, 薬物療法よりもすぐに寛解が得られる場合も多い. しかし, まったく効果の得られない症例もいる. 手術に関して現在適応基準などはなく, どのような症例に手術が有効であり無効であるのか, 今後も検討をしていく必要があると考えられた.

  • 多田 紘恵, 松山 敏之, 工藤 毅, 近松 一朗
    2017 年 120 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     今回, 内因性エストロゲンバランスの変化が発症に関与したと思われる血管性浮腫症例を経験したので報告する.
     症例は32歳, 女性. 排卵誘発剤を内服していた. 頸部腫脹と呼吸困難感を主訴に紹介受診となる. 抗菌薬と副腎皮質ステロイド投与を行うも症状が増悪したため, 遺伝性血管性浮腫 (Hereditary angioedema: HAE) を疑い C1-inactivator を投与したところ速やかに改善を認めた. 本症例では, 血清補体価 C4, 補体第一成分阻害因子 (C1-inhibitor: 以下 C1-INH) 活性の低下を認めず, HAE III型 の可能性とともに排卵誘発剤による内因性エストロゲンバランスの変化を機序として血管性浮腫を来したとも考えられた. 今後, ホルモン療法による外因性エストロゲンや内因性エストロゲンバランスが関与する血管性浮腫症例が増加すると思われる.

  • 二村 吉継, 東川 雅彦, 文珠 敏郎
    2017 年 120 巻 3 号 p. 224-229
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     声帯癒着症は程度や原因により再癒着の可能性があるため全身麻酔下の手術となることがほとんどである. しかし軽微な橋状癒着では切離のみで再癒着なく治癒すると報告されている. 今回, 診療所での外来手術にて良好に経過した声帯膜様部に発症した声帯癒着症を経験したので報告する.
     症例は70代男性. 咳嗽に続発して声帯膜様部中央に橋状癒着を認めた. 初診より10日目に局所麻酔で内視鏡下に声帯メスを用いて癒着部の切離を行った.
     音声改善手術では繊細な手術操作が望ましいが, 癒着が軽微であったことから局所麻酔で対応ができた. 橋状癒着に対して局所麻酔下の内視鏡下喉頭手術は有用な方法の一つであると考えられた.

最終講義
  • 湯本 英二
    2017 年 120 巻 3 号 p. 230-240
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2017/04/19
    ジャーナル フリー

     本稿では私が行ってきた喉頭科学研究の概略を紹介しました. 嗄声度の指標として開発した HNR (Harmonics-to-noise ratio) は現在も音響分析ソフトに取り込まれて世界中で使用されています. その後, 声帯振動の解析, 喉頭三次元 CT を用いた麻痺喉頭の形態に関する検討, 甲状披裂筋の脱神経と再生に関する研究, 一側喉頭麻痺に対する神経筋弁移植術と披裂軟骨内転術の臨床応用などを行ってきました. 声帯振動を気管側から観察し, 粘膜波動の起始部 (ヒダ状粘膜隆起) が声帯下面に存在することを見出しました. この粘膜隆起は, 前後方向の声帯緊張を加えない時には粘膜固有層が薄くなり, 筋層が上皮に最も近くなる部位に生じること, 前後方向の声帯緊張が増加すると, ヒダ状粘膜隆起は自由縁に近づき, 声帯振動が自由縁に近い狭い範囲に起こること, 甲状披裂筋が収縮するとヒダ状粘膜隆起は, 筋層が上皮に接近する部位よりも気管側に生じて粘膜波動が垂直方向にダイナミックに起こることが分かりました. 機器の進歩と撮影法の工夫によって発声時と吸気時の喉頭を CT で撮影できるようになりました. 得られたデータを三次元画像化することで内視鏡では把握しづらかった所見, すなわち, 患側声帯の奇異運動, 発声時の健側声帯過内転・両声帯の厚みとレベル差を確実に診断できるようになりました. ラットでは脱神経後の甲状披裂筋筋内神経線維と神経終末は早期に消失しましたがアセチルコリン受容体は10週後も70%以上が残っていることが分かりました. 頸神経ワナと胸骨舌骨筋を用いた神経筋弁移植は甲状披裂筋の神経再支配をもたらすこと, 脱神経後1年を経ても神経再支配に有効であることを証明しました. 披裂軟骨内転術と神経筋弁移植術の併用を一側喉頭麻痺による高度嗄声の治療に応用して, 麻痺発症前の患者自身の正常に近い音声を獲得させることができました.

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