日本耳鼻咽喉科学会会報
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111 巻, 10 号
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総説
  • 薬物の経正円窓投与
    中川 隆之
    2008 年 111 巻 10 号 p. 655-663
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/12/16
    ジャーナル フリー
    感音難聴は, 最も頻度の高い身体障害であり, 新しい治療法開発に対する難聴者の期待は高い. この20年間に人工内耳など電子器機デバイス領域では新しい治療法の開発があるが, 薬物療法を中心とした生物学的な治療法開発は基礎的研究にとどまっている. 感音難聴治療開発に関連する研究成果にも目覚ましいものがあるが, 臨床応用にはいくつかの解決すべき問題が残されている. そのひとつに, いかにして内耳に薬物を到達させるかという問題がある. 簡便かつ安全に, 内耳に持続的に薬物を供給することができれば, いくつかの内耳基礎研究成果は臨床応用されることが期待できる. われわれは, この問題に対する解決策として, 生体吸収性素材を用いた内耳薬物投与システムを開発した. 治療薬を徐放する生体吸収性素材を中耳正円窓に留置し, 内耳に薬物を徐放しようとするものである. 親水性の高分子 (タンパクやペプチド) に適した薬物徐放の材料としてゼラチンポリマー, 疎水性, 低分子の薬物 (ステロイドやリドカイン) を徐放する材料としてポリグリコール乳酸に着目し, 内耳への薬物徐放に関する有効性を調べるために, いくつかの動物実験を行った. 結果, ゼラチンポリマーは神経栄養因子や細胞増殖因子を内耳に徐放することができ, 治療的効果を発揮することが示された. ポリグリコール乳酸を用いる方法では, 耳鳴り抑制を目的としたリドカインの蝸牛内への徐放に成功した. ゼラチンポリマーを用いた内耳へのインスリン様細胞成長因子1投与は, 京都大学大学院医学研究科の医の倫理委員会の承認を経て, ステロイド無効急性高度難聴例に対する第I-II相臨床試験を行っている. 今後, 臨床試験をさらに進めると同時に, 内耳再生を標的とした治療薬の内耳局所投与に関連する基礎的研究開発を進めていき, 新たな感音難聴治療法を日常臨床に1日も早く提供したい.
原著
  • 廣田 稔治, 唐帆 健浩, 田中 伸明, 冨藤 雅之, 田部 哲也, 塩谷 彰浩
    2008 年 111 巻 10 号 p. 664-667
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/12/16
    ジャーナル フリー
    開放性喉頭外傷は比較的まれであるが, 緊急な気道管理と創汚染への対応が必要であり, 喉頭機能再建を念頭に置いた修復手術が必要である. 今回, 開放性喉頭外傷において喉頭機能を温存しえた症例を経験したので報告する.
    症例は46歳男性で, 包丁で頸部を自傷し, 創は甲状舌骨膜が完全に切断され, 喉頭の上部構造が露出していた. 気管切開にて気道を確保し, 喉頭蓋を前方に牽引縫合し, 喉頭蓋の倒れ込みによる喉頭入口部の閉塞を予防した. さらに舌骨と甲状軟骨を連結縫合し, 喉頭を挙上して嚥下に有利な形態とした. 術後は気管切開孔が閉鎖でき, 発声, 常食摂取も可能となった.
  • 大崎 康宏, 佐々木 知, 近藤 千雅, 井脇 貴子, 久保 武
    2008 年 111 巻 10 号 p. 668-671
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/12/16
    ジャーナル フリー
    鼓室形成術で聴力改善を期待できない混合難聴患者2名に対し, Vibrant Soundbridge®(VSB) の振動子を正円窓膜上に埋め込み蝸牛を直接振動刺激する正円窓刺激法を本邦で初めて施行し, 術前後の裸耳・装用耳の聴力を比較検討した. 2例とも左耳へのVSB埋め込みを行ったところ, 術後の気導・骨導聴力に術前と比べて著変を認めなかった. 左VSB装用時, 2症例ともに術前の気導補聴器やBAHAの装用時と同程度の聴取閾値となった. 音場語音検査やJapanese HINT検査でも同様の結果が得られた. 本術式は気導補聴器やBAHAと同程度の補聴効果が期待できると考えられる.
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