日本耳鼻咽喉科学会会報
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75 巻, 1 号
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  • 特にアブミ骨と顔面神経管に関して
    遠藤 洋一
    1972 年 75 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的: 最近内耳開窓術その他各種の耳手術法の発達により, これ迄放置されていた先天性伝音系聴器奇形患者に手術操作を加え, 聴力を改善して社会に復帰させることが可能となった.
    奇形耳の手術を行うには聴器の正常な発生および奇形病態を知ることが必要である. 著者は奇形耳の手術に際し耳小骨の中でも手術方法の選択に大きな影響を与えるアブミ骨と, それに近接して走行し, 奇形耳ではしばしば異常な走行を示す顔面神経を容れる顔面神経管について発育・骨化の過程を観察した.
    研究方法: 胎生第14週より第32週迄の日本人胎児15体の側頭骨を用い, 固定, 脱灰後ツェルロイジンに包埋, 連続切片を作製, H-E染色をして観察した.
    結果: (1) アブミ骨の骨化は胎生第19週に後脚基部より始まる.
    (2) アブミ骨は胎生第24週にはキヌタ骨との関節面, アブミ骨底周縁を除いて骨性となる.
    (3) アブミ骨脚閉鎖孔縁の骨消失は胎生第26週頃より始まり, 第32週には脚閉鎖縁の骨は大部分消失し脚はトイ状になる.
    (4) アブミ骨底前庭側および骨底周縁とOtic Capsule前庭窓縁は同一の染色性を示し, アブミ骨底部はOtic Capsuleに由来するものと推定された.
    (5) 顔面神経管鼓室部では胎生第22週に水平部前部および後部で上下縁より骨化が始まり, 下行部は第24週頃Pyramidal Eminenceより骨化が始まる.
    (6) 胎生第32週には顔面神経管鼓室部はほぼ骨性となるが, 水平部前庭窓直上部ではまだ結合織のまま残り, この部は手術時にしばしは見られる神経管欠損部に一致している.
  • 連続耳管造影法及び中耳腔内陽陰圧負荷法による定量的耳管機能検査を中心として
    丹羽 英人
    1972 年 75 巻 1 号 p. 10-35
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    1) 目的: 最近の鼓室成形術の進歩には著しいものがある. 形成鼓膜材料の問題, 術後聴力の保存, 改善の為の耳小骨連鎖に関する問題, 乳様蜂巣の処理のし方等多くの問題点に付いて研究改善されて来つつある. しかしながら最も重要な耳管の機能に付いては殆んど手を付けられていない現状である. 中耳腔内に手術操作を加えるに当つては耳管機能が適当でなければ良好な術後経過を望く事は難しく, 又耳管機能の低下により中耳に種々なる病的変化をもたらす事は周知の事である. しかるに耳管機能を或る程度定量的に測定し得る方法の報告は少い.
    そこで耳管の形態学的変化及びdrainage functionを主体として観察する為に連続耳管造影法を行い又定量的耳管機能測定法として比較的行われており, 耳管のventilatory functonを測定する目的で中耳腔内陽陰圧負荷法を行った.
    2) 方法: 対象としては両法共に鼓膜に穿孔のある事を必要とする為外傷性鼓膜穿孔例及び慢性穿孔性中耳炎で乾燥性の例を用いた. A) 連続耳管造影法: 外耳道に尖端部にcuffの付いたtubeを挿入しcuffをふくらませる事により骨部外耳道とtube間を密閉する. 76% Urografinを加圧しながら経外耳道に中耳腔内に注入する. 注入時に一度嚥下運動を行わせしめる. 撮影方向は頭頂頤方向として1秒間に2枚5秒間で計10枚の撮影を行う. B) 中耳腔陽陰圧負荷法: 上記の如き外耳道との間を密閉出来るtubeを用いる. そのtubeを通して中耳腔内に±300mmH2Oの圧力を象荷し嚥下運動による圧力の段階的降下及び最終圧をpressure transducerを通して記録する.
    3) 結果: A) 連続耳管影像の分類は器質的な狭窄及び閉塞の有無並びに嚥下運動時の耳管咽頭口及び軟骨部の開大の良否に付いて行った. 明らかに高度の狭窄及び閉塞があれば耳管全体の造影像は得られない, これをtype 1とし, 嚥下運動時のみ造影される場合をtype 2耳管全体の造影像はあるが軟骨部及び咽頭口の嚥不運動時に開大の見られないものをtype 3, 嚥下運動時に開大の見られるものをtype 4又その開大の非常に大なるものをtype 5とした. 外傷性穿孔例は全てtype 4に属し, 慢性穿孔性中耳炎例ではtype 1・2・3の耳管の機能の悪いと思われる例は57%にあり, type 4. 5の機能良好例は43%であった. B) 中耳腔内陽陰圧負荷法に於いては-300mmH2O負荷時の最終圧を主として分類を行つた. 最終圧-300--200mmH2Oのものをgroup 1, -200--100mmH2Oのものをgroup 2とし, -100-0mmH2Oの例をgroup 3とした. 慢性中耳炎例に於いてはgroup 1・2の比較的耳管機能の悪いと思われる例は70% group 3の耳管機能良好例は30%であつた. 又外傷性穿孔例は全てgroup 3に属している.
  • 7例の経験例にもとづいて
    古賀 慶次郎, 斉藤 瑛, 本村 美雄, 川城 信子, 川原 夏子, 堀内 正敏
    1972 年 75 巻 1 号 p. 36-64
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科難聴外来において, 過去2年間に7例の聴神経腫瘍を診断し, 経迷路法及び後頭下開頭―経迷路合併法にて腫瘍を摘出した.
    この7例の経験からいくつかの注目すべき点を見い出した.
    耳鼻科医は聴神経腫瘍の発見を常に心がける必要がある. 聴神経腫瘍の症状は定型的でないこともあるので注意深く経過を観察すべきである. また, 腫瘍の存在が疑われれば, 積極的に後頭蓋窩造影法を行う. これは耳鼻科医が腫瘍を早期に発見する一つの方法である. 小さい腫瘍の場合は, 第8神経以外の症状がないばかりでなく, 聴力・前庭検査でも, 常に後迷路性難聴や半規管麻痺を示すとは限らない. 重要なことは, 多くの症例で, 最初の症状が聴力の低下と耳鳴であることである.
    後頭蓋窩造影法は聴神経腫瘍の診断にはかかせない方法で, その手技はすでにWilliam House等によつて仔細に報告されている, 我々はマイオジール (1.5-2.5cc) を使つて後頭蓋造影法を試みた. この方法が内耳道内の腫瘍の存在とその大きさを見るためには最もよい方法と考えている.
    我々は7例の腫瘍を経迷路法あるいは後頭蓋窩―経迷路合併法によつて摘出したが, これらの手術の経験から次の4点が重要であると思われる.
    1. 脳外科医との協力は何れの症例でも必要である.
    2. 腫瘍の大きさが診断された段階で, 脳外科医と共に手術の方法を決めるべきである.
    3. 顔面神経麻痺を残さないために, 顔面神経を確認した上で腫瘍摘出するのが良策と考える.
    4. 経迷路手術や中頭蓋窩経由手術に対しては脳外科の立場からの批判もある. 各々の症例において手術の選択は慎重にすべきである. しかし, 経迷路手術や中頭蓋窩経由手術法は早期の聴神経腫瘍の手術法として良い方法と思われる.
  • 市川 銀一郎
    1972 年 75 巻 1 号 p. 65-84
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    骨導音を頭蓋半球の或る部位に与えると, その音を反対側の耳で知覚することがある.
    この現象を骨導における交叉感覚といい, 1864年にLucaeにより始めて明らかにされた現象である. この交叉感覚について, 臨床的に正常聴力を有する症例, また, 一側性, あるいは両側性に伝音障害のある症例等につき, いかなる状態にあるかを検討した. さらに, 動物実験的に, 蝸牛電位を指標としてこの現象を客観的にとらえてみた.
    方法: まづ臨床的に, 被検者67名について, 各頭蓋半球を一定の基線のもとに, 各々54に区分し, 各々の部位に250Hz, 800Hz共域値上10dB, 20dB, 時に30dBの骨導音を与え, その音を左右いずれの耳にて知覚するかを調べ, 交叉感覚を示す頭蓋骨上の部位を検討した.
    また, 動物実験においては, 成熟描を用い, 正円窓窩より, 一側性または両側性に蝸牛電位を導出しつつ, 頭蓋骨上の各部位に与えた骨導音刺激に対する蝸牛電位の変化を観察記録した.
    結果: 臨床的には, 両側聴力正常者では, 左右半球いずれにも交叉感覚を有する部位が一定の範囲に認められること, 個人差がかなり有ること. また, 左右半球にて必ずしも対称的でないこと, 周波数により交叉感覚を有する部位が異ること, などを認めた. 次に, 一側または両側の伝音障害が認められる症例にては, 原則として聴力良好なる半球ではほとんどの部位で交叉感覚が認められるのに対し, 聴力の悪い半球では交叉感覚を有する部位はあまり認められなかった.
    動物実験では, 両側伝音器が正常な場合, 両側耳介後上部に蝸牛電位上の交叉現象陽性部位が認められた. また, 鼓膜, 耳小骨を順次破壊することにより伝音器障害を起させると, 伝音器の正常側から障害側えの交叉が, より大きな電位差として現われ, 障害側から正常側えの交叉は認められなくなった.
  • 李 汝培
    1972 年 75 巻 1 号 p. 85-94
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    いわゆる『脊髄小脳変性症』36症例のうち, Marie型失調症, オリーブ核・橋・小脳萎縮症, 若年性運動失調症など, 各病型の代表である3症例を参考にあげて, 神経学的所見と併せて神経耳科学的診断について考察した.
    1) 全例において注視方向性眼振はじめ, 何んらかの自発眼振が解発された. しかも病型によって, それぞれ特徴的とも思われる所見がみられた.
    2) 視運動性眼振, 視運動性後眼振, 視標追跡運動についても, 病型によってかなりの特色がみられた.
    3) 以上の事実から, 一般神経学的検索に, 神経耳科学的検索を加えると, 本症はGreenfieldの分類するように, 脊髄型, 脊髄小脳型, 小脳型の三型に, かなり〓一的に分類できるのではないかと推察した.
  • 失語症因子と症状の把握について
    福迫 陽子
    1972 年 75 巻 1 号 p. 95-111
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1. 目的
    失語症患者を臨床の場で扱かう場合, いわゆる医学的診断とはやや趣きをことにして, もつばら言語症状よりタイプを分類し, その結果によって治療計画と予後のみとおしをたてることがおこなわれてきたが, 言語症状の把握および評価方法は必ずしも充分とはいいがたい. 著者は, 失語症患者の客観的診断を目的として, Schuell-笹沼失語症簡易検査 (試案II) による結果を用いて因子分析をおこなったので報告する. その具体的内容は, (1) 失語症状を構成する因子を明らかにして, (2) 因子による失語症診断を試み, (3) 症状の経過を得点でとらえることである.
    2. 方法
    検査は, 専門の言語治療士により失語症と診断された205例について実施された. 検査成績は, 一定の採点方式によって修正されたのち, 主因子解後直交回転による解析にかけられた. 計算は, 柳井のプログラムにより東京大学大型計算機センターでおこなわれた. 205例のうち5年以内の経過がおえた40例については, 因子得点で症状の変化をみた.
    3. 結果
    (1) 因子分析の結果, 6個の因子が抽出され, それらは「音声器官の機能」, 「言語行動の一般因子」, 「語音の再現」, 「文字の理解」, 「書字能力 (作文)」, 「文字の再現」と解釈された. 日本語の特殊性を示すような因子は得られなかつた. (2) 6個の因子に対する因子得点から失語症分類をおこなつた. まずそれぞれの因子の因子得点について正常・異常の境となる値を定めた. この値により各例について異常値を示す因子を求め, 因子の異常の組み合わせに基づいて症例の分類を試みた. その結果205例中95.7%は6群に分けられた. (3) 因子得点で数量化することによって各例の失語症状の推移が容易に把握されるようになった. また, 各因子によって推移状況が異なることが明らかとなった. すなわち, 変動が大きく改善しやすい因子, 全経過を通じて異常値を示したままその状態が変らない因子, 変動が少なく異常値を示すものでも急速に改善する因子の3つにわけられた. これらのうち, 症状の変化を把握するには, 「言語行動の一般因子」が最も適当であることがわかった.
  • 武本 欣也
    1972 年 75 巻 1 号 p. 112-136
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1. 目的
    喉頭・頸部気管の外傷による慢性狭窄の治療体系の確立.
    2. 方法
    慢性喉頭・頸部気管狭窄の12症例中, 高位気管切開 (輪状軟骨位) と交通事故によるもの各4例, 次いで甲状腺腫手術後2例, 火傷と喉頭癌の放射線療法によるもの各1例に対して, 枠形成, 声門前方開大術, 喉頭軟骨除去後の管腔前後径の拡大術を考案し, 施行した.
    3. 結果
    手術法は前述した枠形成と内腔粘膜補充, 声門前方開大術, 喉頭軟骨除去と管腔前後径の拡大と大きく分けることができるが, これらの手術法を組み合わせて行なうことが重要である. (1) 枠形成と内腔粘膜補充は外傷, 気管切開による輪状軟骨, 気管軟骨の損傷と塩酸誤嚥による声門下腔より頸部気管にかけての粘膜の損傷に対して行った. (2) 声門前方開大術は外傷による声帯の癒着, 甲状腺手術後の声帯正中位固定症に行った. (3) 喉頭軟骨除去と管腔前後径の拡大は照射および気管切開後の感染によって, 喉頭軟骨が壊死におちいった場合に行うと同時に (1), (2) の術式も合せて施行した.
    以上の方法によって, 12症例は充分に気道が確保され, 誤嚥もなく, 会話可能な音声になった.
    一方, 狭窄予防の立場から考えてみると,
    1) 気管切開をおこなう場合には輪状軟骨損傷を極力避けることが必要であるが, 止むをえず, 行なわれた場合には, 切開孔を正常な位置にずらし, 輪状軟骨部を修復すべきである. また外傷で輪状軟骨部に外瘻ができている場合も同様である.
    2) 喉頭外傷後4ヵ月間は狭窄を生ずる可能性があるので観察を要す.
    3) 治療上, 粘膜瘢痕化の助長をうながすことは避けるべきである.
    4) 炎症の輪状軟骨後板への波及は, 極めて長期の治療年月を要するので, 注意深い観察を要する.
  • 1972 年 75 巻 1 号 p. 137-154
    発行日: 1972/01/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
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