組織学的に類似の腫瘍であつても, その成長率や治療に対する反応等に関して, 非常に大きな差異がある. 腫瘍におけるこれらの性質の違いの原因は, まだ明らかでない.
著者は, tritiumで標識されたDNAの前駆物質であるthymidineを用いたin-vitro法によるオートラジオグラフィーを応用し, 炎症粘膜及び腫瘍組織の病理組織所見と, オートラジオグラム所見との関係を検索した. さらに, 癌組織に関しては, 治療前後の標識率と, 臨床経過を追求し, 標識率と, 放射線及び制癌剤による治療効果との関係を検討した,
実験方法は, 一症例につき3~4か所から1×2×2mmの検体を採取し,
3H-thymidineを2μC/ml含んだ培養液に入れ, 37℃1時間incubateした. 固定, 包埋, 薄切後オートラジオグラフィー用乳剤を塗布し, 4週間感光させた. 細胞標識率の算定は, 1, 000倍油浸下で, 各組織の細胞核3, 000個を数え, その内
3H-thymidineで標識された核の百分率で表わした.
実験成績
1. 標識細胞の分布状態
非炎症粘膜 (重層扁平上皮及び多列繊毛上皮) においては, 標識細胞は, 稀に第2層にも見られるが, 主に一層の基底細胞層に限局して存在し, しかも上皮全体にほぼ均等に散在していた. これに対し, 炎症粘膜においては, 局所的ばらつきを生じ, しばしば, 4~5層に渡って, 標識細胞が存在していた. 腫瘍組織ことに未分化な癌組織においては, 更に強く不規則な分布状態を示し, しばしば標識細胞が群をなして存在していた.
2. 標識率
組織に炎症が加わることにより, 粘膜上皮の標識率は上昇する傾向が見られた. 癌組織では, 各腫瘍間に非常に大きなばらつきが見られた. しかも, その標識率は, 非炎症組織の標識率に比べ, 必ずしも高い値ではなかった. 癌の分化度, 異形性, 角化傾向及び間質組織の増殖等の程度と標識率との間には, はつきりした相関関係は認められなかった.
3. 治療効果と標識率
治療前の標識率から, 癌の治療効果を予測することは出来なかった. しかし, 治療効果と, 治療による標識率の変化との間には, 次の様な関係が見られた.
1) 治療効果が著名だった症例では, 治療後の標識率の低下が著しい.
2) 治療効果が少かったもの及び, ほとんど効果の見られなかった症例では, 治療後の標識率に低下が見られても, まだかなり高い値に留まつていたり, 或いは, 治療前より高い標識率を取った.
抄録全体を表示