日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 5 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
総説
  • 吉田 明
    2016 年 119 巻 5 号 p. 689-695
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     甲状腺腫瘍は内分泌腺に発生する腫瘍として最も多く, その診断・治療に専門的な知識と技術を必要とする. しかし, 十分なエビデンスが少ないことより, ともすれば適切な診断・治療が行われない可能性がある. こうした状況を改善し甲状腺腫瘍診療の標準化を図ることがどうしても必要であり「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」が2010年に生まれた. 本ガイドラインの構成と内容の概略を述べた後に, 癌の中で最も頻度の高い乳頭癌について治療法の変遷や欧米との違いなどについて記載した. 甲状腺分化癌の治療は手術と放射性ヨウ素が主なものであるが, 日本では放射性ヨウ素の利用が制限されていたため初期治療は手術が主流であった. しかし最近少量 (30mCi) の131I アブレーションが外来で行えるようになり状況は変化しつつある. また本ガイドラインの英語版も出版され世界に「日本型」の甲状腺腫瘍の取り扱いもアピールできたと考える. 本ガイドライン公開後6年近くが経過している. ごく最近, 分子標的薬剤が甲状腺癌にも保険適応が認められた. またこのほかにも重要なエビデンスとなる報告がいくつかなされている. これらのことを盛り込んだ改訂版が近い将来でき上がる予定となっている.
  • 鈴木 正志
    2016 年 119 巻 5 号 p. 696-700
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     平成19年4月施行の改正医療法で, 各医療機関において院内感染対策は医療安全の一環として位置づけられ, 耳鼻咽喉科診療においても院内感染対策は避けて通れない項目となった. 一般的な感染対策としては標準予防策と感染経路別予防策の二段階予防策がある. 耳鼻咽喉科診療は耳, 鼻, 咽喉頭, 頸部など広い範囲を対象としており, 粘膜に覆われた部分が多く存在する. 診療器具もさまざまなものが存在する. 耳鼻咽喉科診療において感染制御対策を講じることは容易ではないが, 一つ一つの場面において感染のリスク, 器具の材形, 用途などを考慮しながら感染対策,器具の滅菌消毒法を講じていく必要がある. 現在, 耳鼻咽喉科領域でも感染制御に関するガイドライン作成が進んでおり, 今後個々の日常診療の遂行の一助となることが期待される.
  • 氷見 徹夫, 高野 賢一, 亀倉 隆太, 山下 恵司, 小笠原 徳子, 坪松 ちえ子
    2016 年 119 巻 5 号 p. 701-712
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     扁桃・アデノイド手術は耳鼻咽喉科専門医を目指す研修医が学ぶべき最初の手術の一つである. 扁桃の基本的免疫機能は, ①抗原を認識する場所, ②免疫記憶を作るための場所, ③免疫機能の中で実効性のあるものに変換する場所の3点に集約することができる. また, 口蓋扁桃は抗原の取り込みを効率的に行うために, かえって反復感染, 易感染性を起こしやすく「感染臓器」としての一面を持つ. 感染臓器としての反復感染には扁桃摘出手術が有効であるが, その治療指針や適応基準の作成が試みられている. 近年, 欧米では小児反復性扁桃炎の治療ガイドラインが作成されたためこれを紹介した. また, 小児睡眠時無呼吸症候群の原因である扁桃・アデノイド肥大のメカニズムを解説し手術適応基準についても言及し, 小児扁桃・アデノイド手術を取り巻くいくつかの疑問・問題点を整理した. 古くから議論されてきた術後の免疫機能の変化では, 一過性の免疫学的パラメーターの変化は認められるが臨床的には問題とならない. 耳鼻咽喉科手術解説書に一般的な手術手技が記載されているが, 実際には, 手術手技, 手術器具やその使い方 (電気メス使用の有無も含め) など, 手術に関して施設ごとに相違点がみられる. さらに, 術後合併症, 特に後出血については小児扁桃・アデノイド手術では重要な問題である. 特に, 術後5~7日に多い晩期後出血の要因には手術器具の違いなどが報告されているため紹介した.
  • 守本 倫子
    2016 年 119 巻 5 号 p. 713-720
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     ムコ多糖症はムコ多糖分解酵素欠損により, ムコ多糖物質が全身のあらゆるところに蓄積するライソゾーム病である. 約6万人に1人の発症率とすると, ほとんど経験することはないと考えるが, 未診断の例も少なくないとされている. 中耳炎や感音・伝音難聴が認められ, 乳幼児期から耳鼻咽喉科医が関与している可能性は少なくない. 年齢が上がるにつれ, 蓄積した部位の症状が表れるため, 顔貌の変化や関節拘縮, 喉頭や気管の狭窄による呼吸障害などが生じる. 治療は酵素補充療法や骨髄移植が主であるが, 血液脳関門を通過しないことや軟骨・骨に沈着してしまった場合はあまり効果が挙がらない. このため, 特徴を理解し, 乳幼児期に受診する可能性の高い耳鼻咽喉科外来にて早期発見されることが期待されている.
     また, 外来診療では, 難聴の治療 (鼓膜チューブ留置術や補聴器装用など) は早期に開始するべきである. 睡眠時無呼吸などの上気道狭窄については, 必要があればアデノイド切除や扁桃摘出術を行うが, 呼吸障害の原因は複数の要因が関与している可能性もあり, さらに開口障害や胸郭変形による換気不全など全身麻酔のリスクも高いため, 注意を要する.
原著
  • 坂本 耕二, 今西 順久, 冨田 俊樹, 小澤 宏之, 佐藤 陽一郎, 稲垣 洋三, 山田 浩之, 伊藤 文展, 鈴木 法臣, 甲能 武幸, ...
    2016 年 119 巻 5 号 p. 721-726
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     背景: 臨床所見で甲状腺癌転移が疑われた際には穿刺吸引細胞診 (以下 FNAC) が行われるが, 嚢胞性転移など細胞成分の少ない病変は偽陰性となることがある. 穿刺吸引内容物中サイログロブリン濃度測定 (以下 FNA-Tg) は, 甲状腺外の病変に対し甲状腺濾胞細胞特異的なサイログロブリンを測定するもので, 高値の場合は甲状腺癌転移を示唆することから診断精度の向上が期待できる.
     対象と方法: 2008年から4年間に甲状腺癌の頸部転移を疑い FNAC および FNA-Tg を行い, 手術にて病理組織診断が確定した43例49病変を対象として, 両検査の結果と病理診断結果とを比較した.
     結果: 49病変中47病変が甲状腺癌の転移で, その感度は FNAC が57.4% (27/47例), FNA-Tg が76.6% (36/47例), 両者を合わせると93.6% (44/47例) であった. FNAC の偽陽性として顎下腺癌の転移を, FNA-Tg の偽陽性として異所性甲状腺を1病変ずつ認めた. FNAC, FNA-Tg がともに陰性であった甲状腺癌転移 (両者の偽陰性) は3病変認められた.
     結語: FNAC は細胞の良悪を, FNA-Tg は甲状腺由来成分の有無を判定する点で各々優れており, 両者は相補的である. 両者の組み合わせにより甲状腺癌転移の診断精度を向上させることができる一方で, 偽陰性, 偽陽性となる病変も少なからず存在することを認識しておく必要がある.
  • 泰地 秀信, 神崎 仁
    2016 年 119 巻 5 号 p. 727-733
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     近年市販されたワイドバンドティンパノメトリ (WBT) はアブゾーバンスを連続周波数で測定することにより滲出性中耳炎 (OME), 耳硬化症, 耳小骨連鎖離断, 半規管裂隙などの疾患がティンパノメトリ (TM) より高い精度で診断できるものとされている. われわれはティンパノグラム (TG) B 型であった症例につき中耳滲出液の有無をアブゾーバンスで鑑別可能かどうか検討した. TG が B 型であったが中耳滲出液がない6例8耳と, TG が B 型であり鼓膜切開にて中耳滲出液を確認した13例19耳について WBT (タイタン®) で測定したアブゾーバンスを0.25, 0.5, 1, 2, 4kHz について比較したところ, 1~4kHz では滲出液 (-) 群は滲出液 (+) 群よりアブゾーバンスが大きく, 2kHz および 4kHz では有意差があった (p<0.01). アブゾーバンス値にはばらつきがあるが, 1, 2, 4kHz の平均値 (平均 AB) でみると40%をカットオフ値としてほぼ中耳滲出液の有無が鑑別できることが示唆された.
  • 高橋 克昌, 中島 恭子, 村田 考啓, 紫野 正人, 新國 摂, 豊田 実, 高安 幸弘, 近松 一朗
    2016 年 119 巻 5 号 p. 734-740
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     2009年から2011年に sequential chemoradiotherapy (SCRT) で治療した stage Ⅳ A 以上の進行頭頸部癌 (AHNC, advanced head and neck cancer) 33症例の治療効果と予後を検討した. SCRT は, 導入化学療法 (ICT) の反復後に, 連続して同時化学放射線療法 (CCRT) を行うもので, 著者らは ICT として TPF (ドセタキセル, シスプラチンと 5-FU) を反復し, CCRT として放射線療法にドセタキセルとシスプラチンを併用した. その後は, 2週投与1週休薬のサイクルで TS-1 の内服を継続した. 治療による奏効率は61%, 3年粗生存率は42%で, 無担癌生存が27%, 担癌生存が15%であった. 治療が著効して無担癌状態になった14症例の3年粗生存率は86%で, 著効に至らなかった19症例の低い生存率と比べて有意差があった. 著効する症例を ICT 後の効果判定で見極め, 著効症例にはさらに TPF を反復して治療強度を強めれば, AHNC であっても長期生存が可能と思われた. また, TS-1 長期内服による癌の再増殖抑制も長期生存に寄与したと考える.
  • 深澤 雅彦, 赤澤 吉弘, 春日井 滋, 三上 公志, 齋藤 善光, 阿久津 征利, 明石 愛美, 井戸 光次朗, 前田 一郎, 干川 晶弘 ...
    2016 年 119 巻 5 号 p. 741-749
    発行日: 2016/05/20
    公開日: 2016/06/10
    ジャーナル フリー
     医原性リンパ増殖性疾患 (以下 OIIA-LPD) を発症した4例について検討した.
     2例は局所所見のみで診断に至った OIIA-LPD で1例はメトトレキサート (以下 MTX), 1例はタクロリムスで, 2例とも投与中止で寛解した. 残りの2例は, 他科より頸部リンパ節腫脹でコンサルテーションされた症例で, 1例は投与中止で寛解したが, もう1例は MTX 中止後, タクロリムス使用により再燃, 不幸な転帰をたどった.
     MTX, タクロリムスの内服歴があり, リンパ節腫脹や節外性病変がある場合, OIIA-LPD を疑い精査し, 速やかに血液内科, リウマチ内科, 病理診断医と連携しながら診断, 治療, 経過観察することが重要である.
最終講義
スキルアップ講座
専門医通信
ANL Secondary Publication
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