日本耳鼻咽喉科学会会報
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120 巻, 2 号
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総説
  • アナフィラキシーへの対応 (日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン)
    海老澤 元宏
    2017 年 120 巻 2 号 p. 89-96
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインに沿ってアナフィラキシーへの対応を解説する. アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により, 複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され, 生命に危機を与え得る過敏反応」とし, アナフィラキシーショックは「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」と定義される. 臨床的な診断基準としては世界標準の3つのパターン, 機序としては4つに分類 (IgE が関与する免疫学的機序, IgE が関与しない免疫学的機序, 非免疫学的機序, 特発性) される. 誘因としては医薬品 (抗菌薬, 解熱鎮痛薬, 抗腫瘍薬, 局所麻酔薬, 筋弛緩薬, 造影剤, 生物学的製剤, アレルゲン免疫療法, 輸血), さらに手術関連, ラテックス, 昆虫刺傷 (ハチ, アリ等), 食物 (小児: 鶏卵, 牛乳, 小麦, 成人: 小麦, 甲殻類, 果物) 等が挙げられる. 小児では即時型, 成人では食物依存性運動誘発アナフィラキシーが重要である. アナフィラキシーの誘発頻度としては食物が最も多いが, 死亡例では医薬品・昆虫刺傷 (ハチ) が多い. 初期対応の手順は, 1. バイタルサインの確認, 2. 助けを呼ぶ, 3. アドレナリンの筋肉注射, 4. 患者を仰臥位にする, 5. 酸素投与, 6. 静脈ルートの確保, 7. 心肺蘇生, 8. バイタル測定の項目より構成される. アナフィラキシーの初期対応において薬物治療の第一選択はアドレナリンの筋注である. 第二選択薬として H1 抗ヒスタミン薬, β2 アドレナリン受容体刺激薬, グルココルチコイドが挙げられているが, いずれもエビデンスに基づいた推奨ではなくH1 抗ヒスタミン薬は皮膚, 鼻, 眼症状, β2 アドレナリン受容体刺激薬は下気道症状に対する使用経験に基づいた, また, グルココルチコイドは二相性アナフィラキシーを予防する可能性を想定した推奨である.

  • ―先天性顔面神経麻痺に対する再建術―
    多久嶋 亮彦
    2017 年 120 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     顔面神経は第二鰓弓由来の末梢神経であり, 顔面神経の運動神経線維が分布する表情筋も, 第二鰓弓由来の組織である. 先天性顔面神経麻痺は原因として神経原性と表情筋原性の両者が考えられるが, その本態は定かではない. 仮に神経原性のものであるならば, 生後間もない時期にはまだ表情筋の萎縮が生じていないことが考えられ, 神経移行術などによる再建方法が考えられる. しかし, 現実的には1歳以下の乳児に対して再建術が行われることはない. したがって, 先天性の顔面神経麻痺に対しては, 既に表情筋が廃用性萎縮に陥った後の陳旧性顔面神経麻痺に対する治療に準じた手術方法が選択される. すなわち, 眉毛, 眼瞼, 頬部など各部位ごとに対する再建術を組み合わせて治療を行う. 一般的に小児期の顔面神経麻痺は, 安静時には麻痺が比較的目立たず, 兎眼など大きな機能障害をもたらす可能性がある症状も軽度であるため, 積極的な治療が行われない場合が多い. しかし, 先天性麻痺では頬部の動きに乏しいことが多く, 笑いの表情を作ることができないことが多々ある. また, 患児が笑うことにより顔の歪みが目立つことを嫌がり, 自ら「笑わなくなること」で表情の乏しい印象を与えることも多い. したがって, 患児の社会性を発達させる上でも顔面神経麻痺の治療, 特に笑いの再建は重要であると考えている. 笑いの再建方法としては, これまでには腓腹神経移植による顔面交叉神経移植術と薄筋移植術を二期的に行ってきた. しかし, この方法は治療期間が長くかかるため, 1990年代後半より広背筋を用いた一期的再建術が主流となっている. さらに最近では, 移植筋の動きがより大きくなるように, 動力源としての神経を2つ選択し, 二重支配を受ける筋肉移植術を行い始めている.

  • ―手術治療―
    中田 誠一
    2017 年 120 巻 2 号 p. 104-108
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (uvulopalatopharyngoplasty: UPPP) の適応としては基本的には 1. 痩せていて (できれば BMI 25以下, 多くとも30未満), 2. 口蓋扁桃肥大があり米国 (Friedman) での口蓋扁桃肥大の分類だと3以上 (口蓋扁桃が後口蓋弓を超えて突出しており, 正中と後口蓋弓の中間にまで及ぶもの), 3. 軟口蓋低位がないもの, の3つである. この3つがそろえば, 手術治療にて, 重症の閉塞型睡眠時無呼吸 (obstructive sleep apnea: OSA) であっても, ほぼ治癒に至る場合が多い. ただし, 年齢が経つにつれ筋肉の緊張は落ちていくので, いわゆる咽頭の「ゆるみ」が生じることとなり, 手術治療にて半永久的に手術効果が続くわけではないことは, 患者にもしっかりインフォームド・コンセントすべきである.
     現在, OSA に対し外科手術が多く行われている欧米では UPPP の術式は古い考えであり, 基本的な概念は咽頭を側上方に拡大する lateral pharyngoplasty などの術式に移行している. UPPP と大きく変わる点は口蓋扁桃摘出後にその下層にある筋肉を側方に牽引する操作が加わることである.
     UPPP など咽頭拡大手術の術式においての一番のポイントは, 上咽頭から中咽頭に抜ける軟口蓋後部の狭窄部位をいかに拡大するかということである. 咽頭部の粘膜を左右上方向に牽引することが手術成功の要となる. その咽頭拡大手術を問題なく行うための前段階として口蓋扁桃摘出術を通常通り行えることは重要である.
     CPAP が鼻閉のためにうまく使えない場合に鼻閉改善手術 (鼻中隔矯正術, 粘膜下下鼻甲介骨切除術, 下鼻甲介切除術など) の適応がある. また OSA 患者の軟口蓋の位置が高く (口腔内を視診したときに口蓋垂や口腔の後方をしっかり認める), 舌根部の空間が広い場合, 鼻閉改善手術単独でも OSA を軽減させる可能性が高い.

  • 花澤 豊行, 越塚 慶一, 有本 昇平, 茶薗 英明, 岡本 美孝
    2017 年 120 巻 2 号 p. 109-114
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     本邦において2012年よりセツキシマブ (Cmab) の頭頸部がんへの導入が承認され, 広く臨床の場において使用されるようになった. 局所進行頭頸部扁平上皮がんに対しては, Cmab を併用した放射線療法 (Bioradiation therapy; BRT) が, 海外での治療成績をもとに行われている. 2013年1月より当科において入院期間の短縮を目的に BRT を外来通院治療に導入して得られたデータを解析した結果をまとめた. BRT の完遂率は高く, 入院期間の短縮に貢献できた. しかし, 口内炎・皮膚炎により入院での管理を必要とする症例は多く, 十分な支持療法の確立が大切であることを確認した. また, Cmab 特有の有害事象である Infusion reaction や間質性肺炎に対しては, 事前にしっかりした対応マニュアルと嚥下性肺炎との鑑別を常に念頭に置いて対応することが重要であることを確認した. BRT の治療効果としては, 原発巣の制御率は Chemoradiation therapy (CRT) に若干劣るものの, 放射線療法後の喉頭の機能 (嚥下機能も含め) に対する影響が少ないことを確認し, 放射線治療に併用する化学療法の適応を考える上での選択材料になると考える. また治療成績を2年生存率でみると, 有意差はないものの中・下咽頭がんにおいて BRT は CRT に比較しやや低い傾向があり, 観察期間を延ばして検討する必要がある. また, 注意すべき点としては, 照射終了後に肺転移が比較的早期に出現した症例があり, そのほとんどが N2b 以上の頸部リンパ節転移, 特に鎖骨上リンパ節転移を有する症例であったこと, また局所制御が十分に得られなかった症例であったことが確認できた. BRT の適応や治療計画を考える際には, Cmab の特性を十分に理解, 考慮した上で行う必要があると考える.

原著
  • 吉田 友英, 山本 昌彦, 田中 稔丈, 池宮城 芙由子, 鈴木 光也
    2017 年 120 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     心因性めまいは, 神経耳科学的に眼振や眼運動系検査に異常がないにもかかわらず, ふらつきなどのめまい症状を訴えることから診断に苦慮することが多い. 今回, 重心動揺検査とともに動的体平衡機能検査である視覚フィードバック検査を用いて心因性めまいの体平衡検査での特徴を見いだすこととした.
     対象は, 心因性めまいと考えられた14例であり, 比較に同年代の健常者92名を用いた. 視覚フィードバック検査は, モニターに表示された目標円に被検者の重心の位置を常に入れるように指示し, 目標円である表示サークルに入る割合 (%) で評価する. 心因性めまい患者は, 健常者に比較して開閉眼ともに外周面積が大きく, 単位面積軌跡長が小さい結果であった. また, 健常者の平均パワー分布を求め, 健常者の平均値との差分をその周波数のバラツキ (SD 値) で割った MEM で評価すると, 開眼では左右・前後位置パワースペクトラムで中心周波数 0.125Hz のパワーが大きく, 非常にゆっくりとした大きな動きをもって体平衡を保っているということができる. さらに, 視覚フィードバック検査では, 心因性めまい患者と健常者では有意差はみられなかった. この結果より心因性めまい患者では自発的な姿勢保持機能そのものは健常者と変わらないことが分かった. これらの検査ですべて心因性めまい疾患を鑑別できるわけではないが, 有意な診断検査法の一つとして有用であると考えられる.

  • ―EGPA―
    秋山 貢佐, 米崎 雅史, 土橋 浩章, 亀田 智広, 星川 広史, 門脇 則光
    2017 年 120 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     EGPA は好酸球増多, 末梢神経障害を特徴とする全身性血管炎であり, 気管支喘息・好酸球性副鼻腔炎が先行して発症することが知られている. 近年, EGPA と IgG4 の関連性についての報告が散見されている. 本症例では気管支喘息・好酸球性副鼻腔炎の経過中に末梢血好酸球の上昇, 血管炎症状に加え血中 IgG4 異常高値, 外眼筋の肥厚による眼球突出などを認め, IgG4 関連疾患様の病態の合併が疑われた. 非常にまれではあると思われるが EGPA に IgG4RD 様の病態が併存した症例は過去にも報告があり, 本症例のごとく EGPA 症例において非特異的な症状を併存する場合には慎重に精査を行う必要性が考えられた.

  • 片岡 祐子, 菅谷 明子, 前田 幸英, 假谷 伸, 大道 亮太郎, 福島 邦博, 西﨑 和則
    2017 年 120 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2017/02/20
    公開日: 2017/03/23
    ジャーナル フリー

     2012年4月難聴遺伝子検査は保険収載され, 現在19遺伝子154変異の検索が行われている. 難聴遺伝子検査は, 聴力型や聴力予後, 随伴症状の予測, 難聴の進行予防といった情報が得られる可能性があるため, 診断や介入, フォローアップを行う上での有用性は高い.
     今回遺伝子検査で複数の難聴遺伝子ヴァリアントが検出された症例を経験した. 検索可能な遺伝子数が増加することにより, 診断率の向上が見込める一方で, 複数の遺伝子ヴァリアントが検出され, 結果の解釈に難渋する例も増えることが推測される. 臨床情報との照らし合わせや家族の遺伝子検査も検討し, 患者, 家族が理解, 受容できるように遺伝カウンセリングを行う必要がある.

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