日本耳鼻咽喉科学会会報
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74 巻, 10 号
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  • 岩間 和生
    1971 年 74 巻 10 号 p. 1417-1434
    発行日: 1971/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    従来の脳幹における神経学的検査は,運動系•知覚系および脳神経の検索が中心で,眼運動系の検索が診断上重要な役割を果す脳幹背側部はややもすれば"silent"とされてきた.
    しかし乍ら,その中でも中脳には,水平注視運動•垂直注視運動に関与する皮質下中間中枢,さらには輻輳運動や瞳孔調節の中枢がある.したがつて,この部分に障害がひき起されると,そのきわめて初期にも,各種の異常眼運動症状として,鋭敏かつ線細に反映されてくるため,この所見を詳細に分析することにより病巣局在診断上有力な手懸りを与えてくれることが少なくない.しかもそれは,脳室造影や脳血管撮影など,形態学的諸検査によつてはなんらの異常がみとめられない初期においても明らかなことが稀れではない.
    上記の理由から,異常眼球運動検査が,中脳領域の障害においてどのよ3な鑑別診断上の役b1を果すかについて考察するのがこの研究の目的である.
    症例ならびに検索方法
    われわれが最近経験した症例のうち,病理解剖や手術によつて病巣局在とその性状を確認することができたものを中心とする38例である.その内訳は中脳腫瘍6,第3脳室後部腫瘍4,松果体腫瘍5,血管性障害7,結核腫1,脳幹脳炎3,抗痙蟹剤中毒2,パーキンソソ症候10である.
    検査は従来から一般におこなわれている神経学的諸検査をはじめ,坂田らの提唱する自発性異常眼球運動の検査,Iidaや上田らの視標追跡運動検査,鈴本•小松崎らの視運動性眼振検査,脳室造影法,各種の脳Btu管撮影法などである.
    結果その結果みとめられた癌状はつぎのよ5になる.
    水平性自発眼振.注視不全麻痺性水平性眼振.電光眼運動.緊張性注視樫攣.緊張性輻躾痙攣.輻榛眼振.陥役腹振.輻輳麻痺.上眼瞼向き垂直性自発眼振.上方注視麻痺(Parinaud徴候).方向交代性上向ないし方向固定性頭位眼振.垂直ないし斜行性頭位変換眼振.視標追跡運動(eye-trackingmovement)の障G.視運動性眼振の解発搾制(水平,上眼瞼向き).
    これら諸症状の成圏について考察すると共に,鰻球運嚇機能と深い関係にある中脳障害の診断にあたっては,異常眼運動痙状を詳緬かつ正確に観察分析することが不可欠であることを強調した.
  • とくにCervicalSpondylosisによる椎骨動脈循環不全症例を対象とした臨床的観察
    深美 淳一
    1971 年 74 巻 10 号 p. 1435-1448
    発行日: 1971/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    脳幹の眼運動系は,周知のごとく,眼筋支配の諸神経核,内側縦束,大脳皮質からの下行路ならびに迷路,前庭神経核,小脳等からの上行路を含むものといわれ,機能豹に独立した系統と考えられている.さらに,この系統は,椎骨,脳底動脈系の血流量の変化に極めて敏感なものと推論されている.
    本報告は,椎骨動脈の血流量が,頸部脊椎症の圧迫によつて障害された症例について,脳幹眼運動系を特異的に検索する検査法を用いて,眼運動系障害を研究したものである.
    2.実験法症例は,男12例,女8例の計20症例で,年令は32才から71才までを含んでいる.全症例に対して,神経学的,神経耳科学的および神経放射線学的検索を行い診断を確定した.神経放射線学的には,両側椎骨動脈と両も側頸動脈を含む4-vessel arteriographyを行い,特に椎骨動脈系については,首の過伸展位,過伸展プラス左廻転位と右廻転位において撮影を行った.神経耳科学的には,自発ならびに注視眼振,頭位ならびに頭位変換眼振,視性眼振,視性運動性眼振(OKP),視性運動性後眼振(OKAN)および視標追跡運動(ETT)などを検査した.
    3,結果検査成績を要約すると次のごとくである.
    1)20症例中,発作性の回転性眩暈9例,浮動性眩暉5例の計14症例に特徴がみられた.また失神発作を示したものは3例あつた.なお,耳鳴ならびに難聴の随伴は1例にのみみられた.
    2)Dix-Hallpike法およびStenger法によるFrenzel賑鏡下の自発眼振検査では,上眼瞼向あるいは下眼瞼向垂直性眼振,水平性ならびに輻輳眼振などなみとめた.頭位眼振検査では,方向固定性眼振(4/20例),方向交代性眼振(4/20例),垂直性眼振(s/zo例),その他(7/24例)などをみとめた.頭位変換眼振検査では,全例に垂直性眼振,垂直性眼振とともに水平性あるいは斜行性眼振の随伴をみとめた.3)視性運動性眼振,視性運動性後眼振,視標追跡運動(OKP,OKAN,ETT)などでoptokineticfusion limit(OFL)や眼運動機能の障害を示唆する種々の異常型を示した.これらの異常型は,椎骨動脈減圧術の術後経過とともに正常型に復帰することを知つた.
    4)以上のように,Frenzel眼鏡下の自発ならびに注視眼振検査,視性運動性眼振検査,視性運動性観眼振検査,視標追跡運動検査などは,脳幹部の眼運動系の障害,ことに推骨動脈系の循環不全による機能障害をよく反映する有用な検査法であることを知つた.
  • 藤田 洋右, 北村 武, 戸川 清, 神田 敬, 今野 昭義, 浅野 尚
    1971 年 74 巻 10 号 p. 1449-1454
    発行日: 1971/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (目的)最近5年問に私達が教室で経験した眼科学との境界領域疾患の一つである後部副鼻腔炎に起因する球後視神経炎を,(1)後部副鼻のMucocele,Pyoceleが原因であるもの3例,(2)後部副鼻腔炎が原因と考えられるもの10例,に分類し,術後の視覚の予後及び視覚障害の発生機序に関する臨床的な解析を試みた.
    (結論)後部副鼻腔のMucocele.及びPyoceleによる球後視神経炎は,視神経管が機械的に圧迫される事によつて惹起される.従つて病巣を可及的早急に手術的に開放する事が必要である.視神経管周囲の骨壁が破壊されたり,視神経萎縮が術前に出現している場合は,視覚の予後はより不良である,後部副鼻腔炎による球後視神経炎は,視覚障害がその極に達してからほぼ3週間以内に後部副鼻腔粘膜を除去すれば,視覚障害が速やかにしかも著しく回復する可能性がある,それは又,後部副鼻腔の発育が良好で視神経管蝶形骨洞壁が薄いものに発生し易く,発生機序に閥しては,薄い骨壁の微視的間隙を通して粘膜の炎症が直接視神経管内へ波及する可能性があると考える.
  • 久保 正〓
    1971 年 74 巻 10 号 p. 1455-1476
    発行日: 1971/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    近代産業の急速な発達は,種々の公害を生み,今日の大きな社会問題となつている.多くの公害病の中でも罹患頻度の高い大気中の刺戟性ガスによる慢性気管支炎等の気道疾患の発病•病態を究明する目的で,亜硫酸ガス暴露実験を行った.また,その成果を,より理解し易くする為に,無菌飼育ラツト.ならびに自然飼育ラツトの気管盤諸組織の病理組織所見を観察し,亜硫酸ガス暴露群の所見と比較検討した.各実験動物群の病理組織学的観察の他に,組織の顕微鏡的計測法を応用し,数量的に表現した.無蕪動物を研究対象に用いる事は,日常遭遇する自然界における発炎機構の解明に有利である.実験動物はFisher系無菌飼育ラツト34頭,自然飼育ラツト26頭の気管と,亜硫酸ガス暴露実験にはWistar系健康成熟自然ラット18頭を用いた.
    亜硫酸ガス暴露条件は10ppmの濃度で,1日8時間暴露した.lAから51日間の各暴露期間の動物について観察した.
    3群の実験動物について気管粘膜上皮,基底膜,弾力線維および気管腺の病理組織学的な変化を比較検索した,殊に,粘膜上皮の杯状細胞と,気管線の形態的変化が,慢性気管支炎罹患時に現れる喀痰の増量に関連することから,粘膜上皮におげる粘液産生細胞数と,気管腺の胆厚の大きさならびに気管腺/気管壁の比率を算定計測した.すなわち,粘膜上皮の粘液産生亢進像は,亜硫酸ガス暴露群および自然群に顕著であつたが,無菌群には全く認められなかつた.また,気管腺の厚さの計測および気管腺/気管壁の比率においても自然群,亜硫酸ガス暴露群は,無菌群よりも大きい数値を示した.
    次に,無菌動物と自然動物の2群について,気管の支柱であり,発育の示標ともなる軟骨組織の比較観察を行った,すなわち,軟骨巾の計測,軟骨組織の石灰化,異染性および石綿変性について観察した.軟骨巾の大きい成獣に:石灰化現象,石綿変性が強く現われ,異染性は若い動物群ならびに無菌ラットに強く認められた.
  • 山口 宗彦, 北村 武, 金子 敏郎
    1971 年 74 巻 10 号 p. 1477-1481
    発行日: 1971/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    Saroidosisは,肺,眼,皮膚,唾液腺,全身のリンパ節,その他の組織に,類上皮細胞を主体とする肉芽腫を形成する原因不明の系統的疾患であると云われている.この内,唾液腺腫脹,ブドウ膜炎,脳神経麻痺,微熱等を伴った型は,所謂Heerfordt氏病,又はuveoparotidfeverと云われ,本邦での報告例は極めて少ない.最近当科に於て,肺門リンパ腺腫脹,ブドウ膜炎,唾液腺腫脹,顔面神経麻痺,微熱等を伴ない,しかも口乾燥症,乾燥性角結膜炎,血清蛋白異常等,所謂Sjogren症候群をも呈する興味ある症例を経験したので報告する.
    猛例は47才,主婦.、昭和45年5帰18日,左顔面神経麻痺に気付き,4日後左耳下腺部に腫脹を来し,徐々に増大す.6月15日,更に右側耳下線部の腫脹を来し,半月後,同例の顔面神経麻痺が招来した.其頃から口内乾燥感,眼球充血,味覚障害が現われ,7月5日,某医より当科へ紹介された.
    現症として,両側顔面神経麻痺(全枝),両側耳下腺の浸潤性腫脹,仮面様顔貌等が見られ,眼科受診で,両側ブドウ膜炎,乾燥性角結膜炎を指摘された.又内科的には,肺門部リンバ腺腫脹(BHL)を指摘されたが,Mantoux反応2000倍陰性,TB菌は検出されず.尚腋窩,股関節等のリンバ節腫大はなく波疹認められなかつた.その他一般検査では,難の低素性貧血,赤沈値亢(60mm/hr),7gl21.2.2%,CRP陽性,RA-test陽性,γG,γM増加等が異常所見として認められた.
    唾液分泌機能検査では,中等度の障害を示し,唾液腺組織像では,正常の腺細胞は減少し,典型的な類上皮細胞と巨細胞の浸潤があつたが,乾酪化は見られなかつた.
    Kveim抗原は,予研製のLot23を用いたが,この症例では陰性であつた.
    以上の検査結果からSarcoidosisを疑い,Steroidを中心とした治療を開始し,約1ケ月後には軽度の左顔面神経麻痺とBHLを残すのみで,ブドウ膜炎はほとんど完治している.
    尚当初見られた口内乾燥感も著しく軽快し,隈症状と共に自覚しない迄に至つている.以上Sazcoi-dosisとしての病変が,肺門リンパ節,唾液腺,顔面神経,眠等に現われ,しかもSjogren症候群を合併した興味ある症例を報告した.
  • 佐藤 文彦, 斉藤 等, 水越 治
    1971 年 74 巻 10 号 p. 1482-1495
    発行日: 1971/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    甲状腺悪性腫瘍には他の臓器に髭生する悪性腫瘍と同様に,上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍があるが,大多数が上皮性腫瘍すなわち癌腫である.しかし,一口に癌腫といつても病理組織像によつて予後が大きく2分され,他臓器には考えられない特殊鍵が存在する.我々頭頸部外科の診療にたつさわる耳鼻咽喉科医にとつて,この特殊性を把握することは,増々増加傾向にある甲状腺癌の診断,治療を行うにつき,非常に意義深いことと思う.
    今回我々は1960年5月より19719月までに,当教室において治療を施行した甲状腺癌39例について集計し,考察を行うとともに,甲状腺癌の特殊性について,さらに耳鼻咽喉科を訪れる甲状腺癌の特歓について検討を加えた.
    集計結果は次の如くである.1)過去11年間に当科で治療を施した頭頸部悪性腫瘍総数は791例であり,甲状腺癌は39例4.9%であつた.
    2)性別は男性16例,女性23例で,男女比は1:1.44であつた.年令別集計では50才代にピークを示した.
    3)主訴は前頸部腫瘤が51%で最多,嗄声がこれに次いだ.主訴発現から初診までの期間の集計では,1年以上経過してから受診しているものが10例におよび,最長期間は20年であつた.
    4)発生部位は右葉が53.9%で最多,両葉にわたつたものが28.2%であつた.
    5)術前甲状腺機能検査としてBMR,PBI,総コレステロール,放射性ヨード検査について甲状腺癌を分析すると,大多数が正常範圏に位置した.
    6)術前シンチグラム検査では,22例に施行しているが,19例(19/22,86.4%)がCold noduleでありかなりの信旗性を得た.
    7)病理組織分類では,乳頭状癌が41%を占め濾胞状癌23.1%,未分化癌10.2%であつた.
    8)治療法として,手術を主体に用いているが,その内訳は甲状腺亜全摘出術8例,腺葉切除術20例腺葉部分切除術1例であり,この治療法と予後の関係をみると,拡大手術に予後良婦の結果を得た.ただL,未分化癌の場合や遠隔転移例には姑息的療法を用いたが大多数が不幸な転帰をとつている.
    以上の集計結果より,甲状腺癌は女性に好発し,組織像によつて予後が左右されること,また一般の癌腫と異り若年者に予後が良いことなどの特殊性を有することを再認識した.
    さらに,本邦において耳鼻咽喉科を訪れる甲状腺癌の特撒として,喉頭•頸部食道症状を呈してから訪れる場合が多いため,例数が少いわりに進展度の高い例が多く,予後を外科領域と比較するとかなりの差が認められた.最後に原発巣不明の頸部転科癌,原園不明の反回神経麻痺の場合は甲状腺癌を疑つてみる必要性を強調した.
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