日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻, 3 号
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総説
  • 「排尿障害」のアンチエイジング
    松本 成史
    2018 年 121 巻 3 号 p. 169-173
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     「アンチエイジング (抗加齢) への挑戦」には, 臓器や部位別といった垣根を越えた生物学的プロセスに介入を行う必要があり, 専門領域以外の抗加齢医学の実際を知ることは非常に有用であると思われる. 今回扱う泌尿器科領域には, 排尿障害, 男性更年期障害, 勃起不全, 前立腺がんや膀胱がん等, 加齢や老化と関係のあるさまざまな疾患や病態が多く, 抗加齢医学的アプローチでの研究も積極的に取り組まれている. 特に, 男性更年期障害や勃起不全, 排尿障害等を含む男性の健康医学: 男性医学 (メンズヘルス) は, 内分泌環境 (テストステロン) からメンタルヘルスまで身体全体を包括的に捉えた泌尿器科学の枠を超えた抗加齢医学の対象となっている.

     本項では泌尿器科領域の「アンチエイジングへの挑戦」として, 特に加齢とともに誰もが身近に感じることになる「排尿障害」に注目し, メタボリック症候群をはじめとする全身疾患との関連や, 最近話題になっている血流障害との関連として, 高血圧や動脈硬化等に伴う血流低下 (虚血) 障害や血流再灌流障害に伴う酸化ストレス障害等, 膀胱を代表とする下部尿路 (膀胱や尿道, 男性では前立腺も) の血流障害を中心に報告し, 抗加齢医学における「排尿障害」のアンチエイジングの実際について紹介する.

  • ウイルス発癌研究の進歩―上咽頭癌と中咽頭癌の類似点と相違点―
    吉崎 智一
    2018 年 121 巻 3 号 p. 174-179
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     咽頭は上, 中, 下の亜部位に分類される. それぞれの部位に特徴的な組織学的, 解剖学的, 生理学的特徴があり, それぞれの部位から発生する癌についても同様である. どの部位もウイルスに関連しない癌は飲酒, 喫煙がリスクファクターである一方, 上咽頭癌は Epstein-Barr ウイルス (EBV) との関連が示されて40数年, 中咽頭癌はヒトパピローマウイルス (HPV) との関連が示されて10数年経過した. 通常 EBV は B リンパ球に終生潜伏感染し上皮は溶解感染, すなわちウイルス増殖の場であるのに対して, HPV は上皮細胞が潜伏感染の場でもあり, 溶解感染の場でもある. 中咽頭癌において, 免疫染色による p16 過剰発現の評価は HPV 感染のサロゲートマーカーとして今回の TNM 分類改訂で必須の項目となった. 上咽頭癌においては p16 遺伝子が欠損もしくは不活化されていて発現していないことが多い.

     ウイルスの種類は異なるものの, いずれのウイルスも比較的若い時期に感染する. 咽頭組織で発癌に至るには潜伏感染に移行することが必須であることは共通である. 臨床的には, ウイルス関連癌の方が非ウイルス関連癌よりも高転移性である一方, 化学療法, 放射線療法に高感受性であり, さらに中咽頭癌では手術療法においても治療成績がよく, 結果として予後がよい. 組織学的には著明なリンパ球浸潤を伴い, PD-L1 ならびに PD-1 の発現が高く, 免疫チェックポイント阻害剤の効果も期待される.

  • 小児滲出性中耳炎診療ガイドライン
    伊藤 真人
    2018 年 121 巻 3 号 p. 180-186
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     海外の小児滲出性中耳炎 (OME) ガイドラインの多くは, 家庭医や小児科医を対照に ① 「何時どのような時に, 耳鼻咽喉科専門医へ紹介するか」と, ②「手術治療の適応」が主たる論点である. 一方で本邦では, OME 診療の主体は耳鼻咽喉科が担っており, 海外とは異なる診療体系が形作られてきた経緯があることから, 欧米とは医療環境が異なる本邦の現状を踏まえて, その実情に即した臨床管理の指針を示す必要があった.

     本ガイドラインのコンセプトは「中耳貯留液や鼓膜の病的変化などの滲出性中耳炎そのものへの治療ばかりではなく, 周辺器官の炎症病変に対する配慮」を求めていることである. 小児 OME では, 原則発症から3カ月間は経過観察 (Watchful Waiting) が推奨されており, その後も改善がみられない時には外科的治療 (主として鼓膜チューブ留置術とアデノイド切除術) を検討する.

     経過観察中には, 中耳貯留液や鼓膜の病的変化などの OME そのものへの治療ばかりではなく, 周辺器官の炎症病変に対する治療の両方が推奨される. すなわち, 並存する鼻副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎, 繰り返す急性中耳炎などの感染・炎症に対する積極的な保存的治療を行うべきであるという, 耳鼻咽喉科の視点を重視した診療ガイドラインである. 本邦ガイドラインのコンセプトは以下の3点である.

     1. 中耳貯留液や鼓膜の病的変化などの OME そのものへの治療ばかりではなく, 周辺器官の炎症病変に対する配慮をする.

     2. 発症から3カ月間は経過観察が推奨され, その後も改善がみられない時には外科的治療 (主として鼓膜チューブ留置術とアデノイド切除術) を検討する.

     3. 外科的治療の適応については, 特に言語発達や構音の異常がみられたり, 難聴によって起きるさまざまな QOL の低下がすでに見られる場合には, より早期に積極的な治療介入を検討すべきである.

  • 高橋 優宏, 岩崎 聡, 岡野 光博, 折舘 伸彦, 加我 君孝
    2018 年 121 巻 3 号 p. 187-192
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     クリオピリン関連周期性症候群は, IL-1β の過剰産生による発熱や激しい炎症を繰り返す自己炎症性症候群である. 2001年 NLRP3 遺伝子変異の発見によって, 家族性寒冷自己炎症症候群 (familial cold autoinflammatory syndrome: FCAS), Muckle-Wells 症候群 (MWS), CINCA 症候群/NOMID (chronic infantile neurological cutaneous and articular syndrome. Neonatal-onset multisystem inflammatory disease: CINCA/NOMID) の3疾患が同一遺伝子変異によるものとして CAPS として統合された. 臨床症状は発熱, 蕁麻疹様皮疹, 結膜炎, 関節炎を反復し, 進行性感音難聴を特徴としている. いずれも100万人に1人という極めてまれな疾患で, 本邦で確認されている患者数は100人ほどである.

     感音難聴について, CAPS3 疾患を比較すると FCAS では難聴はみられず, 全身症状の強く発現する CINCA/NOMID では乳児期から感音難聴の進行がみられ, 時として重度難聴に至る. 全身症状と感音難聴の重症度が重なるため聴覚障害は疾患の鑑別に有用な特徴となる.

     CAPS に対して抗 IL-1 製剤である canakinumab (イラリス®) が保険適応となっている. canakinumab 投与によって長期にわたる高度難聴 CAPS 症例において全身症状だけでなく聴力改善傾向が認められ, 可逆的な蝸牛障害である CAPS 症例が存在することが示唆された. 抗 IL-1 製剤の登場によって劇的に患者の QOL は改善したが, 対症療法であり根治治療ではないため, 聴力についても今後の推移を注意深く観察する必要がある.

  • 城本 修
    2018 年 121 巻 3 号 p. 193-200
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     音声障害の治療は, 耳鼻咽喉科医による医学的治療と言語聴覚士による (発声) 行動そのものに介入する行動学的治療に大別できる. 音声治療は, 健康行動科学理論を背景とした行動変容法に基づいており,「何らかの働きかけ (音声治療) によって, 望ましい発声行動に修正され, その新しい発声行動が一定期間にわたり維持される行動変容法」とも定義される. つまり, 習慣化した望ましくない発声行動を望ましい発声行動に継続的に変える (習慣化する) ことを目的とした言語聴覚士が実施する行動変容法が音声治療であるとも言い換えることができる. したがって, 発声行動の変容ということなので, 患者のアドヒアランスが訓練効果に影響することはいうまでもない.

     音声治療は, これまで言語聴覚士の方法論的観点から, 音声障害患者に実際に発声させながら望ましい発声に修正する直接訓練と音声訓練を全く伴わない間接訓練に大別されてきた. しかし, 音声治療のエビデンスを示すコクランレビューでは, 各訓練単独の治療効果は認められず, 直接訓練と間接訓練の併用訓練のみの治療効果が示されており, 本来は, 両訓練の一体的な治療が必要であることが示唆されている. さらに, 音声治療の頻度に関するレビューによれば, 音声治療は, 平均して1セッションあたり30分か60分が多く, 平均するとほぼ9週で10セッション程度と報告されている.

     近年, 声道と声帯振動の非線形性に着目したストローを利用した声道準狭窄という新しい治療技法が報告されるようになった. まだ, 理論的に十分な検証がなされたとはいえないが, 非常に簡便な方法で実施しやすいので今後, 拡大すると思われる.

原著
  • 白井 杏湖, 齋藤 友介, 河野 淳, 冨澤 文子, 野波 尚子, 鮎澤 詠美, 塚原 清彰
    2018 年 121 巻 3 号 p. 201-209
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     人工内耳装用児の音声を意思伝達手段とした学校生活の実現には, 良好な聴取能に加え, 明瞭な構音が必要となる. 他方, 本邦では人工内耳装用児の構音発達の長期追跡研究はほとんどみられない. 本研究では小学4年生から中学3年生までの人工内耳装用児を対象とし, 構音 (発話明瞭度) の実態と, その関連要因について検討した.

     聴覚印象に基づき構音成績 (発話明瞭度) を5段階で評価 (SIR) し, 手術時年齢, 装用期間, 評価時年齢, 装用閾値, 単語聴取能, WISC による言語性および動作性知能指数, 国語学力, 教育機関との関連を検討した.

     対象は84例, 評価時年齢は平均13歳, 手術時年齢は平均4.3歳, 装用期間は平均8.6年で, ろう学校に43人, 通常学級に41人在籍していた. 構音成績は平均4.2 (5が最も良好) で, 全体の6割の構音が明瞭 (評定5) であった. 語音明瞭度は平均82.6%とおおむね良好であった.

     聴取能, 教育機関, 言語性知能指数, 手術時年齢, 装用閾値, の順に強く構音成績と有意に相関していた. 他方, 生活年齢, 装用期間, 動作性知能, 国語学力との関連は確認されなかった. また, 上記の5つの変数を独立変数とした重回帰分析の結果, 1. 聴取能と, 2. 教育機関, 3. 手術時年齢という3つの変数により, 学齢期の構音成績の約50%を説明できることが明らかにされた. さらに, 各変数の影響を吟味すると, 聴取能の影響が最も大きく, 次いで教育機関, 術時年齢の順で影響していた.

  • 金田 将治, 関根 基樹, 山本 光, 大上 研二, 飯田 政弘, 小倉 豪, 中村 直哉
    2018 年 121 巻 3 号 p. 210-214
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     鼻副鼻腔領域に生じる悪性リンパ腫は頻度が少なく, 節外性リンパ腫全体の3%以下と報告がある. 局所所見や画像所見に多様性があり, 診断に難渋する症例も多い. 当院で診断した鼻副鼻腔原発悪性リンパ腫症例の臨床的特徴を検討した.

     2006年1月~2016年12月の11年間に当科で診断した鼻副鼻腔原発悪性リンパ腫36例を対象とした. カルテ所見, 組織型と局所および CT 画像所見の詳細, 生検で診断に至るまでの経過を検討した.

     組織型は, Diffuse large B cell lymphoma (以下 DLBCL) と NK/T cell lymphoma がそれぞれ15例ずつと症例の大部分を占めた. 局所所見では, 壊死 (5例), 腫瘤形成 (18例) や出血 (9例) に加えて, 一見粘膜が正常で下鼻甲介全体の腫大を呈する症例 (下鼻甲介腫大型 8例) が存在した. CT 所見では, 悪性リンパ腫に特徴的とされる浸透性進展像を呈した症例は2例のみで, 多くは非特異的所見であった. 全例, 鼻腔からの組織採取により診断がなされ, 診断に至るまで3回の生検を必要とした DLBCL の1症例を除き, 1回の生検で診断に至った.

     本検討により, 局所所見として下鼻甲介腫大を呈する症例の存在が確認された. 下鼻甲介腫大型は, 粘膜変化に乏しく異常を認識し難い. CT でも, 鼻甲介全体の腫大所見のみで, 炎症性疾患との鑑別は困難であった. 非特異的所見ではあるが, 著しい下鼻甲介腫大を伴った症例では, 悪性リンパ腫の可能性も考慮し組織検査を検討することが望ましい.

  • 森下 大樹, 佐久間 康徳, 山下 ゆき子, 小松 正規, 柴田 邦彦, 木谷 洋輔, 木谷 有加, 笠井 理行, 松本 悠, 折舘 伸彦
    2018 年 121 巻 3 号 p. 215-221
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー

     目的: 喉頭気管分離術・喉頭摘出術後の重篤な合併症である気管腕頭動脈瘻について, そのリスク因子を検討することを目的とした. 方法: 対象は横浜市立大学附属市民総合医療センター耳鼻咽喉科において喉頭気管分離術・喉頭摘出術を施行された重症心身障害児 (者) 21症例である. 術後気管カニューレ留置を必要とし, 気管内出血の合併症が生じた群 (n=2) を A 群, 術後気管カニューレ留置を必要とし, 気管内出血の合併症が生じなかった群 (n=6) を B 群, 術後気管カニューレ留置を必要とせず, 気管内出血の合併症が生じなかった群 (n=13) を C 群とし, この3群間で術前画像検査での気管前後径, 胸郭前後径, コブ角を検討した. 結果: 気管前後径は A 群 6.6mm, B 群 14mm, C 群 13mm (群間で有意差なし), 胸郭前後径は A 群 21mm, B 群 35mm, C 群 40mm (A 群-C 群間 p=0.03), コブ角は A 群81°, B 群24°, C 群29° (A 群-B 群間 p=0.04, A 群-C 群間 p=0.05) であった. A 群は B, C 群に比べ, 気管前後径, 胸郭前後径が短い傾向を示し, コブ角は有意に大きかった. 考察: 気管前後径, 胸郭前後径, コブ角は気管腕頭動脈瘻のリスク因子と考えられ, 術前画像評価の有用性が示唆された. 過去の文献報告を併せて考察すると, 胸郭前後径20mm以下, コブ角80~90° 以上の症例は気管腕頭動脈瘻のリスクが高いと考えられる.

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