日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 9 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
総説
  • 野々木 宏
    2016 年 119 巻 9 号 p. 1187-1193
    発行日: 2016/09/20
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル フリー

     米国と欧州ガイドラインとともに JRC 蘇生ガイドライン2015が同時発表された. この診療ガイドラインの特徴は, 万国共通の国際的な科学的コンセンサスをもとに加盟国がそれぞれの医療事情に応じたガイドラインを作成していることであり, 他の診療ガイドラインには類を見ないものである. 最も注目される変更点はエビデンスの質を評価するための透明性の高い GRADE システムを採用したことである.
     蘇生方法の今回のポイントは, 病院内外での心停止の予防をさらに強調していること, 市民による心肺蘇生の実施率を上げるため心停止かどうかの判断に自信が持てなくても心肺蘇生と自動体外式除細動器 (AED) の使用を開始することを強調し, それには119番通報時の通信指令台による口頭指導が役立つことを示した. また, 胸骨圧迫と AED の使用法に内容をしぼった短時間の講習や, 学校教育の重要性を示し, 医療機関で行われる体温管理療法や脳機能モニタリングなど, 心拍再開後の集中治療の重要性を強調した. さらには市民の救命処置への参加をさらに促すために, 倫理的・法的課題についても言及した.
     本ガイドラインを普及啓発することで心停止の予防や救命率向上がはかられ, さらにわが国からのエビデンスの発信が期待される.

  • ―急性めまいに対する対応―
    青木 光広
    2016 年 119 巻 9 号 p. 1194-1200
    発行日: 2016/09/20
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル フリー

     急性めまいに対するプライマリーケアとして大切なことは患者の訴える症状の鎮静化とともに, 危険な原因が潜んでいないかを鑑別することである. そのためには専門的な知識に基づく理論的な診療が鍵となる. まず, 症状が強い場合は補液, 制吐剤, 抗不安薬で症状の鎮静化を行う. 急性めまい例では詳細な病歴を聴取することは困難なことが多いが, 少なくとも心血管疾患や中枢疾患の既往は聴取する. 名前を言ってもらうことに加えて, パ行 (口唇音), ガ行 (口蓋音), タ行 (舌音) の発音による構音障害やバレー徴候による上肢麻痺の有無をみる. 聴覚の左右差, 顔面温痛覚の左右差, ホルネル徴候, カーテン徴候の有無など平易な診察で脳幹障害のスクリーニングが可能である. 麻痺がなければ, 鼻指鼻試験や回内回外試験で小脳上部障害を観察する. 起立可能な場合, Lateropulsion は脳幹・小脳障害を示唆する所見となる. 開眼が可能なら, 注視眼振検査, 異常眼球運動, 自発眼振の有無を検査する. 垂直方向への注視障害や眼振は高位中枢障害を疑う所見となる. また, 最も発症頻度が高いとされる良性発作性頭位めまい症 (Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV) の鑑別診断として, Dix-Hallpike 法は必須である. 検査陽性時の診断率が高いことから, BPPV を疑う病歴がなくても可能な範囲で行うべきである. しかし, ルーチンに診察しても, 前下小脳動脈領域の限定的な梗塞のように末梢性めまいとの鑑別が極めて難しい場合もある. そのため, 中枢性が完全に否定できない場合は脳幹・小脳症状の発現がないか経過観察していくことが重要である. 急性めまいに対するプライマリーケアとして, ルーチンワークを確実に行うことで危険なめまいをスクリーニングすることは可能である. また, 中枢性を疑う所見を認めた場合は必要に応じて速やかに他科あるいは他病院へ紹介できる対応が必要である.

原著
  • 和田 佳郎, 山中 敏彰, 北原 糺, 倉田 純一
    2016 年 119 巻 9 号 p. 1201-1209
    発行日: 2016/09/20
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル フリー

     日常診療において原因不明の浮動性めまいを訴える患者は多い. われわれは重力感受性障害が浮動性めまいを引き起こすと考え, その仮説を検証する第一段階として重力感受性を定量的に評価する臨床検査法の開発を行った. 予備実験から, 頭部 roll 傾斜角度が30度以内では頭部傾斜角度 (HTA) と頭部傾斜感覚 (HTP) はほぼ直線関係 (相関係数が身体傾斜条件では0.991, 頭部傾斜条件では0.999) となることを示した. この直線性を利用して, 座位における頭部傾斜時の自覚的視性垂直位 (SVV) と HTA から頭部傾斜感覚ゲイン (HTPG) を求める方法を確立し, 頭部傾斜 SVV (HT-SVV) 検査法と名づけた. 重力感受性は HTPG>1であれば過大, HTPG<1であれば過小と評価できる. 健常人329人を対象に HT-SVV 検査を実施し, 解析結果から HTPG (1.02±0.12, 0.80~1.25), HTPG の左右差指数 (4.7±3.7%, 10.0%以下), 頭部直立 SVV の絶対値 (1.1±0.8度, 2.5度以下) の平均値±標準偏差および基準値 (中央値を含む健常人の95%が含まれる範囲) を求めた. 今後, HT-SVV 検査装置のソフト, ハードの簡便化, 迅速化を進め, 浮動性めまいを中心とする各種めまい患者を対象とした臨床データを検討することにより, HT-SVV 検査法の臨床的意義を明らかにしていく予定である.

  • 渡辺 哲生, 鈴木 正志
    2016 年 119 巻 9 号 p. 1210-1219
    発行日: 2016/09/20
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル フリー

     【目的】今後のスギ花粉飛散予測に役立てるためこれまでわれわれが行ってきたスギ花粉飛散予測について検証した.
     【方法】最近10年間行ってきた総飛散数, 飛散開始, 日々の飛散数について行った予測と実測値を比較した. 総飛散数は花粉供給地域と考えられる日田地区の前年7月日照時間により, 飛散開始は気温変化パターンに基づく方法, 毎日の飛散数は数量化理論2類を用いた方法により予測を行ってきた.
     【成績】総飛散数の予測は平成23年から実測値との乖離が大きくなった. 原因は不明だが, 同時期から日田地区の前年7月日照時間との相関係数が大きく低下して, 中津地区との相関係数が最大となっていた. スギ花粉供給地域の移動が考えられた. 飛散開始日の予測は実測値と予測値の差の平均は3.2日であった. 中津地区をスギ花粉供給地域として再計算すると実測値と予測値の差は縮小した. 毎日の飛散数の予測の的中率は全飛散期では60~70%になるが本格飛散期では40~60%であった.
     【結論】飛散予測は定期的に見直す必要がある. 総飛散数, 飛散開始日の予測はスギ花粉供給地域を考慮する必要がある. 毎日の飛散予測はより精度の高い方法を検討する必要がある.

  • 松﨑 佐栄子, 佐藤 靖夫, 羽生 昇, 仙波 可奈
    2016 年 119 巻 9 号 p. 1220-1224
    発行日: 2016/09/20
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル フリー

     HIV 関連唾液腺疾患 HIV-associated salivary gland disease (以下 HSD) は HIV 感染の初期症状の一つであり, 通常は唾液腺の無痛性, 軟性, 多発性の嚢胞様病変を認める. 今回, HSD に感染を伴い, 両側耳下腺膿瘍を初発症状として HIV 感染の診断に至った1例を経験した. 症例は32歳男性, 両側耳下部腫脹を主訴に当院を受診した. 造影 CT にて両側耳下腺膿瘍を認め, 切開排膿・洗浄および穿刺排膿を行った. 血液検査にて HIV 感染症の診断に至った. HSD では感染を伴い耳下腺膿瘍を呈する可能性が示唆され, 特に両側耳下腺膿瘍の症例では HIV 感染の可能性も検討することが重要と考えられた.

  • 大塚 雄一郎, 根本 俊光, 國井 直樹, 花澤 豊行, 岡本 美孝
    2016 年 119 巻 9 号 p. 1225-1230
    発行日: 2016/09/20
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル フリー

     甲状腺吸引細胞診の最も一般的な合併症である頸部腫脹には2つの機序が知られている. 1つは穿刺部からの出血による血腫形成 (甲状腺内と甲状腺外), もう1つは穿刺刺激に反応した腺内血管の拡張によるびまん性甲状腺腫脹である. 後者は過去の報告で acute and frightening swelling of thyroid と表現される重要な合併症であるが, 適当な名称がないため本文では便宜上 dTSaFNA (diffuse thyroid swelling after fine needle aspiration) と称した. われわれは甲状腺の吸引細胞診後の血腫形成を1例と dTSaFNA を2例経験した.

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