日本耳鼻咽喉科学会会報
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103 巻, 8 号
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  • functional MRIを用いた検討
    鈴木 幹男, 小川 富美雄, 北野 博也, 矢澤 代四郎, 北嶋 和智
    2000 年 103 巻 8 号 p. 879-884
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    音刺激の聴覚野への交叉性投射を調べる目的で単音節刺激時の聴覚野脳活動をfunctional MRIを用いて検討した.対象は聴力正常な成人6名(右利き)である.1秒間に1個の単音節(95dBSPL)を呈示し,OFF-ONパラダイム(OFF;音刺激なし,20秒,ON;音刺激あり,20秒)を4回繰り返した.機能画像は1.5テスラMRI装置(GE社製Signa Horizon)でグラジエントエコーエコープラナー画像(EPI)として得た.EPIはワークステーション上でSPM99bを使用し解析を行い,聴覚野賦活部位を測定した.
    予備実験としてEPI撮像時の騒音を測定した.ERI撮像時の騒音は97dBSPLであったが,MR対応のヘッドホンを使用することにより80dBSPLまで減少させることが可能であった.片耳単音節刺激により主に反対側の1次聴覚野,両側の聴覚連合野に広い賦活部位が観察された.賦活は一次聴覚野より聴覚連合野に著明であった.右耳に単音節刺激を与えた際は左聴覚野に,左耳に与えた際は右聴覚野に有意に広い賦活部位がみられた.このパターンは被験者全員に観察された.この結果から単音節聴取時の音情報は両側の聴覚野に入力されるが,刺激対側の聴覚野に反応が強く交叉性投射が確認された.撮像時の騒音を減少させれば聴覚刺激による反応をfunctional MRIで測定することが可能であり今後臨床応用できると結論した.
  • 栢野 香里, 鈴木 治子, 中野 宏, 林戸 功, 木村 隆保, 立本 圭吾, 西山 彰子, 福島 龍之
    2000 年 103 巻 8 号 p. 885-893
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/12/15
    ジャーナル フリー
    (目的)新生児用自動ABR, natus-ALGOR2e(以下ALGOとする)は,35dBクリック音で発生するABR V波を正常モデル波形とパターンマッチングで比較し,正常/PASSか,異常/REFERかを判定する装置である.新生児用スクリーニングとして用いたときの有用性について,従来のABRと比較検討した.
    (対象と方法)対象は当院NICUに入院した新生児101例202耳で,平均在胎週数34.4±4.3週,平均出生体重2027.7±785.1g,検査時平均日齢42.0±33.9日,平均修正週数40.4±3.0週であった.REFER症例を含む難聴のハイリスク児30例60耳には,従来のABR (NEC SYNAX 2100)も施行し比較した.
    (結果) (1) ALGOは全例,自然睡眠下に施行でき,両側PASSが97例,両側REFERが3例,片側REFERが1例であった.平均測定時間は2分58秒と短時間に行えた.
    (2) 難聴のハイリスク児30例60耳におけるABRとの比較では,ALGOでPASSと判定された53耳のうち,14耳でABRの異常を認めた.この不一致例9例(14耳)のリスク因子としては,低出生体重児が多く,仮死や呼吸障害を多く認めた.5週~12ヵ月後のABR再検では,11耳は正常となり,他の3耳は異常ながら,閾値や潜時の改善傾向を認めた.
    (3) ALGO PASS症例での掃引回数(SWP)に注目すると,ABR正常例より異常例の方が掃引回数が多く,t検定で有意差を認めた.
    (4) ALGO REFER 4例(7耳)は全例,ABRも異常であったが,このうち3耳は12週~11ヵ月後の再検時,ABRは正常化した.このうち1耳はALGOもPASSとなった.
    (考察) ALGOは自然睡眠下に短時間で測定でき,スクリーニングに有用と思われた.難聴のバーイリスク児中,ALGOの掃引回数が多い例で従来のABRと結果の不一致を認めた.このためALGOがPASSであっても,掃引回数が多い場合,従来のABR施行を含め,数回の再検を行うことが望ましいと思われる.
  • 後期第II相試験
    甲能 直幸, 北原 哲, 田村 悦代, 田部 哲也, 中之坊 学, 伊藤 靖郎, 村田 保博, 古川 太一
    2000 年 103 巻 8 号 p. 894-899
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    進行頭頸部癌の局所切除不能例,巨大な頸部リンパ節転移病変を持つ症例の予後は極めて不良である.そこで進行頭頸部瘤局所手術不能例に対して予後の改善を目的として少量化学療法併用照射法の第2相試験を行った.方法はシスプラチン3mg/m2/day,5フルォロゥラシルは150mg/m2/dayを月曜から金曜日の週5回投与した.照射は原則として1.6-2Gyを月曜から金曜日の週5回で総量が約60Gyまで施行した.成績は1996年9月より1999年5月までに35例に施行している.評価可能例33例中,CR17例,PR 9例,MR 3例,NC 3例,PD 1例でRRは79%,GR率は52%であった.また全体の平均生存期間は16ヵ月であった.有害事象は口内炎が最も多くgrade IIIが8例,grade IIまでのものが16例であった.骨髄抑制は白血球減少21例,血小板減少16例,貧血19例であった.以上より本法のDose limiting toxicityは口内炎であると思われた.少量CDDP単独との併用に比べると若干,副作用が強かったが当初予想したほどではなく,許容範囲内であった.臨床的にCRと思われても後に8例に局所再発を来し現時点では本疾患の根治的治療とはなり得ないが,手術不能例に対して検討されるべき治療法と思われた.
  • 石原 明子, 村岡 秀樹
    2000 年 103 巻 8 号 p. 900-904
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    術後性上顎嚢胞の手術法には,上顎洞根本術に準じる経口内法と,鼻内からすべての操作を行う鼻内法とがある.近年の,画像診断および内視鏡下鼻内手術の進歩と普及に伴い,慢襲の少ない鼻内法が適応となる症例が増加しているが,経口内法によらざるを得ない症例も依然としてある.著者らの施設において,1994年7月から1999年6月までの5年間に手術を行った術後性上顎嚢胞の症例は,29例31側であった.そのうち経口内法を必要とした9例9側の画像所見について,検討を加えた.鼻内法で対応できた症例に比べると,1) 嚢胞が外側や前下方に位置する,2) 大きさが小さい,3) 鼻腔との間に骨性の隔壁がある,という特徴が認められた.嚢胞の存在様式はさまざまであるが,個々の症例では,これらの特徴が単独,または複数影響して鼻内法を困難にしていた.
  • 声帯超高速度ディジタル撮影法による検討
    山中 盾
    2000 年 103 巻 8 号 p. 905-915
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    正常成人男性3名を対象として声帯振動のEGG(電気声門図)波形, PGG(光電声門図)波形,超高速度ディジタル撮影装置(以下HSDI)による撮像を同時記録し,声帯振動の1周期における撮像と各波形との対応に関して比較して,声帯振動パタンの解析におけるEGG,PGGの有用性について検討した.被験者ごとに話声位で3段階の音程と3段階の強弱をつけて行い,合計27の発声を記録した.各発声のデータ毎に声門面積波形(GAW),声門横径波形(GWW),EGG波形,differentiated ECiG波形,PGG波形,differentiated PGG波形,音声波形と同期信号を同じ時間軸の上にグラフ化して示し,各波形のパタンを比較した.GAWとGWWの解析から,声帯遊離縁を基にした声門閉鎖パタンと声門開大パタンには発声様式の違いに対応した変化があることが確認された.声門閉鎖時のEGG波形はいくつかのパタンがありHSDI撮像で観察された声帯遊離縁の動きによく対応していた.しかし声門開大時のEGG波形と声帯遊離縁の動きとは閉鎖時ほど明らかな一致が見られなかった.EGG波形は遊離縁の接触の仕方により決まり,EGGは声帯振動パタンの推測に実用的かつ有用であると考えられた.一方PGGとGAWとの間には時間のずれが認められ,PGG波形だけで閉鎖期始点と開大期始点を決定することは難しいと考えられた.従って,PGG波形は開放期の有無や周波数の測定などには有用と考えられるが,1周期毎の声帯振動パタンを推測するには難点があり,声帯振動の解析に適用するには今後も検討を要する.
  • 野村 泰之, 渡辺 佳治, 五十嵐 眞, 須藤 正道, 関口 千春, 石井 正則, 小林 直樹
    2000 年 103 巻 8 号 p. 916-921
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    今回我々は長時間の重力入力方向を変更した際の影響を研究する目的の1モデルとして,2時間にわたる一側側臥の前後で眼球回旋運動を記録解析し,耳石器一動眼系の機能の変化や順応の有無についての研究を行った.
    健常成人男性6名を被験者とし,コンピューター制御の電動傾斜椅子を用いて,鼻•後頭軸のroll面で0度垂直位から90度側臥位への動きと,そのまま2時間の一側側臥負荷を保った状態の後に,側臥位から垂直位へ戻る動きをそれぞれ毎秒1度の等速度で行った.傾斜に伴って認められる眼球反対回旋運動;ocularcounter-rollin(OCR)は,赤外線CCDカメラでの映像を経時的にビデオ記録した.0度垂直位から90度側臥位への傾斜中,傾斜完了時および5分後,そして2時間の一側側臥後に垂直位に戻す間,さらに0度垂直位に戻った時および5分後に暗所開眼で記録し解析した.
    その結果,0度から90度への側臥時と,90度から0度への垂直復位時のどちらの場合でも,重力方向に対し0度と30度の間,特に0度と15度の間で明瞭な眼球反対回旋が確認された.
    そして,にの垂直位付近における往きと復りの回旋角度の大きさには差がなかったにとから,2時間側臥直後で垂直位付近に戻った際のシステムの機能には差がないことが分かった.しかし,2時間側臥後の0度垂直位に戻る過程の90度から45度の区間で,全例に眼球反対反対回旋がみられた.これは戻りの動き始めの時の,耳石の重量による慣性に基づく感覚毛の屈曲およびシステムの機能適応に時間がかかったためと考えられた.
  • 杉浦 むつみ, 大前 由紀雄, 新名 理恵, 池田 稔
    2000 年 103 巻 8 号 p. 922-927
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    難聴の高齢者を対象に補聴器装着前後における心理的ストレスの評価を行った.対象は,難聴を主訴に東京都老人医療センター耳鼻咽喉科を受診した患者のうち,補聴器の装着が適切であると判断された31例(男性11例,女性20例,年齢80.4±5.3歳,66~89歳)である.補聴器装着前後に聴こえに対する自己評価と,新名の心理的ストレス反応尺度のうち情動18項目(うつ•不安•怒り)について質問した.その結果,患者の聴こえに対する自己評価は,装着後に有意(p<0.001)な改善を認めた.また情動18項目(うつ,不安,怒り)における心理的ストレス反応は,うつ,不安,怒りのいずれも有意(p<0.001)な減少を認めた.特にうつについてはストレス反応スコアの減少が著明であった.従って,補聴器の装着は,聴力の改善によるコミュニケーション能力の向上だけでなく,高齢者の心理面にも良い影響を及ほしたと考えられた.精神科領域では老年期にみられる痴呆とうつ状態は相互に影響しあい,互いに移行することが指摘されており,高齢者の心理面より,うつ,不安等の心理的ストレス反応を減少させることは,老年期うつ病の発症や,老年期痴呆への移行を二次的に予防することにもつながる可能性が考えられた.また聴覚障害が痴呆や認知障害の進行や重症度に影響する可能性も指摘されており,補聴器装着による聴力の改善は,痴呆や認知障害の進行を抑制するという観点からも有用であると考えられた.
  • 弘重 光一, 池田 稔, 本藤 良
    2000 年 103 巻 8 号 p. 928-936
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    Ramsay Hunt症候群は,水痘•帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化により発症することが明らかにされている.今回Ramsay Hunt症候群15症例の涙液,顎下腺唾液および耳下腺唾液におけるVZVの分泌動態をPCR法とマイクロプレート•ハイブリダイゼーション法を併用し検討した.ハイブリダイゼーション信号の検出は,ストレプトアビジン標識βーガラクトシダーゼの系を用いて酵素反応産物の蛍光強度をfluoroscanで測定し,数値化することによりウイルスのDNAコピー数を概算し定量化した.
    涙液,顎下腺唾液および耳下腺唾液それぞれよりVZVが検出された.顎下腺唾液からの検出率は72%,耳下腺唾液からは57%と高率にVZVが検出され,涙液からの検出率27%との間に有意差がみられた.また,顎下腺唾液と耳下腺唾液からは比較的発症早期に採取された検体からVZVが検出された.涙液では発症2週以降の検体で検出率が上昇し,分泌腺により検出の時期的違いがみられるとともに,涙液中のVZV DNAは三叉神経節由来の可能性も推察された.VZV DNA検出の経時的な消長は,Ramsay Hunt症候群におけるVZVの再活性化を裏付けるものであった.
  • 古川 朋靖, 渡辺 道隆, 彦坂 興秀
    2000 年 103 巻 8 号 p. 937-948
    発行日: 2000/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    サッケードと眼振急速相は,その発現において脳幹神経回路に共通部分が多いことが知られている.我々は,視覚誘導性サッケード課題(以下.課題)が,前庭入力によって受ける影響をサッケード潜時•振幅•最大速度を指標として用い,検討した.
    対象は健常ボランティア9人.
    課題1:点灯した正面のLEDを注視し,消灯すると同時に左右20°どちらかのLEDが点灯し,被験者は指標に対してサッケードをおこす.課題2:点灯した正面のLEDを注視し,消灯すると同時に左右20°どちらかのLEDがcue刺激として点灯し,後に再点灯する.被験者はcue刺激に対してサッケードをおこす.課題2では,サッケード後の注視の影響や眼球変位を補正する目的に,指標を再点灯させている.エアカロリック刺激のない状態での課題記録をコントロールとして扱った.前庭入力:エアカロリック装置を用い,右耳刺激とした.
    課題1では,前庭入力によってサッケードの振幅•最大速度は,指標の左右ともにコントロールと比較して有意に増大していた.しかし,潜時は影響を受けなかった.
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