日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
118 巻, 6 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 片野 尚子, 宗田 大, 関矢 一郎
    2015 年 118 巻 6 号 p. 723-727
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある三日月型で向き合った2つの線維軟骨で, 衝撃を和らげ安定した膝の運動を担う役目を果たしている. 半月板に断裂・変性等の損傷が生じた場合, 半月板縫合術による温存法が試みられるのは10%に限定され, 切除術が90%に達するのが現状である. 広範囲な半月板切除術は, 2,500万人と推定される変形性膝関節症の悪化因子であり, 変形性膝関節症の発症や進行を防ぐには, 半月板の温存が不可欠である. それには半月板損傷に対する縫合術の適応を広げ, 成績を上げるための工夫が必要であり, その手段の一つが滑膜幹細胞を用いた半月板再生である. われわれは, 軟骨・半月板再生に適した細胞を求めるために, 骨髄をはじめとする各種組織の検討を開始し, 関節包を裏打ちする膜である滑膜に着目した. 次いで, 滑膜由来間葉系幹細胞は増殖・軟骨分化能が高く, 軟骨・半月板再生の細胞源として有用であることを明らかにした. さらに, 細胞浮遊液を10分間軟骨・半月板欠損部に静置することにより, 関節鏡視下での治療が可能であることを示した. この滑膜幹細胞による細胞移植ではわずか14日間の培養で移植に十分な量を得ることができ, 関節の切開を必要としない関節鏡下での操作が可能であるなど, 多くの利点を有している. これらを半月板縫合術に併用することによって, 従来は切除しか方法がなかった変性半月板に対しても温存手術の適応を広げることが可能となり, 現在, 臨床研究を進めている.
  • 藤枝 重治, 坂下 雅文, 徳永 貴広, 岡野 光博, 春名 威範, 吉川 衛, 鴻 信義, 浅香 大也, 春名 眞一, 中山 次久, 石戸 ...
    2015 年 118 巻 6 号 p. 728-735
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     これまで本邦における慢性副鼻腔炎は好中球浸潤が主体で, 内視鏡鼻副鼻腔手術とマクロライド少量長期投与にてかなり治療成績が向上してきた. しかし2000年頃からそれらの治療に抵抗性を示し, 易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してきた. この副鼻腔炎は, 成人発症で, 嗅覚障害を伴い, 両側に鼻茸があり, 篩骨洞優位の陰影があった. 末梢好酸球も多く, 気管支喘息やアスピリン不耐症の合併もあった. このような副鼻腔炎の粘膜には多数の好酸球浸潤が認められていたため, 好酸球性副鼻腔炎と命名された. 好酸球性副鼻腔炎は, 徐々に増加傾向を示してきたが, 好酸球性副鼻腔炎の概念, 診断基準はあまり明確に普及していかなかった. そこで全国規模の疫学調査と診断ガイドライン作成を目的に多施設共同大規模疫学研究 (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study: JESREC Study) を行った. その結果, 両側病変, 鼻茸あり, CT 所見, 血中好酸球比率からなる臨床スコアによる簡便な診断基準を作成した. さらに臨床スコア, アスピリン不耐症, NSAIDs アレルギー, 気管支喘息の合併症, CT 所見, 血中好酸球比率による重症度分類も決定した. 4つに分類した重症度分類は, 術後の鼻茸再発と有意に相関し, 最も易再発性かつ難治性の重症好酸球性副鼻腔炎はおよそ全国に2万人いることが判明した. 治療法については経口コルチコステロイド以外まだ確立されておらず, 早急なる対応が急務と考えている.
  • 春名 眞一
    2015 年 118 巻 6 号 p. 736-744
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     慢性副鼻腔炎に対する ESS は全国で年間約3万件以上施行され, 多くの耳鼻咽喉科医が経験する手術である. しかし, 副損傷を起こす割合は常に約3%程度であるとされ, 眼症などの重篤な副損傷を起こす例も報告されている. このような状況下で, 副損傷を最小限度に抑えるためには, 術者が早期に副損傷の発生に気づくことであり, そのためには, やはり “手術手技の基本に熟達する” ことにつきる. ESS 概念と内視鏡的鼻副鼻腔解剖の理解, 個々の症例での評価 (画像および鼻内所見), 内視鏡操作や器具の使い方などの手術手技の習得, 合併症 (髄液漏, 視器障害, 血管損傷) への対応, 術後管理が挙げられる. 特に手術手技では, 実践に即した適切な器具の使い方と出血を制御した内視鏡視野を確保した術式を学ばなければいけない. 副損傷を起こしやすいパターンは, 出血が多い症例, 再手術などの解剖学的メルクマールを認識しにくい症例である. 今後, 若手医師への安全な ESS の教育および手術指導医の認定も検討すべきである.
原著
  • 濱 孝憲, 佐々木 徹, 川端 一嘉, 三谷 浩樹, 米川 博之, 福島 啓文, 新橋 渉, 瀬戸 陽, 神山 亮介, 蛯名 彩
    2015 年 118 巻 6 号 p. 745-750
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     当院では舌や舌根原発の極めて進行した悪性腫瘍に対する初回治療およびその再発症例に対する救済治療の一つとして舌喉頭全摘出術を施行してきた. 今回2005年1月から2013年6月までに舌喉頭全摘術を施行した口腔癌 (25例), 中咽頭癌 (4例) の検討を行った. 具体的には (1) 治療成績 (2) 術後予後因子 (3) 初回治療症例と救済症例の転帰 (4) 局所制御について検討した. 初回治療症例は13例, 救済症例は16例であった. 疾患特異的5年生存率は45%であり, 年齢, アルコール摂取量および術後病理学的頸部転移リンパ節数が予後因子であった. 5年局所制御率は67%であり29例中20例 (68.9%) が原発および頸部リンパ節転移による死亡を回避している. また, 初回治療と救済治療群間での生存に関する統計学的有意差は認めなかったが再建術後の救済手術では10例中8例の死亡が確認され, 特に前治療から短期間で再発する患者の救済は困難であった.
  • 佐川 公介, 寺田 友紀, 宇和 伸浩, 毛利 武士, 阪上 雅史
    2015 年 118 巻 6 号 p. 751-756
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     2003年から2010年の8年間に兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で声門癌と診断し, 一次根治治療を施行した111症例のうち扁平上皮癌109症例を対象として治療法, 喉頭温存率, 予後等について retrospective に検討した. 性別は男性106例, 女性3例で年齢の中央値は69歳 (51~90歳) であった. TN 分類は T1aN0: 47例, T1aN1: 1例, T1aN2a: 1例, T1bN0: 19例, T2N0: 23例, T2N1: 1例, T3N0: 11例, T4aN0: 5例, T4aN2b: 1例で, 全例初診時での遠隔転移は認めなかった. 一次根治治療は T1, T2 の92例には放射線単独治療 (RT) もしくは化学療法同時併用放射線治療 (CCRT) を行い, T3, T4 病変に対しては CCRT 3例, 喉頭亜全摘出術1例, 喉頭全摘出術を13例に施行した. RT もしくは CCRT 後の再発に対する救済治療は, 喉頭垂直部分切除術を8例に施行し, 喉頭亜全摘出術を2例, 喉頭全摘出術を4例に施行した. 5年粗生存率 (OS): 77.6%, 5年疾患特異的生存率 (DSS): 92.5%であり, T 病期別5年 DSS では T1a: 100%, T1b: 94.1%, T2: 82.1%, T3: 90.9%, T4a: 83.3%であった. 5年喉頭温存率は82.9%, T 分類別では T1a: 100%, T1b: 89.5%, T2: 91.5%, T3: 18.2%, T4a: 16.7%であった.
  • 千代延 和貴, 石永 一, 大津 和弥, 竹内 万彦
    2015 年 118 巻 6 号 p. 757-762
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     魚骨異物は口蓋扁桃や舌根部に多く認められ, 視診のみで診断可能なことが多いが, 口腔咽頭の粘膜下に刺入した魚骨異物は診断および摘出が困難な場合が多い. 今回舌筋層内に迷入した魚骨異物症例を経験した.
     症例は49歳男性で, 鯛を摂食した直後から咽頭痛を自覚し, 近医耳鼻咽喉科にて粘膜下異物が疑われ当科紹介となった. 視診上は口腔咽頭に魚骨を認めず, CT を撮影すると舌筋層内に魚骨異物を認めたため, 緊急手術を行った. 術中にも触診では魚骨を発見できなかったため, 術中 CT 撮影を行い, 魚骨の存在位置を確認し摘出し得た.
     本症例は魚骨が舌筋層内に迷入したまれな症例であり, 異物の存在位置の評価に術中CTが有効であった.
  • 中原 晋, 北村 公二, 本間 圭一郎, 山本 佳史, 竹中 幸則, 安井 俊道, 花本 敦, 森井 英一, 猪原 秀典
    2015 年 118 巻 6 号 p. 763-769
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     化学療法関連死は起こり得るものであるが, 経験することはまれである. 今回, 遺残病変に対して施行した補助化学療法中に発熱性好中球減少症を契機として死亡した上咽頭癌例を経験したので報告する.
     症例は55歳男性, TPF 療法後 day8 に好中球数減少と発熱を認め, day9 にショック状態となった. 全身管理を施行したが, MRSA 肺炎と腸炎が制御できず day43 に永眠となった. 剖検にてサイトメガロウイルス感染も判明したが, 主死因は急性呼吸窮迫症候群によるものと推察された. 文献的考察から TPF 療法における死亡率は2~4%程度と想定されるため, 事前に十分な説明と同意を得た上で慎重に施行すべきと考えられた.
  • 神原 留美, 堀井 新, 大﨑 康宏, 猪原 秀典
    2015 年 118 巻 6 号 p. 770-775
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     血管内リンパ腫は腫瘍細胞が血管内腔で増殖し腫瘍塞栓による多臓器不全を来す予後不良な疾患で, 腫瘤形成を伴わないため早期診断は困難である. 症例は77歳女性で主訴は頭痛, CT で篩骨洞陰影を認め急性副鼻腔炎として抗生剤点滴するも軽快せず, 高熱や急速な全身状態悪化を認めた. 内視鏡下篩骨洞開放術を行ったが, 鼻内に腫瘍性病変は認めず, 鼻腔粘膜生検により血管内リンパ腫と診断された. いったんは化学療法に反応したが, 初診より1年9カ月後に死亡した. 原因不明の発熱や進行性の全身状態悪化を認めた場合, 血管内リンパ腫を疑う必要がある. 鼻腔粘膜は血管に富み手術侵襲も少ないため, 本疾患の生検部位として有用であることが示唆された.
  • 吉福 孝介, 西元 謙吾, 松崎 勉, 牛飼 雅人
    2015 年 118 巻 6 号 p. 776-781
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2015/07/18
    ジャーナル フリー
     頸部悪性リンパ腫により失神を来した74歳男性の症例を経験したので報告する. 左頸部腫脹を主訴として近医耳鼻咽喉科を受診し, 当院救急外来受診となった. 全身 CT 検査では, 左総頸動脈から内頸動脈のほぼ全周を取り囲むような血流の乏しい軟部組織陰影を認め, 全身に多発する腫瘍性病変を認めた. 当科受診後に, 頸部腫瘍からの生検を施行し diffuse large B-cell lymphoma の診断を得た. 当院血液内科にて化学療法施行予定であったが, 失神を来したため即日入院となった. 本症例では, CHOP 療法を施行し, 治療後速やかに頸部腫瘤の縮小を認め, 徐脈や失神発作は消失し, ペースメーカー治療を回避できた.
スキルアップ講座
専門医通信
専門医講習会テキストシリーズ
feedback
Top