日本耳鼻咽喉科学会会報
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118 巻, 1 号
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総説
  • 明智 龍男
    2015 年 118 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     がん患者には約半数に何らかの精神症状がみられることが知られており, 中でも頻度の高い精神症状は, 適応障害, うつ病, せん妄であり, 終末期にはせん妄の割合が高くなる. 頭頸部がん患者においてはアルコール乱用・依存やニコチン依存の頻度も高い. がん患者の精神症状は, QOL の全般的低下, がん治療に対するアドヒアランス低下, 家族の精神的負担の増大, 入院期間の長期化, 自殺など多岐にわたる問題に影響を与え得る. がん患者の自殺は診断後早期の時期に多く, その割合は一般人口に比べて約2倍高いことが知られており, 中でもうつ病をはじめとしたうつ状態が最大の原因である. またがん患者の中でも, 頭頸部がん患者は自殺の危険性が高いことが知られている.
     適応障害の治療はおおむね精神療法と薬物療法に大別されるが, とりわけ精神療法は不可欠であり, 必要に応じて抗不安薬や睡眠薬を併用する方法が一般的である. うつ病に対しては薬物療法の有用性もメタアナリシスで示されており, 精神療法に加えて薬物療法としてアルラゾラムや抗うつ薬が併用されることが多い. せん妄治療の原則は, 原因の同定とそれに対する治療であり, 終末期においても感染症, 薬剤性, 高カルシウム血症によるものは比較的可逆性が高いことが知られている. せん妄への薬物療法の際には, 抗精神病薬が第一選択薬として推奨される.
     これらがん患者の精神症状を看過することなく積極的に対応することで患者の QOL 向上が期待される.
  • ―聴覚 (内耳) の再生―
    神崎 晶
    2015 年 118 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     感音難聴の原因の多くは内耳障害によるものである. ところが, 内耳の細胞の多くは再生しないために, 難治性である. 内耳における細胞はさまざまなタイプの細胞から成立しており, 感覚細胞である有毛細胞, らせん神経細胞をはじめ, らせん靱帯, 血管条を含む外側壁などから構成されている.
     内耳障害の原因として, 加齢, 遺伝性, 音響外傷, 薬剤性, 感染, 免疫異常, 内リンパ水腫 (メニエール病), 原因不明であるが突発性難聴などが挙げられる. これらの内耳障害に対して内耳再生医療は聴力回復のために人工内耳に代わる治療となり得るものであることが期待されていた. 20世紀末以降になると神経領域を含む再生のメカニズムが解明され, 蝸牛や前庭では, 内耳のさまざまな細胞の起源ともいえる「内耳幹細胞」が発見された. 有毛細胞を主として内耳発生のメカニズムから再生に必要である因子についても解明されてきた. その結果, 内耳に存在する内因性幹細胞からの分化誘導, あるいは内耳幹細胞移植によって, 有毛細胞, 神経細胞, らせん靱帯などの細胞を再生させるために理想的な治療法として期待される.
     本稿では内耳再生のために内耳のさまざまな細胞の増殖および分化にかかわる最近の研究の取り組みを示すとともに, 臨床応用に向けた今後のロードマップを検討した.
     また上記治療はいずれも内耳局所投与によるものであり, 効率的, 確実かつ安全な投与法のために, われわれが取り組んでいる内耳内視鏡などの開発についても示した.
  • 松島 俊夫, 勝田 俊郎, 吉岡 史隆
    2015 年 118 巻 1 号 p. 14-24
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     頸静脈孔と舌下神経管は頭蓋底深部に位置し, さらにその周囲の複雑な構造のため外科的に到達困難な部位の一つである. しかもそれらに腫瘍性病変が発生すると, 頭蓋内外へ進展するため, 耳鼻咽喉科医と脳神経外科医の両者で取り扱われる境界領域でもある. この領域の外科治療を行うためには, 項部筋肉や, 側頭骨, 顔面神経管, 乳様突起, 茎状突起, 後頭顆, 環椎後頭骨関節, 環椎横突起などの骨構造や, S 状静脈洞, 頸静脈球, 内頸静脈とそれらに交通する周囲の静脈網, 近傍を走行する内頸動脈, 椎骨動脈などの血管構造も十分に理解しておく必要がある. また, 顔面神経を含む脳神経の走行も重要である. 手術アプローチを選択する際には, 環椎後頭骨関節が不安定にならないための骨削除範囲の配慮も必要になってくる. それ故, 術前画像検査では, 同部腫瘍の進展範囲と周囲重要構造物との位置関係や腫瘍による骨破壊範囲をできる限り詳しく術前から読影することが重要である.
     本稿では, 屍体を用いこの領域の詳細な解剖を呈示し, その上で同部の画像解剖や到達困難な外科的到達法について脳神経外科医の立場から解説する. 同部に発生した腫瘍は頭蓋内外へ進展するため, 多くの症例で一方向からのみですべてを露出することはできない. 症例毎にいくつかの手術アプローチを単独でもしくは組み合わせて手術を行っている. また近年, 診断と治療が容易にできるようになったこの部の硬膜動静脈瘻や舌咽神経痛についても簡単に紹介する.
原著
  • 間多 祐輔, 越塚 慶一, 伊原 史英, 植木 雄司, 今野 昭義
    2015 年 118 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     唾液腺に発生する悪性リンパ腫の占める割合は約1~4%と比較的まれであるが, シェーグレン症候群に合併することが多く, 持続性唾液腺腫脹の鑑別疾患として耳鼻咽喉科医は念頭に置いておく必要がある. 今回われわれは, 唾液腺 MALT リンパ腫を7例 (耳下腺6例, 顎下腺1例) 経験したので, 文献での報告例43例 (耳下腺37例, 顎下腺3例, 小唾液腺3例) とあわせて臨床的検討を行った.
     自験例, 報告例ともに主訴は無痛性唾液腺腫脹が大多数を占め, 疼痛, 顔面神経麻痺など悪性を疑わせる所見は認めなかった. 腫瘤は孤立性結節性のものが18例と最も多く, 次いでびまん性腫瘤像を呈するものが6例であった. シェーグレン症候群の合併頻度は50例中24例 (48%) であった. 穿刺吸引細胞診で悪性リンパ腫が疑われたのは11例中4例 (36.7%), また画像所見で悪性が疑われたのは29例中11例 (37.9%) であり, いずれの検査も感度が低く, 術前診断は困難と考えられた. 持続性無痛性唾液腺腫脹を呈する症例ではまず超音波検査で唾液腺腫瘍の有無を評価することが診断への一歩である.
     治療法については症例数が少ないこともあり, 各施設が症例ごとに治療を選択しているのが現状である. 初回治療が予後にかかわるとの報告があるため, 適切な選択が重要となる. 病変が局所にとどまる場合には手術あるいは放射線治療を行い, 病変が全身に拡がっている場合には化学療法を選択するのが現状ではよいと考えられる.
  • 花川 浩之, 井口 郁雄, 綾田 展明, 江草 憲太郎, 銅前 崇平, 皆木 正人, 福増 一郎, 河野 達也, 三浦 直一, 高田 晋一, ...
    2015 年 118 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     喉頭原発神経内分泌腫瘍は比較的まれであるが, 神経内分泌腫瘍に扁平上皮癌を含めた他の組織型を混合する腫瘍はさらにまれである. 今回われわれは非定型カルチノイドに扁平上皮癌を合併する症例を経験した. 症例は79歳男性, 主訴は痰であった. 喉頭ファイバーで右声門上部を原発とする隆起性腫瘍を認め, 右声帯は固定していた. 直達喉頭鏡下に生検を行い扁平上皮癌と診断された. 画像検査と合わせて T3N1M0 Stage III と診断. 喉頭全摘術, 右頸部郭清術を施行した. 病理検査にて同一腫瘍内に非定型カルチノイドと扁平上皮癌を認めた. リンパ節転移が2つあり, いずれも非定型カルチノイドの転移であった. 術後放射線照射を行い, 術後4年5カ月経過したが再発なく生存している.
  • 植木 雄志, 松山 洋, 森田 由香, 高橋 邦行, 山本 裕, 髙橋 姿
    2015 年 118 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     頭蓋底骨髄炎は, 高齢糖尿病患者での緑膿菌を起炎菌とした悪性外耳道炎からの炎症波及が典型例とされてきたが, 近年それらの特徴を持たない非典型例も報告されており, その病態は複雑化している. 当科で治療した頭蓋底骨髄炎5症例について検討を行った. 症例は全例男性で, 年齢は平均75.2歳, 4例で糖尿病の合併を認めた. 3例は悪性外耳道炎から生じた典型例で, 2例は側頭骨に異常を認めない非典型例と考えられた. 起炎菌は, 4例で緑膿菌が, 1例でアスペルギルスが検出された. 全例で強力な抗菌薬による治療を行い, 2例を救命したが, 3例は死亡した. わが国では頭蓋底骨髄炎は予後不良な疾患であり, 早期診断と強力な抗菌薬の長期投与が治療成績向上に必須と考えられた.
  • 寺田 友紀, 宇和 伸浩, 佐川 公介, 毛利 武士, 貴田 紘太, 佐伯 暢生, 阪上 雅史
    2015 年 118 巻 1 号 p. 46-52
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     今回われわれは妊娠中に発症した舌癌に対し, 妊娠を継続しながら遊離皮弁による再建術を施行し, 母子ともに良好な経過が得られたので報告する.
     症例は33歳, 女性. 右舌縁部腫瘍を認め, 他病院で舌癌と診断され妊娠25週4日で当科を受診した. 諸検査の結果, 舌癌 (T2N0M0) と診断した.
     妊娠28週0日, 気管切開, 予防的頸部郭清, 舌半切除術, 前外側大腿皮弁 (以下 ALT flap) による舌再建術を施行した. 術後経過は母体および胎児とも良好で, 妊娠38週6日, 当院産婦人科に緊急入院となり, 同日自然分娩にて女児を出産した. 術後2年10カ月経過した現在, 舌癌の再発や転移は認めず, 女児の発育や成長に異常を認めていない.
  • 丸山 裕美子, 塚田 弥生, 平井 信行, 中西 庸介, 吉崎 智一
    2015 年 118 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     Vocal cord dysfunction (VCD) における声帯奇異運動は一般的に一過性かつ発作性である. われわれは36例の VCD 加療経験の後, 持続的に声帯奇異運動を認める症例を経験し, 声帯奇異運動が「口すぼめ吸気法」施行中に改善し呼吸法中止により再発することを確認した. VCD は気道刺激に対する声門閉鎖反射亢進と, 吸気時の声門下陰圧に対する能動的声帯内転運動により生ずると考えられている. 今回われわれが初めて提唱した「口すぼめ吸気法」は, 緩徐な吸気の実現を容易にし, 声門上腔の陰圧化により声門上下腔の気圧差を減少でき, 器具を用いず即実行できる簡便な方法であり, VCD に対し試行する価値があると考える.
最終講義
  • ―耳鼻科医としての40年間を振り返って―
    暁 清文
    2015 年 118 巻 1 号 p. 62-69
    発行日: 2015/01/20
    公開日: 2015/02/05
    ジャーナル フリー
     本稿は著者が愛媛大学で行ってきた耳科学領域の研究成果をまとめ, 最終講義で発表した内容の要約である. 人工内耳の研究では, 内耳電気刺激による動物の聴覚はABRで評価できることを示すとともに, 電極埋め込み部位と電気聴覚閾値の関係, 電極に対する内耳の組織反応, 過大電流刺激時の副損傷などを明らかにした. その後, 海外で開発された single channel や multi-channel の device を聾患者に埋め込み, 電気刺激で実用レベルの聴覚が得られることを確認した. 通産省工業技術院のプロジェクトである人工中耳の研究では, 振動子のデザインや機能評価,臨床試験などを担当し, 試作機完成後は混合難聴患者にこれを埋め込み, 新しい難聴治療の道を切り開いた. 突発性難聴の研究では, 画像検査や血清検査, 遺伝子解析などで本症の病態を探索した. その結果, 本症の発症には PRKCH の一塩基多型 (SNP) が関係しており, 内耳循環障害説が示唆された. さらにスナネズミを用いた実験で, 一過性内耳虚血は内有毛細胞を主に障害すること, 障害メカニズムには ATP 欠乏による energy failure のほかに, 窒素酸化物 (NOx) や活性酸素, glutamate が関与すること, などを明らかにした. また内耳には虚血耐性が備わり内耳を保護していること, 低体温には虚血性内耳障害を防御する効果があること, 内耳低体温療法は臨床的にも有効なこと, などを証明した. 真珠腫と耳小骨連鎖の研究では, 真珠腫遺残の頻度や好発部位, 外耳道骨欠損の発症頻度などを調査するとともに, アパセラム人工耳小骨の開発や骨パテコレクター, 軟骨スライサーの本邦への導入・普及に貢献した. 耳小骨振動の研究では, 耳小骨連鎖は低音域ではピストン様に振動するが, 中高音域では仮想振動軸自体が動く, いわゆる揺動支点の周りを振動することを明らかにした.
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