日本耳鼻咽喉科学会会報
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118 巻, 3 号
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総説
  • 金井 信雄, 岡野 光夫
    2015 年 118 巻 3 号 p. 171-175
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      再生医療の分野において, 日本は iPS 細胞などの基礎研究から, 細胞シート工学を用いたヒト臨床応用など世界に先駆けて研究開発が進んでいる. 東京女子医科大学の筆者らのグループは, 培養細胞を平面上のシート状に回収し, 単層もしくは積層化して利用する独自の概念「細胞シート工学」 (cell sheet engineering) を提唱し, 研究開発を進めてきた. この日本発の細胞シートテクノロジーを利用して開発された再生治療が, 角膜・心筋・食道・歯根膜・関節軟骨などの領域で, 実用化が始まっていて, 日本だけでなく海外の患者にまで届けられ始めている. また2014年 iPS 細胞から分化誘導された細胞を用いた世界初のヒト臨床研究も理化学研究所において開始されている. 再生医療の実用化を加速させるための法整備として2014年11月「医薬品医療機器法 (改正薬事法) 」「再生医療安全確保法案」が施行される. 前者は安全性が確認され, 効果が推定されるなら, これまでより少ない症例数でも条件付きで製造や販売が可能とした内容で, 後者は特定細胞加工物の製造の民間委託を可能とした内容である. こういった法整備が進むことにより, 再生医療の実用化に向けて大学や公的研究機関だけでなく, 製薬会社をはじめとした幅広い企業が参入して, 産業化に向けた技術開発が進んでいくと期待される.
  • ―アレルギー性鼻炎と鼻副鼻腔炎について―
    工藤 典代
    2015 年 118 巻 3 号 p. 176-181
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      小児の鼻疾患の代表は患者数の多さからもアレルギー性鼻炎と鼻副鼻腔炎と考えられる. わが国では, ともに診療ガイドラインが公表されており, それに沿った診療が行われている. 小児専門病院で診療を行っていた経験から, 子どもが自分の症状を医療者に訴えられるのか, 実際に保護者も含め患者側は症状を把握できているのか, と疑問を持っていた. 耳鼻咽喉科診療所の協力を得て, 調査したところ, 患者側の症状の程度と医師側の鼻所見とは乖離があることが分かった. ことばで表現することが難しい小児の診療では, 「子どもは正確に症状を訴えられない」ことを理解した上で, 鼻治療を進める必要がある.
      アレルギー性鼻炎の診断においては, 小児特有の症状 (physical sign) と鼻所見を把握するのが重要と考えている. 小児を対象に, 検査所見や鼻所見との関係を調査した結果, 鼻汁中好酸球数が (+ + +) の際には, 鼻粘膜の色調が蒼白であった. そのことから, 詳細に鼻症状を問診し, 鼻粘膜の色調を把握し, 鼻汁中好酸球数を参考にしてアレルギー性鼻炎の診断を行っている.
      アレルギー性鼻炎の症状の中で, 鼻閉は最も気になる症状の一つである. 保存治療に抵抗する高度の鼻閉に対しては, 下鼻甲介粘膜下切除術を行っている. 経年的な鼻症状の変化を調査したところ, 3年後も鼻閉などの鼻症状の改善に大きな効果が得られることが分かった.
      鼻副鼻腔炎では「診療ガイドライン」や「副鼻腔炎診療の手引き」があり, それらを参考に診療を進める. 鼻疾患の治療には鼻汁吸引や自然口開大処置などの局所処置が重要である. 鼻汁吸引は頻回に実施したいところであるが, 通院できない場合は,家庭でできる鼻汁吸引を勧めている.
  • 内藤 泰
    2015 年 118 巻 3 号 p. 182-191
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      側頭骨は狭い領域に微細で機能的に重要な構造が密集しており, わずかな所見の違いが大きな症状の違いに対応することが少なくない. 対象となる病態も先天奇形から感染・炎症, 外傷, 腫瘍など多岐にわたり, その中で, 画像診断は正確な診断, 予後予測, 治療効果の評価と経過観察に重要な役割をはたす. また, 同じ側頭骨内でも対象となる部位や想定する病態によって, CT と MRI を適切に使い分ける必要があり, 軸位断, 冠状断, 矢状断など断面方向の選択も重要である. また, 場合によっては PET も CT/MRI では得られない情報をもたらす. 側頭骨の画像診断では, まずその立体的な解剖構造を把握して一般的疾患の基本所見を理解するとともに, 臨床上で遭遇した希少例について, その都度, 成書や文献などで十分調べて正確な診断を行う経験を積み重ねることが読影力向上につながる.
原著
  • 栗田 卓, 梅野 博仁, 千年 俊一, 上田 祥久, 三橋 亮太, 中島 格
    2015 年 118 巻 3 号 p. 192-200
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      喉頭乳頭腫への望ましい臨床的対応を明確にすることを目的とし, 喉頭乳頭腫60例の統計学的検討を行った. 各症例は発症年齢で若年発症型と成人発症型に, 発生様式で単発型と多発型に分類した. 性別は成人発症型で有意に男性が多かった. 発生様式は若年発症型では多発型, 成人発症型では単発型の症例が有意に多かった. 乳頭腫が最も高頻度に発生していた部位は声帯であった. 乳頭腫の再発率に関して発症年齢で比較すると, 全症例の解析では, 成人発症型に比して若年発症型の再発率が有意に高かった. しかし, 発生様式別の層別解析では, 単発型と多発型ともに若年発症型と成人発症型の再発率に有意差や傾向を認めなかった. 再発率に関して発生様式で比較すると, 全症例の解析では単発型に比して多発型の再発率が有意に高かった. 発症年齢別の層別解析では, 若年発症型では多発型は単発型に比して再発率が高い傾向があり, 成人発症型では, 多発型は単発型に比して再発率が有意に高かった. 治療は CO2 レーザー蒸散術が最も多く行われていた. 補助療法としてインターフェロンや cidofovir の局注が行われていた. 乳頭腫の悪性化例は3例であった. 乳頭腫への初治療から悪性化までの期間は3~40年と幅があり, 発症から悪性化までの期間に傾向はみられなかった. 今回の検討から, 発症年齢にかかわらず多発型の症例では再発に留意すべきと考えられた. 再発や悪性化の観点から喉頭乳頭腫に対しては長期間の経過観察が望ましい.
  • 福本 一郎, 根本 俊光, 佃 朋子, 越塚 慶一
    2015 年 118 巻 3 号 p. 201-205
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      当科において2009年10月から2011年12月の27カ月間に急性感音難聴として入院加療を行った95例を検討し, 診断後に聴力が悪化した症例とその他対照群とを比較した. 聴力悪化の条件は250Hz から4,000Hz の5周波数の聴力閾値平均が10dB 以上悪化, ないし連続した2周波数で各15dB 以上悪化したものとした.
      悪化群は95例中22例 (23.2%) で, 割合については過去の報告と大差はなかった. 突発性難聴の重症度分類を用いると, 悪化群22例は対照群73例に比して難聴のグレードは高かったものの, 聴力予後は不良ではなかった. 22例の中にはステロイド依存性難聴 (6例) や内耳窓閉鎖術施行例 (4例) がみられたが, 外リンパ瘻疑い症例も含め原因不明なもの (10例) も多く認めた. 急性感音難聴と診断された後に聴力が悪化した場合は, 副腎皮質ステロイドの慎重な漸減や内耳窓閉鎖術など, 症例に応じた治療法の選択が重要であると考えられた.
  • 川崎 泰士, 和佐野 浩一郎, 鈴木 法臣, 山本 さゆり, 小川 郁
    2015 年 118 巻 3 号 p. 206-212
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      【目的】悪性リンパ腫系疾患はリンパ節生検の病理結果で確定診断されるが, 生検の術前データを参考に手術を行うか経過観察するかを決定することが多い. しかしながら現状ではリンパ節生検を行うか否かの明確な基準は少ない. 今回, われわれは当院で過去にリンパ節生検を行った症例について後ろ向きに術前データの有用性を検討した.
      【対象と方法】対象は当院で2006年1月1日から2012年12月1日までにリンパ節生検術を行った100症例中, 術前に悪性リンパ腫を疑った77症例 (悪性リンパ腫系疾患40例, 非悪性リンパ腫系疾患37例) である. 術前の ①年齢, ②性別, ③白血球数, ④リンパ球数, ⑤リンパ球 (%), ⑥好酸球 (%), ⑦単球 (%), ⑧異型リンパ球 (%), ⑨ Hb 値, ⑩ LDH 値, ⑪ CRP 値, ⑫可溶性 IL-2R 値, ⑬細胞診のデータについて悪性リンパ腫と非悪性リンパ腫で統計学的に有意差を認めるか比較検討した.
      【結果】13項目中5項目すなわち,リンパ球 (%) (p 値0.0005), 可溶性 IL2-R (p 値0.04), 細胞診の結果 (p 値0.0006), 年齢 (p 値0.003), リンパ球数 (p 値0.005) で悪性リンパ腫と非悪性リンパ腫に有意差を認めた. このうち4項目でさらに多変量解析を行ったところリンパ球 (%) と細胞診で病理結果との間に強い相関性を認めた. ほかのデータでは有意差を認めなかった.
      【結語】悪性リンパ腫系疾患に対する術前検査でリンパ球 (%) 低下と細胞診はリンパ節生検術前の有用な指標となる可能性が考えられた.
  • 石岡 薫, 神崎 仁, 原田 竜彦, 高梨 吉裕, 篠永 正道, 北村 創
    2015 年 118 巻 3 号 p. 213-218
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
      側頭骨原発の軟骨芽細胞腫はまれである. われわれは中頭蓋窩経由で手術を施行し, 8年間再発を認めなかった1例を経験した. 症例は37歳女性. 右難聴, 開口時痛を訴えたが, 近医ならびに当院初診時の聴力検査では正常範囲であった. 経過観察中に耳漏が出現し, 外耳道に膨隆した腫瘍を認め, 聴力検査でも伝音難聴を示した. 生検での病理診断は当初, 巨細胞腫の診断であった. 平成17年中頭蓋窩法で手術を行った. 腫瘍は下顎関節窩より中頭蓋窩に進展, 上鼓室にも侵入していた. 中頭蓋窩法にて腫瘍を全摘し, 耳小骨連鎖は保存した. 最終的な病理診断は S 蛋白陽性であったことから chondroblastoma となった. 術後は聴力が回復し, 術後8年以上経過した現在まで MRI にて腫瘍の再発などを認めない.
  • 榎本 圭佑, 清水 康太郎, 廣瀬 正幸, 宮部 はるか, 森実 夏衣, 竹中 幸則, 島津 宏樹, 伏見 博彰, 宇野 敦彦
    2015 年 118 巻 3 号 p. 219-223
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
     甲状腺髄様癌の再発にて判明した多発性内分泌腫瘍症 (MEN2A) /家族性甲状腺髄様癌症候群 (FMTC) の1例を経験した. 症例は42歳・男性, 7年前に他院で甲状腺髄様癌の切除手術 (左葉と左気管周囲・左側側頸部リンパ節) を施行. 術後残存右葉に再発を疑われ, 当センターへ紹介となった. RET 遺伝子検査にてコドン618の遺伝子変異を認め, MEN2A もしくは FMTC と診断した. 全身検索の後, 甲状腺右葉と右気管周囲および右側側頸部リンパ節の切除を行った. 甲状腺髄様癌を診療する場合には, RET 遺伝子の検査が推奨される. RET 遺伝子変異を認めた場合, 甲状腺全摘を行う必要がある.
  • 赤澤 吉弘, 明石 愛美, 阿久津 征利, 三上 公志, 深澤 雅彦, 春日井 滋, 坂本 三樹, 肥塚 泉
    2015 年 118 巻 3 号 p. 224-228
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
     若年型喉頭乳頭腫は多発性, 再発性で難治なことがあり, 取扱いの難しい疾患である. 今回, 喉頭乳頭腫により気道狭窄を来し, 緊急気道確保を要した症例を経験した. 症例は2歳4カ月の男児で, 1歳頃から嗄声, 1歳6カ月頃から陥没呼吸を認めていた. 前医で重度喘鳴を認め, 喉頭乳頭腫による気道狭窄が疑われ, 救急搬送された. 手術室で気管切開待機のもと, 麻酔科による気管内挿管が行われた. 喉頭は腫瘍で充満し, 声門は観察できなかった. 後日, 全麻下にマイクロデブリッダーを用いて腫瘍を除去した. 病理は乳頭腫で, HPV11 が検出された. 初回手術から早期に再発傾向を示し, 半年間に4回の手術を施行したが腫瘍の制御には至っていない.
最終講義
  • ―われわれの辿った道と今後の展望
    岸本 誠司
    2015 年 118 巻 3 号 p. 229-239
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/17
    ジャーナル フリー
     頭蓋底は脳頭蓋と顔面頭蓋の境界に位置し, 多くの血管や神経が存在し複雑な構造を呈している. さらに顔面深部に存在するため, ここに生じる病変の診断治療は困難である. 特に手術においては生命予後に直結する頭蓋内合併症に加えて顔面神経, 視覚, 嚥下, 咀嚼, 構音, 整容といった患者 QOL に直結する問題が生じるため, 極めて高度な手技が要求される. そのため, 頭蓋底手術を安全に行うためにはチーム医療の確立, 新たな手術手技の開発や機器の導入と解剖学的検討に基づく十分な知識が必要不可欠である. さらに内視鏡手術などの minimally invasive surgery の開発による機能や形態の温存や, 術後合併症に対する機能再建外科を確立する必要があるが, そのためにはこれまでの知識と技術を伝承していくことが非常に重要である. 本稿では頭蓋底手術に関するわれわれのこれまでの取り組みと得られた新知見, ならびに今後の展望について述べる.
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