日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 6 号
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総説
  • 高橋 和男, 湯澤 由紀夫
    2016 年 119 巻 6 号 p. 833-839
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     IgA 腎症は最も高頻度な糸球体腎炎で, わが国の腎生検の約1/3が IgA 腎症と診断される. 腎生検後20年で約20~40%の症例が末期腎不全に陥り, 国の難病指定をうけている. 1995年に, 厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班と日本腎臓学会の合同委員会により, 初めて「IgA 腎症診療指針」が公表され, 2002年には「IgA 腎症診療指針―第2版―」が, さらに2011年には「IgA 腎症診療指針―第3版―」が提示された. これらの診療指針は, 臨床や病理診断の場で広く活用され, わが国における IgA 腎症の診断・治療に大きく貢献してきた. 2011年に Kidney Disease Improving Global Outcomes(KDIGO) より, 臨床試験の体系的なレビューによる推奨レベルが示された, 糸球体腎炎のための KDIGO 診療ガイドラインが発表された. しかし, 日本の実臨床において, 口蓋扁桃摘出術 + ステロイドパルス療法 (扁摘パルス療法) が広く施行されており, KDIGO 診療ガイドラインがそのまま当てはまるかは慎重な判断を要した. そこで, 日本における疫学, 診断, 重症度分類, 治療方法を踏まえ, 実臨床により使用しやすいエビデンスに基づくガイドラインとして, 厚生労働省進行性腎障害に関する調査研究班と日本腎臓学会は,「エビデンスに基づく IgA 腎症診療ガイドライン2014」を作成した. 本稿は, そのガイドラインの特徴について概説した.
  • ―聴覚―
    山下 裕司, 菅原 一真
    2016 年 119 巻 6 号 p. 840-845
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     老人性難聴は高齢者における QOL を著しく障害する疾患であり, 罹患者が多いことが特徴である. 社会の高齢化が進めば, 老人性難聴の問題は今後ますます深刻化することが懸念される. 老人性難聴の発症に影響を与える因子としては, 遺伝的要因, 騒音曝露歴, 喫煙, 糖尿病・循環器疾患などの合併, 性ホルモンなどが挙げられている. 糖尿病, 高脂血症, 肥満を特徴とするメタボリック症候群は老化を促進することが知られているが, 動脈硬化や炎症を促進し, 組織における酸化ストレスの原因となる. 過剰な活性酸素はミトコンドリア DNA の損傷を来し, その結果として内耳感覚細胞がアポトーシスへと導かれることにより機能障害が生じる. したがって, 老人性難聴の予防戦略としては, 騒音曝露の機会減少, 禁煙, 成人病対策などの影響因子の減少が重要である. また, 老人性難聴の分子生物学的な発症機序からは, 有効で適切な抗酸化剤の投与, カロリー制限などによるミトコンドリア機能の維持, 熱ショック応答誘導などのアポトーシスの抑制などが, 有効な発症予防の戦略になる可能性がある.
     本稿では, 当教室で行っている動物モデルを用いた基礎研究を紹介した. 内耳感覚細胞を保護する方法として, 内耳に熱ショック応答を誘導する方法を開発した. 熱負荷やテプレノンの投与により内耳に熱ショック応答が誘導され, 老人性難聴モデルマウスの難聴が抑制された. 一方では, メタボリック症候群モデルマウスの難聴に対しては, カロリー制限を行うことで, 内耳血管障害を抑制し難聴の進行を予防できた. これらの結果は, 今後ヒトの老人性難聴を予防する方法を検討する上で重要な知見である.
  • ―耳鼻咽喉科の立場から―
    冨田 俊樹, 小澤 宏之
    2016 年 119 巻 6 号 p. 846-853
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     頭蓋底外科はこれまでオープンサージェリーが主流であったが, 最近になって経鼻内視鏡頭蓋底手術 (endoscopic endonasal skull base surgery: EESS) が行われるようになってきた. EESS は, 正常な脳を触らずに頭蓋底へアプローチできること, 頭部や顔面に傷が残らないことが大きなメリットである.
     実際の手術は, アプローチ, 腫瘍摘出, 頭蓋底再建の3段階に分けられる. はじめに耳鼻咽喉科医が内視鏡下副鼻腔手術に準じて外鼻孔から頭蓋底に通じる surgical corridor をつくる. 腫瘍摘出の局面では, 脳外科医が参加して four hands surgery を行う. 欠損状況に応じて, さまざまな方法で頭蓋底を再建する. 鼻中隔粘膜弁や頭蓋骨膜弁などの pedicle flap が開発され, EESS の安全性が向上した.
     EESS の対象として, 下垂体腫瘍, 髄膜腫, 脊索腫などの脳外科疾患が多い. 耳鼻咽喉科疾患として, 鼻性髄液漏, 視神経管骨折, 鼻副鼻腔腫瘍, 錐体尖コレステリン肉芽腫などがある. minimally invasive から始まった EESS であるが, 現在では minimal access & maximally aggressive という表現が適切である. 一方, EESS の限界を見極めてオープンサージェリーに変更できる体制を整えておくことも重要である.
     難治性疾患が多い頭蓋底領域に, 内視鏡が導入され約20年が経とうとしている. 脳外科とのチームで行う EESS は患者中心医療の理想型である. 多彩なサブスペシャリティーが参入しさらに発展していくことが期待される.
  • 坂本 達則, 山本 典生, 伊藤 壽一
    2016 年 119 巻 6 号 p. 854-859
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     術中撮影用に新たに開発されたコーンビーム CT (CBCT) 装置である 3D Accuitomo M を使用する機会を得た. 術中 CT 撮影が有用であった症例として上顎洞異物・副鼻腔炎, 人工内耳, 鼓室形成, 翼口蓋窩・副咽頭間隙腫瘍について提示する. この装置による術中画像診断を行うことは, 術中の手術経過・完了の確認, ナビゲーションのアップデート, 教育上の効果, 患者や家族への説明等, 多くの有用性があると考えられた. 装置は狭い手術室でも取り回し可能で, 時間的にも大きな負担なく撮影可能であったが, 専用のヘッドレストが必要であること等による若干の配慮が必要であった. CBCT は軟部組織のコントラスト解像度が悪いという技術的制約があるが, これに対して, X 線造影糸を織り込んだマーカーの使用や造影剤の使用を試み, 一定の効果があったが, 技術的改良の余地があると考えられた.
原著
  • 橘 智靖, 折田 頼尚, 牧野 琢丸, 小河原 悠哉, 松山 祐子, 清水 藍子, 中田 道広, 丸中 秀格, 西﨑 和則
    2016 年 119 巻 6 号 p. 860-866
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     喉頭肉芽腫症例64例を対象に, 臨床学的諸因子が治療経過に及ぼす影響, および Grading の有用性について検討を行った. Grading は Wang らが提唱した分類にしたがって, 声帯突起より後方に限局しているものを Grade I, 声帯突起を超えて前方に進展するものを Grade II とした. 男性54例, 女性10例, 平均年齢は54.8歳であった. 喫煙習慣は41.3%, 飲酒習慣は54.7%に認めた. BMI は平均23.1であった. 胃食道逆流症は17.2%に認め, 気管内挿管歴は12.5%に認めた. 保存的治療で病変の消失が得られない症例に対して外科的切除を行った. 67.5%に術後の再発を認めた. 最終的に消失が得られた症例は79.7%であった. 術後の再発率は男性が女性に比べ有意に高く (p=0.0268), 60歳未満は60歳以上に比べ術後再発しやすい傾向にあった (p=0.0601). 最終的な消失率に関して, 60歳以上, BMI 23未満, Grade I は, 60歳未満, BMI 23以上, Grade IIに比べ有意に高かった (p=0.0284, 0.0103, 0.0001). 多変量解析においても, Grade I と Grade II の間に有意差を認めた (p=0.0032). Grading を行うことによって, 最終的な消失を予測する因子となり得ることが示唆された. また年齢, 性別, BMI は喉頭肉芽腫の経過を予測する因子となる可能性が示唆された. 
  • 丸山 裕美子, 笠原 善弥, 塚田 弥生, 荒井 和徳, 米田 憲二, 室野 重之, 吉崎 智一
    2016 年 119 巻 6 号 p. 867-873
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     口蓋扁桃摘出術は主に良性疾患に対し若年者を対象として行われることが多い一般的な手術であるが, 時に致死的経過をたどる危険性をもつ. 今回19歳女性の扁桃摘出術中に制御困難な咽頭出血を認め選択的動脈塞栓術により救命し得た症例を経験した. 扁桃摘出術中の重篤な出血に対する血管内治療はこれまで報告されていないが, 安全で有効な治療法の一つとして検討する価値があると考えられた. また自施設における5年間の扁桃摘出術症例を検討したところ, 後出血は11.8%に認められ, 出血レベルは全例グレード1 (保存的加療で止血) であった.
  • 内田 哲郎, 永井 裕之
    2016 年 119 巻 6 号 p. 874-879
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     オスラー病による鼻出血症例は, 外来診療でしばしば難渋させられる. 今回, 無水エタノール注入による硬化療法が効果的であった症例を経験したため, 報告する. 症例は75歳の女性, 反復性鼻出血を主訴に来院した. 鼻腔前方広範囲に出血がみられ電気凝固やガーゼ圧迫で止血されず植皮を試みたが脱落した. 次第に両側鼻出血の頻度と量が増えたため, 無水エタノール 0.1cc を数カ所ずつ出血部周辺に注入後, 止血した. 右鼻弁上部に連結型動静脈瘻が存在し, 硬化療法後も数日で出血を繰り返したので, 硬化療法の直後に切除し, 同部位を癒着させた. 本法は特別な装置を要することなく強力な止血が得られると考えられた.
  • 脇坂 尚宏, 室野 重之, 遠藤 一平, 近藤 悟, 中西 庸介, 吉崎 智一
    2016 年 119 巻 6 号 p. 880-885
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/07/02
    ジャーナル フリー
     腫瘍浸潤がない喉頭・気管組織を Laryngotracheal Flap (LTF) として下咽頭癌切除後の即時再建に用いた.
     対象は腫瘍の一側性局在が明確な5例で, 年齢は64歳から90歳, T2 が1例, T3 が4例であった.
     1例が術後瘻孔を来し, 1例は術後化学放射線療法後7カ月目に固形物の通過障害を来した. 全例で局所制御は良好で, 3例が無病生存している. 肺転移による原病死と肺炎による他病死が各1例であった.
     LTF による再建術は, 血管吻合を要する遊離前腕皮弁や開腹も要する遊離空腸と比較し, 低侵襲で施行できる. 適確な症例の選択により, 一般的な治療法の選択肢の一つとなり得る.
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