日本耳鼻咽喉科学会会報
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74 巻, 4 号
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  • 杉山 茂夫, 内藤 儁
    1971 年 74 巻 4 号 p. 723-732
    発行日: 1971年
    公開日: 2011/06/07
    ジャーナル フリー
    自律神経と内耳機能が密接な関係を有することは古くより注目されており, 多くの研究報告がある. しかし, 自律神経の内耳における分布状態およびその経路に関しては, 今日なお不明瞭な点が多い. これは自律神経を特異的に染色する決定的な組織学的方法がなかつた為と思われる. しかし, JaboneroやThiesによつて, 自律神経の末梢形態が或る程度鑑別出来るようになつた. その点に鑑み, 鈴木氏鍍銀法を用いて,成熟白色家兎の蝸牛における自律神経線維を識別出来たので報告する.
    蝸牛において自律神経が比較的多く認められたのはPlexus cochlearisである. その線維は周囲の血管と密接な関係を有していた. この部分の血管は平滑筋を有しており, Plexus cochlearisは蝸牛における大きな血液貯蔵庫でもある. 従つて, 蝸牛における自律神経の意義が循環調節にありとするならば, その主たる分布がPlexus cochlearisにあつて当然である. また, Plexus cochlearis内に自律神経性のGanglionを発見した. 交感神経はGrenzstrangでNeuronをのりかえ末梢に至るに反して, 副交感神経は末梢のごく近くでGanglicnを形式するのが普通の経過であるから, これは副交感神経性のものではないかと類推した.
    Modiolusの聴神経束内に, ところどころ聴神経と平行して走る自律神経様の線維が見られた. しかし, その可能性を示唆するにとどまり断定するには至らなかつた. 今回の標本ではLamina spiralis osseaは濃染しており十分な検索は出来なかつた.
    膜迷路ではLigamentum spiraleにおいてのみ, わずかの自律神経線維を認めた. ここでは基質の中に散見され, 血管との関係を見出せなかつた. 恐らく栄養神経としての役割を荷つているものと思われる. Limbus spiralisの表層近くにもfeinなNetzを見るようであるが定かでなく, Stria vascularisは濃染する為, Corti器は十分な形態を得ることが出来なかつた為今回は十分な観察をすることが出来なかつた.
  • とくに耳小骨筋のTTSに及ぼす影響について
    久我 堯
    1971 年 74 巻 4 号 p. 733-742
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    研究目的
    Reger and Lierle (1954) が刺激音及び検査音が1000Hz純音において音圧20db (SL) 及び80db (SL) で60秒間刺激した場合, 刺激音圧20db (SL) のTTSが80db (SL) のそれよりも大きいという事実を発表し, このことに関しては耳小骨筋の反射性収縮がある程度関与しているのではなかろうかといわれてきた. そこで音刺激に対する耳小骨筋反射収縮とTTSとの関係をさらに検討するために本実験を試みた.
    実験方法
    2台の特別に工夫をこらされたBékésy type audiometersを使用し, 刺激音及び検査音を1000Hzとして刺激音圧20db~80db (SL) で刺激時間が10秒~60秒にてTTSを次の対象群について測定した.
    1) 正常者群2) 耳介筋を随意的に収縮しうる群3) 顔面神経麻痺患者群
    実験結果
    1) 音圧20db (SL) ~80db (SL) の比較的弱ないし中等度刺激を10秒~60秒間作用させた場合, TTSの大きさは刺激音圧とは逆比例的に減少する傾向を示した.
    2) Regerのいう一見奇異な現象は, 刺激時間20秒附近より現われ初め, 60秒において著明であった.
    3) 刺激音圧20db (SL) の場合, 耳介筋収縮時のTTSは, 非収縮時のそれよりも小さい.
    4) 顔面神経麻痺患者症例においては, 刺激音圧80db (SL) のTTSの大きさは正常耳のそれよりも大きい.
    5) アブミ骨筋の音響性反射収縮は, 聴覚疲労に対して防禦的作用を呈する.
  • 渡部 泰夫, 宮本 浩明
    1971 年 74 巻 4 号 p. 743-748
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    近年, 哺乳類 (モルモット) の内耳に関するすぐれた研究が多い. とくに内リンパ液の生化学的な仕事, 蝸牛の電気生理学的研究は, 特筆に値する事実を明らかにした.
    これらにより, 聴覚機構は, かなり, 説明されてきたが, なお, その相関が充分説明されていないものがある.
    すなわち, 内リンパ液は, pars superiorとpars inferiorにおいて殆んど同じ様な高カリウム値を有するが, その電位は, 蝸牛管においてのみ高く, pars inferiorにおいては低い.
    従って, 内リンパ液の高カリウム値と, 内耳の電位, あるいは, 聴覚とは, 必ずしも相関関係はないと考えられる.
    系統発生的にみると, 蝸牛部の電位は, 両棲類, 鳥類, 哺乳類と蝸牛の形態の進化とともに高くなる.
    この際の, 内リンパ液の電解質の組成の比較生化学的研究はない.
    以上の様な観点より, 聴覚の未発達の動物の内耳液について次の様な生化学的検討を行なった.
    (1) 魚類内リンパ液の電解質構成.
    (2) 魚類内リンパ液の蛋白質について
    実験対象は, 魚類の中で, 比較的高等な硬骨魚 (フナ) を用いた.
    〔実験方法〕血清約2ccを心耳より採取後, lagenaより内リンパ液を採取した.
    1側より1回の採取量は1.5~3.0mgである. 試料をParkin-Elmerのatomic absorption spectrophotometerでNa, Kを測定した.
    蛋白質の定性には, ディスク電気泳動法を用いた. 試料は1回100~140mg用いた.
    〔実験結果〕魚類 (フナ) の内リンパ液のNaは83.08±15.70mEq/L, Kは112.22±8.64mEq/L.
    血清は, Na 124.0mEq/L, Kは1.9mEq/Lであり, 内リンパ液の高カリウム値は, 哺乳類ほど著しくないが, 血清に比較すれば, 大変高い特異的な値である. 従って, 内リンパ液のカリウム値は, 聴覚の進化とともに高くなると考える.
    魚類の内リンパ液の蛋白質含有量は, 哺乳類内リンパ液と同様, 著しく低く恐らく, 脳脊髄液とともに, 生体の体液中, 一番低い蛋白質含有の液であると考えられる.
    魚類の血清のディスク電気泳動像は, 哺乳類の血清と異なり, 易動度の低いglobulinに最大の分画を認める. 一方, 内リンパ液は哺乳類に似て, 易動度の高いpre-albumin, albuminのところに分画を認めた.
    以上より, 魚類 (フナ) の内リンパ液は, 哺乳類の内リンパ液と似た電解質構成, 蛋白質構成を示しており, 血清とは異なる.
    魚類と哺乳類両者の血清と, 内リンパ液の間にはblood-endolymph barrierが考えられる. 内リンパ液は, 血清とは異なった, 自動性をもって分泌される体液であり, 内リンパ液の上記特異性は, 聴覚と密接な関係があり, また, 以上の様な成績より, 魚類の聴覚の存在も, 確実と考える.
  • 湯浅 涼, 高倉 稔
    1971 年 74 巻 4 号 p. 749-754
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的: 耳管機能は主として嚥下時における耳管の開閉による中耳内圧調節並びに耳管内面に存在する綿毛運動による異物排泄機能の2つがある. これらの機能とは別に閉じた耳管を物理的に開かせるに要する圧 (通気圧) の測定, 分析に関する報告は少ない. この通気圧 (曲線) の分析は耳管機能を理解する際の基礎となるものと考えた.
    方法: 鼓膜穿孔耳約100耳を対象に外耳道側から加圧し中耳内圧変化を内圧描記装置を用い記録した. 得られた曲線から通気圧を求め統計処理し正常範囲を推計した. 又高速度描写を行ない, 耳管の物理学的性質を数量的に考察した.
    結果: 1) 耳からの通気圧は正常範囲は28±15.5mmHg. 2) 滲出性中耳炎で通気圧が異常に高いものは少なく正常範囲若しくはそれ以下が大多数である. 3) 開く圧と閉じる圧とに差があるのは耳管内面に存在する粘液の粘着力によるものと推論した. 4) 中耳内圧上昇により耳管の開閉の際の中耳内圧は指数函数的に外圧に近づく. 5) 圧曲線の分析から耳管の物理的なconductanceが数量的に扱える. このconductanceは通気圧の絶対値とは異なり, 時間のfactorを入れたもので, 通過性をより忠実に表現している.
  • 桑島 利力
    1971 年 74 巻 4 号 p. 755-766
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    平衡機能検査法の一つにEgmond, Jongkees, Groenによって開発されたクブロメトリーという回転検査法がある. しかし, その基礎となっているクプラの運動様式の理論に関しては, 充分なる実験的裏付がなされていない. そこで筆者は, 回転刺激によって果してクプラが偏位するかどうか研究する目的で, 鳩を用いて実験を行なった. 実験はまず回転刺激によって惹起される頭振を指標として, 角加速度刺激に対する反応閾値と, クプログラムからその勾配を求め, 次いで回転急停止時の外側半規管膨大部稜クプラの運動様式を瞬間凍結法, 置換固定法によりこれを形態的面から追求した. そして次のような知見を得た.
    1. 半規管の特性を端的に示している等角加速度に対する反応閾値は0.7/sec2, 刺激と反応との間の量的相関を示すクプログラムの勾配は9.1秒であった. 正常人28名について同様測定してみると閾値は0.8/sec2, 勾配は10秒であった. 鳩と人間とではその成績がよく類似していることが分った.
    2. 刺激を加えない静止位のクプラは, いずれの方向に偏位することなく膨大部稜の上にあった.
    3. しかるに回転刺激を加えるとクプラは内リンパの流動方向に偏位し, その偏位度は刺激の強さに依存していることを認めた.
    4. 同一刺激に対するクブラの卵形嚢側, 脚側への偏位度を比較してみると, 卵形嚢側への偏位がより大であることが分った.
    5. 同一刺激に対する左右クプラの容積を比較してみたが, Wittmaackのいう内リンバの流れが卵形嚢側に向うときは圧縮像, 脚側に向うときは膨脹像というような所見は認められなかった.
    6. 回転刺激によるクプラの運動様式には, 内リンパの流動方向に偏位すること, および半規管膨大部稜上皮に沿って内リンパの流動方向にslide downする二つの様式のあることを認めた.
    以上筆者は, 回転刺激感受機構に関する諸説の中でSteinhausenのクプラ偏位説が妥当であることを認めかつEwaldの第二法則の正しいことを証明することができた.
  • 北村 箴至
    1971 年 74 巻 4 号 p. 767-774
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    鼻前庭のリンパ流及び, そのリンパ管の分布状態を, (A) リンパ管色素穿刺注入法 (家兎, 犬, 人). (B) リンパ管生理的注入法 (家兎, 犬). (C) AgNO3動脈注射によるリンパ管顕出法 (家兎, 猫, 犬) 等によって検索し, 次の結果を得た.
    (1) 鼻前庭のリンパ流は主に外鼻のリンパ管に出て顎下リンパ節に注ぐ.
    (2) 外鼻からのリンパ管は犬と人では直接顎下リンパ節に注ぐのに対し, 家兎では途中顔面リンパ節を経て顎下リンパ節に注ぐ.
    (3) 臨床上重要な事はリンパ管の一部は反対側の顎下リンパ節に注ぐことである.
    (4) 鼻前庭のリンパ流は固有鼻腔粘膜の毛細リンパ管に入るものは少ない. その理由は, 鼻限では浅毛細リンパ管網を欠いている為, 又, 鼻限近くの固有鼻腔粘膜にはリンパ管が一般に鼻前庭に比較して少ない. しかるに鼻前庭では, 前部に至る程リンパ管が多く, 外鼻のリンパ管とよく連絡しているからである.
    (5) 鼻前庭及び固有鼻腔粘膜の浅毛細リンパ管は常に浅毛細血管より深部に存在する. (浅毛細血管は上皮直下に接して存在するのに対し, 浅毛細リンパ管は所謂, 乳頭下細動, 静脈叢のレベル又は, それより稍々深部に存在し, 決して乳頭内には存在しない).
    (6) 鼻前庭及び固有鼻腔粘膜の浅毛細リンパ管網 (乳頭下毛細リンパ管網) は数ミリ間隔で出る毛細リンパ管により深部の毛細リンパ管網と連絡する. 深毛細リンパ管網は粘膜深部の血管の間に存在する.
    (7) 鼻前庭及び固有鼻腔粘膜の深, 浅毛細リンパ管網及び, これ等を連絡する毛細リンパ管の何れにも未だ弁を認めることが出来なかった為, すべて毛細リンパ管と見做した.
  • 星野 知之, 山田 文則, 福田 修
    1971 年 74 巻 4 号 p. 775-780
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    正中鼻瘻孔は稀な先天性の奇形で, 本邦では昭和23年より7例が報告されている. 鼻背部に走る瘻管のみの場合もあるが, 時に皮様嚢腫を形成する.
    本論文はこの疾患の3例を報告したが, 3例共男性の12才, 4才, 24才の患者に認められた. 第2例では嚢腫様の拡張が, 第3例では正中鼻裂症があり, 第3例ではさらに家族性の発現が考えられた. 2例において鼻背正中部の皮膚切開によつて瘻管剔出がおこなわれ, 第3例では外鼻の形成と共に瘻管を剔出した.
  • 旭 晋
    1971 年 74 巻 4 号 p. 781-792
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1) 目的:
    近年, 耳科手術に諸種の人工材料を使用する症例がかなり多い. それらのうち, 吸収性異物としてGelfilm (gelatin sponge) を, 非吸収性異物としてTantalum wire, Biobond (Cyanoacrylate系接着剤), Nylon糸の4種類を選び, それら異物に対する組織反応を観察し, 臨床応用の一助にしたいと考えた.
    2) 実験法:
    stainless steelとmicaが主体である各部品を兎耳に装置し, 観察可能な透明室を設け, その中に異物を挿入した. 透明室の周囲より毛細血管が新生してきて異物をとり囲み, 毛細血管叢を完成する. そのときの新生血管に対する異物の組織反応を観察した. さらに, 非吸収性異物では組織学的検索も行つた.
    3) 結果:
    (1) Gelfilmは, Gelfoamよりも吸収過程が速い. しかし, 異物反応に差はない.
    (2) Tantalum wireの異物反応は, Stainless steel wireより僅かに軽い. 透明室内挿入後240日目の固定染色標本で, 慢性ないしは亜急性炎症の像を示した.
    (3) Biobond (Cyanoacrylate系接着剤) では, 空気中重合例の組織反応はごく軽く, 透明室組織液内重合例の組織反応はかなり著明であった. 透明室内挿入後175日目の固定染色標本では, 一部に悪急性炎症があるが, 全体として慢性炎症の像を示した.
    (4) Nylonの組織反応は軽度で, Tantalum wireと同程度の異物反応を呈した. 透明室内挿入後306日目の固定染色標本では慢性炎症の像を示した.
  • 1971 年 74 巻 4 号 p. 793-818
    発行日: 1971/04/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
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