中・後頭蓋窩に進展した70歳女性の中耳扁平癌症例に対し, 一塊切除による側頭骨の亜全摘を施行し, 若干の検討を試みた.
Postauricular transtemporal and retromastoid approachを用いて, 側頭部および乳突洞後部の2方向から開頭し, 側頭葉硬膜, 小脳硬膜, 横静脈洞, S状静脈洞を露出した. 横静脈洞を結紮して, 硬膜切開を側頭部から後頭部まで連続し, さらにテントを解放して, テント上下に広い視野を確保した. 後頭蓋窩において, VII VIII脳神経を切断した. さらに側頭骨後面の硬膜を切開し, 切除範囲を定めたが, この際IX X XI脳神経は保存した. 次いで, 細いburを用いて頸動脈管内を前方は内耳道内側縁, 下方は硬膜切開線に沿って頸静脈球部に至る方向に削開し, 錐体尖から離断した. その結果, 側頭骨は, 上方は中頭蓋窩硬膜, 後方は後頭蓋窩硬膜とS状静脈洞に被われたまま一塊に摘出された.
側頭骨摘出後, 頭蓋底を遊離腹直筋にて再建した. 髄液漏や髄膜炎などの合併症および下位脳神経の障害は認めなかった.
術後2年4カ月を経過した現在, 嚥下, 会話に支障はなく, 腫瘍の再発は認められていない.
頭蓋底外科および再建外科の進歩に伴い, これまで予後不良とされ, さらに技術的な面から姑息的治療を余儀なくされていたこのような中耳癌頭蓋底進展症例に対しても, 手術適応を拡大できる可能性が推察された.
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