日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 6 号
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総説
  • 新井 誠人, 滝口 裕一
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 839-843
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     乳癌は, 女性における罹患率は第1位であり, かつ増加している. 生涯のうちに乳癌になる確率は, 現在では, 14人に1人といわれている. 乳癌の治療は, 手術, 放射線, ホルモン療法, 化学療法となる. ホルモンレセプター, HER2, Ki-67 といったマーカーを組み合わせた臨床病理学的定義で代用されたサブタイプ分類に基づいて, 乳癌の治療方針が決定される. また, 保険収載はされていないが, 多遺伝子アッセイ検査を用いて, 再発や治療効果の予測が一部の症例では可能となっており, 治療方針決定の一助となっている.

     HER2 は human epidermal growth factor type 2 (ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型) の略であり, 上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子と類似の構造を有する癌遺伝子である. 正常細胞にもわずかに存在するも, その発現が過剰, 活性化することによって, 細胞増殖の抑制が効かなくなるとされている. 乳癌の15~25%で HER2 の遺伝子増幅またはタンパク過剰発現が認められている. HER2 の遺伝子増幅ないしタンパク過剰発現を有する乳癌患者は予後不良とされていたが, HER を標的とする分子標的薬の登場により, その予後は劇的に改善されることになった. 2001年に HER2 を過剰発現する進行乳癌に対して, トラスツズマブが日本で承認された. 現在では, ラパチニブ, ペルツズマブ, トラスツズマブ エムタンシンが, 国内において使用可能である. 現在では, ほかの遺伝子を標的とした薬剤も複数使用可能となっている.

  • 本間 明宏
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 844-847
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     AMED 研究「進行上顎洞癌に対する超選択的動注化学療法を併用した放射線治療による新規治療法開発に関する研究」は, 民間主導の研究開発が進みにくい希少がんに対する標準治療の確立に向けた, ガイドライン作成に資する多施設共同臨床試験として採択された.

     目的は, 局所進行上顎洞原発扁平上皮癌 (T4aN0M0 および T4bN0M0) を対象に, シスプラチンの超選択的動注と放射線同時併用療法 (RADPLAT) の有効性と安全性を評価し, 新たな標準治療の確立を目指すことである.

     本研究で行う JCOG1212 試験「局所進行上顎洞癌に対する CDDP (シスプラチン) の超選択的動注と放射線同時併用療法の用量探索および有効性検証試験」は, 用量探索相と有効性検証相から構成されている. 用量探索相において RADPLAT におけるシスプラチンの推奨投与回数 (recommended cycle: RC) を決定し, 有効性検証相において有効性と安全性を評価する. Primary endpoint は3年生存割合で, 予定登録数は127人, 登録期間5.5年, 追跡期間5年 (主たる解析は登録終了3年後に実施) の予定である.

     用量探索相はすでに終了し, シスプラチンの推奨投与回数は7回に決定した. 有効性検証相では RADPLAT の有効性と安全性を評価する. 2018年8月17日時点で T4aN0M0 66人, T4bN0M0 34人の計90人が登録され, T4aN0M0 は予定登録数に達したため, T4aN0M0 の登録は同日をもって終了して追跡中であり, T4bN0M0 については登録継続中である. 本試験により RADPLAT が, T4N0M0 で手術拒否あるいは切除不能例の新たな標準治療として位置づけられることを目指している.

     上顎洞癌のような希少がんは, 多施設で歩調をあわせて, all Japan で共同研究, 共同試験を行い, 新たなエビデンスを創出していきたい.

  • 清田 尚臣
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 848-854
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     頭頸部がんに対する薬物療法の開発は, 長らく殺細胞性抗がん薬が中心であった. しかし, 抗上皮成長因子受容体 (epidermal growth factor receptor: EGFR) 抗体であるセツキシマブが局所進行例では放射線治療に対する上乗せ効果を, 転移・再発例においてはプラチナ併用化学療法に対する上乗せ効果を示したことにより大きく変化した. この変化は, 臨床的な有効性において患者の生存に寄与するというメリットをもたらすと同時に, 殺細胞性抗がん薬とは異なる EGFR 阻害薬という分子標的薬による毒性を薬剤の有効性を引き出すために管理することがより重要視されることにもつながった. さらに, 免疫チェックポイント阻害薬が従来の抗悪性腫瘍薬の概念を大きく変えつつある. 有効性の面では, 頭頸部がんのみならず, 悪性黒色腫・肺がん・腎がん・尿路上皮がん・胃がん・ホジキンリンパ腫など多くのがん種においてその効果が証明されており, 毒性の面では多様な免疫関連有害事象 (immune related adverse events: irAEs) を適切に管理する必要がある. この免疫チェックポイント阻害薬の登場により, 分子標的薬を契機に認識された多職種・多専門診療体制のさらなる充実が臨床の現場では必要となっている. このような, 患者へのメリットと同時に臨床の現場に大きな影響を与えた分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の現状と展望について, 本稿では解説する.

  • ―こども病院に勤務する立場から―
    有本 友季子
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 855-861
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     一億総活躍社会が政府から提唱され, 男女共同参画社会の実現に向け内閣府を中心に社会が動きだしている. そのような社会の中で医療の現場でも例外ではなく, 男女共同参画社会に見合った改革が求められている. 年々, 女性医師が増加の一途をたどり, 医師の構成の変化, 価値観の多様化等に伴い, ワークライフバランスの問題等も生じている. このような問題も解消すべく, 男性医師, 女性医師が働きやすい職場となり, 性別による役割分担ではなく仕事も家事も子育ても, 男女共同で行えることが理想である. 女性医師は増加傾向であるが, 30代の女性医師の就労率が低下し M 字カーブを描く. しかし, 先進国では支援策を講じて改善に転じていることを考慮すると, 出産や子育てを経験する医師への支援はまだ十分とは言えない. 千葉県こども病院は, 厚生労働省の全国調査の結果に比べ女性医師の比率が高く, 女性医師が勤務を継続しやすい理由や環境等について考察した. また, 一般に女性医師が勤務継続に困難を生じやすい環境についても考察した. 女性医師が活躍していくためには, その時々において仕事と子育て等の比重を変えながら, 継続していくことが必要と考える. 産休や育児休暇, 短時間勤務等の制度をうまく組み合わせ, 復職支援が必要にならない範囲で復帰する方が, 円滑に仕事に戻ることができメリットも大きいと考える. 各医師により価値観も多様化しており, その希望を反映し多様な勤務形態が求められている. このような変化がある中で, これまでと同じ労働を提供していくのには困難がある. 内閣府が提唱している男女共同参画社会を実現するための5本の柱が実際に実行され, 真に男女共同参画社会が実現することで,さらに活躍しやすくなる女性医師が増加することが期待できる.

  • 鈴木 幹男
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 862-867
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     ヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 関連中咽頭癌が欧米諸国では年々増加している. 本邦でも中咽頭癌の約50%が HPV 関連癌と推定されている. HPV 関連中咽頭癌の診断にはウイルスそのものではなく, p16 免疫染色が用いられる. 中咽頭癌検体を用いた解析では p16 過剰発現例は HPV 感染を伴っている. ただし, p16 が過剰発現しているが, HPV 感染がみられない例も報告されている. これらの症例では HPV 関連中咽頭癌よりも予後が悪いことが示されており, 慎重に取り扱う必要がある. 中咽頭以外の頭頸部癌では, 中咽頭癌と同様に p16 過剰発現を HPV 関連癌の診断基準としてよいか結論がでておらずさらに検討が必要である. 同時に中咽頭癌以外の HPV 関連癌の予後や臓器温存率について今後明らかにしていく必要がある.

  • ―外来における対応法―
    西山 耕一郎
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 868-876
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     団塊の世代が75歳以上となる2025年を目前に, 嚥下障害は Common Disease となった. 耳鼻咽喉科医師は内視鏡操作に習熟し頭頸部の解剖生理に詳しいので, 嚥下診療をすることが望まれている. 耳鼻咽喉科医師であれば, 嚥下障害の知識を身につけておくべきである.

     嚥下機能が低下すると, 液体や食物が誤嚥して肺に入り, 気管支炎から誤嚥性肺炎を発症する. 唾液を誤嚥する場合や, 胃の内容物が逆流しても肺炎を発症することもある. 嚥下障害は肺炎との攻めぎ合いになるが, 高齢者の肺炎は症状が乏しいので発見が遅れ気味となり, また繰り返しやすく完治は難しく, 肺炎を契機に老化が進行する.

     日本耳鼻咽喉科学会ガイドラインにて, 嚥下内視鏡検査 (VE) による兵頭スコアが提示された. 兵頭スコアを使用すれば, 嚥下機能に対応した食形態を比較的容易に指導できる. 嚥下機能を正しく評価し, 嚥下訓練と食事形態の変更を行えば, 肺炎を発症せずに経口摂取を続けられるので, 誤嚥性肺炎で入退院を繰り返すことを避けることができ医療費削減につながる.

  • 川内 秀之
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 6 号 p. 877-883
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     耳鼻咽喉科医の取り扱う疾患は, 標的となる部位の機能解剖や病態の複雑さにより多彩であり, 個人のレベルで診断から治療までを十分に理解し適切に対応することは困難を極める. さらに患者の立場からすれば, 当該領域の疾病を患うことにより, 多かれ少なかれ, 日常生活の質 (QOL) が障害されるのが, 大きな問題である. 鼻科領域も感覚器として, 視覚, 嗅覚, 呼吸, 構音といった QOL に直結した重要な機能を有しているが, 種々の鼻科領域の疾患に罹患すると正常の形態や機能を損なうこととなり, 患者の QOL の低下を来す. 過去25年における鼻科学領域の学術研究や技術革新には目を見張るものが多くあるが, 鼻副鼻腔炎, アレルギー性鼻炎, 嗅覚障害, 鼻腔通気度, 手術療法など主要な分野について, その進歩の概略と今後の展望について解説する.

原著
  • 石川 知慧, 濱本 隆夫, 石野 岳志, 上田 勉, 竹野 幸夫
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 6 号 p. 884-890
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     近年, 壊死性筋膜炎と重症蜂窩織炎の鑑別に LRINEC スコア (Laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis score) が補助的診断ツールとして提唱されている. われわれは2007年から2017年の間に当院で経験した症例および医中誌で報告されている頸部壊死性筋膜炎の症例を対象として, LRINEC スコアの有用性について検討した. LRINEC スコアは壊死性筋膜炎群で平均7.2点, 蜂窩織炎群では1.6点であり, 統計学的に有意差を認めた.

     壊死性筋膜炎と診断するためのカットオフ値を LRINEC スコア6点以上とした場合, 壊死性筋膜炎群においては17例 (20例), 蜂窩織炎群においては1例 (13例) が LRINEC スコア6点以上であった. その結果, 感度85%, 特異度92.3%, 陽性的中率 (PPV) 94%, 陰性的中率 (NPV) 80%であった. 耳鼻科領域における LRINEC スコアは壊死性筋膜炎の診断補助として有用と思われる点もあるが, いくつかの問題点もあり, 文献的考察を加え報告する.

  • 佐藤 宏樹, 塚原 清彰, 岡本 伊作, 勝部 泰彰, 八木 健二, 山口 隼, 糸井 隆夫, 清水 顕
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 6 号 p. 891-897
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     内視鏡的咽喉頭手術 (endoscopic laryngo-pharyngeal surgery: ELPS) は頭頸部表在癌に対する経口的切除法の一つである. 当院では彎曲型喉頭鏡を用いて咽喉頭を展開後, 消化器内視鏡医が拡大内視鏡により病変の観察を行い, 術者である耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が先端可変式の高周波ナイフを用いて病変を切除している. 切除の際, 病変周囲や粘膜下への局注は消化器内視鏡医が内視鏡の鉗子口を経由して局注針を用いて行っており, 場合によっては切開や助手的な手技も行う. 耳鼻咽喉科・頭頸部外科医と消化器内視鏡医の連携が重要である. 2014年8月~2017年12月の間に頭頸部表在癌例に対して施行した計50回の ELPS における40例57病変を対象に後方視的に検討した. 原発部位は下咽頭: 中咽頭: そのほかが43: 7: 7病変であった. 1病変の平均切除時間は59分で, 病理学的切除端は pHM0: pHM1: pHMX が27: 16: 14病変, pVM0: pVM1 が56: 1病変であった. 経口摂取開始日の中央値は1日であった. 術後2例でそれぞれ著明な喉頭浮腫と誤嚥により気管切開を行った. 局所再発を3例, 頸部リンパ節再発を4例で認め, 2例で他病死したがそのほか全例非担癌で生存中である. 当院では耳鼻咽喉科・頭頸部外科医と消化器内視鏡医が連携することで, 良好な成績で ELPS を行うことが可能であった.

  • 榎本 美紀, 竹内 和彦, 河島 恵理子, 福本 和彦
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 6 号 p. 898-904
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/01
    ジャーナル フリー

     オピオイドによるアナフィラキシー様反応は非常にまれとされる. オピオイド鎮痛薬の一つであるコデインリン酸塩に加え, 非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) であるアスピリン, ロキソプロフェン Na による薬剤性ショック歴を持つ舌癌症例を経験した. 症例は84歳女性. 点滴や経管栄養を望まず, 在宅での疼痛緩和のみを希望. コデインと構造上類似し, 交差反応を起こす恐れのあるモルヒネやオキシコドンは避け, フェンタニルを選択. アセトアミノフェン併用で対応し, 最期はジアゼパム坐剤による鎮静を実施した. オピオイドアレルギーおよび NSAIDs 不耐症 (過敏症) についての文献的考察を含めて報告する.

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