日本耳鼻咽喉科学会会報
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104 巻, 8 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • アスピリンは転移を抑制するか
    吉崎 智一
    2001 年 104 巻 8 号 p. 791-795
    発行日: 2001/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    上咽頭癌はEpstein-Barrウイルス (EBV) が発癌に関与することが強く示唆されている. 最近, 分子生物学的研究が進み, EBVがコードする膜タンパクのひとつLMP1は, 発癌の過程のみではなく, 癌細胞の転移能亢進にも寄与すると考えられる. LMP1は細胞内シグナル伝達物質NF-κBを活性化して, 転移に必須のステップである基底膜破壊に重要な役割を果たす間質分解酵素9 (MMP9) を誘導する. NF-κBの働きを抑制するものとして, 薬剤ではアスピリン, 細胞内物質ではI-κBがある. 上皮系細胞C33AにLMP1を形質導入するとMMP9が誘導される. これらの物質はいずれもLMP1によるMMP9誘導を転写レベルで抑制し, 試験管内でのLMP1導入C33Aの基底膜破壊能を低下させた. アスピリンは, 消化器癌の発癌予防薬として有望視されているが, 浸潤転移の抑制薬としての有用性も示唆される. I-κBはそのまま野生型のものを用いてもMMP9発現抑制効果は軽微であったが, 遺伝子操作で分解されにくいように変異を入れるとMMP9発現を劇的に抑制した. またシスプラチン薬剤耐性細胞はI-κB遺伝子発現プラスミドを形質導入されると, シスプラチン感受性となる. 今後, 全身の微小転移抑制にアスピリン, 局所の薬剤耐性癌の治療にI-κBを用いた遺伝子治療の応用が期待される.
  • 西野 裕仁, 大橋 徹
    2001 年 104 巻 8 号 p. 796-804
    発行日: 2001/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    健常成人を対象に広帯域雑音を先行負荷音に用い, それによるadaptationからの回復過程を後続検査音のクリックに対するCAPの変化として検討した. CAPの記録は針電極を用いる鼓室内岬角誘導法にて施行した. 負荷音及び検査音は被検査耳から80cm離れた位置に置かれた別々のspeakerから各々与えられた. 今回は負荷音の持続時間・強度のCAP回復に与える影響についてΔt (負荷音のoffから検査音のstart迄の時間間隔) の函数として観察した. 結果としてΔtが200msより短い場合では先行負荷音の持続時間が長いほど, 及び強度が増強するほどCAPの潜時延長, 振幅減少からの回復は遅れた. しかしΔtが200msより長い場合では持続時間及び強度の変化による回復過程には差違は認められなくなった. 完全な回復に至る時間については検査音 (クリック) の強度によって異なり, 強度が40dBnHLの場合はΔt700ms, 60dBnHLの場合はΔt300msであった. 上述のCAP recovery functionは今回使用の負荷音, 検査音の強度レベルを考慮すれば中耳筋反射の影響はほとんどど無視できるものと考えている. ヒトのCAP回復過程でごく短いΔt間隔では比較的な神経不応期が作動すると考えられるが, Δtが少なくとも30~40msより長い場合はshort-term adaptationからの回復が主となり, よって蝸牛シナプス機能を大きく反映する現象と推定した. 更に従来の動物の聴神経線維からのSRの違いによる回復パターンから考えてΔtが200msより短い場合ではhigh SRのニューロン機能を, Δtが200msより長い場合ではlow SRのそれを反映するものと推定した.
  • 池田 稔, 吉田 晋也, 山内 由紀, 生井 明浩, 鴫原 俊太郎
    2001 年 104 巻 8 号 p. 805-814
    発行日: 2001/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的: 本研究は外耳道削除型鼓室形成術・外耳道再建術 (canal wall down tympanoplasty with canal reconstruction) の術後安定性に, 術前耳漏の有無がどのように影響を示すのか検討することを目的に行われた.
    対象および方法: 自家組織によるCanal wall down tympanoplasty with canal reconstructionを施行した155耳の中耳真珠腫症耳を対象とした. これらのうち, 手術時まで耳漏を認めていた56耳と耳漏がみられなかった99耳について比較検討した. また, 術前2カ月の間に耳漏が認められた80耳と, 認められなかった75耳についても比較検討した. 検討は, 術後早期の問題点, 術後1年以上経過した耳における鼓膜・再建外耳道の状態, および術後聴力について行った.
    結果: 1) 局所感染および外耳道再建材料の壊死が, 術前に耳漏のみられた例で有意に高率に認められた. 局所感染を生じた耳では組織壊死がより高率にみられ, 術後の耳内乾燥が遅延した. 2) 1年以上経過した例での鼓膜・再建外耳道の所見には, 術前の耳漏の有無は有意の影響を示さなかった. 3) 術後の聴力予後に対し, 術前の耳漏の有無は有意の影響を示さなかった.
    結論: 術前に耳漏を認めた例において上記の術式を採用する場合, 術後早期の局所処置には注意が必要と思われた. しかし術後1年以上を経過した症例の術後成績についての検討では, 術前の耳漏の有無がそれらの成績に影響は示すという明らかな関連性は認められなかった.
  • 症例の検討および鼻腔モデル実験
    三島 陽人, 平岩 文, 加瀬 康弘, 飯沼 壽孝
    2001 年 104 巻 8 号 p. 815-823
    発行日: 2001/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    鼻中隔穿孔症例および鼻中隔穿孔を作製したヒト鼻腔モデルにおいて, acoustic rhinometryによる鼻腔断面積・容積の測定への影響についての検討を行った.
    鼻中隔穿孔33症例は男性19症例, 女性14症例であった. 鼻中隔穿孔は直径平均16mm, 鼻入口部からの距離平均23mmであった. acoustic rhinometryによる鼻腔断面積・容積の測定において, 鼻中隔を薄い綿花片を用いて閉鎖した後は, 鼻腔断面積・容積値が明らかに減少した.
    ヒト鼻腔モデルにおいては, 大きさ (直径5, 10, 15, and 20mm), 鼻入口部からの距離 (20, 40, and 50mm) を変えた鼻中隔穿孔を作製し, 鼻腔断面積・容積の測定を行ったが, より鼻腔前方において, 穿孔の影響が鋭敏であることが示された.
  • 川植 朗史, 九鬼 清典, 西村 道彦, 山中 昇
    2001 年 104 巻 8 号 p. 824-831
    発行日: 2001/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    はじめに: 選択的アブミ骨3次元再構築法によるアブミ骨病変の質的診断の可能性について基礎的検討を行った.
    材料・方法: 骨充填剤セラタイトより削りだし作製した骨密度一定, 断面積を変化させたアブミ骨モデルと, QCT (Quantitative computed tomography) で使用されるアパセラムロッドから削りだし作製した, 断面積が等しく骨密度を変化させたアブミ骨モデルを, 頭蓋骨ファントム鼓室内に挿入固定した状態でCT撮影後, 3次元再構築を行い比較検討した. さらに頭蓋骨ファントムの上鼓室, 耳管周辺にワセリンを充填し, アブミ骨モデルを挿入固定の上, CT撮影, 3次元再構築を行いワセリン非充填の3次元再構築画像と比較検討した.
    結果: すべてのアブミ骨モデルにおいて, しきい値下限を低下させることにより, 描出画像脚部断面の大きさが等比級数的に拡大することが判明した. また, 描出増大率は, 描出閾値では不安定だが, しきい値下限を低下させた場合, 安定化することが認められ, また骨密度が高いほど描出増大率が1に近似することが, 有意差を持って認められた.
    考察: アブミ骨脚部のCT値はアブミ骨自身の骨密度によってのみ決定されるのではなく, アブミ骨脚部の大きさや中耳腔内の含気量や軟部組織の有無にも影響されるため, 絶対的なアブミ骨脚部の適正描出閾値を決定することは困難であると考えられた. 一方, アブミ骨脚部の描出増大率は, 骨密度は高いほど1に近似し, 骨密度が低いほど増大することが認められた. この描出増大率を3次元CTにより視覚的に表現することが, 質的診断に有用である可能性が示唆された.
  • 高齢者の鼻腔粘膜乾燥の病態とその対応
    野中 聡
    2001 年 104 巻 8 号 p. 832-835
    発行日: 2001/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
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