1. 目的:鼻涙管は鼻腔に隣接し,また接続する管腔であることから,鼻涙管と鼻副鼻腔との発育ならびに容積的関係を観察し,鼻涙管の成立機序,とくに下鼻道への開口機序を明らかにすることを目的とした.
2. 方法:1ヵ月~10ヵ月までの邦人胎児60例を用いて,連続切片を作製し,H•E重染色後,鼻涙管と副鼻腔(上顎洞)の大いさを比較計測した.また補整プラニメーターを用いて両者の面積を算出した.次に鼻涙管および涙嚢の状態とともに鼻腔,上顎洞および篩骨洞の発育分化の状態,さらに発育過程に認められる粘膜の炎症様現象について観察した.
3. 結果:
1) 鼻涙管腔の発達度は副鼻腔の発育度の良好なものほどよい.
2) 涙小管の初期は肥厚した上皮細胞束が内眼裂の内側,すなわち将来の涙小管の位置にまず存在していて,その中心部が融解し管腔が成立してゆく過程が認められる.
3) 鼻涙管の成立機序は涙小管のそれとは異なり,上は涙小管に運なり,下は下鼻道側壁に開口するが,完成後の位置に相当して上皮細胞の管壁状の配列とその増殖および周囲組織の吸収とによつて成立したもののようである.原基をなす上皮細胞の由来については憶測の域に止まり明かでない.
4) 下鼻道側壁への開口は下鼻道と鼻涙管腔との間の結合組織が吸収されてやき,ついには穿孔し,開口する.
5) 管腔の胎生発育期では,個体差が著しく,管腔内面のヒダ形成,隔壁形成,分割などの形態をとるものが多い.
6) 下鼻道側壁においての開口形態および位置には個体差があり,いろいろの形をとる.
7) 下鼻道への開口は,6ヵ月において1例認められたが,他はいずれも8ヵ月以後であつた.ただし胎生月令と開口の頻度は必ずしも平行しない.10ヵ月のもののうち開口しているものは5例中2例であつた.
8) 鼻涙管形成の過程で,管腔内への円形細胞の遊出と上皮下組織内における細胞浸潤などの炎症様現象が認められた.
9) この現象は,中耳乳様蜂窩形成および副鼻腔形成の初期に認められている管腔形成に伴なう異物性の炎症と同質的なものとみなすべきものとした.鼻涙管腔の発育がよくなく,管腔が狭いもの,ヒダの多いものに細胞浸潤が強い.
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