日本耳鼻咽喉科学会会報
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73 巻, 4 号
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  • 吉野 幸雄, 千葉 正敏, 山口 洋, 三好 保
    1970 年 73 巻 4 号 p. 429-432
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    目的: 電気性眼振は半規管系の反応と考えられているが, その本態に関しては定説がない. 著者らは電流の作用する部位について動物実験より検討しようと考えた.
    実験法: 実験動物としてモルモツトを用い, 前庭神経上枝からの単一神経の活動電位を測定し, 通電中の変化を検討した. 同時に回転刺激を加え, 半規管系のレスポンスか否かを調べた.
    結果: インパルスの変化からレスポンスは2群に分けられた. 1つは十極刺激で増加し一極刺激で減少するもの, もう1つは十極で減少し, 一極刺激で増加するものであつた. しかし半規管系のレスポンスは前者のみであつた. 極性興奮の法則に従わないものが関連していることになる. すなわち細胞膜を持たないクプラ, 内リンパが有力であつた. さらに回転刺激では両方向回転で, インパルスが増加することから, 内リンパ流動説も否定された. 末梢における電流の作用部位としてクプラが考えられた.
  • 竹山 勇
    1970 年 73 巻 4 号 p. 433-443
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    1. 目的 内分泌および代謝障害による糖尿病患者について, 糖尿病に基因する聴覚ならびに前庭機能の障害があるかどうか, 糖尿病の重症度, 血糖, 随伴する血管障害などと関連があるかどうか, さらに糖負荷によりいかなる所見が得られるかという問題を解明すべく本研究を行つた.
    2. 方法 聴力検査ならびに前庭機能検査を行い, 聴力検査は純音オージオメータを用い, 気骨導検査と併せてDL検査も試みた. 前庭検査はめまい既往を詳しく問診し, 次いで自発眼振, 頭位眼振, 頭位変換眼振を観察し, さらにロンベルグ試験, マン検査, 足踏検査を行い, また冷温交互試験, 廻転検査を行つた.
    糖負荷試験は糖尿病の未治療群と既治療群とに分け, 負荷前後において上記検査を行つた.
    3. 結果
    (i) 血管障害 (高血圧症, 動脉硬化症) を伴う症例では前庭および聴力検査において異常を認めたものが多い.
    (ii) また中, 高年層においてその異常所見の発現率が高くみられた.
    (iii) 若年層では高血糖, 眼合併症 (糖尿病性網膜炎) を伴う症う症例に聴力障害がみられた.
    (iv) 罹病期間には相関を示さなかつたが, 高血糖値, 高血清総コレステロール値を有していた症例に内耳障害を示したものが多くみられた.
  • 長谷川 進
    1970 年 73 巻 4 号 p. 444-448
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    半規管機能の正常な被検者に対して振子様回転刺激による正弦波の形の角加速度刺激を加え, このときに得られる反応 (眼球偏位および回転感覚) の周波数特性を調べた。
    1) 回転感覚の閾値特性は回転周期80秒から5秒のあいだでフラットであり, 0.5°/sec2以下にあつた. また回転感覚の位相特性を調べると, 回転椅子と感覚の静止点の一致する周期は10秒から5秒のあいだにあつた.
    2) 一定の刺激に対する眼球偏位の振巾を調べると, 8秒よりも長い周期では振巾特性はフラットであるが周期4秒付近から急激にハイカットの特性を示した. また刺激と眼球偏位とのあいだの位相角についても測定をおこなつた.
    3) 刺激に対する回転感覚および眼球偏位の入力対出力特性は, 一定の範囲において直線性をたもつていた.
  • とくにその光顕的証明法の検討
    菊池 寛
    1970 年 73 巻 4 号 p. 449-461
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    (研究目的) 生体膜におけるいわゆる active transport に直接関与し, 電解質代謝に重要な役割をもつとされる膜 ATPase の蝸牛管における活性分布を組織化学的に明らかにし, 本酵素の内耳蝸牛管における分布の機能的意義を論議することを最終目的として本研究は企図されたが, 従来からその前提条件ともいうべき ATPase の組織化学的証明法には数々の技術的な問題点があるので, 著者はまず, その方法論的な本酵素の証明法に根本的な再検討を加え, とくに非特異反応の分析とその除外に重点をおいて実験を行ない, 内耳蝸牛管におけるより再現性の高い研究方法を見出すことを当初の目標とし, ひいては蝸牛管におけるより正確な本酵索の分布状況を明らかにするべく本研究に着手した.
    (研究方法) 実験材料には正常モルモットが用いられた. 実験方法としては, 本酵素証明法でもつとも問題となる非特異反応の分析とその除外を研究目的の一つとしているために, 蝸牛標本としては, 無固定標本, 固定標本あるいは surface specimen, radial section など, いろいろな組合せの標本作製法を採用した. また, ATPase 活性を組織化学的に証明する方法としては, Wachstein & Meisel の開発したlead sulfide 法と, Padykula & Herman の見出した Calcium-Cobalt 法に ほぼ準拠して行なつた.
    (結果) 1) 膜 ATPase を, 酵素組織化学的に証明する際にもつとも注意を要する非特異反応は, (1)非酵素的非特異反応としては, Wachstein-Meisel, Padykula-Herman のいずれの基質液においても, その基質液に介在する金属 ion によるATPの非酵素的水解による燐酸塩の形成がみられることと, これら非特異的反応産物が, 蝸牛管のうちでも, ラセン縁, 柱細胞頭部, 網状膜などに特異的に吸着しやすい傾向がみられることであり, (2)酵素的特異反応としては, 組織化学的に反応すべきものが出現しない erratic negative reaction が, 内ラセン溝や tunnel 腔などに起りやすいことであり, とくに(1)に属する非特異反応は, minimum にはできるけれども完全に除外することは不可能に近い。
    2) 以上の非特異反応を除外または最小限に止めるために, 著者は蝸牛組織を冷中性 formol-calcium 液18時間固定→EDTAによる脱灰→厚い凍結切片 (100μ) 作製→基質液浸漬→aceto による再固定と脱水→epon 包埋→glass knife による薄切切片 (1~3μ) 作製→鏡検という実験方法を考案し, ほぼ満足すべき光顕 level での観察成績がえられた.
    3) 以上の切片作製により, 蝸牛管における膜 ATPase の活性分布は, 蝸牛管の内リンパに直接面している膜面, すなわちラセン器網状膜, ラセン縁, 血管条辺縁細胞膜, Reissner 膜の内リンパ面など, また tunnel 腔内面や外ラセン神経束附近, 内ラセン溝などにも中等度の陽性所見がみられたが, 外有毛細胞の Cortilymph に面する細胞膜はまったく陰性で, 蝸牛管内の細胞膜の自由面で陰性所見を示す唯一の部位であり, この部位の外有毛細胞膜は, 生化学的な膜透過性の面でかなり特異な性質をもつものと推定された.
  • 田辺 久
    1970 年 73 巻 4 号 p. 462-472
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    <研究目的> Cochlear Microphonics(C.M) に関する純音相互の作用として, 1940年 Weber が2音の Interference curve として発表している. 1956年 Rilger & Hilger により, 人間に於い♦て Band noise の level が80~100dBになると, Critlcal band noise の band 巾内及び band 附近で起こる通常の Masking の他に Critical band からはるかに離れた低周波帯域の域値上昇を観察した. 彼等はこれを Remote Masking と呼んでいる.
    私はモルモットのC.M.に於いて70~90dB SPLの音圧で, 高周波純音と低周波純音を同時に与えると, C.M. 上に於いて低周波成分が高周波成分により強く抑制を受ける事実を見出し, その成因についての検索を行つた.
    <実験方法> 音圧70~90dB SPL 2つの純音f1とf2を任意の組合せでモルモットに与え, 発生したC.M1(蝸牛基礎回より誘導せるC.M.), C.M3(蝸牛第3回転より誘導せるC.M.)を自動周波数分析記録装置により Spectrogram を記録. この Spectrogram 上の1音単独時のC.M.f1, C.M.f2の強さと, f1, f2を混合した時のC.Mf1, C. Mf2の強さを比較検討した. なお純音と Band noise の組合せも行つた.
    <結果> 2つの強い純音を同時に動物に与えて発生するC.M.に於いて, 高音成分が低音成分をMasking する現象を見出した.
    純音対純音の組合せは, 1kHzと3kHzを中心にして行つたが両者の間に特別の差を認めなかつた. C.M1とC.M3の成績を比較しても蝸牛の誘導部位による Remote Masking の差はみられなかつた.
    純音と高周波 band noise の組合せにても純音同様に Remote Masking が見られた. これらの実験結果を従来報告されている聴覚の生理学的情報を基にして考察した.
  • 奈良林 繁
    1970 年 73 巻 4 号 p. 473-484
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    鼻炎及び副鼻腔炎に対する酵素療法は, 近来日本では盛んに行なわれる様になつて来たが, 酵素剤の皮下, 筋肉内注射, 又は経口投与後どの様な過程で血中, 粘膜内又はその他の臓器組織内に移行するかについては, 今尚明らかではない. 塩化リゾチームが鼻, 副鼻腔粘膜内, 及びその周囲組織に酵素活性を有したまま移行するかについて研究を行ない, その成績を得たのでここに報告する.
    材料及び方法
    1) 家兎の血中及び臓器内リゾチーム活性を塩化リゾチーム筋注又は経口投与後, 定時的に溶菌法にて測定した.
    2) 家兎にFITCで標識した塩化リゾチームを注射又は経口投与して, その組織内移行を螢光顕微鏡にて検鏡した.
    3) complete Freund's adjuvant と共に塩化リゾチームを家兎爪廓内に注射して得た抗塩化リゾチームを免疫組織学的に調べた.
    成績
    家兎の血中リゾチーム活性値の上昇は, 塩化リゾチームの筋注例では小量でも認められたが経口投与例では大量に与えた場合にのみ認められた. 家兎にFITCで標識した塩化リゾチームを注射又は経口投与した場合の組織内移行は明瞭に認められた. 注射又は経口的に塩化ジゾチームを投与したあとの人の鼻•副鼻腔粘膜内への塩化リゾチームの移行も免疫組織学的に確かめられた.
    考按
    以上の事実から投与された塩化リゾチームは血中, 鼻•副鼻腔粘膜及びその周囲組織内に溶菌性と抗原性を有したまま移行することが明らかとなつた. 組織に移行した塩化リゾチームの働らきが蛋白分解作用, 細胞賦活作用, そして外からの細菌侵襲に対する防禦作用に関するかどうかは今後検討しなければならない. 家兎の体内に卵白より抽出した塩化リゾチームに対する抗体が産生された事実から人体内にも抗塩化リゾチーム抗体の産出の可能性もあり得ると考える.
  • 扁摘前後における免疫グロブリンの動態
    寺田 義男
    1970 年 73 巻 4 号 p. 485-500
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    近年, 日蓋扁桃を胸腺や鳥類の Fabricius 嚢と同様に, 中枢性リンパ組織とみなす学説が唱えられている. ことに, 哺乳類に於いて, 扁桃は機能的に鳥類の Fabricius 嚢に匹敵するもの, すなわち, 体液性抗体産生に関与する中枢性リンパ組織と考えられている.
    そこで, 扁桃の免疫学的機能を探る目的で, 慢扁例, 病感例につい♦て 扁摘前後にわたる血清免疫グロブリン (以下 Igと略す) の定量, 濾紙電気泳動法および免疫電気泳動法を行ない, 次の結果をえた。
    又対照として慢性中耳炎, 慢性副鼻腔炎 (以下慢中•慢副例と略す) についても同機な検索を行ない比較検討した.
    方法: Igの定量方法としてIg Aは沈降反応をIg Gは抗グロブリン抑制試験をIg Mは Hyland 社製の Immunoplate を使用した.
    成績ならびに結論:
    1. 血滴Igの定量
    (i) 慢扁例では3種のIgが共に術前と比較して術後漸減の傾向を示した.
    (ii) 対照例として慢中•慢副例も同様の傾向を示した.
    (iii) 病感例では3種のIgが共に術前と比較して術後漸増の傾向を示した.
    (小括) 血清Igの定量からは, 扁桃の免疫機能を積極的に示唆する成績はえられなかつた.
    2. 濾紙電気泳動成績
    (1) 血清
    慢扁例, 病感例共に術前と比較して, 術後にAlは軽度増加, γ-glは減少の傾向がみられた. (小括) しかしこれらの変動は, 一般慢性炎症時における変化とほゞ同様であることからして, 血清濾紙電気泳動成績からは, 扁桃の免疫機能を積極的に示唆する成績はえられなかつたじ
    (2) 扁桃抽出液
    (i) 慢扁例, 病感例ともに血清とは異なり, Al位成分に比較してγ-gl位成分が多くみとめられた.まだ両群間の比較では, 病感例にてγ-gl位成分がやや多い傾向がみられた.
    (小括) 扁桃抽出液の濾紙電気泳動成績からは, 扁桃の免疫機能を支持する成績がえられた.
    3. 免疫電気泳動成績
    (i) 血清では扁桃摘除前後にわたつて, 慢扁例, 病感例間には, 出現免疫沈降線のコントラストおよび数の相異はみられない
    (ii) 扁桃抽出液では慢扁例, 病感例共に, 出現した免疫沈降線は数本で, Al, トランスフェリン, IgA, IgGなどである.
    (iii) 両群共にIgM成分がみられなかつた.
    (小括) 免疫電気泳動成績からは, 扁桃の免疫機能を積極的に示唆する成績はえられなかつた.
    総括: 以上の成績から, 血清Igおよび蛋白分画の面からは, 成人例では扁桃の免疫機能を重視するよりも, むしろ, 一般慢性炎症巣の一つとしての面がクローズアップされるのに対して, 組織の蛋白分画からみると, 扁桃の免疫学的意義も否定できない.
  • 加藤 邦二
    1970 年 73 巻 4 号 p. 501-540
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    全く新しい構想による食道運動の筋電図記録装置を考案した. これはゴム管の所定の位置に3対の環状双極電極を装着し, 管内誘導により上部食道, 中部食道, 下部食道の筋電図を同時に記録するものである. 従来の装置は生体に何らかの侵襲を加えることをさけることができなかつたが, 本法は何ら侵襲を加えることなく行い得る. この新筋電図記録装置により, ヒトの食道運動について得られた生理的, 臨床的新知見について記述する.
    1. 安静時にヒトの中部食道, 下部食道には時々自発放電と思われる burst 出現を認める.
    2. 嚥下することにより, 一定の伝播時間をもつて上部食道より下部食道まで burst 出現を認める. また, 多くの場合, 中部食道•下部食道においては burst の反覆するのを認める. この嚥下に伴う伝播放電は空嚥下の場合より水5ml嚥下の場合の方がより活発に, より恒常的に認めうる.
    3. 中部食道上部に5mlの水または薬液を注入することにより中部食道および下部食道にスバイク放電を認める.
    4. 中部食道上部に空気10mlを急速送入することによつても中部食道および下部食道にスバイク放電を認める.
    5. ピロカルピン注射により上記各種放電の増強を認め, アトロピン注射により減弱を認める. アドレナリン, メコリール, イミダリン注射によつては特に影響は認めなかつた.
    6. 頸部食道摘出例においては嚥下動作により下部食道に burst 出現を認めた.
    7. 片側迷走神経麻痺例においては嚥下第2相の障害を認めるが伝播放電は正常に認めた,
    8. 胸腔内食道胃吻合術後症例においては嚥下後上部食道の放電にひき続いて挙上胃管にも burst 出現を認めた.
    9. 瘢痕性食道狭窄例においては狭窄高度の時は伝播放電を出現し難く, 狭窄改善時には正常なる伝播放電を認めた.
    10. 特発性食道拡張症においては嚥下に伴う伝播放電は認めるが非常に減弱傾向にあつた. 本例において食道直達鏡施行後の腹痛強度の時, 下部食道に噴門痙攣を思わせる低振幅高頻度の特異な放電を認めた. また, 本例にはメコリール注射により中部食道および下部食道に多数の散発性放電を認めた.
    11. 食道憩室, 食道裂孔ヘルニア, 食道異常感症においてはその疾患に特異なる筋電図所見は認めなかつた.
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