喉頭癌の年間の罹患数は約4,300人で, 頭頸部領域では甲状腺癌に次いで頻度が高く, 耳鼻咽喉科医にとっては最も診療する頻度の高い癌腫である. 喉頭全摘出術は根治性の高い重要な手術であるが, 失声や永久気管孔などの障害も来す. 人生観の多様化により低侵襲な喉頭機能温存治療が注目されている.
米国では1980~2000年代にかけて, 進行喉頭癌に対して二つの歴史的な無作為化比較試験, VA 試験と RTOG 91-11 試験が発表され, 化学放射線同時併用療法が全摘に取って代わる機能温存治療として推奨された. しかし, 最近併用療法後の救済手術が困難であることや嚥下障害などの晩期障害の問題が表面化している.
喉頭亜全摘出術は甲状軟骨と両側声帯を含む喉頭の3/4を切除し, 残る1/4の部分, 輪状軟骨と舌骨を接合して新声門を再建する. 摘出範囲と再建形式によって SCL-CHEP(Supracricoid laryngectomy with Cricohyoidoepiglottopexy) と SCL-CHP(Cricohyoidopexy) に大別される. CHEP は声門癌に, 喉頭蓋を切除する CHP は声門上癌に適用される. 術式が画一的で, 病変により切除範囲が変わらない. 旁声門間隙の一塊切除が可能で, 進行癌に対しても高い根治性が期待できる. 永久気管孔を必要とせず, 術後の音声は粗糙性であるが社会復帰は可能である. 化学放射線療法後の救済手術にも適応できる. フランスを中心にラテン系欧州諸国で定着し, 1990年代の英文誌発表をきっかけに世界へと広まり, 本邦へも1997年に導入された. 亜全摘の適用は, 放射線抵抗性を示す中等度進行癌未治療例と放射線や併用療法後再発例の二つに大別できる. 未治療例では T2 深部型と T3 限局型に適用でき, 特に放射線抵抗性を示す内向性発育 (潰瘍形成) 型, 喉頭室進展型, 前方進展型の腫瘍には高い根治性を発揮する. 高線量併用療法後の亜全摘では, 手技の工夫, 抗菌剤の長期投与, 綿密な術後管理, 遅延性感染への対応が必要である.
ガイドラインやエビデンスは重要だが, 症例個々の条件を加味した「個別化医療」を実践し, 患者側の立場に立った「低侵襲機能温存治療」を目指したい.
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