日本耳鼻咽喉科学会会報
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118 巻, 10 号
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総説
  • 栗本 康夫
    2015 年 118 巻 10 号 p. 1197-1203
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2015/11/07
    ジャーナル フリー
     ヒトにおいて, 中枢神経に属する網膜は再生しないと長年にわたって考えられてきた. しかし, 近年の幹細胞研究の進歩により, 幹細胞を用いた網膜の再生医療が実現しようとしている. 特に, 最近に発明された人工多能性幹 (iPS) 細胞を用いると, 幹細胞を用いた再生医療で懸念されていた倫理性や拒絶の問題が解決可能で, 臨床応用への期待が高まっている.
     われわれは, iPS 細胞を用いた再生医療の嚆矢として, 加齢黄斑変性 (AMD) に対する患者 iPS 細胞由来網膜色素上皮 (RPE) 移植の臨床研究を開始した. AMD は先進国における主要な失明原因であり, 本邦での有病率も増加している. 滲出型 AMD に対する現行治療は主に新生血管の抑制にあるが, これは対症療法の域を出ない. 一方, 本疾患発症の背景にある RPE の劣化を治療することができれば根治的治療になる可能性がある. しかし, RPE 移植治療は自家移植を行うには手術侵襲が大きく, ほかにドナーを求める場合には倫理的あるいは免疫学的問題が伴うため, いまだ一般的治療とはなり得ていない. われわれは, 自家 iPS 細胞より作製した RPE 細胞シートの滲出型 AMD 患者網膜下移植に成功し, 現在, 術後経過観察中である. iPS 細胞治療としては世界初となる本臨床研究では, 安全性の確認が主要評価項目となるが, 術後半年を経過した現時点で, 特記すべき有害事象は発生していない.
     RPE 移植治療の安全性と有効性が確認されれば, 次は網膜のより内層に位置する視細胞が再生医療のターゲットとなる. 現在, 動物実験において iPS 細胞より誘導した視細胞のシート移植に成功しており, 臨床応用に向けて準備中である.
  • ―喉頭癌: 化学放射線療法の時代における喉頭亜全摘出術の位置づけ―
    中山 明仁
    2015 年 118 巻 10 号 p. 1204-1211
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2015/11/07
    ジャーナル フリー
     喉頭癌の年間の罹患数は約4,300人で, 頭頸部領域では甲状腺癌に次いで頻度が高く, 耳鼻咽喉科医にとっては最も診療する頻度の高い癌腫である. 喉頭全摘出術は根治性の高い重要な手術であるが, 失声や永久気管孔などの障害も来す. 人生観の多様化により低侵襲な喉頭機能温存治療が注目されている.
     米国では1980~2000年代にかけて, 進行喉頭癌に対して二つの歴史的な無作為化比較試験, VA 試験と RTOG 91-11 試験が発表され, 化学放射線同時併用療法が全摘に取って代わる機能温存治療として推奨された. しかし, 最近併用療法後の救済手術が困難であることや嚥下障害などの晩期障害の問題が表面化している.
     喉頭亜全摘出術は甲状軟骨と両側声帯を含む喉頭の3/4を切除し, 残る1/4の部分, 輪状軟骨と舌骨を接合して新声門を再建する. 摘出範囲と再建形式によって SCL-CHEP(Supracricoid laryngectomy with Cricohyoidoepiglottopexy) と SCL-CHP(Cricohyoidopexy) に大別される. CHEP は声門癌に, 喉頭蓋を切除する CHP は声門上癌に適用される. 術式が画一的で, 病変により切除範囲が変わらない. 旁声門間隙の一塊切除が可能で, 進行癌に対しても高い根治性が期待できる. 永久気管孔を必要とせず, 術後の音声は粗糙性であるが社会復帰は可能である. 化学放射線療法後の救済手術にも適応できる. フランスを中心にラテン系欧州諸国で定着し, 1990年代の英文誌発表をきっかけに世界へと広まり, 本邦へも1997年に導入された. 亜全摘の適用は, 放射線抵抗性を示す中等度進行癌未治療例と放射線や併用療法後再発例の二つに大別できる. 未治療例では T2 深部型と T3 限局型に適用でき, 特に放射線抵抗性を示す内向性発育 (潰瘍形成) 型, 喉頭室進展型, 前方進展型の腫瘍には高い根治性を発揮する. 高線量併用療法後の亜全摘では, 手技の工夫, 抗菌剤の長期投与, 綿密な術後管理, 遅延性感染への対応が必要である.
     ガイドラインやエビデンスは重要だが, 症例個々の条件を加味した「個別化医療」を実践し, 患者側の立場に立った「低侵襲機能温存治療」を目指したい.
原著
  • 國枝 千嘉子, 金澤 丈治, 駒澤 大吾, 李 庸学, 印藤 加奈子, 赤木 祐介, 中村 一博, 松島 康二, 鈴木 猛司, 渡邊 雄介
    2015 年 118 巻 10 号 p. 1212-1219
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2015/11/07
    ジャーナル フリー
     声帯ポリープや声帯結節の診断・治療方針の決定には大きさなどの形態的特徴が関与することが多い. 初診時から音声治療を行った声帯ポリープ36例, 声帯結節35例について, 手術の効果および手術の際に測定した病変の大きさと術前音声検査値との相関, 病変の大きさとその術後改善率との相関を検討した. 手術後の音声機能は, 声帯ポリープ・声帯結節の両群で最長発声持続時間・声域・平均呼気流率・Jitter%値 (基本周期の変動性の相対的評価)・Shimmer%値 (ピーク振幅の変動性の相対的評価) のすべての項目で術前に比べ有意な改善を認めた. 病変の大きさとの相関では, ポリープ症例は術前の声域・Jitter%で相関を認め, 術後改善率では, 声域・平均呼気流率・Jitter%・Shimmer%で相関を認めた. 一方, 結節症例では術前の声域のみ相関を認めた. Elite vocal performer(EVP) (職業歌手や舞台俳優など自身の「声」が芸術的, 商業的価値を持ち, わずかな声の障害が職業に影響を与える) 群と EVP 以外群で検討を行い, 声帯ポリープ症例の EVP 群では EVP 以外群と比較して病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 結節では両群とも病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 両疾患において手術治療は有効で, 形態的評価は治療方針決定のために必要であり, 音声治療も両疾患の治療に不可欠であると思われた.
  • 海邊 昭子, 穴澤 卯太郎, 結束 寿, 高石 慎也, 蓮 琢也, 増田 文子, 吉村 剛, 飯野 孝, 田中 康広
    2015 年 118 巻 10 号 p. 1220-1225
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2015/11/07
    ジャーナル フリー
     2011年5月から2014年3月までの間に当科で入院加療となった扁桃周囲膿瘍患者115症例を対象に年齢, 性別, 患側, 入院期間, 排膿方法, 喫煙歴, 糖尿病の既往, 抗菌薬, 検出菌の9項目について検討を行った. 性別の内訳は男性98例 (再発症例5例含む), 女性17例と男性が85%を占め, 年齢平均は36歳であった. 最も多い世代は30歳代男性で, 全体の27.8%を占めた. 入院期間の中央値は7日であり, 患側は右が52%, 左が44%, 両側例が4%であった. 排膿方法は, 切開が63%, 穿刺のみが37%であった. 喫煙歴は51%で認められ, 糖尿病の既往歴は3.5%に認めた. 抗菌薬は主に ABPC/SBT 単剤を使用している例が多く, 75%を占めた. 検出菌では, 嫌気性菌が検出された症例が63%を占め, そのうち87%が好気性菌との混合感染であった. 好気性菌では α 溶連菌, 嫌気性菌では Prevotella 属が最も多かった. 年齢, 喫煙歴の有無, 切開排膿, 抗菌薬の違い (ABPC/SBT 単剤と複数薬使用) により入院期間を比較検討したところ, 年齢のみ有意差を認め, 65歳未満と65歳以上の群では65歳以上の方が有意に入院期間は長くなる結果を得た. よって高齢者は重症化予防のために慎重な治療介入が必要である. また, 抗菌薬選択には ABPC/SBT の使用により好気性菌と嫌気性菌, 耐性菌を幅広くカバーし, 単剤で十分な効果が期待できる.
  • 朝蔭 孝宏, 安藤 瑞生, 吉田 昌史, 斉藤 祐毅, 小村 豪, 山岨 達也
    2015 年 118 巻 10 号 p. 1226-1232
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2015/11/07
    ジャーナル フリー
     中咽頭癌に対するタキソテール, シスプラチン, 5-FU を用いた化学療法 (TPF 療法) による, 導入化学療法および化学放射線療法による治療成績および問題点を明らかにすることを目的に検討を行った. 対象は中咽頭癌初回治療例44例 (Stage II/III/IV がそれぞれ2/9/33例, 側壁/前壁/上壁/後壁がそれぞれ31/8/3/2例) で, 導入化学療法群が33例, 化学放射線療法群が11例であった. 導入化学療法および化学放射線療法それぞれの治療完遂率, 好中球減少症発生率, 奏功率, 3年疾患特異的生存率はそれぞれ70%/63%, 88%/91%, 82%/82%, 73%/55%であった. また, 導入化学療法群における3年疾患特異的生存率はp16陽性例では100%に対して, p16 陰性例では51%であり統計学的に有意差を認めた (p=0.004). 化学放射線療法施行例では3例に下顎骨髄炎を認め, 本治療の問題点と考えた.
  • 平位 知久, 福島 典之, 鹿野 真人, 宮原 伸之, 三好 綾子, 有木 雅彦, 益田 慎, 長嶺 尚代
    2015 年 118 巻 10 号 p. 1233-1240
    発行日: 2015/10/20
    公開日: 2015/11/07
    ジャーナル フリー
     輪状軟骨は発声, 呼吸に関して極めて重要な器官と考えられてきた1). その輪状軟骨をあえて鉗除することにより, 高位での気管孔造設術 (輪状軟骨切開術) および堅固な気管孔を有する声門閉鎖術を施行することが可能となる. 輪状軟骨切開術および声門閉鎖術における輪状軟骨鉗除の意義について報告する.
     輪状軟骨切開術は, 輪状軟骨を前方約3分の1の範囲で鉗除することで高位に気管孔を造設する術式である. 対象となる症例は, 頸部後屈困難, 肥満, 短頸, 喉頭低位, 甲状腺術後, 頸部大血管走行異常等の背景を有し, 通常の位置 (第2-4気管輪) で気管切開を施行することが困難な症例である. 当科では12例に対して本術式を施行し, 全例で安全に気管孔を造設することが可能であった.
     声門閉鎖術に際しては, 輪状軟骨および甲状軟骨を鉗除することで, 第1気管輪および輪状軟骨を枠組みとする堅固な気管孔を造設することが可能となる. 術後, 気管カニューレからの離脱が可能となる症例は多い. 当科では重度の嚥下障害症例6例に対して本術式を施行し, 4例 (ただし1例は気管孔拡大術後) で気管カニューレからの離脱が可能であった. 1例で術後出血を認めたが, 気管皮膚瘻等の合併症は認めなかった.
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