日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 1 号
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総説
  • ―悪性リンパ腫の染色体・遺伝子診断―
    大野 仁嗣
    2014 年 117 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    悪性リンパ腫の診断・分類は, 病理形態やフェノタイプ解析によるところが大きいが, 染色体・遺伝子変異の情報も極めて重要である. 悪性リンパ腫には多くの染色体転座が認められ, 病型や病態と密接に関連している. 染色体転座は, 転座切断点に位置する腫瘍関連遺伝子が抗原受容体遺伝子に近接することによって発現調節に異常を来すタイプと, 転座によって2つの遺伝子が融合しキメラ蛋白をコードするタイプに大別される. 悪性リンパ腫に認められる転座の多くは前者に属し, 特に免疫グロブリン遺伝子と関連した転座の頻度が高い. 染色体分析はGバンディングに加えてFISH解析を行う. FISHは染色体転座切断点に該当する2つのDNAプローブを異なる蛍光色素でラベルし, 蛍光顕微鏡下で融合シグナルや分離シグナルを観察する方法である. FISHは分裂核だけでなく, 間期核にも応用可能である. B細胞リンパ腫の代表的な染色体転座である t(8;14)(q24;q32) と t(14;18)(q32;q21) は, 免疫グロブリン重鎖遺伝子の各領域と, MYC遺伝子やBCL2遺伝子に設計したプライマーを用いたPCRで転座接合部を増幅することができる. 濾胞性リンパ腫では t(14;18)(q32;q21), マントル細胞リンパ腫では t(11;14)(q13;q32), MALTリンパ腫では t(11;18)(q21;q21) と t(1;14)(p22;q32), 未分化大細胞リンパ腫では t(2;5)(p23;q35) が高い頻度で認められ, 病型特性が高い. 一方, びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では t(8;14) や t(14;18) に加えて, BCL6遺伝子を標的とする t(3q27) の頻度が高い. それぞれの病型には, アレイ解析や次世代シークエンサーによって明らかになったゲノム変異の知見が蓄積され, 悪性リンパ腫発症のメカニズムが次第に明らかになっている.
  • ―ナビゲーション手術を耳科領域に応用するための技術―
    松本 希
    2014 年 117 巻 1 号 p. 10-14
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    鼻副鼻腔領域に比べ, 側頭骨領域のナビゲーション手術はあまり普及していない. これは必ずしも当該領域においてコンピュータやナビゲーション技術の必要性が低いと判断されているためではなく, 側頭骨領域のナビゲーション手術特有の使いにくさ, 侵襲性などの問題点によりナビゲーションの利点を実感しにくかったためと考えられる. 九州大学では耳鼻咽喉科と先端医工学診療部とが連携し, 側頭骨領域の手術ナビゲーションで問題と考えられた精度, 侵襲性, インターフェースの3点について解決を試みた. 開発された新技術によりこれまで侵襲性の高い方法でのみ可能であった高精度の位置合わせ (レジストレーション), 長時間手術で安定して使用できるリファレンスが可能になった. レジストレーションの時間も1分以内と短縮された. さらに, 執刀医が顕微鏡を見て手術している間にも重要臓器との近接を音声でフィードバックする機能を開発し, 執刀医が手術中にナビゲーション情報にアクセスできない矛盾を解消した.
  • 檜澤 伸之
    2014 年 117 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    咳嗽は呼吸器疾患の日常診療では最も頻度が高い症候の一つである. 肺炎, 肺がん, 間質性肺炎や喘息, COPDなどの疾患がないことを確認した上で, 慢性咳嗽の原因疾患を考えていく. 身体所見や胸部X線写真, 呼吸機能検査で異常を伴わずに長期に続く咳嗽は, 原因疾患が曖昧なまま漫然と鎮咳薬, 抗炎症薬や抗生剤が投与され, 咳嗽によって生活の質が著しく低下したままで放置されてしまう危険があり, 適切な対応が求められる.
    咳嗽は本来, 感染などによって気道内に貯留した分泌物や吸入された外来異物を気道外に排出させるための生体防御反応である. しかしながら, 8週間以上続く慢性咳嗽においては, 感冒を含む気道の感染症に対する生体防御が主体となることは少ない. 喘息/咳喘息, アトピー咳嗽/非喘息性好酸球性気管支炎, 副鼻腔気管支症候群/上気道咳症候群, さらには胃食道逆流などが慢性咳嗽の主要な原因疾患と考えられている. また, 長引く咳を呈する感染症としては, 線毛上皮細胞に感染するマイコプラズマおよび百日咳を考慮する.
    日常の臨床では, これらの疾患を念頭に置いて詳細な病歴聴取を行い, 基本的な検査を進めていく. それぞれの病態に特異的な治療を実施し, 効果判定を行った上で治療内容の変更や増減を行う. しかしながら, これらの治療によっても軽快しない難治性の慢性咳嗽が存在し, その割合は20~40%ともいわれ, 中枢性の咳感受性亢進が難治性の慢性咳嗽に一定の役割を果たしている可能性が指摘されている. 難治症例においては咳嗽の原因に対する治療だけではなく, 亢進した咳嗽反射に対する非特異的な治療も重要になってくる. 慢性咳嗽の診療を支援する目的で日本呼吸器学会は咳嗽に関するガイドラインを作成している. 本稿では, 難治性の症例に対するアプローチなど, 慢性咳嗽を取り巻く最新の話題を, 最近改訂されたガイドラインの内容も踏まえながら概説したい.
原著
  • 朝倉 光司, 本間 朝, 計良 宗, 長屋 朋典, 氷見 徹夫
    2014 年 117 巻 1 号 p. 20-25
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    全頸部郭清術の際の副神経切除症例20例に対して副神経の再建手術を行った. その内14例 (副神経再建群) では副神経の切除断端の間で神経再建を行った. 他の6例 (頸神経・副神経再建群) は, 副神経の中枢側が大きく欠損して通常の神経再建ができない例で, 残存した末梢側の副神経と頸神経 (C2あるいはC3) の間で神経吻合を行った. 術後の肩関節機能を評価した結果, 副神経再建群および頸神経・副神経再建群の間に差はなく, いずれも同時期の副神経温存群41例よりは劣る傾向はあるものの, 副神経切除非再建群13例よりも良好な結果であった.
  • 森 文, 中山 次久, 月舘 利治, 平林 秀樹, 春名 眞一
    2014 年 117 巻 1 号 p. 26-33
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    副鼻腔超音波検査は1980年代に主に報告・実用化されたが, その後普及には至らなかった. しかし, 近年小児副鼻腔炎における再度の利用報告が挙げられている. このため画像精度を再検証し, 有用性を評価することを目的とした.
    対象は当科を受診した7歳から15歳の小児18人 (男8人・女10人, 平均年齢10.4歳) である. これら症例の上顎洞36側に水平方向・垂直方向の2方向から超音波検査を施行し, 同時期に副鼻腔CTを施行. 一部症例には上顎洞内視鏡検査を施行し比較検討を行った.
    上顎洞超音波検査の結果を副鼻腔CTと比較したところ, 感度92.6%, 特異度100%, 偽陽性0%, 偽陰性7.4%, 陽性的中率100%, 陰性的中率81.8%であった. これまでの報告では小児上顎洞X線検査の副鼻腔CTと比較した感度・特異度は約70~80%であり, X線検査より良好な結果となった. また, 重症度判定においても有意な相関関係を認め, 超音波検査にて重症度も判定可能と思われた.
    一方で, 超音波検査の現時点での限界として, 上顎洞内陰影の性状までは判断困難であること, 軽度粘膜肥厚や後方のみの病変は捉えにくいことが分かった. また, 低年齢児や他副鼻腔での検証が未施行であり, さらなる検討が必要と思われた. しかし, 小児は無症状でも画像所見を認めることが多く画像特異度が低いため, 検討結果にかかわらず診断に際しては鼻腔所見や臨床症状が優先される.
  • 宮崎 拓也, 土師 知行, 佐藤 進一, 市丸 和之, 千代田 朋子, 西村 一成, 坂本 進, 鈴木 良, 岩永 健, 大庭 晋, 岡 愛 ...
    2014 年 117 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    2004年12月から2011年12月までの7年間に, 喉頭全摘術後の音声再建術に留置型プロテーゼ (グロニンゲンボイスボタン® またはプロボックス2®) を使用した26例を対象に 1) 交換間隔, 2) 合併症, 3) カンジダ感染, 4) 転帰について検討を行った.
    観察期間は8.1から95.7カ月 (中央値28.8カ月) であった. 交換間隔の中央値は147日 (4.9カ月). 合併症はシャントからの漏れ6例, 肉芽形成5例, 気切孔狭窄5例の計14例 (54%) に認め, 6例 (23%) が入院を要した. 年齢 (<中央値=66, p=0.495), 照射歴の有無 (p=0.686), 再建時期 (p=0.257) での患者背景因子における合併症の有無は, いずれも有意差を認めなかった. 培養検査にてカンジダを81%に認め, 照射歴の有無で検出率に有意差を認めた (p=0.004). また病理組織検査からそれらの病原性を示す仮性菌糸を確認した. 1例が漏れのためシャント閉鎖術を行ったが, その他いずれの合併症も対処可能であった. 現在まで重篤な合併症を認めず, 安全に使用できることが確認できた. 長期になるほど合併症は増加するとの報告もあり, 今後も慎重に経過をみていく必要があると考える.
  • 伊原 史英, 大塚 雄一郎
    2014 年 117 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    破傷風は皮膚の創傷部位から芽胞が侵入・発芽し, 神経毒素を産生することで発症する. 一般的には外傷歴と臨床症状から診断するが, 外傷歴の明らかではない症例では, 臨床症状のみで診断しなければならない. 今回, われわれは外傷を伴わない2症例を経験したので報告する.
    症例1は両頸部・肩部の痛み, 開口障害を主訴に受診し破傷風1期の診断となり, 治療を行った. 症例2は抗破傷風ヒト免疫グロブリンの使用を治療開始時に拒否したが, 翌日より症状が悪化したため, 翌日に抗破傷風ヒト免疫グロブリンを使用した. 入院5日目より数回の頸部の部分的な硬直性痙攣を起こしたが, 気道確保などは行わず治癒した.
  • 結束 寿, 吉村 剛, 飯野 孝, 田中 康広
    2014 年 117 巻 1 号 p. 46-51
    発行日: 2014/01/20
    公開日: 2014/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性. 1996年に左耳下腺多形腺腫の摘出手術を施行後, 3回の局所再発を繰り返し, 同様の摘出術が施行された. 2011年1月に右下肢痛を認め, 当院整形外科での全身のCT検査にて右腎, 仙骨, 両肺に腫瘍を認めた. 腎癌の仙骨, 肺転移の診断にて仙骨部の生検と右腎摘出が施行された. 病理結果は多形腺腫であり, 最終的に耳下腺の転移性多形腺腫と診断した. 同年6月に仙骨転移に対し緩和的放射線照射を施行し, 8月に局所再発を来した原発巣と周囲の腫脹リンパ節を摘出した. その後, 肺腫瘍も摘出し, 病理結果はすべて多形腺腫であった. 本症例は多形腺腫の多臓器転移例であり, 腎への転移について本邦で初めての報告である.
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