1 目的騒音性難聴は一般に騒音の強さ,暴露時間,個体の受傷性などの種々の因子によつて発生,進展すると考えられている.また,その左右の聴力像は類似しているものがいといわれている.しかし,長期間に亘る騒音被暴者に純音聴力検査を行なつてみると,聴力像は左右同型でありながら左右差のある例や,左右の聴力像の型が全く異なる例が在している.これら左右非対称性の難聴の出現については疑問な点が多い.本研究では騒音性難聴の左右対称群と左右非対称群との間には,自記オージオメトリー,SISIテス,DLテストの検査成績上どの様な相異がみられるかを明らかにし,左右非対称群の成因について若干の検討を試みることを目的とした.
2 検査法検査対象は某鉱業所に勤務中の372名で,職種は採鉱,選鉱,運搬,機械などであつた.作業場での騒音レベルは86~120phonであつた.選別検査は1,000,4,000Hz,20dbで両耳について行ない,難聴例に対し気導骨導聴力検査,自記オージオメトリー,SISIテスト(short increment sensitivity index test),DLテスト(intensity differencelimen test)を行なつた.
3 結果
1) 難聴の出現率は372名中,173名(46.5%)であつた.勤務年数からみると難聴の出現に関係があるのは16~20年までと考えられた.
2) 難聴例173名中一側または両側がC5dip型を示したものは91例(52.6%)であり,左右対称性のものは106例(61%),左右の型が類似し左右の聴力損失に差を認めたもの26例(15%),左右の型が異なっていたもの41例(24%)であつた.
3) 自記オージォメトリー,SISIテスト,DLテストの結果は,左右対称群のみがいずれの検査でも高い左右の相関を示し,左右の型が類似し左右差のある群と左右の型の異なる群との間には明らかな差はなかつた.
4) 左右非対称群における純音聴力検査および特殊聴力検査成績からみた左右の比較では,純音聴力検査で(2,000+4,000+8,000)Hzの場合,右側〉左側の難聴例が右側〈左側のものより多かつた.特殊聴力検査成績では,聴力型が類似して左右差のある群は右耳の障害例が左耳よりやや多く,左右の型の異なる群ではむしろ反対の結果であつた.
5) 職業性難聴において左右非対称性のージオグラムを示す例が出現する要因として,環境騒音の強さ,方向などのさまざまな変化,および特殊聴力検査成績上左右対称にくらべ低い左右の相関を示すなどのことから騒音そのものの左右の変化と騒音による左右の聴器の受傷性の相異の両因子が関与しているものと推測された。
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