壊疽性鼻炎 (進行性鼻壊疽) は, 広い意味で用いられてきたが, Walton (1958~60) は, これを病理学的立場より明解に分類した. すなわち, (1) lethal midline granuloma, (2) Wegener's gran ulomatcsis, (3) reticulum cell sarcoma.
私どもは, 極めて類似した臨床像を示した進行性鼻壊疽を2例報告した.
第1例はWegener肉芽腫症であり, 第2例は最初Wegener肉芽腫と考えられたが, 末期になり, 鼻細網肉腫の組織所見を認めた.
従来の文献には, 病理診断上, 不明確な例も多い. 統計的観察ではなく, 自験例2例より, 以下の知見を報告する.
(1) 第1例は, 20才の女性であり, 主訴は全身倦怠感, 発熱であり, 内科医により胸部結核として治療をうけていたが, 数カ月後, 鼻閉, 鞍鼻を訴え, 腎生検によりWegener肉芽腫症と診断された. 約1年半後, 喀血にて死亡した.
第2例は24才, 男子であり, 主訴は, 鼻閉, 悪臭であり, その後発熱, 口蓋の壊死をきたし, 約1年後, 腸管出血で死亡した.
(2) 第1例 (Wegener肉芽腫症) と, 第2例 (鼻細網肉腫) は, その病理診断上の差異にかかわらず, 極めて類似した臨床症状を示す. すなわち, 鼻中隔の穿孔, 壊死, 鼻腔内の著しい痂皮形成, 鼻閉, 発熱, 全身倦怠感, 赤沈値亢進, γ-gl, α2-gl値の増加, IgA, IgG, の増加などである.
(3) 両者の鑑別のためには, 臨床所見の変化の詳細な追求が, 大切であり, 潰瘍形成が進展する場合, 繰返し組織診断の必要がある.
(4) Wegener肉芽腫症は, 肺, 腎, 脾と病変が進展するが, 同一の病因と考えられる結節性動脈周囲炎は, 腎が先に障害される一方, 上気道は変化がない. 今回の鼻細網肉腫は, 肝, 骨髄に転移したが肺には末期まで, 著変をみとめていない.
(5) 鼻細網肉腫 (第2例) は, 病変が口蓋の全欠損までおよんだが鞍鼻はみとめられない. 一方, Wegener's granulomatosis (第1例) は鞍鼻は, 著しいが, 口蓋は最後まで変化を認めなかった.
(6) 正しい治療を行うためには, 早期診断が不可欠であるが, hypersensitive reactionの病像のみでの過信は危険であり, 経過の慎重な検討が必要である.
(7) Waltonの分類は, 病理学的な分類であり, 症状の面よりわけるとhypersensitive reactionを示すもの (Wegener肉芽腫症, reticulum cell sarcoma) と, 非特異的炎症反応を示すもの (lethal midline granuloma) にわけて, 整理する方がよいと考える.
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