耳骨連鎖再形成に関する諸問題のうち, 連鎖形成資材および術後の離断防止の問題があり, それらの解決の手懸りを得ようとして動物実験を行なつた. 形成資材として自家耳小骨, 自家骨片, Kielbone, Silicone rubberを選び, また再形成連鎖離断防止には, 組織接着剤としてaron α, E.D.H. adhesiveを選んだ. 結果は次のようである.
1) 自家耳小骨は1週~1カ月の時点において部分的な変性を見た. しかし著明な吸収は見られずその骨構造を保つていた.
骨片の場合, 骨細胞は自家耳小骨より, 早期に且つ広範囲に変性消失する. しかし1~3カ月の時点で骨管腔に再生血管を伴つものがあり, この場合には管壁に骨新生を認め, 時日の経過とともに周囲へも進展している. 他方, 再生血管を伴なわないものでは管壁に骨新生なく, 骨片の部がOsteoidようなものでしめられる. Kielboneは吸収像が多数認められ結合織化の傾向にある.
2) 組織反応はKielboneが最も高度で肉芽増生が著明である. Silicone rubberでは肉芽増生が軽度である. 自家骨の場合は極めて軽度である.
3) 資材と鐙骨の結合様式は本来の連鎖とは異なるが, 自家骨の場合は, 鐙骨頭及び移植片周囲の粘膜骨膜の肥厚増生により, Kielboneの場合は, その周囲の肉芽織増生により, Silicone rubberの場合はその被膜と鐙骨頭の粘膜骨膜が肥厚増生し, 各々結合する. 安定した結合は被膜形成の遅いSiliconeが時日を要する.
4) Aron αおよびE.D.H. adhesive共に, その接着性は良好であり, これらを砧鐙関節に使用した場合, 初期には接着剤を介して, 時日の経過と共に接着剤の被膜を介して資材と鐙骨が結合する. そして耳骨に少量付着した場合には, その組織反応も軽度であり, 多量の場合には耳骨の変性およびfibrosis化を認める. また鼓室粘膜, 皮弁に付着したものでは肉芽織増生が高度であつた.
5) 両接着剤の異物反応は軽度である.
6) E.D.H. adhesiveの場合には被膜形成, および可撓性においてAron αよりすぐれている.
7) 従つて, 連鎖形成資材は自家骨が比較的良好で, 接着剤を用いる時はE.D.H. adhesiveを注意して用いるのが良い.
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