日本耳鼻咽喉科学会会報
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115 巻, 11 号
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総説
  • 守本 倫子
    2012 年 115 巻 11 号 p. 939-943
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/15
    ジャーナル フリー
    気管切開の目的は大きく分けると, 上気道狭窄に対する気道確保と呼吸管理の2つが挙げられる. 近年小児の気管切開が増加してきた理由は, 以前であれば出生直後に死亡していた可能性の高い多発奇形合併児や重症仮死児, また重篤な頭部外傷や窒息も新生児医療や救急医療の発達により救命できるようになったことと関係がある. われわれの施設にて2002年6月から2012年4月までに気管切開を行った18歳未満の児は166例であり, 1歳未満は79例 (47.5%) とほぼ半数を占めていた. さらに原因疾患は2歳以下では上気道狭窄, 3歳以上では神経疾患や蘇生後の脳症が多かった. 166例中27例 (16%) は死亡の転帰をとったが, そのうち気管切開関連での死亡例は3例であり, それ以外はほぼ原疾患に関連する原因であった. また, 24例 (14%) はカニューレ抜去が可能であったが, これらの症例の多くは喉頭狭窄など解剖学的な上気道狭窄があり, 成長と共に改善した症例であった.
    気管切開の合併症や周術期のリスクをいかに減らすかということを常に念頭に置きながら, 気管切開後の呼吸状態や将来的にカニューレ抜去ができる可能性, 気管切開後に続けて行う予定の手術や注意点なども含めて, 家族と綿密なコミュニケーションをとって対応していく必要があるだろう.
  • 岡本 美孝
    2012 年 115 巻 11 号 p. 944-949
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/15
    ジャーナル フリー
    アレルギー性鼻炎は, 患者数の増加と, 睡眠, 就業, 学業への影響から患者のQOL障害が強いことが特徴である. アレルギー性鼻炎の自然改善は少なく, 特に小児期に発症した場合には, 多くは改善がみられないまま成人に移行している. そのため, 根本的な対応が望まれており, 抗原特異的免疫療法 (減感作療法) に対する期待は大きい.
    これまで抗原特異的免疫療法は皮下投与法で行われてきている. 免疫治療の意義は評価されているものの, 一方で長期の治療期間が必要で, 注射での投与のため40回以上の通院をする必要がある. また, 頻度は少ないとはいえ重い副作用の報告もある. 患者負担の大きさから, 免疫療法は有効性が示され, 国内外のガイドラインで推奨されているのにもかかわらず, 実際には実施する医療機関や受ける患者は減り続けている.
    最近, 従来の抗原の皮下注射に替わる方法として抗原の舌下投与が期待されている. 舌裏面に抗原の保存をはかり, 口腔底粘膜を利用した粘膜投与であり, 医師の指導下ではあるが自宅での投与が可能であり, 重篤な副作用の減少から患者の負担が著しく軽減されるものとして注目され欧州では広く実施されている. 国内でもスギ花粉症に対して, 舌下免疫療法の二重盲検による臨床治験が開始され, その結果が注目されている. 一方, ダニによる通年性アレルギー性鼻炎に対しても, 海外からの輸入抗原を用いた臨床治験が開始されている. 今後, 抗原特異的免疫療法はアレルギー性鼻炎の標準治療となることが期待されるが, 適応, 効果の評価をきちんと行うことが必要であり, 治療の中心となる耳鼻咽喉科医の役割は大きい.
原著
  • 間多 祐輔, 植木 雄司, 今野 昭義
    2012 年 115 巻 11 号 p. 950-956
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/15
    ジャーナル フリー
    今回われわれが経験した頸部リンパ節結核10症例をもとに診断上の問題点について検討した. 全例に穿刺吸引細胞診を施行し, 9例で肉芽腫性病変疑い, 1例でclass IIIの診断となり, 病理組織診断確定のために全例で開放リンパ節生検を行った. 8例は病理組織で乾酪壊死を含む類上皮細胞肉芽腫を認め頸部リンパ節結核と診断し得たが, 残り2例は病理組織で乾酪壊死を含まない類上皮細胞肉芽腫と診断され, 当初はサルコイドーシスが疑われた. 2例とも生検したリンパ節の抗酸菌培養が陽性となり確定診断に至ったが, 診断確定までに8週間を要した. 診断後は, 全例に抗結核薬による化学療法を行い, 再発症例はみられていない. 頸部リンパ節結核は個々の検査法の診断率の低さから診断に難渋することがあり, 赤沈測定, ツベルクリン反応, クオンティフェロン検査, 超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で本症が疑われる場合にはリンパ節生検を行い, 病理組織検査, 培養検査, PCR検査など複数の検査を組み合わせて行うことが最も重要である.
  • 加藤 久幸, 油井 健宏, 山本 直樹, 岡田 達佳, 浦野 誠, 櫻井 一生, 内藤 健晴
    2012 年 115 巻 11 号 p. 957-964
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/15
    ジャーナル フリー
    ヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 関連中咽頭癌はHPV非関連癌と比べ, 化学療法や放射線治療に対する感受性が高く予後良好であるが, その理由は明らかでない. フルオウラシル (5-FU) の標的酵素であるThymidylate synthase (TS) の腫瘍内の過剰発現は, 5-FUに対する抵抗性や予後不良因子となることが多数の癌腫で報告されている. そこで, 当科で一次治療を行った未治療中咽頭癌54例を対象にHPV感染とTS発現の相互関係および臨床像との関連について検討した. HPV陽性は22例 (40.7%), HPV陰性は32例 (59.3%) で, TS高発現は25例 (46.3%), TS低発現は29例 (53.7%) であった. TS高発現例の76.0%がHPV非関連癌 (p=0.02) で, 84.0%が多量喫煙者 (p=0.012) であった. 5年累積粗生存率はHPV陽性例で77.3%, HPV陰性例では29.0%とHPV陽性例が有意に予後良好であった (p=0.006). また, TS高発現例が31.9%に対しTS低発現例は60.7%と予後良好であるも有意差は認めなかった (p=0.12). 多変量解析により早期のT, N stage, およびHPV陽性が独立した予後良好因子となっていた. 結果として, TS発現と中咽頭癌治療の奏功性や予後との関連は認められなかったが, TSは興味深いバイオマーカーであり, その発現機序の解明が必要と思われた.
  • 西池 季隆, 識名 崇, 前田 秀典, 日尾 祥子, 猪原 秀典
    2012 年 115 巻 11 号 p. 965-970
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/15
    ジャーナル フリー
    過去3年間にわれわれはJNA手術例を3例経験した. 術前の画像診断では, すべての腫瘍は蝶口蓋孔付近に存在したが, 同時にその翼突管方向への進展と同部の拡大を認めた. 全例で手術に先立ち選択的動脈塞栓療法を行っているが, 1例では内頸動脈系の栄養血管の塞栓は困難であった. 全例で鼻内内視鏡下切除術を行った. 2例は内視鏡単独で切除したが, 残りの1例は犬歯窩切開の併用が必要であった. 術中には内頸動脈系の血管からの出血に対処する必要があり, それには二人の術者による4手操作が有用であった. 中鼻甲介下部の切除により, その後方に存在する翼突管や蝶口蓋孔付近の操作が容易になった. 鼻内内視鏡手術は, ステージ早期のJNAに対する手術の第一選択として挙げられる.
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