吸入性アトピー性アレルギーが本邦の慢性副鼻腔炎にどのように関与しているか, その臨床的意義は何かを解明しようと試みた. そのため先ず鼻アレルギー患者に問診, 鼻鏡検査, 抗原による皮内, 誘発反応, 鼻汁, 血中好酸球検査, ヒスタミン鼻反応, 血中抗体価測定, 病理組織学的検査, X線学的検査, 内視鏡検査, 自然孔閉塞度測定の諸検査を行った. そしてこれらの諸検査結果からアレルギー性副鼻腔炎の病態を把握し, 次に慢性副鼻腔炎患者に上記の諸検査を行い, アレルギーの特徴がどの程度にみられるかをみた. 更に鼻茸を有する患者にアレルギー検査を行い, 鼻茸のアレルギー説がはたして正しいかどうか検討した. また小児喘息患者, および多数の集団について抗原による感作の状態と副鼻腔炎罹患率を比較した. 最後に慢性副鼻腔炎で手術を行つたものについてアレルギー検査, 術後経過のアンケートによる調査を行い, アレルギーが術後経過におよぼす影響につき検討した.
結果
1鼻アレルギーの副鼻腔特に上顎洞所見
1) X線陰影は正常か比較的軽度のものが多く, 造影像では, 洞粘膜の肥厚はあっても軽く, 茸状腫脹は少く, 膿汁貯溜のある例も少いが造影剤の排泄不良例が多かった.
2) 組織学的にも洞粘膜には浮腫, 細胞浸潤の軽度のものが多いが, 軽度のものでも自然孔閉塞, 好酸球増多, 杯細胞増生のみられる例があった.
3) 一般に洞粘膜の形態的変化は軽度のようでもアレルギー性炎としての特徴をそなえ, しかも線毛機能は減退し, 自然孔の閉塞している例が多くみられた.
2慢性副鼻腔炎患者におけるアレルギー像
1) アレルギー歴陽性者は全体として35.6%にみられたが, 鼻鏡所見, 症状から鼻アレルギーを推定される例は少かった.
2) ハウスダスト皮内反応陽性率は27.8%であったが, 皮内, 誘発反応共に陽性例は約5%にすぎなかった.
3) 副鼻腔特に上顎洞のX線所見では陰影度も強く, 粘膜の腫脹, 茸状変化も強く, それと平行して造影剤の排泄も悪かった,
4) 内視鏡所見でも変化の高度のものが多かった.
5) 病理組織学的にも病変高度で, 細胞浸潤, 線維増生など慢性炎を示していたが, 皮内, 誘発反応共陽性例は他に比しカタル型に多く, 好酸球浸潤をみる例が多かった.
6) 結局, 慢性副鼻腔炎の5~10%にアトピー性アレルギーの特徴ある所見がみられた.
3鼻茸におけるアレルギー所見は少く, 鼻茸がアレルギーによつて特に形成され易いとはいえなかった.
4小児喘息患者の副鼻腔陰影増強は約70%にみられたが, アレルギーのものと, 非アレルギーのものとで差がみられなかった.
5集団検診で副鼻腔炎の有無と抗原感作の状態を対比したが両者にはつきりした関係はなかった.
6副鼻腔炎術後経過とアレルギーの有無とに特別の関係はみい出されなかった.
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