日本耳鼻咽喉科学会会報
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113 巻, 5 号
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総説
  • 石原 圭一, 汲田 伸一郎
    2010 年 113 巻 5 号 p. 429-434
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    形態と代謝画像が同時に提供できる新しい画像診断法であるPET/CT検査が本邦でも普及しつつあり, 多くの臓器が近接し, 高頻度に生理的なFDG集積がみられる頭頸部領域においては, FDG-PET/CTが標準的な画像診断法となってきている. 病期診断において, FDG-PET検査は原発巣の周囲臓器への浸潤を正確に評価可能で, リンパ節転移でもCTやMRIなどの断層法と比べ優れた検出能が実証されている. しかしながら, 触診などでN0とされた症例では感度は十分ではなく, このような症例ではセンチネルリンパ節シンチグラフィの適応となる. 頭頸部癌では遠隔転移はまれであるが, 重複癌が比較的多くみられる. 遠隔転移と重複癌の多くは糖代謝が亢進しており, FDG-PETで容易に描出される. 治療効果判定において, FDG-PET検査は病変の活性の有無を正確に評価でき, 迅速な治療の追加により局所の制御率を高め, 生存率や生活の質の改善が期待できる. また, 病変のFDG集積から完全寛解が得られる反応例と完全寛解に至らない不応例が鑑別できる可能性も示唆されている. FDG-PET検査は, 治療法の選択にかかわらず, 頭頸部癌の局所再発診断に高い感度を示すことが知られている. 陰性適中率も高く, FDG-PET検査が陰性であれば追加検査の必要はない. 逆に陽性適中率や特異度は低く, PET検査が陽性であれば生検が必須となる. 頭頸部癌におけるFDG集積から悪性度を評価でき, 糖代謝の亢進が予後と相関することが実証されおり, 再発症例において糖代謝の亢進は全生存率の独立した予後因子とされている. 原発不明癌ではFDG-PETを追加しても新たな情報が得られないことが多く, FDG-PETの有用性は確立していない. 放射線治療計画では, FDG-PET/CTにより放射線治療計画への応用も容易となり, 新たな情報が加わることで約3割の治療計画に変更が生じる.
  • 村上 信五, 渡邊 暢浩, 中山 明峰, 高橋 真理子, 竹村 景史, 稲垣 彰
    2010 年 113 巻 5 号 p. 435-440
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    側頭骨は鱗部 (squamous part), 岩様部 (petrous part), 鼓室部 (tympanic part) から構成され, 岩様部は錐体部 (pyramid part) と乳突部 (mastoid part) に分けられている. 側頭骨内に発生する疾患には急性・慢性の中耳炎をはじめ, 真珠腫, 耳小骨奇形, 骨折, 顔面神経鞘腫や聴神経腫瘍などの良性腫瘍, 外耳道癌や中耳癌などの悪性腫瘍などがあり, いずれも手術治療の対象となることが多い. そして, 側頭骨内には中耳, 内耳, 顔面神経などヒトが生きるためにも, また, 社会生活を営むのに必要不可欠な器官や組織が内包されている. これらの器官や組織の解剖学的な構造は複雑で, その3次元的配置や走行を正確に理解することが側頭骨手術の基本であり, かつ成功の鍵を握っていると言っても過言ではない. また, 内耳, 顔面神経は精密かつデリケートな組織であり, 側頭骨手術においては病変の全摘だけでなく, これらの機能をいかに保存するかが大きな課題となる.
    近年, 画像診断や手術支援機器の進歩はめざましく, 画像診断では小型で簡便かつ高画質が得られるコーンビームCT (3D AccuitomoTM) が開発されている. 本装置はオフィスに設置でき, 耳鼻咽喉科医でも簡単に撮影できる. 撮影画像からはあらゆる方向の3次元画像が作成できるため, 側頭骨の3次元的解剖を理解するのに便利である. また, 手術支援機器としてはナビゲーションや術中モニタリングの進歩がめざましい. ここでは聴覚 (Viking SelectTM) と顔面神経のモニタリング (NIM-ResponseTM) を取り上げて解説するが, これら神経モニタリングは側頭骨外科における聴覚や顔面神経の機能保存手術のために必要不可欠な手術支援機器になると思われる.
原著
  • 菊地 正弘, 篠原 尚吾, 藤原 敬三, 堀 真也, 十名 洋介, 山崎 博司, 栗原 理紗, 金沢 佑治, 内藤 泰
    2010 年 113 巻 5 号 p. 441-449
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    【目的】耳下腺内嚢胞性疾患の鑑別診断と術前検査の有用性につき検討した.
    【対象】2003年1月より2008年10月までに当科で手術を行った耳下腺腫瘤191例のうち, 術前の画像所見にて嚢胞成分が腫瘤の大半を占めると判断され, 手術にて同部に非充実性成分があると確認できた35例.
    【方法】耳下腺内嚢胞性疾患35症例の術後病理組織診断, 術前検査所見, および嚢胞内容液の病理学的性状・MRI所見をレトロスペクティブに検討した.
    【結果】嚢胞性疾患35例のうち, 術前画像診断にてほぼ全体が嚢胞であったもの (完全嚢胞型) は11例, 一部充実性腫瘍を認めたもの (不完全嚢胞型) は24例であった. 術後病理組織診断は, 非腫瘍性嚢胞5例, 良性腫瘍の嚢胞状変性27例, 悪性腫瘍の嚢胞状変性3例であった. 完全嚢胞型11例においては, FNAC, ガリウムシンチ, テクネシウムシンチを施行した症例においても有意な所見を得られず, 全例で術前診断不可能であった. 不完全嚢胞型24例においては, テクネシウムシンチが陽性であったワルチン腫瘍10例のみが術前診断可能であった. 嚢胞内容液の病理学的性状・MRI所見の検討からは, 嚢胞液内に出血・壊死像を認める場合は悪性腫瘍の出血性嚢胞変性が鑑別にあげられた.
    【結論】耳下腺内の嚢胞性疾患の術前診断は困難であるが, FNACやMRIによる嚢胞内容液の性状の判断が良悪性鑑別の一助となる.
  • 吉田 拓人, 柳 清, 沖野 容子, 今井 透, 森山 寛
    2010 年 113 巻 5 号 p. 450-455
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    眼窩下壁吹き抜け骨折の整復手術方法にはいくつかの方法がある. 代表的な方法としては経眼窩的方法, 副鼻腔手術に準じた経鼻的方法, 経上顎洞的に整復する方法に分けられる. 今回, 経上顎洞的アプローチのひとつであるフェネストレーション法を用いた眼窩下壁吹き抜け骨折整復術の成績について検討を行った. フェネストレーション法は従来のCaldwell-Lucに準じた方法に比較して低侵襲の手術法である. 対象は聖路加国際病院にて手術加療を行った21例である. 治療成績は自覚症状の改善度と, Hessチャートを利用した他覚所見の改善度で評価を行った. 結果としてフェネストレーション法は良好な改善度を示し, 大きな副損傷を起こすものではなかった. 今後, 眼窩下壁吹き抜け骨折の治療法としてフェネストレーション法を用いた整復術は有効な一方法であると考える.
  • 中島 寅彦, 中村 和正, 白土 秀樹, 安松 隆治, 藤 賢史, 塩山 善之, 小宗 静男
    2010 年 113 巻 5 号 p. 456-462
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/03/12
    ジャーナル フリー
    当科では舌癌T1/T2N0症例に対しては原則として予防的頸部郭清術は行わず, 舌部分切除術 (口内法) か小線源療法を患者が治療法を選択するという方針をとってきた. 今回1995年から2006年までに当科にて舌部分切除術を施行した早期舌癌症例39症例 (27歳~92歳) を対象として後発リンパ節転移, 予後の解析を行った. 症例の内訳はT1症例26例, T2症例13例であった. 局所再発を4例 (10%), 後発頸部リンパ節転移を9例 (23%) に認め, 全症例救済手術を行った. 手術群の疾患特異的5年生存率は87.0%, 粗生存率は71.2%であった.
    ほぼ同時期に当院放射線科にて小線源療法を行った早期舌癌症例 (107例) では局所再発13%, 後発頸部リンパ節転移24%を認め, 小線源療法群の疾患特異的5年生存率は90.7%, 粗生存率は81.3%であった. 初診時のT分類別の5年生存率の比較においても手術療法と放射線治療の成績に統計学的有意差はなかった.
    以上の結果から, 頭頸部外科医は各治療法の長所, 欠点を適切にインフォームドコンセントし, 患者自身が治療法を選択する方針でよいと考えられる.
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