反回神経麻痺による嗄声や誤嚥により, 日常生活に問題を抱えている患者は少なくない.
我々は反回神経麻痺による一側性喉頭麻痺患者に対し, 外来において軟性ファイバースコープ下に声帯内アテロコラーゲン注入術 (高研社製, 3%非架橋型) を施行している. しかし1回の注入では効果が不十分な場合もあり, 反復注入することで比較的良好な治療効果が得られている.
そこで, 一側の反回神経を処置した成犬8匹の声帯を用いて, 注入アテロコラーゲンの声帯における組織内動態を, 特に反復注入術の必要性について検討した. 同時に当科喉頭外来における声帯内アテロコラーゲン注入術施行例のうち, 96例 (男性57例, 女性39例, 平均年齢54.5歳) の臨床データについて併せて検討した.
組織学的検討からは, アテロコラーゲン注入術は, 反復注入することにより比較的良好な残存量が保たれ, 蓄積の効果が期待できるものと思われた. また注入部周囲の異物反応は, 反復注入においてもほとんど認められなかった. 臨床的には, 49%の患者において反復注入を施行した. また注入術の効果については, 最長発声持続時間 (MPT) に関しデータの得られた75例で検討したところ, 術前の平均値は3.27秒だったが, 1回注入後, 及び全注入終了後の最終MPTは, それぞれ6.67秒, 7.16秒と増加しており, 対応のあるt検定において有意な改善 (p<0.001) を認めた.
アテロコラーゲン注入術は, 外来での内視鏡下注入術を施行することで患者の負担を軽減でき, ある程度の期間をあけての反復注入が容易であるため, その臨床的効果は十分期待できると考えられた.
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