日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻, 2 号
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総説
  • 武田 憲昭
    2018 年 121 巻 2 号 p. 89-96
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     誤嚥はヒトに特異的であり, 動物は誤嚥をしない. ヒトが経口摂取をして音声言語でコミュニケーションを取れば, 誤嚥を完全に防ぐことは困難である. ここに誤嚥の治療や予防の難しさがある. 誤嚥の分類に応じて, 嚥下機能を改善するためのさまざまな嚥下訓練が行われている. しかし, 訓練効果が示されている嚥下訓練は少なく, 嚥下機能の改善が示されている嚥下訓練に乏しいのが現状である. 誤嚥の診療で最も重要なことは嚥下性肺炎の予防である. 咳反射は最も重要な気道防御機構であるが, 嚥下性肺炎の患者では咳反射閾値が上昇している. このことから, 咳反射を改善することで嚥下性肺炎を予防する目的で, ACE 阻害薬やカプサイシンによる嚥下性肺炎の予防法が開発されている. われわれは, 外耳道にカプサイシン軟膏を塗布することにより Arnold's ear-cough reflex を介して嚥下障害患者の咳反射を改善し, 嚥下性肺炎を予防する方法を開発した. しかし嚥下訓練や嚥下性肺炎の予防法には, 質の高いエビデンスに乏しい. 誤嚥のリスクの高い患者の嚥下機能を適切に評価し, 作用機序に基づいて嚥下訓練や嚥下性肺炎の予防法を適切に選択することが, 超高齢社会に求められる耳鼻咽喉科医の役割である.

  • 加藤 政彦
    2018 年 121 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     新しいワクチンの開発と導入によりワクチンで予防できる疾患, いわゆる Vaccine Preventable Diseases(VPD) が増えている. 小児の耳鼻科領域におけるワクチンとしては, インフルエンザ菌 b 型 (ヒブ) と肺炎球菌が特に重要であり, ワクチン導入後同感染症は減少傾向にある.

     ポストワクチン時代の感染症治療の課題と注意点としては, 海外ではヒブ感染症が激減する中, 無莢膜型や b 型以外の莢膜型による侵襲性感染症が微増していることである. 本邦の調査でも同様の報告がなされている.したがって, インフルエンザ菌が無菌的な部位から検出された際には, 必ず菌株を保存し, その莢膜型を確認する必要がある. また, 喉頭蓋炎については, ヒブワクチン導入後は, その発生数は減少したものの, 平均発症年齢の上昇がみられたとされている. 今後は, 小児よりも成人における喉頭蓋炎の増加や典型的な症状の変化に注意するべきである.

     肺炎球菌については, その数多くの莢膜型の存在からワクチンに含まれているタイプが減少する一方で, 非ワクチンタイプが増える serotype replacement (血清型置換) を認めている. その中には, ワクチンタイプの株が莢膜遺伝子群の組み換えを起こすことで血清型を変化させる capsular switching が起こることもある. 実際に, 7価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV7) 導入後, PCV7 に含まれない血清型 19A の検出率が全体の約2割を占めたという海外の報告がある. この原因として, 薬剤耐性化の関与も考えられている. 国内でも同様の報告がある. さらに, 13価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV13) 導入後も PCV 非含有株による侵襲性感染症が主体となっている. このような観点から, 今後のサーベイランスと薬剤耐性のさらなる検討が重要と考えられる.

  • 内視鏡下頭蓋底手術における適切なアプローチときれいな視野づくりのために
    田中 秀峰
    2018 年 121 巻 2 号 p. 104-109
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     近年, 下垂体腫瘍および頭蓋底腫瘍に対して, 経鼻内視鏡下による腫瘍摘出術の頻度が増し, 耳鼻咽喉科医が接する機会が増えている. 当院でも2010年以降, 耳鼻咽喉科医が鼻副鼻腔内の操作と内視鏡保持をし, 脳神経外科医が両手操作による腫瘍摘出をする four-hand technique による内視鏡下頭蓋底手術を行っている.

     内視鏡下頭蓋底手術において, 前頭蓋窩へのアプローチでは Draf III 型が, 中頭蓋窩に対しては蝶形骨洞の単洞化が, さらに加えて後頭蓋窩に対しては耳管を含めた上咽頭後壁の軟部組織の処理が必要になる. 腫瘍の広がりに対し0° の器具で操作可能になるよう適切なアプローチを選択し, 鼻副鼻腔の機能温存も考慮しながら, そのコリドーを作製していく. 適応拡大が進むにつれ, 開頭アプローチ, 経口内視鏡アプローチ, 経眼窩内視鏡アプローチなどを組み合わせることがあり, それぞれの適応と限界について十分理解しておく必要がある. また, 内視鏡下頭蓋底手術にはラーニングカーブがあるとされ, チームを組んで普段から頭蓋底手術に接し, さまざまな場面を乗り越え, そのチームのスキルに応じて徐々に困難症例にチャレンジしていく姿勢が, 安全に手術するうえで重要である.

     最近, 斜台の削除から錐体部の内頸動脈にアプローチして, より深部の巨大腫瘍も手術することが増えてきた. この深部操作では, 臨床で実用可能となった 4mm 径の 4K 内視鏡をはじめフルハイビジョン以上の高画質画像が, 安全な手術をする上で威力を発揮する. 内視鏡下での手術操作は, 必ずしも視野の中心部分で行うことが望ましいとは限らず, むしろ視野の辺縁で操作をする方が, 機械との干渉が防げることや, 内視鏡の広角視野を生かすことで 2D 画像でも奥行きを認識しやすくなる. 見えていない視野で操作をすると大きなトラブルにつながるため, ブラインド操作は厳禁である. きれいな視野づくりが安全な頭蓋底手術を行う上で最も大切である.

  • 外来と往診・訪問診療について~嚥下診療15年の実践から
    浜井 行夫
    2018 年 121 巻 2 号 p. 110-118
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     耳鼻科開業医の外来において嚥下診療は憂鬱である. その理由はいくつかある. 1) 面倒である, 捉えにくい, 2) 検査評価に時間がかかる (一般診療時間中に行うのは無理), 3) 兵頭スコアと重症度の関連が解らない, 4) 喉頭ファイバーと嚥下内視鏡の違いは? など, 容易に診療に踏み出せないことにぶちあたる. そこで, 一般外来診療で嚥下評価に負担をかけない方法として, 1) 一度にせず2回に分ける, 2) 嚥下障害を少しでも疑う場合, 再診してもらう, 3) 初診時最低限の所見を取る, 4) 患者・家族の嚥下の要望を把握しておく, などの工夫をしている.

     誤嚥性肺炎が急増する中, 著者は15年前, 耳鼻科外来において嚥下診療の必要性を痛感し, 当時, 臨床的評価である藤島グレード (表1)6) を頼りに, 摂食時ムセル・ムセナイで暗中模索の嚥下診療を繰り返していた. その後, 10年前からは津田豪太先生の嚥下内視鏡の観察ポイント1) を評価方法の基軸として診療した. しかし, 評価に時間がかかり一般外来が停止するので, 嚥下障害が疑われる患者は, 初診時は簡易的に摂食方法と嚥下体操を指示して帰宅してもらい, 改めて別の日の午後の診療前に再診後, 嚥下評価していた. さらに7年前から4項目にまとめられた兵頭スコア (表2) の提唱により外来の工夫が一変した. 初診時はスコアの①②項目, 再診時③④項目に分けて評価スコアを作成した. また, 西山耕一郎先生考案の「兵頭スコアと食形態の嚥下食ピラミッド」(図1)2) を使って各患者の要望に応じた嚥下治療・指導につなげている.

     耳鼻科開業医の将来に向けての工夫として, 著者は15年前から嚥下外来と並行して, 在宅患者の耳鼻科領域の疾患 (嚥下, 気管カニューレ管理, 耳漏, 鼻出血など) に注目し, 在宅主治医からの依頼に応じて在宅への往診・訪問診療を行っている. 厚労省の推進する多科・多職種による在宅医療の地域包括ケアシステムを念頭において, 広島県地方部会・広島県耳鼻科医会は2015年10月在宅医療検討委員会を発足させ, 在宅主治医の要望のアンケート結果に鑑み, 一般耳鼻科開業医を対象として定期的に嚥下障害に関する症例検討会を開催している.

原著
  • ―全国アンケートからの解析結果―
    花澤 豊行, 小林 正佳, 中川 隆之, 鴻 信義, 藤本 保志, 児玉 悟, 讃岐 徹治, 田中 秀峰, 有泉 陽介, 丹生 健一, 朝蔭 ...
    2018 年 121 巻 2 号 p. 119-126
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     内視鏡下経鼻手術は, 鼻副鼻腔の炎症性疾患や形態異常の治療に利用されるだけではなく, 腫瘍切除への応用も進んでいる. われわれは, 鼻副鼻腔悪性腫瘍に対する内視鏡下経鼻手術の標準化案を作成するために, 本邦における内視鏡下経鼻手術による腫瘍切除の現況をアンケート調査することで鼻副鼻腔腫瘍の治療における今後の課題を検討した. アンケートは, 日本耳鼻咽喉科学会認定施設633施設に送付し, 433施設 (68.4%) より回答が得られた. 鼻副鼻腔に発生した内反性乳頭腫の切除手術に内視鏡下経鼻手術を導入している施設は390施設 (90.1%) 存在し, 上顎洞と前頭洞に腫瘍が占拠する場合には外切開の併施が必要となることが多いことを確認した. 鼻副鼻腔悪性腫瘍に対して頭蓋底手術を施行する施設は95施設 (21.9%) 存在し, 頭蓋底手術に内視鏡下経鼻手術を単独もしくは併用として導入する施設は95施設中82施設 (86.3%) 存在することが確認できた. 鼻副鼻腔悪性腫瘍に対する内視鏡下経鼻手術という新たな領域において, より安全で根治性の高い標準化案を作成し, 多くの施設の協力のもとに前向きの臨床試験を行うことで世界に通用するものとし, 国民の利益に還元できるよう発展させなければならないと考える.

  • 岡本 拓也, 齊藤 祐毅, 明石 健, 福岡 修, 吉田 昌史, 山岨 達也
    2018 年 121 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     近年 HIV 感染者の予後は飛躍的に向上しているが, HIV 感染者における非 AIDS 指標悪性腫瘍による死亡の割合は増加している. 本邦では非 AIDS 指標悪性腫瘍である頭頸部癌の報告は極めて少ない. 当科で治療を行った HIV 感染合併頭頸部癌4症例について検討を行った. 症例は全例男性, 年齢の中央値は51歳, 部位は中咽頭癌2例, 舌癌1例, 喉頭癌1例であった. いずれも進行がんであり, 化学放射線療法をはじめとした一次治療の結果, 腫瘍縮小は認めたものの, 2例に治療後早期に局所再発を認め, 1例では頸部リンパ節転移巣の制御ができなかった. HIV 感染合併頭頸部癌の予後が悪いことが示唆された.

  • 沼倉 茜, 吉川 沙耶花, 上條 篤, 松田 帆, 新藤 晋, 池園 哲郎, 加瀬 康弘, 神山 信也, 伊藤 彰紀, 大澤 威一郎
    2018 年 121 巻 2 号 p. 134-138
    発行日: 2018/02/20
    公開日: 2018/03/07
    ジャーナル フリー

     拍動性耳鳴に対しては, 器質的疾患の存在を疑う必要がある. 今回われわれは, 拍動性耳鳴を主訴に来院し, 横- S 状静脈洞部硬膜動静脈瘻と診断された1例を経験した. 拍動性耳鳴の診断には頸部血管の圧迫による変化と聴診が重要である. 硬膜動静脈瘻のスクリーニングには脳 MRA が優れている. しかし, 脳疾患の MRA 診断においては脳主幹動脈領域のみを関心領域とした MIP 画像が用いられることが多く, 外頸動脈系や静脈洞が関与する硬膜動静脈瘻は見落とされる可能性がある. したがって, 見落としを避けるには, MIP 画像のみならず MRA の元画像を確認することが重要である. 硬膜動静脈瘻は根治が期待できるため見落とさないことが重要である.

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