日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻, 1 号
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総説
  • 声のアンチエイジング
    平野 滋
    2018 年 121 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2018/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     日本は先進国の中でも最たる超高齢社会であり, 65歳以上の高齢者はすでに人口の4分の1で, 20年後には3分の1になるといわれている. 高齢化とともに成人病をはじめとする疾病罹患率は増加し医療費は増加の一途である. 医療費の抑制と健康増進のためアンチエイジングが脚光を浴びており, 声に関しても健康維持あるいは社会貢献の観点からアンチエイジングのよいターゲットとなる. 加齢による音声障害は往々にして仕事からの離脱, 社交場からの隔離に繋がり, 国民生産性の低下へと繋がりかねないからである. 声の老化は声帯レベル, 呼吸機能, 共鳴腔レベルで起こり, 包括的対処が必要である. 声帯のケアと維持は最も重要であり, 声の衛生はもとより, 積極的な声帯維持のために, 歌唱や機能性表示食品である抗酸化食品が効果的であることがエビデンスレベルで確認されてきた. 加齢声帯萎縮になった症例においては, 音声機能拡張訓練を代表とする音声治療である程度の効果が確認されているが, 重度の声帯萎縮に対しては塩基性線維芽細胞増殖因子を用いた声帯再生医療が効果を上げている. ヒトが健康寿命を保つために声の維持は重要であり, また, 声帯の維持は嚥下機能の維持にも繋がることが期待される.

  • 井門 ゆかり
    2018 年 121 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2018/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     嗅覚障害のある患者では, アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に進行するリスクが高く, 嗅覚障害は認知症早期診断のバイオマーカーとして注目されている. そのため, 嗅覚障害の見られる高齢患者では, 認知機能障害の評価や経過観察を行うことが望ましい. 井門式簡易認知機能スクリーニング検査 [ICIS (イシス)] は, 認知機能障害を発見するための簡便なスクリーニング検査で, 3分程度で特別な道具もなく実施でき, 記銘力 (近時記憶), 見当識, 視空間認知 (構成失行), 語の流暢性 (前頭葉機能) という認知症評価に重要なポイントを評価できる. Mini-Mental State Examination(MMSE) や改訂長谷川式簡易認知機能スクリーニング (HDS-R) とも高い相関がみられ, アルツハイマー型だけでなくレビー小体型や血管性認知症などでも異常を検出しやすい. 現在, 認知症治療薬は2系統4剤あるが, いずれも進行抑制が主な薬効なので, 良い経過のためには早期発見が最も重要となる. 抗アレルギー剤など抗コリン作用のある薬剤は, 認知機能低下を引き起こしやすいので, 物忘れがみられる患者では, 減量あるいは中止を検討する必要がある. 特にレビー小体型認知症では薬剤の副作用が出やすく, 一般的な風邪薬や抗アレルギー剤を使っただけで, せん妄様の症状が惹起されることもある. また, 幻覚の一つとして幻臭がみられるケースもある. 認知症が疑われるのに適切な医療・介護につながりにくい場合は, 地域の認知症初期集中支援チームを利用する方法もあるが, 早期に気づければ病院受診などもスムーズに行えることが多い. ICIS はどこでもできる簡便な検査なので, 嗅覚障害の患者や物忘れを訴える患者のスクリーニングとして, 認知症の早期発見のために活用していただきたい.

  • 岩﨑 真一
    2018 年 121 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2018/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     一側の前庭障害であれば, いわゆる前庭代償によりめまい感や平衡障害は徐々に軽快するが, 両側の前庭障害では前庭代償が働かず, 慢性のふらつきや動揺視が持続する. この両側前庭障害に対する治療を目指して, さまざまな基礎研究や臨床研究が進められている. 本稿では, 両側前庭障害に対して現在進められている研究のうち, 1) 人工前庭, 2) ノイズ前庭電気刺激, 3) 内耳再生の研究について概説する.

     両側前庭障害に対する治療の一つとして, 人工前庭の開発が進められている. 人工前庭は, 3つの半規管の膨大部に電極を埋込み, 頭部に装着した加速度計によって解析した頭部の動きを基に, 各々の半規管の刺激を行うものである. 2000年頃より開発が開始され, 現在はヒトを対象とした臨床試験が欧米で進められるところまで来ている.

     残存する前庭機能を底上げする治療の一つとして経皮的ノイズ前庭電気刺激 (ノイズ GVS) を利用した治療の開発を進めている. ノイズ GVS は, 耳後部に貼付した電極より微弱なノイズ様の電流を流すことで前庭神経を刺激する方法である. これまでの研究で, ノイズ GVS の短期刺激 (30秒間) では, 両側前庭障害患者の約9割において体平衡機能の改善を認めており, 長期刺激 (30分間, 3時間) では, 刺激終了後少なくとも数時間は体平衡機能改善効果が持続することが判明している.

     内耳の再生医療を目指した研究では, 既に ES 細胞, iPS 細胞から有毛細胞の作成が可能となっており, 再生医療研究は目覚ましく進展しているが, 臨床応用にあたっては, 内耳への到達手段が問題となっている. 前庭上皮の特徴としては, 蝸牛有毛細胞とは異なり, 成熟した哺乳類の動物においてもある程度の再生能を有することが挙げられる. この自発再生を促進する目的で, さまざまな薬剤の投与が試みられており, 複数の栄養因子が再生を促進する効果があることが判明している.

  • 山下 拓
    2018 年 121 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2018/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     わが国独自の進化を遂げた漢方薬について, 近年, 基礎的・臨床的に高いレベルのエビデンスが次々と報告されている. 腹部手術の術後における大建中湯の適用など, 消化器がん領域ではがん支持療法に漢方薬を用いることは, もはや常識となりつつある. さらに平成27年に策定された「がん対策加速化プラン」でも,「がんとの共生」において “漢方薬を用いた支持療法” の推進が明記されるに至った. 頭頸部がん領域においても, その支持療法において有用な漢方薬は数多く存在する.

     頭頸部がんの放射線治療に伴う口腔咽頭粘膜炎 (口内炎) は, 治療完遂にも影響する重大な副反応であり, 化学療法や EGFR 抗体薬などの同時併用でさらに悪化する. これに対する西洋薬の効果はまだ限定的で不十分である. 漢方治療としては半夏瀉心湯が期待されている. われわれの検討では, ハムスターの放射線性口内炎モデルで, 半夏瀉心湯の投与により口内炎の Grade が抑制され, Grade 3 以上の口内炎の出現率も有意な低下を示すこと, 口内炎局所への好中球遊走および COX-2 発現を抑制することが明らかとなった. ほかにもさまざまな施設での基礎研究によって抗酸化, 抗炎症, 抗菌, 鎮痛作用などが報告されている. 臨床効果の検討として, われわれは (化学) 放射線治療の開始と同時に半夏瀉心湯投与を行った頭頸部がん患者40例の遡及的検討を行った. その結果, 半夏瀉心湯治療は Grade 3 以上の口内炎を予防し, シスプラチン併用放射線治療の完遂率も有意に改善することが判明した.

     ほかに頭頸部がん支持療法に用いられる漢方薬として, 全身状態や免疫機能の改善を目的とした補中益気湯, 十全大補湯, 人参養栄湯などの補剤, 食思不振に対する六君子湯, 便秘に対する大建中湯, 下痢に対する半夏瀉心湯, 末梢神経障害に対する牛車腎気丸, せん妄に対する抑肝散, 放射線性皮膚炎に対する紫雲膏などが挙げられる. これらの代表的漢方薬についてもその基礎的および臨床的なエビデンスを中心に概説した.

原著
  • 上條 朋之, 松本 晃明, 鬼塚 哲郎, 今井 篤志, 飯田 善幸, 長岡 真人, 木谷 卓史
    2018 年 121 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2018/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     術後せん妄対策はどの病院でも大きな課題である. しかし, その病態・原因は多岐にわたり明確なエビデンスの蓄積は少なく病院ごとに取り組んでいるのが現状である. 頭頸部がん術後せん妄では気管カニューレの自己抜去, 吻合血管の血栓形成などを引き起こし治療成績低下や致死的合併症の直接的原因にもなり得る. 当院では, 2013年6月以降, 頭頸部外科医, 精神腫瘍科医, 病棟看護師, リエゾンナースらで共同して周術期の新たな睡眠対策を取ることでせん妄の減少および軽症化を進めてきた. ベンゾジアゼピン系睡眠薬を徹底的に排除し代わりに鎮静系抗うつ薬とラメルテオン, スボレキサントといった新規睡眠薬を積極的に使用した. この対策によるせん妄抑制効果について65歳以上かつ6時間以上の手術患者を対象に術後せん妄の発生状況について検討した.

     対策前のせん妄発症率は29.3% (92例中27例), 対策後の発症率は22.7% (66例中15例) で有意差は認めなかったが, せん妄持続期間は対策前で3.96日 (1~12日) に対して対策後では平均2.06日 (1~5日) と有意差をもって減少させることができた.

     せん妄対策は単一側面から対策できるものではなく, 多方面からのアプローチが重要である. その中でベンゾジアゼピン系睡眠薬を廃した新たな「睡眠マネジメント」はせん妄対策に有効な手段の一つであると考える.

  • 藤尾 久美, 井之口 豪, 福田 有里子, 黒木 俊介, 古閑 紀雄, 丹生 健一
    2018 年 121 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2018/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     ほかの感覚器と同様, 嗅覚も加齢性変化を来すことが知られている. しかし, 本邦では年齢を考慮した嗅覚機能の基準が報告されていない. 本研究では嗅覚同定能力研究用カードキットであるオープンエッセンス (Open Essence: OE) を用い, 嗅覚の加齢性変化の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】50歳以上の健常ボランティア50名と50歳未満の健常ボランティア43名に対し OE を施行し, 各嗅素別の正答率について検討を行った.【結果】50歳以上の群では男女とも年齢とともに OE の正答率の低下を認めた. 各嗅素別では50歳未満と50歳以上の2群間で墨汁, メントール, みかん, ばら, 練乳, にんにくの正答率に有意差を認めた. 12嗅素の組み合わせの中で, メントール, みかん, 練乳の3嗅素の組み合わせで50歳以上の嗅覚障害を検出する感度が0.860と最も高くなり, 感度+特異度が1.767となった. この3つの嗅素を組み合わせた検査が加齢性変化を考慮した嗅覚機能のスクリーニングとして有用であると考えられた.

  • 甲藤 麻衣, 雲井 一夫
    2017 年 121 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

     ヒストプラズマ症は本邦では輸入感染症として位置づけられている. 1990年頃よりその報告数は急速に増加しているが, 認知度は高いとはいえず診断に難渋することも多い. 一般的な真菌感染症は日和見感染症であることが多いが, ヒストプラズマ症などの輸入感染症は感染力・病原性が高いことから免疫不全患者のみならず, 健常人も感染し, 重症化する経過も散見される. 症例は, 関節リウマチ, 粟粒結核の既往をもつ79歳の女性で, 舌生検によりヒストプラズマ症と診断された. 病歴を追うと, 粟粒結核に罹患していたとされる時点で既にヒストプラズマ症を発症していた可能性も考えられる. ヒストプラズマ症の特徴について述べる.

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