日本耳鼻咽喉科学会会報
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118 巻, 5 号
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総説
  • 長澤 敏行
    2015 年 118 巻 5 号 p. 623-628
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     歯周組織とはセメント質, 歯根膜, 歯槽骨, 歯肉から構成される歯を支える組織である. 歯周病はプラークバイオフィルムによる慢性の炎症性疾患であり, 炎症が歯肉に限局した歯肉炎と, 歯根膜や歯槽骨が破壊される歯周炎に大別される. 歯肉炎は適切な口腔清掃で治癒するが, 歯周炎で失われた組織はプラークを除いただけでは再生は期待できない. 現在の歯周組織再生療法の基盤となったのは, 上皮細胞の深行増殖を遮蔽膜で妨げることで歯根膜と骨の再生を促す組織再生誘導法 (Guided Tissue Regeneration) の開発である. 続いて歯胚の分化の過程で歯根の形成時に分泌されるエナメル基質蛋白が臨床応用され, ブタの歯胚からエナメル基質蛋白を精製した製品が販売されている. 遺伝子工学の進展とともに再生療法にサイトカインを用いる研究が成され, 米国では PDGF, BMP-2 が既に臨床応用されている. 日本では世界に先駆けて FGF-2 の歯周組織再生への応用が研究され, 臨床治験が行われている. 培養細胞を用いた再生治療がさまざまな分野で応用され始めているが, 歯周組織再生においても既に培養歯根膜シートをはじめ, いくつかの臨床試験が始まっている. 実際の臨床において効果的な歯周組織再生を行うために外科的手技も変遷を遂げており, 歯周組織の欠損部への血液供給と創面の安定を求める minimal intervention surgery が推奨されている.
  • 吉川 衛
    2015 年 118 巻 5 号 p. 629-635
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     近年, 日常診療において副鼻腔真菌症に遭遇する機会が増加してきているが, その理由として, 患者の高齢化はもとより, 糖尿病患者の増加や, ステロイド, 免疫抑制薬, 抗悪性腫瘍薬などの使用により免疫機能の低下した患者の増加などが考えられる. さらに, 副鼻腔で非浸潤性に増殖した真菌に対する I 型・III 型のアレルギー反応や T 細胞応答などにより病態が形成される, アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎のような特殊な副鼻腔真菌症も報告されるようになった. 急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症の治療は, 外切開による拡大手術が第一選択となり, 手術による病巣の徹底的な除去と, 抗真菌薬の全身投与を行う. 慢性非浸潤性副鼻腔真菌症の治療は, 抗真菌薬の全身投与は不要で, 手術により真菌塊を除去した上で病的な粘膜上皮を切除すると予後は良好である. アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の治療は, 現在のところ手術療法が第一選択で, 術後のステロイドの全身投与が有効とされている. このように, いずれのタイプにおいても副鼻腔真菌症では手術治療が中心となるため, 耳鼻咽喉科医が的確に診断し, 治療を進めていくことが求められる. 2014年4月に「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014年版」が刊行され, 副鼻腔真菌症について治療アルゴリズムが示されている. 非浸潤性以外の副鼻腔真菌症はどれも発症頻度の高い疾患ではないため, エビデンスレベルの高い報告は国内外を問わず存在しなかったが, これまで蓄積された報告に基づくこの治療アルゴリズムが, 今後の診療の指標となると考える.
  • 岩崎 聡
    2015 年 118 巻 5 号 p. 636-642
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     補聴器を含めて人工聴覚器の適応評価は大変複雑化してきたため, これらの人工聴覚手術の最新情報と本邦における現状を紹介し, それぞれの機種の特徴と違いを整理した. 人工内耳の適応は, 2014年小児人工内耳適応基準が見直され, 適応評価が多様化された. 既存の補聴器の装用が困難な高音急墜型感音難聴に対し, 言葉の聞き取りが改善できる新たな人工内耳が残存聴力活用型人工内耳 (electric acoustic stimulation: EAS) であり, 保険収載された. 高度難聴の中・高音部を人工内耳で, 残聴のある低音部を音響刺激で聞き取るシステムである. 直接的な機械的内耳組織損傷を最小限にするため, 電極の先端がより柔軟になるよう改良されている. 正円窓アプローチによる電極挿入法がより蝸牛へ低侵襲となる. 聴力温存成績向上のため, 蝸牛損傷を軽減するための drug delivery system の応用, さらなる電極の改良が必要と思われる. 日本で開発されたリオン型人工中耳がきっかけで, さまざまな人工中耳が開発された. 海外では感音難聴を対象にした人工中耳として開発が進められ, 振動子を正円窓に設置することで伝音・混合性難聴に適応拡大され, 本邦における臨床治験が終了した. 人工中耳は補聴器に比べて周波数歪みが少なく, 過渡応答特性に優れており, 海外では正円窓アプローチ以外に人工耳小骨と組み合わせた卵円窓アプローチなども行われ, 今後さまざまな術式の応用と感音難聴への適応拡大が課題になると思われる. 骨導インプラントは音声情報を骨振動として直接蝸牛に伝播し, 聞き取る方法であり, BAHA は保険収載された. 良聴耳の手術や中耳, 内耳奇形がある症例, 顔面神経走行異常が明らかな症例は骨導インプラントがよいかと考えるが, 人工中耳に比べ出力が弱く, 高音域の周波数特性が弱いため, 聴力像も考慮する必要がある.
原著
  • 鈴木 健介, 八木 正夫, 阪上 智史, 藤澤 琢郎, 宮本 真, 小林 良樹, 友田 幸一
    2015 年 118 巻 5 号 p. 643-650
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     2006年より2013年までの8年間に当科で経験した頸部リンパ節結核19例につき検討した. 年齢は28歳から87歳で平均年齢が61.4歳であり, 性別は男性8例, 女性11例であった. 肺結核を合併する症例は19例中2例であった. 穿刺吸引法による細胞診, 塗抹, 培養, PCR(Polymerase Chain Reaction) の感度はそれぞれ13.3%, 50%, 60%, 71.4%であり, 穿刺吸引細胞診に結核菌検査を併用した10例のうち9例 (90%) で塗抹, 培養, PCR のいずれかが陽性であった. 穿刺吸引細胞診単独の診断率は低かったが, 各種結核菌検査を組み合わせることによって穿刺吸引法のみでも診断できる可能性が示唆された. クオンティフェロン検査は7例全例で陽性, T-SPOT は2例中2例で陽性であり, いずれも補助診断として有用であった. 頸部リンパ節結核は個々の検査法の診断率の低さから診断に難渋することがあり, 疑った時点から複数の検査を組み合わせて行い, 総合的に診断することが重要である.
  • ―音響鼻腔計測法を用いて―
    中島 正己, 加瀬 康弘, 上條 篤, 井上 智恵, 荒木 隆一郎
    2015 年 118 巻 5 号 p. 651-656
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     鼻閉は閉塞性睡眠時無呼吸 (OSA) の危険因子として知られている. 鼻腔開存性を評価する客観的な検査法として, 鼻腔通気度計や音響鼻腔計測法 (AR) などが行われてきたが, OSA との直接的な関連性は議論が分かれるところである. 現在のところ, 鼻腔の検査は通常覚醒時, 座位にて行われており, 睡眠時の状態と異なることが予想される. そこでわれわれは, 薬物鎮静下の鼻腔の状態が睡眠時の状況に近似していると想定した. そして薬物鎮静下にARを施行し, 覚醒時座位,仰臥位に行った検査所見と比較した.
     対象は当院の耳鼻咽喉科一般診療において経口挿管で全身麻酔下の手術が決定した20歳以上の患者50名とした. AR を用いて座位, 仰臥位, 薬物鎮静下と異なる条件で, 最小鼻腔断面積と鼻腔容積を算出し, 比較検討した.
     その結果, 薬物鎮静下の最小鼻腔断面積, 鼻腔容積はともに, 座位, 仰臥位の値に比べ有意に減少していた. また鼻腔容積において座位から仰臥位の差は, 仰臥位から薬物鎮静下の差に比べ有意に大きかった. つまり鼻腔容積は薬物鎮静による状態変化よりも, 座位から仰臥位への体位変化の方が, 影響が大きい可能性が示唆された.
     同様の変化はおそらく睡眠時の鼻腔開存性にも生じるものと思われ, この変化が睡眠時呼吸障害の病態といかに関連するかということを今後検討していく必要がある.
  • 大原 卓哉, 岡本 旅人, 長沼 英明, 牧 敦子, 那須野 智光, 岡本 牧人
    2015 年 118 巻 5 号 p. 657-661
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     小児深頸部膿瘍は成人に比べ頻度が少ない疾患である. 小児では臨床症状が多彩であり診断が困難な場合があるため, 適切な病態の把握が重要である. 今回われわれは, まれな症状と考えられる多発脳神経麻痺を来した小児咽後膿瘍の1例を経験したので報告する.
     症例は7歳男児. 発熱, 左頸部腫脹, 頸部痛を認め, 近医で加療されるも斜頸, 構音障害, 嚥下困難, 嗄声が出現し当院受診となった.左脳神経 IX, X, Ⅻ の麻痺を認め, CT 所見から咽後膿瘍と診断した. 入院にて保存的加療を行い, 症状軽快と膿瘍縮小を認めたため入院21日目に退院となった. 咽後膿瘍による頸動脈間隙内の脳神経への圧排や炎症の波及により麻痺が生じたと考えられた症例であった.
  • 梅原 毅, 袴田 桂, 大嶋 吾郎, 鈴木 克佳, 岩永 健, 山口 裕貴, 新井 宏幸, 疋田 由美子, 喜夛 淳哉, 林 泰広
    2015 年 118 巻 5 号 p. 662-667
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     小児の頸部腫瘤は, 術前診断に難渋する場合も少なくない. 今回, われわれは乳児期に頸部腫瘤を認め, 5歳時に摘出術を施行し頸部異所性胸腺と診断された症例を経験したので報告する. 症例は5歳男児. 出生後, 心雑音精査の際に右頸部の嚢胞性病変を指摘され, 精査加療目的に当科紹介となった. 画像検査, 細胞診検査にて確定診断には至らず, 定期的に経過観察とした. 5歳時に, 手術希望があり摘出術を施行した. 病理検査の結果は正常胸腺であった. 異所性胸腺の術前診断は非常に困難であるとされる. 小児の頸部腫瘤の診断には, 胸腺の特徴的な所見を熟知し, 鑑別として異所性胸腺を念頭に置くことが重要であると考えられた.
  • 小柏 靖直, 横井 秀格, 甲能 直幸
    2015 年 118 巻 5 号 p. 668-674
    発行日: 2015/05/20
    公開日: 2015/06/11
    ジャーナル フリー
     耳鼻咽喉科の救急医療において, 十分な体制がとられているとは言い難い. より良い耳鼻咽喉科救急体制を構築するためには現在の問題点を明確にすることが必要と考えられるため, 東京都と杏林大学病院耳鼻咽喉科の救急診療の現状について検討した.
     東京都においては1次および2次医療機関それぞれが休日を輪番制で救急対応しており, 一定の成果を挙げている. 地域の問題点として, 連休に患者が殺到する傾向があること, 平日夜間に患者を受け入れる医療機関の体制が確立していないことがあり, 今後の検討課題である.
     現状の問題を解決していくためには耳鼻咽喉科医全体での意思疎通が必要であり, 話し合いの場の創設が必要と考えられた.
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