日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 3 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
総説
  • 松瀬 厚人, 河野 茂
    2016 年 119 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     咳嗽は呼吸器専門医に限らず, 臨床で遭遇する頻度が極めて高い疾患である. 近年胸部X線や聴診の異常を伴わずに, 慢性的に咳嗽が持続する症例が増加傾向にある. 日本呼吸器学会から, 咳嗽診療の補助として, 2005年と2012年に『咳嗽に関するガイドライン』の初版と第2版がそれぞれ出版された.
     ガイドラインでは, 咳嗽を持続期間により, 発症後3週間以内の急性咳嗽, 3~8週間の遷延性咳嗽, 8週間以上の慢性咳嗽に分類し, 代表的な原因疾患の診断や治療法が示されている. 喀痰の有無も治療法に関連するため確認することが重要である.
     わが国の慢性咳嗽の原因としては, 咳喘息の頻度が最も高く, アトピー咳嗽, 副鼻腔気管支症候群, 胃食道逆流症等がそれに次ぐ. 慢性咳嗽の初期診療で重要なことは, 明らかな誘因があればそれを除去することである. その上で, 診察と必要に応じて胸部X線検査を行う. これによって生命にかかわる肺癌と感染性のある肺結核などを除外する. 問診では, 咳嗽の好発時間, 喀痰や発熱などの随伴症状, 増悪因子など代表的な原因疾患に特異的な病歴を聞き出すことに努める. 原因疾患が想定されたら, その疾患に特異的な治療薬, 例えば咳喘息には吸入ステロイド・気管支拡張薬, アトピー咳嗽にはヒスタミン H1 受容体拮抗薬, 副鼻腔気管支症候群にはマクロライド系抗菌薬などを投与し, 鎮咳効果が得られれば治療を継続する. これらの特異的治療を行っても咳嗽が改善しない場合には, 原因疾患が複数存在する可能性も考慮する. 重症例, まれな原因疾患, 心因の関与などが考えられる場合には呼吸器専門病院への紹介を怠ってはならない. 逆に初期治療で鎮咳効果が得られたら, 漫然と同じ治療を続けるのではなく, 効果を評価して, 薬剤の減量, 中止も考慮すべきである.
  • 喉頭の再生医療
    平野 滋
    2016 年 119 巻 3 号 p. 163-167
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     再生医療は20世紀後半のブレークスルーであり, 21世紀における発展が期待されている. 喉頭領域においても枠組み, 筋肉, 粘膜, 反回神経などの再生研究が活発に行われており, 一部は既に臨床応用に至っている. 再生医療は細胞を用いることで失われた組織を造る, あるいは失われた機能を復活させることを目的とし, 細胞およびその調節因子, さらに細胞が活動できる土台の3要素を駆使することで組織再生を図るものである. 声帯の硬化性病変である瘢痕や萎縮に対しては, 種々の幹細胞や細胞増殖因子を用いた再生実験が進んでいるが, 中でも塩基性線維芽細胞増殖因子と肝細胞増殖因子が有望視されており, いずれも臨床応用に至っている. 枠組みの再生には人工の足場材料の開発が, 反回神経においては各種ポリマーを用いた神経再生誘導チューブの開発が進められているが, 最近の脱細胞技術の発展により, さらに大きな組織, 例えば喉頭全体の再生用足場材料についても研究が開始されている. これらの研究が進むことで喉頭全摘後の喉頭再生も夢ではなくなることが期待される.
  • 戸田 正博
    2016 年 119 巻 3 号 p. 168-174
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     内視鏡手術の進歩に伴い, 経鼻内視鏡頭蓋底手術 (endoscopic endonasal skull base surgery: EESS) が普及しつつあり, 低侵襲でかつ良好な治療成績が報告されている. EESS の主な対象は, 下垂体腺腫, ラトケ嚢胞, 頭蓋咽頭腫, 髄膜腫, 脊索腫, 副鼻腔腫瘍, 嗅神経芽細胞腫など, 正中近傍の頭蓋底疾患である. EESS の背景を経鼻内視鏡手術の歴史から学び, 開頭術とは異なる手術アプローチを理解するため, 鼻・副鼻腔を含めた頭蓋底外科解剖を習得することが重要である. 今後 EESS を発展させるために, さらに高性能の内視鏡や新たな手術器具の開発が必要であり, 手術精度向上と不測な事態への対応力を上げるため, 耳鼻咽喉科と密接な連携が重要である.
  • 上出 洋介
    2016 年 119 巻 3 号 p. 175-180
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     小児急性中耳炎の診断・治療については, 本邦では小児急性中耳炎診療ガイドライン, 米国小児科学会の The diagnosis and management of acute otitis media が挙げられる. これら二つの内容について簡単に説明を加え, さらに日常診療でのより実践的な中耳炎への対応について説明する
    . 耳鼻咽喉科専門医として大切なことは上記ガイドラインの内容を理解することも当然だが, 受診する乳幼児に対して風邪や中耳炎症状の有無にかかわらず中耳炎を起こしていないか鼓膜を確認するよう習慣付けをすることである.
     実践的対応として中耳炎病態の変化に柔軟にかつ適確に対応するために, 各施設での画像ファイリングシステムの構築を勧める.
     肺炎球菌ワクチンの定期接種や新規抗菌薬の登場により中耳炎起炎菌の変貌が疑われる. 特に肺炎球菌の検出頻度の減少と耐性菌比率が低下した. インフルエンザ菌ではむしろ BLPAR が出現し治療方法が難しくなってきた. 治療開始に当たり肺炎球菌迅速検査キットを用いた診断は抗菌薬選択に大いに役立つ.
     複雑に推移する難治性中耳炎, 遷延性中耳炎, 反復性中耳炎治療として鼓膜換気チューブ留置が選択肢となる. 免疫低下, 免疫不全による反復性中耳炎に対しては血漿分画製剤献血ヴェノグロブリン投与が適応となった.
原著
  • 宮原 伸之, 福島 典之, 平位 知久, 三好 綾子, 有木 雅彦
    2016 年 119 巻 3 号 p. 181-186
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     目的: 小児の後天性真珠腫に関して臨床的な検討を行った.
     対象と方法: 2001年4月~2012年3月の12年間で, 当科で初回治療を行った15歳以下の後天性真珠腫36例36耳について主訴, 中耳真珠腫進展度分類2010年改訂案を使用した進展度, 術式, 再発の有無, 段階手術時の遺残の有無について検討を行った. さらに術後聴力成績判定基準2010年版を用いて聴力改善率を検討した.
     結果: 主訴 (重複あり) は耳漏が33耳 (92%), 難聴が32耳 (89%) と多くを占めた. 基本分類は, 弛緩部型が29耳 (81%), 緊張部型が7耳 (19%) であり, 両型ともに Stage II が最多であった. Stage I 症例に対しては一期的手術を行い, Stage II 以上の症例に対しては段階手術を行った. 聴力改善は弛緩部型が29耳中21耳 (72%), 緊張部型が7耳中4耳 (57%) であり, 両型とも Stage の進行とともに聴力改善率は低下していた. 再発は弛緩部型が29耳中5耳 (17%), 緊張部型が7耳中2耳 (29%) であった. 段階手術を行った28耳のうち, 真珠腫の遺残を認めた症例は, 弛緩部型が24耳中11耳 (46%), 緊張部型が4耳中2耳 (50%) であった.
     考察: 小児では初回手術時に既に広範囲に進展していることが少なくなく, 1回の手術のみでは遺残することが多い. そのため, 積極的に段階手術を行うことが望ましいと考えられた.
  • 田中 恭子, 榎本 浩幸, 高田 顕太郎, 井上 真規, 小河原 昇, 高橋 優宏, 折舘 伸彦
    2016 年 119 巻 3 号 p. 187-195
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     2005年からの9年間に当院で新生児聴覚スクリーニング (NHS) を施行した6,063例を対象に後方視的検討を行った. NHS は自動 ABR で, 精密聴力検査 (精査) は主に ABR で行った. 2013年の NHS 実施率は88.8%で増加傾向であったが, 希望者に有料で行う現行制度下での全例実施は困難であった. 最終 refer 判定は40例 (0.66%) で, 34例に精査を実施し31例に難聴を認めた. 偽陽性は3例で症例全体の0.05%であった. ハイリスク児群 (HR 群) とローリスク児群 (LR 群) を比較すると最終 refer 率, 難聴率は HR 群で有意に高かった. 両側難聴は20例 (0.33%) で両側難聴率は全国データと比較し有意に高かった. 難聴の原因は HR 群では滲出性中耳炎が38.5% (10/26例) で最も多く, LR 群は半数 (4/8例) が感音難聴であった. 両側難聴の20例中7例は経過観察中に聴力が正常化し, いずれも滲出性中耳炎が原因で, 正常化の月齢中央値は18カ月であった. NHS は永続的な難聴の発見を目的としているが, 滲出性中耳炎も検出され中耳病変の正確な評価が重要である. また34例の精査開始日中央値は46日, 補聴器装用10例の装用開始月齢中央値は5.6カ月で, おおむね早期に実施できた. しかしハイリスク児は通院が中断しやすいため, 保護者への十分な説明を行い, 聴覚障害児へのサポート体制を構築していくことが重要である.
  • ―16年間, 633例の検討―
    河田 了, 寺田 哲也, 李 昊哲, 東野 正明, 櫟原 新平
    2016 年 119 巻 3 号 p. 196-203
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     目的: 当科では, 良性耳下腺腫瘍に対して一定した診断および治療を施行してきた. その手術例が633症例に達したので, 診断, 治療上の問題点について検討した.
     方法: 過去16年間に当科で手術を施行した良性耳下腺腫瘍症例633例を対象とした. そのうち初回手術症例が612例であった.
    結果: 男性が288例, 女性が345例であった. 腫瘍の部位別では浅葉が342例, 下極が169例, 深葉が122例であった. 病理組織別にみると, 多形腺腫が372例で最も多く, ついでワルチン腫瘍が166例であり, 両組織型で全体の85%を占めた. 穿刺吸引細胞診 (FNA) による病理組織診断の正診率は全体で71%であり, 病理組織別にみると, 多形腺腫では84%, ワルチン腫瘍で72%であった. 術後一時的顔面神経麻痺を来した症例は130例 (21%) であった. 部位別にみると浅葉では18%, 深葉では39%, 下極型では15%であった. 一時麻痺の要因を検討すると, 腫瘍の部位, 手術時間で有意差を認めた. 麻痺からの回復期間は, 腫瘍の部位に関係なく6カ月以内に90%の症例で回復した.
     結論: FNA による術前組織診断は良好であるものの, その診断には限界があった. 深葉腫瘍は, 浅葉腫瘍や下極腫瘍と比較して有意に高い一時麻痺率であった. 顔面神経の一時麻痺からの回復期間を検討したところ, 90%の症例で6カ月以内に回復した.
  • 篠原 あさの, 古後 龍之介, 瓜生 英興, 安松 隆治, 中島 寅彦, 小宗 静男
    2016 年 119 巻 3 号 p. 204-209
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/04/19
    ジャーナル フリー
     セツキシマブの有害事象として間質性肺炎の報告が増加しているが, その鑑別診断として重要な疾患にニューモシスチス肺炎が挙げられる. われわれはセツキシマブ併用放射線治療後にニューモシスチス肺炎を来した1例を経験した.
     症例は64歳男性で, 喉頭癌に対してセツキシマブ併用放射線治療を行った後に抗菌薬無効の重症肺炎を来し, 呼吸不全となった. 気管支肺胞洗浄で確定診断を得て, ST 合剤内服により肺炎は改善した. ニューモシスチス肺炎は予後不良な疾患でセツキシマブによる薬剤性間質性肺炎との鑑別が重要である. そのため, 癌治療開始前にリスク因子を把握し, 早期診断・早期治療に努めることが重要である.
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